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異世界の危機。

自分達がこの世界に呼ばれたのには当然訳がある。

それはこの世界に重大な問題が持ち上がっているからである。

その重大な問題とは生命エネルギーに関わるモノだ。

この事は案内してくれた三人にもここで初めて話したのだが、当然その内容に三人とパルク村長はショックを受けた様子だった。

だけど他の人達には驚いた様子は伺えなかった。


……もしかして知っていたのか?

まぁ世界的に影響が出始めているなら国単位、いや世界的な調査が行われていてもおかしくはないのか。

でも、それなら、簡単な説明ではなく詳しい情報を知りたいな……


その問題とは、この世界の生物の創造に起因する。

この世界の一部の生物は体の構成割合の中に魔力を一定量含む。それは創造神エーテリオンがこの世界にやって来た時現世の生物も持ち込んだ。その一部に魔力を持たせ人工的に作り出した生物もいた。

その後、魔力があり魔法がある独自の生態系がこの星に根付いた頃、現世より迷い込んで来た大量の人の魂があった。

魂はまだこの世界に存在しない高次元のエネルギー体だった。

ここでエーテリオンはこの世界にも人間を造ろうとその迷い込んだ魂を人間を模した器に入れて最初の知的生命体としての『人間』を作り出した。

その人間たちは順調に数を増やしていったが、一万人を超えたあたりで疫病がはやり絶滅寸前まで追いやられる事になった。

その時代には既に各種のエンシェント族が人間と一緒に生活をしており文化を共有していたのだが、この疫病で溢れた魂を使いエーテリオンの真似をして自分達の眷属を造った。それが現在の亜人種であり各人種である。ただ彼らは魂だけではなく魔力も組み込まれていたので魔法が使えたのだ。

これを見たエーテリオンは人間を絶滅から救うべく、新たに人間作る際にエンシェント達を真似して魔力を組み込んだ強い人間を作り出した。

これが後の魔法族である。

この試みは成功して魔法族は肉体的に頑強で長寿であり疫病も物ともしなかった。それは人間と魔法族の混血にも遺伝した。これにより人間と魔法族の混血は進み現在ではこの世界のすべての人間が混血であり、よって魔力を持つがゆえに大小の差はあるけど魔法が使える様になったのだ。

ただ、新しい血を入れる為極まれに現世から純粋な魂を招き入れているし、次元の亀裂から迷い込んでくる人間もいた。

しかしその殆どが時間と共に混血化していった。

ほんの一握りの者たちを残して……


そして、ここで問題になるのが生命体の中の魔力の存在だ。

魂の一部を魔力で補完して生命を作り出した結果、世代を重ねる毎に魂と魔力の融合性が崩れ劣化し始めると言う事例が現れ始めた。

それが生き物のモンスター化である。


この世界でも自然界の弱肉強食はあったが理由なく殺しをする生物は存在しなかった。異種族間でも争いはあったがそれにはちゃんとした理由があっての事だ。

しかしモンスター達は、同族意外は全て敵と言った感じで襲い掛かる。これが知的生物だと超好戦的集団になり脅威度はさらに増す。よくゲームや映画で出てくる街を襲うゴブリンやオークの様な存在を思い浮かべれば分かり易いだろう。

その様なモンスターの集団がこの世界で発生し続けていて人々の脅威になっているのだ。

そして、最悪な事にこのモンスター化は人族にも起こっている。


人間族は狂人バーサーカーもしくは幽鬼グールに、ドワーフ族は体が大きくなりオーガに、エルフ族はオークに、小人族のノッカーはゴブリンへと変化し大きな勢力を作っている。更に死者はゾンビやスケルトンとして夜毎徘徊を繰り返す……。

そんな魂の劣化現象が二十年ほど前から顕著になり始めて緊急性が増してきていた。

と言う情報が自分が賢者様から教わった物だった。


つまり、現状この世界の人々は誰でも何時モンスター化してもおかしくない状況である事を話した。

この話にレミィ、アルティ、カルノスそしてパルク氏の四人はショックを受けた様子で黙り込んでしまった。


仕方ないよな、自分がモンスターに成るかもしれないなんて聞かされてショックを受けない方がおかしい。そう思いながら残りの三人に視線を移して違和感を覚えた。

深刻そうな表情ではあるがショックを受けている様な感じはしなかったのだ。

これが年の功ってやつなのか?

