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BECAUSE YOU ALWAYS STAND BY ME  作者: 古蔦瑠璃
第三章 月曜日
37/63

36 ドライブに出かけよう(2)

 通常なら1時間足らずで事務所につく予定だったのが渋滞でお昼どきにかかりそうだというので、永福のパーキングに一旦停めて、そこから山岡さんに電話を入れることにした。

 梓とあたしは少し離れた自動販売機のところから、車のすぐわきに立って電話中の司くんとその横に並ぶ裕希くんを眺めてた。

 きょうの司くんはいつものライダーズブーツでなくて、ナイキの黒のスニーカーを履いてる。一旦自分ちに戻って履き替えてきたのかな? 雨でずぶぬれだったものね。服はグレーのストライプのコットンシャツに黒のコットンパンツ。ファッションはごく地味で普通で目立たない。莫さんのでもお京さんのものでもない、自前の服装っぽい。ただ、ファッションは普通でも司くんの場合スタイルがよすぎて、ユニクロ着ててもヘンに目立ってしまう。

 裕希くんは昨日と同じ上下なんだけど、ベージュの大き目のアウターの下に昨日と違うオフホワイトのカットソーを重ね着してる。多分莫さんか司くんに借りたものだと思うんだけど、すごくしっくり着こなしてるっていうか、お洒落な雰囲気。襟もとには黒っぽい金属のチェーン。耳には金色のピアスが4個。ボトムはパステルピンクのスキニーパンツ。変わった色だけどとても似合ってる。靴はハイカットの白の革のスニーカーでカラフルな靴紐がアクセントとなってる。あと、所作が綺麗っていうか目を引く感じ。莫さんに対しても第一印象でそう思ったのだけど、動きにガサツなところがなくて流れるように端麗なのは、ゲイの人の共通項かもしれないね。

 2人が並んで立ってると、相乗効果ですごく目立つ。タイプの違うイケメン2人。女子がみんな振り返って見ていく。あっ、裕希くんが声を掛けられた。

 裕希くん、困ったような顔で首を振って、あたしたちの方を指した。女の子たち、こっちを見るなりがっかりした顔になって、つまんなそうに肩を竦めて去っていった。1人が、ばいば~い、なんて感じでゆるく手を振った。


 梓とあたしはセーラー服にローファー。きょうは2人とも黒ソックス。秋だからね。あたしのローファーは気持ち上げ底のもの。それでいくらも目線が高くなるわけじゃないけど、ささやかな抵抗よ。

 あたしたち、セーラー服も実は結構人目を引くことを知ってる。私服に着替えられたらよかったんだけど昨日の時点でほかの着替えは用意してきていなかった。梓への連絡も当日になってしまったし。こっちはこっちで通りすがりに結構見られてる感じがするなあ。(何しろとにかく梓が目立つから) けどまあ、あたしたちにはだれも声はかけてこない。女子高生がPAに2人きりでいるわけがないものね。連れがいるだろうと思われてて当然。


 梓と司くんはとても良く似ているけど、どちらかをよく知っている人でなければそこまで似ていることには気づかれないみたい。通りすがりの人を見るときってそこまで顔の造形をまじまじと見てる人は少なくて、全体的な印象で判断している人が多いせいだと思う。見比べたら兄妹とは思われそうだけどね。


 ペットボトルのロイヤルミルクティーを飲みながらあたし、きのうの顛末を少しずつ梓に話していった。僕はゲイになりたいって主張してた星野守さんのあたりまで説明したところで、司くんが電話を終えてこちらに移動してくる。ああ、話が裕希くんのエピソードまで行きつけなかった。


 車に戻ってすぐに司くん、いまの電話の内容を手短に教えてくれた。

 どっかで昼食を済ませてから行くつもりで時間変更を司くんが申し出たら、山岡さんからお弁当を用意したからって言われて、そのまま来るようにって言われたそう。一緒に食べながら話をしようだって。


