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BECAUSE YOU ALWAYS STAND BY ME  作者: 古蔦瑠璃
最終章 その後
60/63

59 BECAUSE YOU ALWAYS STAND BY ME(1)

※虐待及びDVに関する描写がありますのでご注意ください。

 その後も紆余曲折はあったんだけど、結局梓は司くんと一緒に住むことになったの。梓のいないところで司くん、絶対アズちゃんをいま一人にしちゃだめだって主張した。あたしもそう思うって、一番話が通しやすい千鶴さんに訴えた。

 司くんは今まで住んでた6畳一間のアパートを出て、2人で住むための2DKを借りた。バストイレ別で、マンション全体にオートロックのついた外扉があって、明るい通りに面してて人目もあって治安の心配もしなくていいところ。

 司くんは住んでいたアパートで暴漢に侵入されたっていうのもあったからね。


 国原さんは示談成立したあと釈放されたって聞いてる。ただ、住居侵入の上での傷害という犯行の性質上、こちらから訴えなくても起訴される可能性は高いらしい。そもそもが国原さんの逆恨みがきっかけだったわけだから、相手は逆恨みに逆恨みを重ねている可能性はあるから、一応用心の意味も兼ねてのセキュリティ。でも今後一切関わらないっていう主旨の念書は書いてもらったそうです。

 あと、再犯だとずっと罪が重くなるらしいから、いまの地位や身分を捨てたくなければ保身を考えてこれ以上はうかつなことはしないだろうというのが希望的観測。そのためにできれば不起訴になるか、もし起訴されても執行猶予になればいいと思っている、というのも希望的観測。こちらからやることは特に何もないんだそう。


 アパートは梓がもともと住んでいたところと同じ路線から捜して、たまたまだけどあたしの家と最寄り駅が同じになった。だからあたしたちが一緒に登下校するのはむしろ前よりも便利になったの。駅で待ち合わせして、同じ電車に一緒に乗り込むことができる。


 ちなみに宇都宮の平島さんに、司くんが殴られたあとの顔写真付きで「右の鼓膜が破れてしまったのでバイクの遠出は当分できません。ごめんなさい」とメールを送ったら、「!」「!」「!」の返信と、泣き顔の顔文字が帰ってきたそうです。こんなやつね。(´;д;`)


 裕希くんに対しては電話で話をして、きちんと説明したんだって。裕希くんは美容師を続けるつもりでいるし、今後どこかでばったり国原さんと再会する可能性が皆無とはいえない。また、国原さんの方で裕希くんのことを捜して、何年も経ってから素知らぬ顔で裕希くんにコンタクト取ってくるって可能性もあると思ったから、どういう人なのかをちゃんと伝えておかなきゃ、何かマズいことが起こってからじゃ遅いからね。

 ちなみに裕希くん、被害届は取り下げてたからね。円満退職するための交渉に使ったんだって。でも取り下げてなかったら警察に引っ張り出されて面倒くさいことになっていた可能性があるから、かえって今回綺麗に縁が切れていてよかったのかも。


 DV働くカレシから友だちを逃がしたせいで逆恨みされて司くんが殴られた、みたいなのは大学の人たちに知れ渡ってしまったけれども、逃がした友だちのことが男性だっていうのはワンゲル部の先輩はあえて伝えていなかったため、裕希くんのことは女の子だと思われているらしい。なので男同士の三角関係、みたいな噂にはならなかった。そして司くんの頬の腫れが引く頃にはその話題は忘れ去られた。


 退院したママと入れ替わるようにして梓は司くんのマンションに移り住んだ。

 そのときも梓はママとは直接顔を合わせることはなくて、荷物の運び出しは雪佳さんと司くんと応援のアルバイトの人とでやったんだって。

 司くんは美咲さんに「どうも」って言って頭を下げたけど、美咲さんはそれには無反応だったらしい。梓に関するものは全部持っていっていいって美咲さんが言ったから、軽トラをレンタルしてベッドからクローゼットからデスクから全部乗せて運び出した。


 新しく住むことになったマンションには親子世帯なんかもいて、きょうだいで住んでる2人をなんだかんだ気にかけてくれてるんだって。司くんはバイクで大学に通ってるし、梓は高校の制服着てるから、兄と妹だと思われてるみたいだけど。なにか訳ありだと思われてるらしい。詳しいことは話してないけどね。



