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BECAUSE YOU ALWAYS STAND BY ME  作者: 古蔦瑠璃
第四章 土曜日
47/63

46 迷路の中で(1)

 明け方、梓から電話がかかってきたとき、あたしは深い眠りのただなかだった。寝ぼけながら携帯を見たら梓からだったので、寝ぼけながらも通話ボタンを押してとにかく出る。


「ああよかった。鞠乃が出てくれて」


 電話の向こうの梓は、ほっと息を吐きながら、小さな声で言った。


「お願いがあるの。きょう午前9時半に、私の代わりに莫さんちに行ってくれないかな。突然で悪いんだけど、とてもとても大事なことなの」


 どうしたの? なにかあったの?

 そう聞き返そうとしたら自分の声が、うにゃうにゃうにゃと、訳の分からない言葉になった。駄目だ、あたしの頭はまだ寝ぼけている。


「鞠乃大丈夫? 目、覚めてる?」

「うん。……うう、ねむ……」

「もう一度言うね、復唱して」

「うん」

「きょう午前9時半、莫さんち、私の代理」

「……うーうぜんくじはん、ばくさんち、わたしのだいり」


 寝ぼけながらも、なんとか人間の言葉を紡ぐ。電話の向こうの声は、いつもの梓のようなそうでないような、ちょっと妙な感じ。響きがヘンだっていうか、いつもよりもちょっとハウリングしてるような感じ?


「行ってもらえる? それか、きょう予定ある?」

「……いじょうぶ」

「助かる。ありがと」


 それだけ言うと、梓からの電話は切れた。

 6時過ぎに再度目が覚めてから着信履歴を見たら、早朝4時5分前だった。目が覚めて改めて確認したら、発信元は梓の携帯じゃなくて家電の番号からだった。電話の向こうの響きがヘンだった理由はこれだね。家電からの音って、なんでか雑音入るよね?

 不審に思いながら、梓の携帯に掛けてみたら、電源が切ってあった。ちょっと迷って家電にも折り返してみる。しばらく呼び出してみたけど、だれも出ない。

 きょうは土曜日。午前9時半って、多分だけど月曜日に司くんが言ってた、千鶴さんに昔のことを教えてもらうってやつだよね? けどなんで莫さんちなんだろう?

 それよりも、梓に何があったの? どうして電話がつながらないんだろう? 明け方電話くれたとき、梓はもう少し事情を説明するつもりだったのかもしれないけど、あたしが寝ぼけ過ぎてて会話にならなかったから諦めたんだろうか。けど眠かったんだよ。本当に眠かったんだよ。

 考えても仕方ないので、司くんに電話を掛ける。説明したら、これから迎えにいくから厚着して自宅の最寄りの駅まで出てきてって言われた。バイクだよね。着替えてリビングに降りて、玄関のクローゼットに掛けてある兄貴のジャケットを勝手に借りる。ノースフェイスとかいうアウトドアメーカーの、薄手だけど風を通さない上着。手袋も要るかな? さすがにまだ大丈夫? 

 お休みの日の朝。兄貴はまだ寝てる。おうちの中は静まり返っている。パパとママはお出かけしてるのかな? 一緒に映画でも観に行ったかな? 玄関の鍵を掛けて家を出た。


 駅に着いたら司くん、もう到着して待ってた。


「やっ! 水曜日ぶり!」


 なんて司くんが挨拶するからあたしも、水曜日ぶり、って答えて手を挙げた。

 司くんとは3日前に顔を合わせたばかりなんだよね。宇都宮に行った日のあと、水曜日に図書館でまた、ばったり出くわしたの。今週の水曜日は梓は、3か月に一度の心臓の検診の日で、早退して文京区にある総合病院に診てもらいに行く日だったから、あたしは1人で図書館に出かけたの。そうしたら、司くんがいた。そんでその日はなんでだか休憩室が激混みだったから、外の駐輪場で割とどうでもいい立ち話をいろいろ話してから別れたの。