「お弁当って2人分だよね? 梓とあたし、司くんたちが話をしてる間、どっか外でお昼食べて来るね?」

「弁当4人分用意してくれてるみたいだけど、確かになあ。ヒロのプライバシーに関することだからそんなギャラリーたくさんいても仕方ないしなあ」

「いや俺、いまさらプライバシーとか気にしてないよ。ゆうべは鞠乃さんもいるところでいろいろぶっちゃけてしまったし」


 うん。まあ、いろいろ聞いた記憶はある。


「けどなんでお弁当4人分なのかな? 司くんと裕希さんの分だけでよさそうなのに」

「さあ、莫さんが連絡してくれてたみたいよ?」

「山岡さんって司くんとも顔見知りなの?」

「うん、知ってる。個人的に相談に乗ってもらったこともある。すげーいい人だよ」

「けどやっぱりあたしたち、外で食べてきた方がいい気がするんだけど」


 裕希くんは今回の依頼人候補で司くんは山岡さんにとって旧知だけど、梓もあたしも直接は何の関係もないもの。あっ、別に梓と2人きりになりたいから言ってるわけじゃないよ? お天気いいし、2人でそのへんの公園とかをぶらぶら出来たら楽しそうだけどね。


「事務所ついてからの相談でよくない? 一旦席を外してあとで戻ってきてくれるとかでもいいし」

「うん、わかった」


 しばらくして、裕希くん、ちょっと遠慮がちに司くんに言った。


「あのさ、さっきの話だけど、ちょっと聞いてもいいかな? タオのお父さんが暴力振るってたって話だけど……」


 裕希くん、さっきPAに寄る前に話してたことがずっと気になっていたみたい。


「ああ、どうぞ」

「タオのお父さんって、ひょっとして外ヅラはよかったりする?」

「超がつくほど外ヅラはいいよ。あと体面を気にするところがあるから、礼儀正しくて如才がない。同じ理由で顔を潰されるのが怒りポイントだったりもするよ」

「国原さんと一緒だ……」


 それだけつぶやいて裕希くん、一旦黙って考えてたみたいだけど、もう一度遠慮がちに質問する。


「最近は暴力振るわないってことは、お父さん、昔とその……変わった?」

「どうだろう」


 司くん首をかしげて、ゆっくりと言葉を探す。


「以前より、なんていうんだろう──距離感が変わったから? 俺がだんだん子どもじゃなくなったせいじゃないかと思う。親父が以前と変わっているのかどうなのかは俺からはよくわからないよ。そうかもしれないし、そうでないのかもしれない。もし親父が変われたのだったらいいなとは思う。そう思うけど、そこは親父自身の内面の問題でさ。子どもの俺がどうこうしようとしてもどうにもならない部分だっていう諦めっていうのもあるよ。救おうってたって救えないっていうかさ。救おうって考えること自体が傲慢だと思うし、本当にただ俺は、距離を取っただけなんだ」

「国原さんと俺、距離を間違えなければうまくつきあえてたんだろうか……」

「そりゃ無理だろ。柵をぶち破って侵入してきたのあっちじゃん。勝手に試されたような気になって勝手に傷ついて勝手にあんたに復讐心を燃やしてさ」

「タオにはそう見えるんだ」

「実際親父と似たとこあるんじゃないかって、俺も思うから。親父の場合もさ、いまでも向こうの意にそわないことを俺がしたり望んだりするたびに、あっちは勝手にいちいち苦悩してるんだろうなって考えたりもする。なんていうかさ、長く一緒にいるとそういう思考回路、見えて来るから。ただ、そこでこっちに危害を加えてくる気配がないから自力で克服してんじゃないかって──これは希望的観測だけど──思ったりはする。ただ、国原さんの場合は国原さん自身がそうなりたいって自分で思わない限り、どうにもならないと思う。現状あんたを食いつぶしてでも救われることを望んでるやつだよ? そんな努力最初からしない方が国原さん自身が楽じゃん」


