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異世界生活スタート。

窓から指す太陽の光が顔を直撃しているのに気付いて目を覚ました。どうやら昨晩は考え事の途中で寝落ちした様だ。

季節的には春~初夏だろうか……昨日の野宿でも肌寒さは感じなかったけど。

などと考えながら着かえてリビングに向かった。


「おはよ~レン兄」

「おはよ~レンヤ兄」

リビングに入ると元気な声が飛んできた。

既にアルティが来ていてカルノスと二人して紅茶を飲んでいる。

ゲンデルさんは既に村長さんの所に出かけたらしく、自分はそのままテーブルに着き、お手伝いさんの用意してくれた朝食を取った。

昨日の夕食もそうだったがどうやらここの主食はパンのようだ……朝食はフランスパンのバタールに似たパンにシチュー、夕食はそれに肉料理と野菜の炒めモノだった……これで幾ら位なんだろうか? 

自活するうえで、食費にどれだけ掛かるかは重要なファクターだからな、それで仕事も変わってくるし……

「なぁ、二人とも。自分くらいの人間が一ヶ月、一人で生活するのにお金ってどのくらい必要なんだろう?」

そんな自分の唐突な問いにアルティとカルノスは顔御見合わせ、カルノスの方はよく分からないといった風に首を横に振る。


「そうだね……食費だけなら銀貨十五枚、一五○○リオンくらいかな……でもこれもざっくりした計算だよ。この村では家庭菜園や森で色々取れるし、物々交換も多いからね……特にキャラバンが来なくなってからは普通に生活している分にはあまりお金を使う事はないかな。後は家賃とか雑費とかでだいぶ変わるし。でも、レン兄は冒険者志望だよね? それだと生活費以外の出費の方が多いと思うよ。」


そうだよな、最悪生活費は切り詰めることが出来るけど、必要経費と言うものはどうにもならない……しかも命に直結するものなら尚更ケチれない! 冒険者をするなら収支のバランスと自身の経験値を見極めないと、命を落とすか破産するかだよな。

現在の所持金は金貨六枚、三○○○○リオン……居候している間に仕事を見つけつつ、体も鍛えて冒険者としての最低限の基礎を身につけなければ。

今の自分は、装備と知識だけは良いのを持ってるけど実戦経験はゼロだからな。


「さぁ、食事が終わったのなら早速村を案内するよ」

そう言ってアルティとカルノスは嬉しそうに立ち上がる。


昼間の村は昨晩の様な賑わいは無かったが、メイン通り沿い以外にも色々な店が立ち並んでいた。雑貨メインの道具屋に、ポーションも扱う薬屋。パン屋に食堂、武器屋に鍛冶屋と軒を連ねている。

この村の建物は土壁の木造建築が主体で、中心部は店舗がぎっちりと立ち並ぶが、小さな庭があったり花壇や庭木を設けたりしていて窮屈感はない。

道路も石畳ではなく土でその脇をきれいな水が流れる水路が通っていて……何となく異世界の街として映画やゲームの様な石造りの城塞都市の様な感じを想像していたので、それとは違う穏やかな雰囲気に田舎者の自分は、懐かしさの様な変な感覚を覚えていた。


そして村のメインロードは東西南北十字に延びており、中心には円形の大きな水上広場が整備され、その周辺に村の行政施設が集まっていた。

村役場に警察と軍に相当する自衛団の施設に大きな宿屋、そして今日のメインの目的となる冒険者ギルドの建物もある。


冒険者ギルドはどこでも銀行ギルドと一緒になっており、そこではクエストの受領に依頼、アイテムの鑑定に換金、お金とアイテムの預け入れもでき、預けた物は世界中のどこの冒険者ギルドからでも受け取ることが可能になっているという事だった。

ただし、一度に転送できる量と個数は限られていて、大量の物を別の場所で受け取る時には何日もの時間と手数料が掛かる。その為、商用目的には向かないが、個人売買には活用されている様だ。