 どうでもよくはないか。裕希くんのことも教えてもらったからね。裕希くんはあのあと司くんのアパートに一泊だけしてから宇都宮に無事に移動したって話。


 莫さんのおうちはあたしんちから見たら隣の市。電車だと一回乗り換えなきゃいけないんだけど、バイクで送ってもらったら割とすぐだった。きょうは割と暖かいし兄貴の上着を借りてくるほどでもなかったかな。あとで怒られそうだな。

 司くんはきょうはバイクをマンションの駐車スペースではなく玄関の植え込みの横に無理やり停める。千鶴さんのために駐車場空けたのかな? けど千鶴さんもバイクじゃなかったっけ? 車1台分のスペースがあればバイク2台ぐらい停められるんじゃないかな? ああでも大型バイクって案外場所を占領するのかも。

 おうちのなかに入れてもらってすぐにあたし、明け方の短いやり取りについて、もう一度司くんに説明をした。電話が梓のアパートの家電からだったことと、現在梓の携帯につながらないことも。


「慌てていたような声ではなかったんだけど、説明とかほとんどなくて、すぐに切れちゃったの。ただ梓、とても大事なことだって言ってたから、単にあたしが話を聞いてくればいいんじゃなくて、何かあたししか知らない話で梓から言いたいことを伝えてほしかったのかなとも思う。っていって特に思い当たるわけじゃないんだけど」


 だけど連絡が取れないってどういうことだろう。単に充電切れてるわけじゃないよね?

 とりあえず莫さんの家に着いたことと、話し合いが終わったらもう一度連絡することだけを、電話のつながらない梓にメールする。

 携帯をポケットにしまったら、莫さんあたしに紅茶を、司くんにはコーヒーを持ってきてくれた。


「なんかすみません。あたし部外者なのに来てしまっていいんだろうかと思ったんですけど……」

「いや、そもそも僕が部外者だからね」

「アズちゃんにとって少しでもアウェイじゃない方がいいかと思って、莫さんに同席を頼んだんだ。そしたら場所も貸してくれるっていうからさ。ここならアズちゃんわりとくつろげてるみたいだし。ちづちゃんも、前に莫さんちには来たことがあるし」


 月曜日、あたしたちが宇都宮から戻ってきて解散したあと、梓はその足で莫さんを訪ねてきていたらしい。莫さんのつくった晩御飯を一緒に食べて、そのあと書斎の画集を熱心に見てたって。もしも国原さんがまたやってきて接近遭遇してたら怖い思いをすることになったんじゃないかとかちょっと思ったけど、そういうことも特になかったらしい。