 黙って考え込んでいる様子の裕希くんに、司くんは言った。


「考えてほしいんだけどさ、そこにあんたのことが好きであんたのいうことをなんでも聞いてくれる人がいるとして──ヒロもその人のことが好きなんだけどあんた自身はその人に対してどうしても過剰な要求をしてしまってさ、すべてにおいてあんたのことを優先してもらわなきゃ気がすまなくなって、そうでないときは腹が立ってその人のことをついついなじったり、ぶちのめしたりしてしまうとしたら? ヒロはどう思う? 怒りをぶつけてぶつけまくったら自分の気が収まるから、できるだけ長くその関係を続けたいと思うかって話なんだけど。普通は自分が嫌になるんじゃないかな? 嫌にならないとしたら、やっぱどっかおかしいって思わねえ?」

「わからないよ」


 戸惑ったような声で、裕希くんは答える。


「嫌になって苦しんで、けどどうしてもその人のことを好きで好きで手放したくなくて、だから必死で追っかけてきてるのかもしれないとか──そういう場合もあるんじゃないかって──思うから……」


 司くんは裕希くんに国原さんと裕希くんの立場を入れ替えて考えてみてほしかったみたいだけど、うまくはいかないね。


「……もしそうだとしても、あんたがそういうのを受け止める必要もなければ、受け止められないって罪悪感を持つ必要もない……って俺は思うんだけど」

「うん。わかってる」


 裕希くんは短くそう返事して、再びぐったりとシートにもたれた。

 と思ったら、裕希くん大きくため息をついて言った。


「けど、ちょっと安心した」

「何が?」

「タオってきのうからやたら俺に親切だからさ。親身になって話聞いてくれて、きょうだってバイク出して病院送迎してくれて、助けてくれる人も探してくれて。心細かったから嬉しかったしついつい甘えて頼っちゃってるけどその反面、もしかして俺、好かれてんのかと無駄に心配してた。その──恋愛的な意味でだけど。自意識過剰すぎるかもとか考えすぎかとか思ったり、俺なんかそんな対象になるわけないだろうって思ったり、でももしかしたらと思ったり、ちょっとぐるぐるしてた。いま俺ほんとにもう恋愛は勘弁って気分だからさ。けどそういうんじゃなくて、ほんとにガチで俺の立場に同情っていうかシンパシーみたいなもの?──が動機だってわかったから」

「ええ? 俺下心ありだって思われてたの?」

「下心あるっぽくは見えなかったけど、中にはAセク寄りのやつもいるって聞いたことがあるから、もしかしたらそっちかもって……」


 司くん、そんな変に警戒されてたってことは、裕希くんに対して距離を詰めるペースを間違えてたみたいよ? あとやっぱり自分はストレートだって相手に伝えた方がいいんじゃないかなあ。はっきり表明とかでなくて、さりげなくてでいいから。

 けどAセクっていうのも聞いたことのない言葉だ。聞こうかどうしようか迷ってたら、突然梓が口を開いた。


「Aセクってどういう意味?」

「俺も知らね」


 司くんにも言われ、裕希くんは困ったように口を開く。


「説明しなきゃ駄目?」

「いや、説明難しいなら、辞書引けとかググれとかでよくね? けどセクってセクシュアリティの略だろうから、下心ないって意味なら性欲がない人?」

「大体合ってる。けどなんかちょっと気まずいんだけど。こうやって何気なく使ってる言葉深掘りされて改めて解説するのって」

「ごめんなさい。司が知ってると思ったの」

「アズちゃん俺にだったら何聞いてもいいと思ってない?」

「そうね。司の方が気兼ねなく聞けるとは思ってる。それなりに」

「まあ答えられそうなことなら何聞いてくれてもいいけどさ、別に」


 いいのか別に、何聞いても。まあどっちかっていうと司くんの方がぶしつけだよね割と。このぐいぐい迫ってくる勢いのせいで裕希くんも誤解しちゃったんだろうし。


「それとヒロ、なんか悩ませて悪かったよ。とにかく俺はヒロに対して恋愛的な意味でも利害関係的な意味でも下心も二心もないから安心してよ。しいて目的をいうなら俺の自己満足?」

