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BECAUSE YOU ALWAYS STAND BY ME  作者: 古蔦瑠璃
最終章 その後
54/63

53 それすらも君と過ごすかけがえのない日々(2)

「未遂だった?」

「未遂だった。こっちは脱がされたけど向こうはまだ脱いでなかった。避妊具(ゴム)用意してたのあとで知って、マジでこええってなった」

「避妊具? なんで? 妊娠しないよね?」

「感染予防に必要なんだよ。ナマでやると尿道炎になったりするらしい」

「なんでそんなリスキーなことを、好きでもない人とやろうと思うんだろう」

「知らね。理解したいとも思わねえ」


 国原さんの供述によると、司くんが裕希くんを連れ出して逃がしてしまったのを恨みに思っていて、でも暴力を振るって相手に深刻な怪我を負わせる意図は全くなくて、ただ腹いせにちょっとおイタしようと思っただけなんだって。

 司くんのバイクを追ってどこに住んでいるのかを調べてるときに、司くんが何度か同じ女の子と会ってて、土曜日にはタンデムシートに乗せてあちこちしてるから、彼女だと思ったそう。(そんでそれは多分あたしのことだ。水曜日に図書館の駐輪場で長話してたとこ見られたんだと思う)

 ストレートの男性が、男性にレイプされたなんて恥ずかしくて公表しないだろうから、絶対訴えたりされないと思ったし、こっそり復讐を遂げてちょっとだけすっきりしたいと思っただけだったんだって。

 だけ、って言われても……。

 あたしには国原さんの思考回路は理解できない。

 それに、やっぱり言ってることが基本的に嘘っぽくて不穏な感じする。怪我させるつもりは全くなかったなんて、あり得ないよね。いきなりの攻撃で司くんは肋骨折られてるんだもの。

 

 司くん、警察の人に話を聞かれたときに、なんか格闘技とかやってないよね?って確認されたって。襲われてとっさに反撃できる人ってそうそういないらしい。中学生だった頃の司くんを殴っていた司くんパパ、ある意味怪我の功名? 

 司くんは基本的には正当防衛だから罪に問われることはないって警察の人に説明されたけど、向こうはいま弁護士を選んでいるところで、場合によっては弁護士経由で思ってもいないようなヘンな言いがかりをつけてこないとも限らないから用心してって言われたそう。警察の人目線だと、弁護士さんって結構ヤクザなイメージの職業なのかなって、その人の口調から司くんは思ったって。

 国原さんがものすごく面倒くさい人だし、向こうは示談を持ちかけてくるつもりみたいだから、条件を話し合って適当に応じることにして、できればもうそれ以上は関わりたくないのだけど、通報してくれたその先輩は、きちんと告訴して闘ってみたらって言うんだって。生の裁判を当事者として経験できるいい機会じゃないかって焚きつけて来るって。そんないい機会要らねーし、こっちの心理的負担も考えてくれ、って司くん、つぶやいてた。

 関係ないけど司くんはワンゲル部ではないらしい。先輩は司くんが入りたいと思っているゼミに所属してる人なんだって。アパートも3軒離れてるだけで、徒歩2分のところに住んでいるそう。


「なんかさ、専門家を目指してるんだったら、そういったアタマが煮えてるようなやっかいなやつらと将来さまざまな局面で渡り合っていかなきゃならないんだから、切り替えて対処してみれば? なんて言われたんだけど、正直面倒くさい」

「司くんが面倒に思う気持ちはわかるよ」


 あたし、少し考えをまとめながら、返事する。


「だって専門家って、そもそも第三者って立場に守られてるものだもの。当事者が自分を守るやり方って、専門家とはアプローチが違うと思わない? 司くんが、そんなうっとうしくてめんどくさい相手となるべくとかかわらない方が自分を守れると思うのなら、今回はそうするべきだし、あたしはその大学の先輩ってちょっと無責任だなあって感じる」


 逆恨みのさらに逆恨みを買うのは怖いからね。再起不能なレベルにまで相手を叩き潰してしまったら、相手が手負いの獣みたいになって放火だの殺人だのなりふり構わない凶悪事件を起こす可能性まで考えてしまう。なんか国原さんってモラルというか道徳的なストッパーがない人っぽいし、それを考えると本当に怖い。