この転送システムのお陰で、キャラバンが来なくなっても貴重な薬草などの採取といったクエスト依頼は常にあるらしく、この村にも冒険者の登録者は少なからずいる。

アルティやカルノスも登録しているという事なのだが、アルティは狩りのついでに、カルノスは魔法の訓練と狩りの手伝いのついでと言う様に、今現在この村には、冒険者専業と言う者は居ないらしい。


小さな村だし、戦争の影響で交易も減っているのでは冒険者だけで食べていくのは厳しいのかもしれないな……


そうは言っても、あこがれの異世界冒険者だ。

厳しい現実に少しの間目をつむり、先ずは待望の冒険者登録である。

そんな感じでギルドに入ってから、いよいよ冒険者になるんだと緊張していたのだけど……登録自体は窓口で申請して手数料五○○○リオンを払い、石のパネルの様な装置に両手をかざして自分専用の冒険者指輪を貰って終了……と、あっさりしたものだった。


「ユウキ・レンヤ様……これで登録完了です。この指輪にはクエストの記録から武器や技能の使用記録、それと銀行の口座の記録もされますので大事にして下さいね。それと指輪はユウキ様専用ですので、他人が勝手に情報を見る事は出来ませんが、もし冒険の途中で他の冒険者の指輪を発見された場合は回収をお願い致します。指輪は無くされてもギルドに申請頂ければ専用の機械で取り寄せが出来るのですが、それも本人様が居てこその機能ですので。道半ばで命を落とされますと指輪もその場に放置されます……ご遺族の方への連絡や残されたアイテムにお金の整理などもありますので。それに、一応謝礼として残された遺品の一割をお支払いする事になっておりますので、発見された場合はよろしくお願い致しますね」

「分かりました」

更にその他もろもろの説明を受けて、これで晴れて自分も冒険者の仲間入りだ。

「おめでと~、これでレン兄も僕たちと同じ冒険者だね」

そう言ってアルティとカルノスが腕を突き出してお互いが拳にはめた指輪を見せてくる。

自分もさっき貰った指輪を左手にはめて、二人の拳の指輪と突き合わせた。


この世界はゲームと違いレベルやスキルポイントなんて便利なものはない……

ただし、練習としての武器の素振りから戦闘訓練、クエストの遂行、クエスト外の戦闘や採取など、指輪を付けていれば、ありとあらゆる事がポイントで評価され記録される。

例えば、初めて片手剣でモンスターを何匹か倒した場合……片手剣の項目が追加される。そこに使用頻度によりポイントが付くし、更にモンスター毎の項目も追加され討伐数に応じたポイントが付く。

それ以外にモンスターを倒すのに何回攻撃したか、攻撃を食らったか、また防御したか、攻撃を避けたか等々。それらの行動や回数も項目追加やポイントとして記録される。

……つまり、これは成績表の様なもので、ポイント数がいわゆる経験値の代わりである。各種行動ポイント数が高いほど熟練した冒険者の証明になり、評価の基準になるのである。

ただし、ポイントは評価する為の目安で均一化されており、必ずしもその冒険者の実力を正確に表すものではないようだ。仮に複数の同じポイントと装備を持つ冒険者が居たとしてもその中身は全くの別物だと思った方がいいという事だった。


まぁ、現実の世界なら当たり前の事か……履歴書は優秀でもダメなの多かったもんな……

『自分の目で見て確かめろ!』て事ですね。


そしてスキル……は、これもそのまま。覚えて練習して身に付けるだけ。

まぁ必ずしも教えてもらう必要は無くて、自分でひたすら鍛え上げれば何でもスキルに昇華することが可能らしい。

ただ、ここで変わっているのがスキルに昇華した技には名前が付く、これがスキル名だけど世界には同じ様な技はいくらでもある為完全オリジナルスキル以外は類似のスキル名が付与される。その為同じスキル名でもモーションや威力等微妙に異なるのがこの世界では常識なのだそうだ。