「わかってる。わかってなかったけどもうわかった。ありがとう、タオ」

「それと俺多分ゲイかストレートかの二択で言ったら、ストレートなんだと思う」

「あれ? そうなの?」


 裕希くん、意外そう。


「ああ。今まであんまり考えたことなかったんだけど最近自覚した」

「小宮山さんやお京さんと仲いいからてっきりそっちだと思ってたんだけど。あのお店、ゲイの人やビアンの人がよく行く場所だって聞いてたから……」

「そうだな、客のゲイ率高いと思う。けど多分一般の人もいると思う。いちいちお客さんにアナタハゲイデスカ?みたいに聞かないからよくわからないけど。ただよく莫さんと話をしてる常連客は大体ゲイ、かな?」

「えー、タオは違うのかー、なんか残念」

「なんで?」

「……変な意味じゃなくてさ。宇宙を放浪中の火星人がやっと仲間の火星人みつけて喜んでたら実は金星人でしたみたいなガッカリ感?」


 司くんがお京さんの忠告を守ってカムアウトしたら、裕希くんはよくわからないたとえ話をしながら残念だと告げた。それにしても、宇宙を放浪中ってなかなか壮大なたとえだね。けどあたしだったら別の銀河を放浪中だったら同じ太陽系の仲間に会えたら金星人だろうが火星人だろうが嬉しいけどな。

 ゲイっていうのが裕希くんのアイデンティティの根幹の大きい部分を占めるってことなのかなあ? でもこんなこといきなり突っ込んで聞けないよね?


「オープンリーゲイって少ないから同年代だと あまり会えないんだよね。確かにカレシを探すのは難しいんだけど、友達探すのはもっと難しいかもって思ってたからさ」


 裕希くん、ほんとにがっかりしてるみたい。声がちょっとしょげ返ってる。裕希くんのしょんぼりした様子に司くん、どうリアクションしたらいいのかわからなかったみたいで、途方に暮れたような声になる。


「なんていうか、ええと……期待はずれでごめんな」

「いや俺が勝手に思い込んでただけだから……」

「けどさ、ゲイじゃないと壁ができる感じ? 俺フツーにヒロのこと話しやすいっていうか気に入ってるんだけど」


 ちょっと考えて司くん、思い直したみたいにそう言い加えた。裕希くん、ぼそぼそとした声でそれに反論する。


「そうかなあ。けど俺、すごいつまらない人間じゃん。だれかに気に入られる要素なんて皆無なんだけど」

「そんなことねーだろ」

「そんなことあるよ。いいところなんて何もないもん。親はいないし、借金あるし、仕事できないし、職も失ったし、住むところもないし、やる気もないし、死んでも泣いてくれる人もいないしさ」

「いや、ヒロ死んだら俺泣くよ。お京さんだって間違いなく泣くよ。かおりさんのことはよく知らねーけど多分かおりさんだって。かおりさん、ヒロのことですげー必死だったじゃん」

「だってかおりさんはもともと面倒見がいいだけっていうか、あの人にとってはたまたま放っておけなかった捨て猫みたいなもんだよ、俺なんて。他意がないってわかってるから頼れたんだけど、取り返しがつかないぐらい迷惑かけてしまったから、ほんと申し訳なくて、もうなんか消えてしまいたいような気分だよ」

「いや消えちゃ駄目だろ。つーかお京さんの言ってたことの真似になるけどややこしい事態になったのはヒロのせいじゃないじゃん。あんたのカレシの勝手な思い込みだか捏造だかに端を発してるわけだからさ」


 そう反論した司くん、


「あっ、カレシでなくて元カレ」


 と、言い直した。

Aセクシュアル(アセクシュアル)には2種類あります。


ロマンティックアセクシュアル=性欲はないけど恋愛感情はある人

アロマンティックアセクシュアル=性欲も恋愛感情もない人


現在、一般的にアセクシュアルというと、アロマンティックアセクシュアルの方を指すらしく、ロマンティックアセクシュアルの方はノンセクシュアルという言葉で表現されているようです。


ちなみに鞠乃は全く他人事としてこの言葉を聞いていましたが、彼女自身がロマンティックアセクシュアルの状態だと思います。

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