そんな事を考えていたらヨムグ司祭が話しかけて来た。


「この世界にモンスターが蔓延り始めた原因は分かりました。それで、女神様はこの問題を解決する手立てについてはお話しておられましたかの?」

「残念ながら完全に解決する様な方法は無いようです。だた、問題解決の手助けをする様に送り込まれたのが我々、来航者です。」

「おぉ、やはりあなた様が我らの希望に……しかし、魂の劣化を世界規模で止める事は……」

そう言ってヨムグ司祭は黙ってしまった。


当然、自分達にもこの問題を世界規模で解決できる方法は持っていない。

自分達が持っているのは賢者様曰く、自身と周辺の魂の補完修復能力だけである。しかもそれを自分達でコントロール出来る訳ではない。自然と勝手に行われるだけで影響力を強くしたり、瞬時に修復したりなどという事も無理である。

ただこれには不確定ながら希望があり、自身が成長すればその力は強くなる可能性はあるという事だった。つまりこの異世界転生はその事の実証実験も兼ねているのだけど……その辺の事実は話さない様に言われている。

それは、その事実を知った者たちが渡界者を我が物としようと良からぬ企てをするかも知れずそれにより貴重な調査の機会をうしなう可能性が高いと言う話しだった。

この世界の人間も現世とさほど変わらないという事か。

それに自分達は実験目的承知で転生してきているのでその調査には積極的に協力するつもりだし実際、渡界者一人がどの程度の範囲でどの程度の時間をかけて魂に影響を与えるのかは賢者様達にも全く未知数らしく、その影響力の確認の為にもこの世界であらゆる経験をしてほしいとお願いされている。

そして、その中の一つに、モンスター討伐が含まれるのだ。


そう言えば、ここでのモンスター化の詳しい現状は聞いていなかった。


「えっと、まだ聞いていませんでしたが、ここでのモンスター化はどうなっているんですか? 人はモンスター化するとバーサーカやグールになると聴いているんですが?」

その問いにゲンデルさんが答えてくれた。


「そうじゃな、この村では幸いな事にモンスターになった住民はおらんのじゃ。ただ遠くの町ではあったと聞いております。その中でもバーサーカはまだ多少理性が残っておるんじゃがのぉ……破壊衝動と力の加減を抑えることが出来なくなり暴れまわるんじゃよ。そして最後には完全に理性を失い破壊の権化と化してしまうんじゃ。」


バーサーカ、狂戦士、怒りの精霊に憑りつかれた者。ゲームなんかではそのパワーを生かした戦士職って事もあるけど、ここではモンスター扱いなのか……


「そしてグールの方はもっと酷くてのぉ……グール化した者はすぐに理性を失い、生き血と生肉を貪り闇夜に生きる完全なモンスターに成り果てるんじゃよ……どちらも一度なってしまえば戻る事はないと言われております。」

