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BECAUSE YOU ALWAYS STAND BY ME  作者: 古蔦瑠璃
第四章 土曜日
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49 ひび割れた日常(1)

 受付で聞いたら看護師さんの詰め所は階ごとに分かれているというので、入院病棟の3階まで上がった。エレベーターを降りたところのブースの内側にいた看護師さんに名乗って、梓からの伝言を預かってないかを尋ねる。そうしたら、対応してくれたその女の人は、ちょっと困った顔になる。


「先生に確認してきますので、すみませんが少々お待ちいただけますか?」


 先生に確認? 梓から預かった鍵を受け取るだけじゃないの?

 困惑しながらも司くんと2人で待っていたら、さっきの人がバタバタと戻ってきて、奥の面会室まで案内してくれた。廊下の突き当りにある日当たりのよいスペースで、ソファーセットが2個と、椅子とテーブルが何組か置いてある。


「先生が説明に来るので、座って待っていてください」


 それから司くんに向かって確認してきた。


「お身内の方ですよね? 森園美咲さんの息子さん?」


 司くんは戸惑った顔をしたけど、そうですと答える。司くんが覚えている限りでは会ったことのない相手ではあるけれども、親子なのは間違いないわけだからね。


「妹さん、これから事情聴取を受けなければいけないので、ちょっと別室で待っていただいています。あなた方も、少しだけお待ちいただけますか?」

「事情聴取?」


 事情聴取って、警察の人が来てるってこと?


「ええ、でも先生は、所見によれば事件性はないはずだから、多分説明をしたら終わりになるとおっしゃっていたので、心配せずに待っていてください。ただ、お家の鍵は、ひょっとしたら現場検証に必要になるかもしれないので、まだお渡ししないでくださいと警察の方から言われているそうです。どちらにしても、もう少々お待ちください。それよりもお兄さん、当病院の緊急措置と今後の治療に関する同意書に、ご署名いただけると助かるのですが」

「申し訳ないですが、俺は梓の兄ではなく弟です。成人した親族の同意が必要であれば、伯母がこちらに向かっておりますので、お願いしようと思います」

「弟さんでしたか、失礼しました。では、後ほどおばさまにお願いいたします」


 年若い看護師さんはテキパキとそれだけを話すと、またどこかへ行ってしまった。


「アズちゃんなんか大変なことになってるみたいだし、雪佳伯母さんだっけ、ここまで連れてきた方がいいよな?」

「あっ、あたし莫さんのお店に行って、おばさんに来てくれるように頼むよ」

「俺が行くよ」

「病院には司くんが残ってた方がいいと思う。あたしは梓の友だちって立場で、身内じゃないし」

「バイクで行った方が早くね?」

「だれでもがバイクの後ろに乗れるわけじゃないと思うんだけど。おばさんがタイトスカートはいてたら困るでしょ? ここからだと歩いても割りとすぐだし、行ってくるよ」


 梓がどうしてるのかものすごく気になったけど、それでも適所適材ってあるからね。



 病院を出てちょっと速足で歩いて住宅街の中を通っている道を移動して、いまでは見慣れてしまった莫さんのお店の階段を上がってドアを開ける。

 喫茶店にはあたしの方が先に着いてしまったみたい。

 それらしい人はいなくて、お京さんがボックス席でお客さんたちの間に座ってくつろいで話し込んでた。


 雪佳さんを待っている間にコーヒーを出してもらいがてら、宇都宮に行ってる裕希くんについての話をお京さんから、もう少し別の角度から聞いた。

 裕希くんが司くんのアパートに泊まった翌日、お京さんが莫さんの車を借りて運転して宇都宮まで送っていったんだって。

 裕希くんは山岡さんのサポートで無事にカノンを退職できたそう。話し合いのときに国原さんとちょっと顔を合わせて、けど復縁するみたいな感じにはならなかったらしい。山岡さんが横でずっとガン飛ばしてたせいでしょ? なんてお京さん言ってた。


「しかめっ面すると人相悪くてヤーさんっぽいでしょ、山岡さんって。でもそこも素敵」


 山岡さんの話をするときのお京さん、キラキラの乙女モードだった。


 開店時間直後の喫茶店はにぎわってて、先週と若干客層が違うような? ううん、若干じゃないね。はっきり言って女子だらけだった。きょうはお京さんの日本帰国を祝って、黎成高校の女の子たちが集合してくれたんだって。

 お京さんのカットのお客さんだったり、その友だちだったりで、一緒にカラオケ行ったりケーキバイキングに行ったりするそう。半分が現役の女子高生で、半分は黎成の卒業生なんだって。成人式にお京さんに着物の着つけをしてもらった子もいるそう。