 お京さんを誘って、一緒に2人のマンションにお邪魔してきたよ。

 梓の部屋には新しい本棚があって、なんとなんと、豪華な装丁の新しい画集がずらりと並んでた。レオナルド・ダヴィンチから始まって、アングル、ドラクロワ、マネ、モネ、ドガ、ルノアール、エル・グレコ、ミロ、ピカソ、ムンク、ゴッホ、ゴーギャン……。背表紙もローマ字だったけど、そもそも解説が全部外国語だった。これ一体どこの国から取り寄せた本?

 これまで会えなかった14年分のお誕生日のお祝いなんだって。何がいいのか菅生さんものすごく迷って悩んで、結局莫さんに相談したらしい。

 梓はちょっとはにかんだ顔で、すぐにまた引っ越しするんだから荷物になるって言ったんだけど、3月までの間にいっぱい見て楽しんでくれたらそれでいいからって言ってくれたの、って言って、子どものように嬉しそうに笑った。


 ああ、司くんのパパが憎らしい。梓にこんな無防備で可憐な表情をさせるなんて。けどパパは忙しい人だし、近くに住むあたしたちと違ってマンションを訪ねてくることもめったにないし、プレゼントを贈ってもどんなふうに梓が喜んでるか見ることができないでいるみたい。パパかわいそう。そしてちょっとザマアミロと思ってしまう心の汚いあたしを、神さまどうか赦してください。

 そのときはみんなでピザを頼んで食べながら他愛のない話をして、解散した。


 それとはまた別の日に、菅生さんが両親 (司くんと梓にとっての祖父母となる人) からどんなふうに虐待されていたかという話を、あたしは司くんから聞いた。

 ちなみにそのとき梓はいなかった。梓は週一回だけ塾に通うようにしていたから、ちょうどその日にまた図書館で。今度は偶然じゃなくて、待ち合わせして。

 司くん、お父さんからこれまでのことを全部聞いて、話してもらったんだって。美咲さんとどんなふうに出会って結婚して破局したのかっていうことや、美咲さんと出会う前のことや、どんな子ども時代を過ごしてきたかっていうことも、全部。


 菅生さんの昔話は、司くんが菅生さんに殴られてたっていうのとはちょっと次元の違う話だった。

 菅生さんの父親は自分の奥さん(菅生さんの母親)にも暴力をふるってて、母親は父親の暴力から逃れるために、まだ子どもだった菅生さんを矢面に立たせるような人だった。殴る蹴るは当たり前、生意気だから躾をするとかいってハンガーで滅多打ちにされてたりしたらしい。半裸で一晩中正座させられて、ずっと動かずにいるように言われて、眠くて居眠りなんかしようものなら反省がないってまた滅多打ちにされて。むき出しのふとももに何度も何度もハンガーを叩きつけて来るんだって。ハンガー折れてささってけがをしたこともあるって。

 服を剥ぐって相手の尊厳を奪うって意味ではとても攻撃力が高い。だから菅生さんのパパは、菅生さんを正座させるときも、ママを反省させるときも同様に下着姿にして、真冬でも冷たい床に正座させた。アパートの玄関の土間のところに座らせるんだって。自分だけぬくぬくと着込んで、ストーブなんかにも当たって。くしゃみをしても、緊張感が足りないからくしゃみが出るんだとかイチャモンつけて、菅生さんにはハンガーで、ママには決まって布団叩きで、背中とか脇腹とか太ももとかをバンバン叩くんだって。

 布団叩きって大きな音がするから菅生さんはママが叩かれるのを見て怖くて怖くて、でも自分がされるときはなぜかハンガーで、その違いの意味がまるで分からなかったけど聞けなかったし、いまでもわからないままなんだって。

 いきなりキレて食器を投げつけて来るのもしょっちゅうで、急須ごと熱いお茶を浴びせられたこともある。灰皿なんかの重いものを投げつけられて昏倒したこともある。菅生さんの背中にはえぐれたような傷跡もあるし、火傷のあともある。