「何はともあれ、この世界を女神様方がお見捨てになっておらん事が分かって、あたしは安心したよ」

「ふん、確かに多少は希望の芽が出てきたが、渡界者の話を聞けばまだまだ手探り状態ではないか。期待しすぎん事だ」

ヨムグ司祭の言葉にギルさんが言葉を返しお互いに睨みあっている。

しかし、この話しぶりからすると

「あの~皆さんは、お話を聞く限りこの事実を知っていた様なのですが……」

その質問にヨムグ司祭、ゲンデルさん、ギムさんの三人は顔を見合わせ少し気まずそうだったが


「そうじゃのぉ……皆に隠していてすまなかった。この問題は一部の者の間では公然の秘密じゃったんじゃよ」

そうゲンデルさんが告白した。

「そうじゃ。世界中の教会、魔道ギルド、学者、国家機関など、あらゆる機関がしがらみを超えて総力を挙げて研究が行われておった」

ギルさんがそれに続いたが、それに反応してレミィがヨムグ司祭に詰め寄った

「でも、おばぁちゃん! 私は神学校でそんな事教えられなかったわ」

「んん、まぁ当然じゃ。この事実は余りにも危険なものじゃったからの……」

「危険って……? モンスターになるって事、じゃないの?」

その会話に今まで黙っていたアルティが聴いたが

これに何故かヨムグ司祭は黙ってしまったが代わりにゲンデルさんが答えた

「それはのぉ、世界の生命エネルギーの不足による不妊問題なんじゃよ」

「不妊?」

「そう、子供が出来ない。各種族の出生率の極端な低下が起こり始めたんじゃ……」

「……それって」

「俺たちにも子供が出来ないって事だよね。そして……」

今度はカルノスが口を開いた。ずっと難しい顔で話を聞いていたが今までの話しから、この問題の核心に至ったのだろう。

少し青ざめた険しい表情で先を続けた。

「それは種族の滅亡に繋がる……」

「……さすがじゃのぉ。その通りじゃ。子が生まれねば種族の繁栄は無い……今の子供達が大人になるまでに打開策が見つからねば世界のほとんどの種族は種の維持が難しくなるじゃろ……その為、この事実に至った我々はその事を秘密にしたのじゃよ」

 

この世界の知識人やお偉いさん方はそこまで問題を把握していたんだ……ここでは魂の劣化を生命エネルギーの不足としていた様だけど、まぁ大きな違いはないみたいだ。劣化からくるモンスター化の加速と出生率の低下。

これにより人間だけでなく多くの種族が滅亡へと向かっている……これがこの異世界の現状なのだった。


衝撃的な話題が続いたが、それでもこの世界の人々は生きていくしかないし、自分はその希望の一つとしてその一員にこれからなるのだ。

「その打開策を探す手がかりが自分の役目だし、賢者様曰くもしかしたら魂の劣化を修復出来るかもって話もあったから……それに自分達が集めたデータで神様が何とかすると思う。この世界の生命体を作ったわけだし……」


この厳しい状況で自分が言える事はこの程度の気休めな言葉しかなかったが、それでも渡界者たる自分の言葉が皆を少し落ち着つかせた様だった。


その後も色々な話題で議論になったが、何らかの結論が出る訳でもなく

「今すぐにどうこうなる話でもないし、僕たちが心配してもどうにもならないよね」

と言うアルティの言葉で今日の会合は終了した。


それにしても今日初めてこんな話を聞かされても、既に気持ちを切り替え明るく振舞おうとするアルティがいじらしく思えた。


単に異世界にあこがれ、新たな人生に胸躍り、ある意味軽い気持ちでこの世界にやって来たけど……

今日、この世界にはこの世界の現実を生きる者たちが居る事を実感させられた。


単なる依頼と言う以外に、簡単に死ねない理由が出来てしまった様だ。


「絶対! 生き抜いてやるぞ!」

と心の中で密かに拳を振り上げ自信を鼓舞してみせたが

だからと言って現時点でココに居る者に何か具体的な事ができ訳でもなく、取り敢えずこの話を口外しない事と、自分に対する出来る限りのサポートが決められた。


「では、レンヤさんには暫く我が家に滞在して頂く事にしますかな」

こうして自分はゲンデルさんの家にお世話になる事になった。


因みに、自分がサポートとしてお願いしたのは、この世界で自活した生活を送れる環境が欲しいという事だった。

その手始めに空き家を貸してもらえないかと相談したのだが、それに対してパルク村長が


「すぐにお貸ししたいのはやまやまなのですが、七年前の戦争で近くのロベア王国とゼダ魔法学園都市が西ゲルタ軍事連合に落とされて以降、避難民が急速に増えまして……家も農地も不足しがちでして……」

「この村は森の随分奥にある様に思えるのですが、人が簡単に来られるものなんですか?」

「いえ、おっしゃる通り一番近い街道沿いの街からでも森の細道を最低でも七日は歩くことになります。しかも森には他よりも凶暴な獣が多く生息していますから、ここに辿り着くのも命懸けになりますね……事実、避難民に話を聞くと多くの方が命を落としているんじゃないかと……それでもこの七年で村の人口は倍以上に膨らんでいます」