「水曜日と木曜日も来たよ。夜遅く、店が終わってからだったから、少しだけだったけど」

「へ?」


 司くん、目を丸くする。

 水曜日は、司くんとあたしがまた図書館で会った日だよね。病院から戻ってきてからも梓はまだ家に帰らず遅くまで外をウロウロしてたのね。


「ねーちゃん一体何やってんの。つか莫さんすっかりロックオンされてるみたいだけど、迷惑じゃね?」

「君がそれを言うのかい?」


 莫さんは少し目を細めて人の悪い笑みを浮かべた。


「そう仰られましたら、返す言葉がございません」


 司くん、うなだれて見せた。おサルさんの反省ポーズ。ちょっとやめてよ。似合い過ぎてる。莫さん笑い出しながら答える。


「大丈夫。全然迷惑じゃないから。梓さんは君の話が聞きたいみたいで、いろいろと質問されるよ。あと菅生さんの話も」

「まじか。ていうか親父の何を?」

「僕の目から見てどういう人だとか、そんな話?」

「えっ、アズちゃんそんなこと聞いてくんの? てか莫さんから見た親父ってどういう人よ」

「そういえば君にそれを聞かれたことはなかったね」

「聞くも聞かないも、まず、そんな疑問を持ったことすらなかったんだけど」

「まあそうだろうね」

「んでなんて答えたの?」

「菅生さんは僕の目からみたらとてもとても魅力的な人だよって」

「ええ? ちょっとちょっと待って? 何その答え? そもそもそれってアズちゃんの質問の意図に適合してんの?」

「いや梓さんの質問はさっき言ったとおりだよ。僕から見た菅生さんがどういう人なのかって聞かれたから、魅力的な人だって答えたんだが」

「待って待って。どういう人って多分だけど、よい人とか悪い人とかの善悪の判断じゃねーの? 好悪じゃなくてさ」

「好かれる人か嫌われる人かというのも判断の一端じゃないかい?」

「親父が好かれる方の人? 嘘だろ?」


 まああたしには司くんのリアクションはちょっとわかるよ。もしもだれかが兄貴のことをとても魅力的な人だっていうのを聞いたら、あたしも間違いなく目玉ポーンってなるもの。この前莫さんちに集まったときにかおりちゃんから聞いた、兄貴に対する高評価に驚いたのも記憶に新しい。


「だが実際患者さんたちには慕われているんだろう?」

「そりゃ医者としてって意味だろ。人間としてだったらむしろクセのある方だぜ?」

「僕がゲイだから余計にそう思うのかもしれないが、菅生さんはなんにでも一生懸命で努力家で、まじめで一途に見えるし、そういうところはとても魅力的に映るよ」

「えーと莫さん恋愛的な意味でいってる? 親父とつきあいたいとか? 俺、莫さんが新しいお母さんになるとか全く想像もできない……」


 いや、司くんむしろそれ半分ぐらい想像してしまってない?

 例えば両親が離婚したあと、パパが同性の伴侶を連れてきたら、それはお母さんって認識でいいの?それともお父さん? ママが女性のパートナーをつれてきたら、それはお父さんなの?それともお母さんが2人に増えるってことになるの?

 などとどうでもいいことを、あたし、思わず考えてしまう。


「菅生さんはストレートだからつきあうとかは考えてないよ。むしろタレントとか有名人を好き嫌いで分けるような無責任な感覚かもしれないね。そういえば君のお父さん、すごいハンサムだよね。君とはタイプ違うけど」

「それも身内から見たらよくわかんね。ああ、でもちづちゃんもそんなこと言ってたかも」

「千鶴さんは菅生さんにベタ惚れみたいに見えるね」

「でも親父たち離婚してるっていうから。俺すげー驚いたんだけど」


 司くんの言葉に莫さんは眉を上げた。


「そうなのかい?」

「うん。この間ちづちゃんにその話を聞いたの。それも籍を抜いたのが俺が中坊の頃だって。ただ、ちづちゃん苗字は旧姓に戻らずに菅生のままだし、大学もそのまま自宅から通ってた。いまは東京の総合病院で研修医をやってるから家を出てるけど」


 そこで司くん、1つため息をついた。


「なんだか俺は複雑だよ。ちづちゃんさ、親父が俺を殴ったことで、結婚をこのまま継続していちゃ駄目だって思って籍を抜いたっていうんだ。もしもあの頃俺がいろいろ我慢して、親父の逆鱗に触れないように生活していけてたらって、ちょっと考えちまう」

「我慢しなければいけなかったのは菅生さんの方だったんだよ。君が何を我慢すればうまくいったと考えているのかはわからないが、少なくとも菅生さんは君を殴ることを我慢しさえすればよかったんだから」


 莫さんの言っていること、理にかなってると思う。


「ただ、君がそんな風に考えてしまうかもしれないことは2人にはわかっていたのかもしれないね。だからずっと君には離婚していたことを黙ってたんだろう」

「ああ、それについてもちづちゃんにそう言われた。そんで、そのへんの経緯や親父たちが結婚する前からのことなんかも、ちづちゃん知ってることを全部話してくれるって言ってくれた。なんか俺、緘黙症(かんもくしょう)だとかいう心因疾患だったらしいんだけど」