 学校は見て見ぬふりだったらしい。菅生さんも自分から助けを求めては行かなかったし、当時はそんなもんだと思ってたそう。

 給食費を使い込まれて酒代にされて、遠足費も出せなかったから遠足にも行けなかったけど、遠足に行かせてやってなんて母親が言おうものなら暴れて手が付けられなくなるし、菅生さんにももれなく暴力は及ぶ。遠足の日は黙って家を出て、そのへんの公園で時間を潰していたそう。


 自分は大人になっても絶対に奥さんや子どもを殴ったりしないし、努力して頑張って、絶対に幸せな家庭を築くんだって、菅生さん強く強く決心していたらしい。

 中学のときに母親が身体を壊して入院したのをきっかけに、菅生さんは母方の祖父母に引き取られて、お金はなかったけど、勉強に集中できる時間だけは作ってもらえたんだって。それから幸いなことに両親が迎えに来ることはなかった。なんでも母親が入院しているすきに、父親はどこからか別の女の人を連れてきて一緒に住んでいたらしい。退院した母親は離婚せず、その女性と一緒にしばらく3人で住んでいたそう。

 高校からは奨学金をもらって通い始めて大学も奨学金で。とにかく死に物狂いで勉強した。幸い成績はずっとよくて大学も国立に受かったけど、医学部は教材費がやっぱり馬鹿にならなくて、いろんなテキストを先輩に頼んで貸してもらったり譲ってもらったりしたそう。解剖学のテキストは血のシミみたいなのがいっぱいついてるニオイもひどいボロボロの中古をもらって、それを何度も読んで一生懸命覚えて実習して。


 在学中に2個下の美咲さんと出会ってつき合い始めて、薬学部だった彼女の卒業を待ってすぐに入籍したんだって。菅生さんは2年間の初期研修を終えたばかりでお金がなかったから式は挙げずに、でもすぐに美咲さんが妊娠して。可愛い双子の赤ちゃんが生まれて。けどそこからがまた地獄だったそう。


「ほんとこれ、親父の側の一方的な記憶だから、ハハオヤの側からしたら大いに異議ある可能性高いんだけど」


 と、司くんは前置きをして、説明をする。とある総合病院での専門医研修はとにかく私生活が全部犠牲になるような厳しさで、菅生さんはボロボロになりながらも勤務に当たってたんだけど、家に帰れば同じく双子の育児に疲れてボロボロになった妻がいて、とにかく菅生さんのことをなじってくる。

 それで美咲さんというのが心をエグる言葉をチョイスするのが非常にお得意で、菅生さんの背中や脚の傷跡についても、とにかく醜い、気味が悪い、それは親に愛されなかった証拠みたいなもんだから、あなたの歪んだ心を象徴してる、あなたは心のない欠陥人間だ、人の気持ちがわからない、私がどれだけ孤独で苦しんでて一日這いずり回って過ごしてるのかちっともわかってくれないっていって、来る日も来る日も、ずっと怒りをぶつけてくるんだって。

 菅生さんは済まないって言って、研修期間が終わるまではどうしても身動きとれないから、それまでどうにかしのいでくれ、シッター頼んでもいいし誰に預けてもいいから、俺は俺できのうもきょうも当直で忙しくて一睡もしてないから、とにかくちょっとの時間でいいから寝かせてくれって、とりあえずソファーに横になって、罵ってくる美咲さんの声を聞きながら仮眠を取ったりしてたんだって。

 育児については家に帰ったら美咲さんから指示されるままできるだけのことはやったつもりだったけど、とにかくもう常にヘトヘトで何も考えることができなかったら、自分から何か考えて率先してやったことは何一つなくて、何かやってても美咲さんに常に叱られながらで、限界を感じながらも一日また一日と過ぎるのをただ待ちながら、動くでく人形みたいにとにかく働いて倒れて泥のように眠ってまた出勤して。

 2人で協力して育児って状況ではとてもじゃないけどなかったって、それは自分でも思うって、菅生さんは司くんに言ってた。


 最初美咲さんに対して手が出たのは、美咲さんが菅生さんの母親を家に入れたときだった。

 菅生さんの知らない間に、菅生さんの実の母親が美咲さんに連絡を取っていて、育児を手伝うという名目で勝手に家庭に上がり込んできて、手出し口出しをしてきたとき。

 司くんたちはもう3歳ぐらいになってた。菅生さんも長く続いた研修期間をようやく終えて、以前より大分ましな条件で、違う病院に勤務医として勤めていたから、よく覚えていないけど前よりは家のことを協力できるようにはなっていたはずだって。ただ、何をしても美咲さんは自分が指示したやり方と違うと言って、ぶつぶつ文句を言って叱ってくるから、叱られながらやる育児はそれなりにストレスだったそう。それでも司くんと梓は可愛かったし、懐いてきてくれたら癒されもした。