だから工事中の家が多かったのか、それに開墾途中の土地は食糧増産か。そんな事を思ているとゲンデルさんが教えてくれた。

「この村は危険な森の中にあるのじゃが、湖と川の女神の聖地の一つでのぉ。綺麗な湖に川があり温泉まで湧き出とるんじゃよ。それに貴重な薬草に木の実、森の生き物から取れる各種素材のお陰で頻繁に商人も訪れる賑わいのある村だったんじゃが……戦争のせいで今では商人も旅人も訪れる事はなくなったんじゃ……かく言う儂やカルノスもロベア王国から避難してきた避難民じゃよ」

「……」

そうだったんだと思いつつ、カルノスの方を見ると、唇を固く結び拳を握りしめて俯いていた……当時の事でも思い出したのだろうか。


それにしても、戦争か……平和ボケした世代の自分にはピンと来ない言葉だ。

戦争なんて映画やゲームの中の話でしかない……と言っても実際は見て見ないフリをしているだけで現世でもあちこちで戦争は起きてるんだけど、それでもやっぱりどこか遠くの国の話って感じなんだよな……

そう言えば戦争云々以前に、自分は動物を殺した経験もないけど大丈夫なんだろうか……アルティが飛び出して来ただけであの緊張感。ゲーム感覚で何とかなるかなと思ってたけど……

多分無理だな……まずは徹底して訓練をして……などと考え始めていると


「まぁ、訪れる人は居なくなりましたが、人が増えて結果的に村に活気が出てきたのは喜ばしい事ですな。そういう訳でレンヤさんの空き家の件は改めて確認してご連絡しますので。暫くはゲンデルさんのお宅でお過ごし下さい」

「あ、分かりました。よろしくお願いします」

これで今日は解散となり、各々が家路についた。アルティも『明日の朝迎えに行くよ』と言い残して帰って行った。


ゲンデルさんの家で自分に与えられた部屋は、六畳ほどの広さであったがベッドの上や床に所狭しと本が積み上げられていた……どうやら書庫として使っていた様だ。その部屋をお手伝いさんが手早く片付けてくれて、取り敢えずの寝るスペースが出来上がった。

その後、食事を済ませて風呂に入った後は、一日中山道を歩いた疲れが出たのか睡魔に襲われすぐにベッドに潜り込んだ。


「まだ二日なんだよな……」

しかも、ただ山道を歩いていただけなのだが、随分とこの世界で時間が経った様な変な感覚があった。


「賢者様曰く、この世界において渡界者は生活する中で、微量ながら魂をエネルギーとして作り出し放出しているという話だったけど……役に立つ程の量が出来るんだろうか? それに魂は命を奪った相手に一度取り込まれてから霧散する……つまり魂は殺された相手の影響を受けると……」

つまり、モンスターに殺されれば魂は更なる劣化した状態で自然に帰る為、更なる出生率の低下の原因になる……


「ただ、渡界者の自分に取り込まれた場合は、魂の補完が出来るとも言ってたな……もしそうなら戦いの日々を送った方がこの世界の為になるのかな……」

その場合自分は何になってしまうんだろう……救世主? 戦士? 殺戮者? まぁモンスター相手なら殺戮者にはならなくて済むかな……

「取り敢えず自分がすることは、生き続ける事!」

ベッドに横になり、見知らぬ天井を見上げ独り言を言いながら左手の甲に目をやる。

これは時の賢者の印でその周りに八つの紋章が刻まれている。これは渡界者それぞれを現した印で近くにいると反応して光るらしい。これでお互いを探し出して協力する事も可能だ。

ただこの紋章が消えるとその渡界者は死んだ事を意味する様だ。

この先いったい何人が生き残れるのだろうかと考えたが、他人の心配よりもまずは自分自身が生き残らないと

「……取り敢えずは生活環境を整えて……安全第一で……体を鍛えながら……zzz」


幸運に恵まれ、協力者と拠点となるエヴァン村に辿り自分はいつの間にか深い眠りに落ちて行ったのだった……

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