 そのとき窓の外で車の音がして、莫さんと司くん、顔を見合わせた。バルコニーの横の専有駐車場からで、小さくバック音が聞こえてくる。


「来たかな? あれ?」


 立ち上がってレースのカーテン越しに外を見た司くん、意外そうな声を上げる。


「親父が来た! なんで?」


 あたしも横から覗いてみる。メタリックベージュのレクサスが停まってる。ナビシート側のドアが開いて、すらりと背の高い女の人が出てきた。千鶴さんだ。きょうの千鶴さんはきちんとした服装で、短い髪を綺麗に整えて、パンプスなんかを履いてる。千鶴さんはそのまま運転手側に回ってドアを開けたけど、中の男の人は出てこようとしない。2人はちょっと何か話してたみたいだけど、千鶴さんはもう一度車のドアを閉めて、1人でマンションのエントランスに向かう。

 あたしたちは玄関に向かった。インターフォンが鳴るかならないかぐらいのタイミングで莫さんが玄関のドアを開けたから、千鶴さんは一瞬驚いた顔になったけど、落ち着いた声であいさつをした。


「おはようございます。きょうは場を提供していただいてありがとうございます。梓ちゃんはもう来てますか?」


 玄関を開けた莫さんの後ろに、司くんとあたしが並んで立っているのを見て、千鶴さん、少し首を傾げた。


「それがアズちゃん急用できょう来れないって……。鞠乃ちゃんが代わりに来たの。アズちゃんに頼まれて、代わりに話聞いてくれって言われて」


 司くんの言葉に千鶴さん、ああ、と少し肩を落とす。


「ごめんなさい。車で菅生が待っているんです。きょう自分が顔を出しても構わないかどうか、梓ちゃんに聞きに行ってほしいって言われてきたんですけど、梓ちゃんがいないことを一度説明してきます」

「よかったら菅生さんもどうぞ上がってくださいと、お伝えいただけますか?」


 声を掛ける莫さんに、千鶴さんは首を振った。


「ありがとうございます。でもあの人梓ちゃんに一目会いたかっただけだと思うから、多分帰るっていうと思います」

「あの、千鶴さん」


 あたし、ちょっと思いついて声を掛けた。


「千鶴さんと一緒に車のとこに行って、梓のパパにご挨拶しちゃだめですか? 実はあたしちょっと気になってることがあって、千鶴さんや梓パパと連絡先を交換しておきたいんですけど」

「ああ、いいよ。あたしのアドレスもあの人のも司に聞いてくれてもいいけど、一回顔を合わせておいた方が話しやすいものね」


 言われてあたし、靴を履いて千鶴さんについて外に出た。

 もしもきょう梓がここに来ていたら、菅生さんと顔を合わせていたかもしれないってことだよね。だったら梓の代わりにここに来たあたしは、連絡先を聞いておいた方かいいんじゃないかとふと思ったの。

 宇都宮までドライブした日の梓は、むしろ菅生さんに会ったみたい気もするって言ってたんだよね。そのまま言葉通りには受け取れないにしても、ちょっとした気持ちの変化みたいなものがあったのかもしれなかったから。

 梓が直接菅生さんに連絡先を聞いていたかもしれないとは思いにくかったけど、代理のあたしはその辺は逆にフレキシブルでよいんじゃないかと思う。


 それとね、梓と連絡が取れないことが、さっきからずっとあたしの中で引っかかっているせいもある。あたしの中で、ちょっとずつ大きくなってきた不安な気持ち。これは何かの胸騒ぎだったのだと、あとになってから、やっと気づいたんだよ。

 司くんと莫さんも当然のようについて出てきたけど、まあいいか。きょうのメンバーは以上だものね。菅生家の人たちと莫さんとあたし。


 ゴールドカラーのレクサスから降りてきたのは背の高い男の人だった。莫さんほどではなくても180センチぐらいありそう。歳は40代半ばぐらい? うちの両親と同じぐらいかな? パパよりは少し若くてママぐらい? 千鶴さんと違ってファッションはカジュアル。シンプルで特に派手さはない。黒と白のモノトーン。装飾品は身に着けてなくて、ベルトも靴も黒。腕時計もセイコーのベーシックなタイプの男物。