 そんなある日のことだった。家に帰ってみたら、もう二度と絶対顔も見たくないと思っていた自分の母親が家に上がり込んでいて、美咲さんとお茶を飲んでたんだって。

 その瞬間、すべてが台無しになったと菅生さんは感じたそう。理屈じゃなくて、もうそれまでの美咲さんのこともすべてが全部許せなくなって、大暴れしたんだそう。

 いままでずっと押し込めていた憎しみが炸裂した瞬間だった。

 なぜその女を家に上げるんだ。なぜ俺の許可もなくそんな女を家に入れて、俺たちの城を、そんな薄汚いババアに荒らされるに任せて、おまえはのうのうと茶なんか飲んでられるんだ。お母さんを叩き出したあと、そんな風に司くんのパパは美咲さんを罵り続けたそう。


 菅生さんはそのあとずっと暴力をふるい続けていたわけじゃないけど、たまにどうしても我慢ができなくなった瞬間に、ぶちっと切れて、怒鳴って暴れて美咲さんを張り飛ばして家を飛び出して、ってのがあったんだって。

 最初の頃は美咲さんも強気で言い返して、ほんとにつかみ合いの夫婦喧嘩みたいになってたころもあったけど、どこからか立場が逆転して、美咲さんは次第に菅生さんにおびえるようになっていった。

 そしたら司くんが、菅生さんと美咲さんの間に割って入るようになったんだって。ママとアスちゃんはおれがまもる、って司くん言って、菅生さんに向かってくるんだって。

 それである日、美咲さんが司くんに言って聞かせてるところを、菅生さん、聞いてしまった。おまえは男の子だから、身体を張ってママと梓ちゃんを守らなければいけないのよ。それが男の役割なんだからね。

 そんな風な言い方だったらしい。

 菅生さん、自分自身がお母さんにそんな風に言われていけにえみたいに差し出されたときのことがフラッシュバックしてしまったんだって。

 それとともに、あらためて子どもたちを見ていて気づいたんだって。美咲さんの、梓への態度と司くんに対する態度が、明らかに違うんだって。美咲さんは梓のことは猫っ可愛がりしていて、服とかも梓のは可愛いのばっかりなのに対して、司くんのは必要最小限だったり、靴とか下着なんかもボロボロだったり。

 ささいなことなんだけど美咲さんは司くんのことは司って呼び捨てにして、梓のことは梓ちゃんってちゃんづけで呼んでるんだって。気になりだしたら声の調子も違うように思えて仕方がなくなってくる。

 司くんと梓は本当に仲のよい姉弟(きょうだい)だったけど、子ども同士だからまあささやかな喧嘩はある。でもそれもごく注意して聞いてると、どっちが悪いとか決められるようなものでもない問題でも、理不尽に司くんの方が叱られてるんだって。

 例えばだけどおもちゃを貸す、貸さないの問題が起こったときに、司くんが貸す方だったら、きょうだいなのに貸してあげないなんてケチ、梓が貸す方だったら、人のものを狙って取ろうとするなんて欲張り、みたいに常に司くんが一方的に叱られる感じ。


 梓が覚えてた「司くんぶっ飛ばされ前歯折れ事件」が起こるのが大体そのすぐあとぐらいで、そのあと菅生さんは司くんを連れて逃げて、今に至る。

 あとは大体この前千鶴さんが説明してくれた通りなんだけど。


 ちなみにいま千鶴さんも司くんのことは呼び捨てにして、梓のことは梓ちゃんって言ってるけど、そっちは菅生さん気にならないって言ってたそう。千鶴さんがいままでどれだけ司くんのことを可愛がって本当の子ども以上に大切にしてくれてきたか知ってるから、少々扱いが雑でも気にならないんだって。扱いが雑ってとこにちょっと笑ったけど。

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