更にもう一点、重要な事はスキルの使用方法だ。スキルと言っても当然修練した技なの戦闘中に自然と出てしまうのが普通なのだが、それでは何の為にスキルに昇華すると言うこの世界のシステムがあるのか分からないと疑問に思ったが、そこは神様が実在する異世界である。

スキル名を言葉にする事で神秘の恩恵が付与されて威力やスピード、正確さなどが大幅に補正されるという事らしい。まぁその代りに精神力が削られるので無暗に多用すると気絶する副作用があるので場面による使い分けが必要になって来るけど、その辺も含めてスキルになれるのもこれからの修行の一環かな。


自分は村を案内してくれている二人の少し後ろを歩きながら、先ほど手に入れた冒険者の指輪を眺めて呟いた

「冒険者にはなったものの、自分の様な剣もろくに振ったことのない冒険者なんて普通いないよな……」

「ははっ、確かに居ないかな。みんな技術や経験を活かして冒険者になるからね」

前を歩いていたアルティは、くるりとコチラに向き両手を頭の後ろで組みながら後ろ歩きで苦笑交じりに言ってきた。

「そうだよな……」

と、現実的な事だと納得しながら何となくアルティの顔を見つめていると……


やっぱり少年にしか見えないよな……しかも絶世の美少年にしか……などと脱線した思考が浮かんできた。


「どうしたの? そんなに見つめて? 何か付いてる? ……もしかして僕の事が気になるのかな~ さすがレン兄はお目が高い!」


つい脱線した思考でボ~としながら見つめていたら揶揄われてしまった。


「い、いや、そう言う訳じゃ……」

「そんな訳ないじゃん。レンヤ兄はアルがどう見ても男にしか見えないな~と思ってまじまじ見てたんだよ」


グサッ! と心に刺さる鋭いお言葉!

……なにッ⁉ 魔法使いって心が読めるんですか⁉ と焦ってしまいこれはアルティに気付かれたかと思ったが……

こちらの考えには気付いた様子もなくアルティはカルノスの方に襲い掛かっていた。


そんな二人のじゃれ合いを暫く眺めてから話を戻すことにした。

「さっきの話だけど、今のままじゃ冒険者としては余りにも不安なので、三ヶ月みっちり鍛えようと思うんだ。だから二人には狩りに誘ってもらって悪いんだけど三ヶ月待ってもらってもいいかな?」

その言葉に二人は顔を見合わせ少し言葉を交わした後にアルティが


「大丈夫だよ。本当は格好の割に全然ダメなレン兄を鍛えてあげる目的もあって狩りに誘ったのもあるからね」

「そうそう。今のレンヤ兄だと六牙猪の子供にも殺られそうだから、最低限の冒険者としての体力作りと戦闘訓練も兼ねたアルティの地獄の狩り合宿の予定だったけどね。自分のペースでやるならそれが一番だよ」

「うん、そうだね。サポートはするから、何でも言ってよ。それとカルノス、明日はキイロハナバチの蜜を取りに行くからそのつもりで」

「なんでっ⁉ 今年は甘露蜜は採らないって言ってたじゃん⁉」


やっぱり二人から見てもダメダメだったんだと少しショックを受けながらも、自分の事を色々考えてくれていた事に感謝しつつ、何故かカルノスが蜂蜜採りだと聞いて突然血相を変えて猛抗議しだした事が気になった。

その様子を見て、ハナバチと言っても現世のスズメバチの様な危険な蜂なのかもしれない。そう言えばあっちでアシナガバチには何回も刺された事あるけど、奴らも十分凶悪だった事を思い出した……