 確かにちょっと目を引くハンサム。ハンサムっていうか、いわゆるイケオジというやつだと思う。ルックスはすごい整ってて、写真で見た新選組の土方歳三になんかにもちょっと似てる感じ? 目元とか司くんと梓に似てるといえば似てるかも。でもそこまでそっくりって程でもない。眉山が高くて司くんより男っぽい。唇は薄めで、涼しげな面立ち。

 菅生さん、あたしの後ろにいる莫さんを見て、軽く会釈した。


「妻と子どもたちがご迷惑をおかけします」


 菅生さん、千鶴さんのこと妻っていった。離婚したっていうのはあくまでも手続き上のことで、公式ではないんだね。

 司くんがまだ中学生だったときに、菅生さんは莫さんちに押しかけていって文句をいってたって聞いてたけど、いまは別にけんか腰ってわけでもなく、普通に話してるんだね。意外だ。

 菅生さんに向かって、千鶴さんが口を開く。


「梓ちゃんは来ない。急用ができたんだって」

「あの、初めまして。あたし、梓の友だちで、文月鞠乃っていいます……」


 菅生さんがだれって顔であたしを見たので、あたし、そう切り出した。それから菅生さんと千鶴さんに、早朝の梓の電話の件を説明する。


「いま、梓と連絡が取れなくなってしまったので心配してます。何かあったのかもしれません。何でもないのかもしれませんけど……。突然なので失礼かもしれないんですが、あの、連絡先を交換できないでしょうか?」

「それは構わないが……」


 いきなりすぎて菅生さん、ちょっと面食らった顔になる。まあそうだよね。知らない相手に突然連絡先を聞かれてもだよね。

 司くんが横から助け舟を出してくれた。


「俺が後でお互いの連絡先送っとくよ。いいかな? 親父もそれでいい?」


 菅生さんは頷いた。


「鞠乃さんといったかな。梓の学校の友だちなんだね。梓は学校ではどんな風なのかな? 大きな手術をしたと聞いたんだが、身体の方はもういいんだろうか?」

「梓は心臓の手術を2度受けているそうです。最初は高等部に進学するはずだった年の初めで、2度目はその1年と少し後。2度目は1度目のときから転院して、別の病院で。でもいまはよくなって、普通に生活できています」

「何もしてやれなくて申し訳なかったと……伝えてもらえるだろうか?」


 あたし、菅生さんの顔を黙って見上げる。どうしよう。なんて答えよう。菅生さんはそれ以上は何も言わずに、じっとこちらを見ている。


「梓のパパがそういっていたと伝えます。けど、直接会って言った方がいいとも思います」

「そうだね。もしも会ってもらえたら、そうするよ」


 隣で千鶴さんが菅生さんのことを見てる。と思ったら千鶴さん、菅生さんの腕にそっと手を添えた。


「元気でやっていると思っていたんだよ」


 菅生さん、千鶴さんに向かって言った。


「あの子は赤ん坊のときにも手術をしているんだが、それですっかりよくなったと信じていたんだ」

「うん、薫くんがそう思ってたのは知ってるよ」


 小さな声でそう言葉を返す千鶴さん。

 あたし、菅生さんと千鶴さんに向かって言った。


「梓は元気です。主治医の先生にも普通に過ごしていいって言われてるそうです。心配はいらないんだと思います。それより梓、ずっと司くんのこと捜してたんですよ。司くんたちが引っ越して、連絡先がわからなくなってからずっと」


 あたしの言葉に、菅生さんと千鶴さんは顔を見合わせた。


「鞠乃さん。私たちは梓の母親には引っ越し先は告げていたんだが、娘はそのことを知らなかったということだろうか?」

「そうなんですか?」


 思わぬ菅生さんの言葉に、今度はあたしのほうがびっくりして、思わず振り返って司くんを見た。

 あたしたちが四すくみみたいな状態になっていると、莫さんが提案した。


「続きは中で話しませんか?」

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