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BECAUSE YOU ALWAYS STAND BY ME  作者: 古蔦瑠璃
第四章 土曜日
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48 迷路の中で(3)

 莫さんはみんなにコーヒーを用意してくれて、黙って菅生家の会話を聞いている。一言も口をさしはさまない。むしろあたしの方が会話に参加してるぐらい。

 喫茶店の方はきょうはお京さんが店番をしてるんだって。

 きょうの話し合いについてはあたし、司くんと梓のそれぞれから聞いてたんだけど、莫さんが立ち会うっていうのは今朝になるまで知らなかった。場所がここなのも。

 まああたしは当事者じゃなかったからきょうのきょうまでこんな風に顔を出す予定はなかったからね。

 千鶴さんはあたしたちが宇都宮に出かけた日の翌日、菅生さんに電話して、梓が15歳のときと16歳のときに大きな手術を受けたことを話したそう。そしたら菅生さんは、梓のためにいまからでもできることがあるのならやりたいし、お金だってそのときに知ってたら出したかったって言ってたんだって。けれどもこれまでの経緯を考えると、美咲さんには話をもちかけても拒否られる可能性がある。だったら梓はあと1年で20歳になるから、もしも美咲さんを通して何かすることができなくとも、その前に一度会って話を通しておけば、梓が成人したらその先は直接のやりとりでなんとでもなるんじゃないかって、千鶴さんはそんな風に思ったんだって。

 菅生さん、以前から美咲さんには連絡をしてこないでくれって言われてるのに、美咲さんの了承を得ずに梓に勝手に会うのは気が引けるってなってたらしい。だから千鶴さんは、あたしが単独で会うから、パパは次の機会にね、なんて言ってたんだって。

 けど今朝になって菅生さん、ちょっと気が変わったみたいで、一目だけでも梓に会いたいって思っちゃったみたいで、いきなり東京まで出てきて、千鶴さんを車で送って来がてらついてきたんだって。菅生さん、梓の姿を一目見て、元気でいることだけを確かめて帰ろうと思ってたんだって。

 菅生さんの住んでるの、茨城だよね? 多分、車で往復半日ぐらいかかる。会ってもらえるかどうかわからない娘に一目会うために、半日かけて出て来るってすごくない? いろんな話をつなぎ合わせた司くんのパパのこれまでのあたしの中でのイメージは、沸点が低くて激昂しやすい人っていう感じだったんだけど、もしかして、単に暑苦しい人? えっと、見た目はとてつもないイケメンの、涼しげな人なんだけどね。


「司くんのパパの病院、土曜日は休診日なんですか?」

「いや、月曜日と土曜日の週2回、応援を頼んでいる医師がいるので、きょうは任せて出てきたんだ」

「居たのが梓じゃなくって、あたしですみません」

「いいんだ。もしも娘が来ていたとしても、もともと会ってもらえるかどうか怪しかったからね」


 いやあたしが悪いわけじゃないんだけどね。菅生さん、さぞガッカリしてるんだろうなと思ったら、意味もなく謝りたくなってしまう。


「あっ、写真見ますか? 課外活動のときのがあるから……」


 少々慌て気味に携帯を引っ張り出して写真を開いて菅生さんに渡す。去年の、同じクラスだったとき、遠足先の農場で撮った5人ぐらいで映ってる写真。菅生さんの横から千鶴さんが、その反対側からさらに司くんが、覗き込んでくる。


「右端がそうだね。こりゃ一目でわかるな。梓ちゃん、司にガチで似てっから。写真だと司と区別がつかんね」


 千鶴さんが真っ先にそう感想を述べる。


「俺、こんな髪を伸ばしたことはねーぞ。ってか自分が髪伸ばしてセーラー服着てんの想像したら気持ち悪!」

「司とは違うだろう。表情が違うだろうが。女子って顔してるぞこっちは」


 司くんたち好き勝手なこと言いつつ親子で写真を見てる。いや、菅生さんの発言はちょっと偏見というかドリーム入ってると思うよ。女子って顔ってどういう顔よ?

 さっきから思っていたんだけど、菅生さんと千鶴さんはとても仲のよい夫婦に見えるの。千鶴さんがパパと離婚してることを司くんに告げたとき、司くん本当に驚いてたんだけど、無理もないよね。顔を見合わせて微笑み合ってるところとか、どこからどう見ても円満にしか見えない。

 しばらく写真を眺めていた菅生さん、ほっとしたような声で小さく言い加えた。


「ああ、元気そうだ。大きくなって、健康そうに見えるな」

「あたしの知ってる梓は、元気な梓です。特別に運動はしないけど、歩き回ったりは結構平気で。ちょっと皮肉屋で、高校生とは思えないぐらいものすごい博識で。病気してたとき気を紛らわすために本を読みまくったりめちゃくちゃ勉強してたりしたそうです。だからほんとにいろんなことを知ってるし、頭もよくて、数学とか物理とかの難しい問題もスラスラ解けちゃうの」


 梓が数学と物理が得意なのは病気のためだけではないだろうけどね。万一あたしに2年間病院のベッドでひたすら参考書解きまくるだけの時間が与えられたとしても、断言できる。絶対数学の応用問題解けるようにはならない。


 と、あたしの携帯、菅生さんの手の中で、突然呼び出しの音楽が鳴り始める。

 誰からだろう? 

 菅生さんがあたしに手渡してくれたので、通話ボタンを押す前に、テロップで確認する。

 え? 公衆電話?