「そのキイロハナバチってのも凶悪なのか?」

「凶悪って事はないよ。刺されてもそんなに痛くないし。ただ針にはアルコール成分の毒があって刺され過ぎると酔っ払うけどね」

「なに他人事みたいに言ってるんだ! 囮になる身にもなってよ! 女王蜂を取り返そうとする何千もの蜂の大群に追いかけられるんだよ⁉ あの大群に……」


カルノスは顔を青くしてガタガタと震えている……過去に余程悲惨な目にあったのが想像できる。


「さっき冒険者ギルドに行ったら破格の依頼があったんだよ。だから受けてきた!」

そう言ってカルノスの肩に手お置いたアルティは、満面の笑顔だった。



そして翌日、冒険者になりたての自分は朝から開墾地でクワやスコップを持って、モンスターではなく荒れ地と格闘する事になっていた。

実は昨日、冒険者登録をした後に、二人の紹介で開墾地を仕切るテトさんに会い、こちらからお願いして短期バイトとして雇ってもらう事が出来た。

これも体を鍛える一貫で更に給料も貰えて一石二鳥という訳で、しばらくは慣れない土木作業に勤しむ事になったのだ。

クワやつるはしを振る上げ振り下ろす動作も、思い石や切株を除ける作業も筋力と体力をつけるのには丁度良い。

いくらこの世界に来た恩恵として肉体が強化されていてもそれに慣れないといけないし、それにアルティ達を見ていて思った事は、今の自分をレベルで例えるなら①だと認識した。そんな初心者がレベル⑩の装備を持っているのが今の自分の状態だと思う。

つまり、最低でも装備を使いこなせる程度には鍛えないと、森に何て入って行けないという事だ。幸い恩恵のお陰でポテンシャルはあるはずだからそんなに時間はかからないだろうとは思っているけど……

取り敢えずは、このバイトを頑張ろうと思う。


今この村には多くの人が避難して来たけどそんなに整地された土地がある訳でもなく、受け入れる為に宅地&農地拡大と木材確保も兼ねて森を切り開いている最中なのだ。

その為、切り開かれた土地には切株や石がまだそこら中にごろごろしている。

そして自分が配置された農業予定地では、それらを取り除き表層の腐葉土とその下の赤土を耕して農地に変えて行くのだけど……これが思った以上に重労働だった。


本当は昨日の話に出ていた蜂蜜採りに興味が湧いて二人について行こうかと思っていたんだけど、そのハチの巣は崖の中腹にあってアルティじゃないと近づけない事、ハチの巣から他の蜂を引き離す為に囮役は女王蜂をさらって森の中を三キロは走らないといけないという事、その間森の中で自分の身は自分で守らないといけないという事で今の自分には無理だと思い断念したのだ。


因みに何故三キロも走るのかと聞いたら、キイロハナバチが希少種の保護対象であり簡単に殺せない事、三キロ以上巣から離れて女王蜂を放すと元の巣には戻らずに新しい巣を作る習性がある為だという事だった。

それを聞いて、世界は違っても自然の中で生きるには自然との調和が大切なんだなっと、そんな事を思っていた。

まぁ今の自分も同じ様なものかな……太陽の下でこんなに土と汗にまみれるのはいつ以来だろうか。排ガスやアスファルトの臭いではなく土と植物の臭い、都会の雑踏から聞こえてくる騒音ではなく森や草むらから聞こえる鳥や虫の声、風と川の流れる音……なんか懐かしい……そう、子供のころ実家の農作業を手伝った時と同じか……


などと呑気にノスタルジックに浸っている余裕は、なかった。

「し、死ぬ……」


炎天下での力仕事なんて学生時代以来だったが、予想以上に体力が落ちていたと言うか最初から足りないの相当キツイ……体は十七歳に若返り、更にパワーアップしていても元が大した事ないからな……それでももう少しやれると思っていたから軽くショックだった……


「これが文明の利器に頼り切って生活してきたツケか……」

そんな事を呟きながら情けない姿で作業をしていると

「お~い。兄ちゃん、もうへばったのか~。そんなんじゃいつまで経っても仕事終わらんぞ~」

そんな揶揄う様な声が一緒に作業しているお爺ちゃんから飛んでくる……

その度に、負けてたまるか!と根性を見せてクワを大きく振り上げて大地に突き立てるのでという事を繰り返すのだった。

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