 ざっと10人ぐらいいたけど、みんな別にビアンってわけじゃないんだって。ただ、1人が言ってた。



「うちはお兄ちゃんがゲイなんだ。男の人と一緒に住んでる。両親に理解がないからあたしが唯一の橋渡し役。お京さんにはいろいろと相談に乗ってもらってるんだ」


 莫さんの喫茶店を訪ねたのをきっかけに、あたしはゲイの人やビアンの人の話を耳にするようになった。だけど知るにつれ、「両親の理解がない」という状況をまるでテンプレートのように聞く。世の父親母親ってゲイに対してそんなに理解しないものなのか。莫さんの実家はどうなんだろう。クマさんとことかワニさんとこは、どうなんだろう。

 まあ理解ある家族に恵まれてる人は、特に理解されてるアピールをするわけではないから、関係がこじれてる側の方が目につくっていうのもあるのかもしれない。


 彼女たちがわいわい話をしているのを聞いていたら、入口のドアに掛けてあるカウベルがコロンと涼しげな音を立てる。

 入ってきた雪佳伯母さん、スカートじゃなかった。普通のジーンズにオニツカタイガーのめっちゃ歩けるタイプのスニーカー履いてた。多機能型のリュックしょって薄手のパステルグリーンのマウンテンパーカー羽織って、旅行スタイルというか秋の行楽スタイル?

 一目見て、梓の伯母さんってわかった。だってすごく似てるんだもの。この人が梓ママだと言われても違和感ない。すらりとした八頭身で顔が小さくて目が大きくて鼻筋がしゅっとしてて口元が上品で。すごく綺麗な人だから若く見えるけど、服装とか雰囲気とかで判断したら、あたしの両親よりもちょっと年上っぽいかな。多分50代前半ぐらい。学校の先生っていってたよね? 優しそうな先生だ。

 梓を捜して店内を見回す伯母さんに、あたしは声を掛ける。


「梓の伯母さんの雪佳さんですか?」


 いぶかしげな顔でうなずく雪佳さんに、あたしは説明した。


「初めまして。梓の代理で来ました。おうちの鍵を預かって雪佳さんに渡すように梓から頼まれていたんですが、理由があって、いま渡すことができないんです」

「梓ちゃんのお友だち?」

「はい。聖優学園の梓と同じ学年で、文月鞠乃といいます」

「梓ちゃんはどこにいるの?」

「梓は病院にいます」

「病院?」

「梓のママが怪我をしたそうです。それでその……梓は雪佳さんには病院に顔を出さずに梓のお家に先に行って待ってもらってた方がいいんじゃないかって言ってたんですが、あの、病院側が伯母さんのサインが必要だっていうものですから、梓ママと顔を合わせないにしても、一度来て手続きを手伝ってもらえないかのお願いがしたくて……」


 鍵が渡せない理由と、病院で同意書を書いてもらわなければいけないのは、まったく関係のない別々の話なんだけど、あたし、ごちゃごちゃにして説明してしまったかも。

 あたしも状況の全体像を把握していないから、余計に説明が難しい。

 雪佳さんは少し難しい顔になって、何か考えている風。そんな険しい表情は、どっちかというと梓よりも司くんの方を思い起こさせる。

 梓と司くん、パパ似ってほどじゃなかったよね。雪佳伯母さんを見た印象だと、むしろパパよりももっとずっとママに似てるんじゃないかって気がするよ。


「梓ちゃんの母親が怪我をして、梓ちゃんはいま病院でつき添ってるの?」

「そうです」

「でも私には病院に来てほしくなくて、家で待っててほしいって言ってたってことね」

「えーと、梓はそのつもりだったみたいですが、ちょっと事情が変わったので、雪佳さんには来てもらった方がいいと判断しました。え、と。判断したのは司くんです。菅生司くん。雪佳さんは司くんはご存知ですか?」


 あたし、思わずそう聞いちゃったけど、雪佳さんは梓のママのお姉さんだから、司くんのことは知っているとは思う。でも多分だけど、司くんが小さいとき以来ずっと会ったことのない相手だし、ある意味面識ない相手だと考えてもいいよね?


「司くんが来てるの? 病院に?」

「います」

「司くんが、美咲のお見舞いに?」

「えーと、司くんは病室には行かずに談話室で待ってます。梓のママは司くんが来ていることを知らないと思います」


 司くんが病院に来た理由はあたしを送ってきたくれたのと、梓についていてあげるように千鶴さんに言われたからだものね。美咲さんのことはもともと考えてなかったと思う。


「鞠乃ちゃん」

「はい」

「案内してくれる?」

「15分ほど歩きますけど、徒歩でいいですか?」


 雪佳さんは頷いた。

 あたしたちは清算を済ませて店を出た。黎成の女の子たちが、またね~なんて手を振ってくれた。

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