「……もしもし?」

「あっ、鞠乃、私だけど……」

「えっ? 梓? いまどこにいるの?」

「いま病院にいるの。ママが怪我しちゃって、緊急で手術受けてた」

「え? ママが怪我? 何があったの?」

「それより司のママに私の代わりに会ってくれた?」

「うん。いま、みんなで莫さんちにいるよ」

「莫さんにごめんなさいって伝えてくれる? せっかく場所を提供してもらったのにすっぽかしてごめんなさいって」

「何があったの? ママの怪我は大丈夫なの?」

「手術が成功して、とりあえず命はとりとめたって言われた。詳しいことはまた話すけど。それより雪佳伯母さんが、東京に出てきてるの。うっかり私が明け方に電話してしまったせいで、心配になったって言って。雪佳さんにもいまもう一度電話掛けたのだけど、雪佳さん、いまもう東京駅だっていうのよ」


 手術?

 命をとりとめたってどういうことだろう。


「私、ママの怪我のこと雪佳さんにまだ話してないの。雪佳さんとママ、仲が悪いの。雪佳さんに病院まで来てもらった方がいいのかどうか、ママが目を覚ましたとき雪佳さんがいるのを見たらママが興奮するんじゃないかと思ったりして、よくわからなくてまだ迷ってる。どうしようって思ってて」


 焦っているのか梓はいつものおっとりとした口調ではなく、ちょっと早口だ。それで、きちんと考えをまとめてしゃべってる感じがしなくて、思いつくままに口にしてる印象。


「とりあえず雪佳さんには莫さんのお店の方に行って待っててもらうようにお願いしたから、鞠乃、ほんとにたくさん頼み事して申し訳ないんだけど、これから病院にうちのアパートの鍵を取りに来てくれないかな? いまから看護師さんの詰め所に伝言して預かってもらって、鞠乃が来たら渡してもらえるようにしておくから。それで鍵を雪佳さんに渡してほしい。病院に来てもらっていいのかどうかよくわからないから、アパートで待っててもらうこともできるかなと思って。あといま私、携帯が使えなくて、もしメールとかしてくれたたら見れてなくて、ごめんね」

「これからあたしが病院に行けばいいんだね。病院どこ?」


 梓が告げたのは、ここから割とすぐ近くにある大きな総合病院の名前だった。梓とママが住んでいるアパートがある市内にも大きな病院があるのだけれど、なぜかこちらに来てしまってるみたい。救急車で運ばれたのかな? あれ? そういえばそこって、千鶴さんが研修医やってる病院だよね? てかその病院、莫さんの店から徒歩10分とか15分ぐらいの距離だよね? 雪佳伯母さんに直接病院に来てもらうんじゃ駄目なの?


「雪佳さんはまだこっち向かってる途中だから、急がなくても大丈夫だと思う。まだ話の途中だったらゆっくりの移動で大丈夫だから。それと、司と司のママにもごめんなさいって言ってもらっていい? 司にもあとで連絡するからって伝えて」

「いいけど、梓は大丈夫なの? あたし、病院に行ってついてようか?」

「大丈夫。それより雪佳さんをお願い」

「何があったかあとで教えてくれるんだよね?」

「ええ。あとで連絡する」

「待ってるから」

「わかった」



 電話を切ったあたしに、4人分の視線が集中してた。あたし、だれに対してともなく説明する。


「あの、梓のお母さんですけど、千鶴さんが勤務してる病院で手術したそうです。あたし、今から梓のアパートの鍵を受け取りに行かなきゃいけなくて……」

「病室は何階だって?」

「3階だそうです。病室の番号は教えてもらってなくて、鍵だけ取りに来て、きょう東京に出てきてる梓の伯母さんに渡してほしいって言われました」

「3階っていうと外科と救命救急科があるとこだね。梓ちゃん、なんて言ってたんだ?」

「手術が成功して命を取り留めたって」


 ぽんぽん質問を飛ばしてくるのは千鶴さん。ほかの人たちは、千鶴さんとあたしのやり取りを見守ってる。


「ヤバい状況だったってことか。あたしらも駆けつけたほうがいいかな?」

「それが、梓のママが興奮するかもしれないから伯母さんには病院に来てもらわない方がいいんじゃないかって、梓が言ってたんです。ママと伯母さん仲が悪いからって。梓のパパや千鶴さんが顔を出すのもあんまりよくないような気が……あたしが勝手に判断することじゃないのかもしれないですけど……」


 千鶴さん、あたしの言葉に、何かを察したような顔になる。


「そういうことか。わかった。あたしらは行かない。司、鞠乃ちゃんを送っていきな! それと、行って梓ちゃんについててやりな!」

「言われなくてもそうするよ」


 司くん、立ち上がってコーヒーのカップやらをさっさと片付け始める。あたしも自分の分のコーヒーを飲み干すと、立ち上がった。

 そしたら菅生さんに聞かれた。


「東京まで出てきてる梓の伯母さんというのは、梓の母親のお姉さんのことだろうか。静岡の喜野雪佳さんのことかな?」

「はい、雪佳さんです」

「あとで私の方から連絡を入れさせてもらってもよいかどうか、雪佳さんに聞いてもらえないだろうか?」

「わかりました」


 千鶴さんが菅生さんに、いやそれ司に頼みなよ、って言って、菅生さんは、どう考えても鞠乃ちゃんの方が適役だろう、しっかりしてそうだし、なんて答えてた。

 いやほんと、あたししっかりしてないから、そういう評価はプレッシャーだから。

 そのあとあたしと菅生さんと千鶴さんとで、慌ただしく携帯のアドレス交換をした。それから司くんのバイクに乗せてもらって病院へ向かった。

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