 あたしの言葉を聞いた司くん、あっ、そうか、なんてつぶやいた。


「第三者だから好き勝手なことをいうのは当たり前だよな。先輩にしたって第三者だもんな。サンキュ、鞠乃ちゃん。ちょっと頭の中、整理整頓できた」


 司くんは、あたしの淹れた紅茶を一口飲むと、


「正直俺、この話を鞠乃ちゃんにするの、抵抗あったの。なんかみっともないし、どっかで自分のこと惨めだと思ってて。けど話してみてよかった。聞いてくれてサンキュ」

「えーと、強いてあたしが感想を言うなら、暴漢を返り討ちにしたんだから、むしろ武勇伝ではないのかな?」

「んないいもんじゃないよ。すげー背中合わせだったと思うし、実際こっちの方が手ひどくやられてるわけだし。あのさ、誰かに殴られるとかの嫌な目に遭うってことだけで、自分が価値がないみたいに感じてしまうのって、本当はナンセンスだよ? そんなのわかってるし十分知ってるつもりだけど、でもやっぱり理屈じゃなくてダメージ食らうんだよな。改めてそれ思った。あとテレビ壊された。この場合自分がぶん殴ったせいで壊れたから、厳密には壊されたんじゃないのか。とにかく壊れた」

「それはお気の毒に……」


 うん、テレビ見れなくなったのは気の毒かも。DVDも観れないしゲームもできなくなる。家でできる娯楽の半分ぐらいが削られるよね。それはつらい。


「司くんがあんまり淡々と人ごとみたいに話すから、話すのに抵抗あるとか、そういう感情みたいなのないのかと思った」

「いや俺相当ヘコんだよ。先輩にはすげー情けない姿見られたしさ。上は破かれて、下はずり降ろされてて。あっ、でも足が服に引っかかったらバランス取れないと思ったから、片足が抜けるの待ってから反撃したけど」

「やっぱりすごい冷静だったんじゃない? 司くん、戦争とかになったら生き残れちゃうタイプだよね。あたしはきっとキャーキャー言いながら無駄に逃げ回るしかできなくて一撃で撃たれて死んじゃうタイプ」

「いやいや俺も駄目でしょう。だって尾けられて鞠乃ちゃんといるところ何度も見られてんのに全然気づかねーとか、狙撃手(スナイパー)に狙われたら一発アウト。って何の話だよ」


 あたしたち、2人で少し笑い合った。


「説明すんのは鞠乃ちゃんで3度目だからさ。最初警察の人で、お京さんで、んで鞠乃ちゃん」

「莫さんには話してないの?」

「莫さんいま、副業の方がすげー忙しいらしい。店にも出てきてない。アズちゃんがちょこちょこお邪魔してるみたいだし、きょうだいでつきまとったら時間ないのにさすがにメーワクかなと……」

「怪我をしてから梓、莫さんちには行ってないよ? ずっとあたしと一緒だもん」


 普段は自由気ままにあちこち出歩く梓が学校とあたしの家との往復に終始しているのは、身体がつらいのもあるのかもしれないけど、やっぱり気持ちが沈んでる方が原因としては大きい気がする。

 なんとかならないのかなあ。見てるこっちもつらいんだよね。と言っても一見普通にしてるから、下手につつきまわすのもかえって怖い気がするし。


「ねえ、梓起きないね、起こそうか? 司くんが来てるよって」

「うーん、疲れてるみたいだし、起こすの可哀想」

「けど梓は司くんに会いたいと思うんだよね」

「そうなの? いつも鞠乃ちゃんそんな風にいうけど、その割にねーちゃんに接してると、なんか懐いてくれない野生動物相手にしてるみたいな気分になるんだけど」


 その言い方には笑っちゃう。梓はイリオモテヤマネコか。

 どうする、なんて相談してたら、ちょうどそのタイミングで梓が目を開けた。

 ほっぺ腫らした司くんを見た梓は目を丸くする。

 また父親に殴られたの?って梓が聞いてきたから司くん、親父の名誉にかけて無関係、って答えてた。これはまだあと3人ぐらいからそう聞かれそうだね。莫さんもそうだし、雪佳さんとか、もしもタイミングが合えば山岡さんとかにも。

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