35 ドライブに出かけよう(1)
西口の一般車用の乗降場についたけど、司くんたちが乗っているっぽい車の姿はなかった。と思ったら携帯の着信音。司くんからだと思って出たら、電話の声は裕希くんだった。
「着いてたらすみません。長いこと車停めておけなくて駅の周囲を一周してるので、ちょっと待っててください」
「わかりました。待ってますから気をつけて来てください」
裕希くんとはきのうは直接言葉を交わしていない。いきなり電話で声を聞くと、戸惑うっていうかお互いにぎごちないね。
やってきた車はホンダのフィットで色はグレー。悪い車じゃないけど色が地味。これきっと、司くんのチョイスだよね。白とか黒とかのハッキリとした色の方がカッコイイと思うんだけどなあ。ああ、でも司くんは車にカッコよさを特に求めてないのかも。モノトーンの車体に緑と黄色の若葉マークがとてもよく映えてる。
そういえば莫さんの車もそこそこ渋いメタリックシルバーだったな。かおりちゃんのパジェロミニは淡いブルーにワインレッドのツートンで可愛かった。
司くんが運転席で裕希くんがナビシートに座っていたので、あたしたちは後部座席に乗り込んだ。司くんが後ろのボンネットを開けてくれたので、大きな荷物はそっちに入れた。司くんの大きなカバンとフルフェイスのヘルメットが2個ボンと入っている。
「実はレンタカー借りるのちょっとだけ大変だった」
ハンドルを握りながら司くん、そんな風に言った。
「最初借りようとして行ったとこ、初心者NGのとこでさ。運転歴3年以上の同乗者がいたらいいってことだったんだけど、ヒロも免許持って2年半だったから条件満たせなくて。ヒロが運転するっていったんだけどそれはさすがに怖いから、別のとこ捜してそっちで借りた」
「裕希さんペーパードライバーだってきのう言ってましたけど、運転は全くしないんですか?」
「実は免許取ってから一度も乗ってないんです。車全然乗ってない歴半年と2年半なら、半年の方がまだマシですからね」
「それはどっちもどっちだと思いますけど」
「タオは少なくともバイク運転歴が長いみたいだから、タオの運転の方が安全だと思いますよ」
「つーか、ヒロも鞠乃ちゃんもタメ口で話そうぜ」
「裕希さんがいいならあたしは別にそれで」
「俺も、鞠乃さんとタオのお姉さん──がいいなら……」
「いや、ヒロは遠慮いらねーだろ。この中で一番年長じゃん」
あたし、ちらりと隣に座る梓を見た。梓は窓の方を向いて、黙って流れる景色を眺めている。これは駄目だ。人見知り発動しちゃってる。
これから江戸川区の山岡さんの弁護士事務所まで行って、そのあと宇都宮の平島さんのところまで行く予定にしているんだけど、下手をすると梓はずっと置物のままだと思う。さっきは車の中で事情を説明してもらうっていってたはずなのに、あたしにそれを聞くのも忘れてる。
「アズちゃんさ、きょう、突然連れ出して悪かったな」
気配を察したのか、司くんがそう声をかけた。
「鞠乃ちゃんから話は聞いてると思うけどさ」
「あっ、実は説明まだなの。いままでずっと図書館で課題やってて。だから梓はまだ事情をロクに知らない状態なの」
「それマジ?」
「うん」
「じゃ、もしかしてこれからどこ行くかも知らない?」
「どこに行くのかはざっくり話したけど、あたしたちがどうしてついていくのかについてはまだ話せてない」
「それについてなんだけど、鞠乃ちゃん、俺にもいまいちよくわかってないんだけど。なんで突然莫さんが鞠乃ちゃん連れてけって言ってたのかも、鞠乃ちゃんが二つ返事でOKしたのかも。なんかきのうは突然2人だけで話が通じ合っちゃってたよね?」
梓は横を向いてたけど、あたしたちの会話は聞いているはず。うまく梓を会話に引き込めるといいんだけど。そう思いながら、あたし、切り出した。
「あたしは莫さんから、きょうは司くんのナイトになるように仰せつかったの」
「なんじゃそりゃ」
けげんそうな司くんにあたし、もう一度説明する。
「平島さんが司くんのこと狙ってるから護衛してほしいってことだと思うよ」
「なんで? 必要ないだろ、そんなの。平島さん莫さんの店で何度か会ったことあるけど、ヘンな人だけど、別に危険人物じゃないよ? 危険人物ならまずヒロを頼もうなんて思わねーし」
「ゆうべ莫さん言ってたでしょ。平島さんは『つけ込む』人だって。司くん、裕希さんを引き受ける代わりに平島さんにつきあって、って言われたらどうするの?」
「つけ込むってそっち? ねーだろ? だとしても断るよ。無理なもんは無理だし」
うん。莫さんが言ったのは、そういう意味の『つけ込む』ではなかったけどね。ただ、つけ込むというのは、相手の隙を探しているっていうことでもあるから、やっぱり警戒が必要だと思うの。
「きのう司くん、平島さんと結構長く話し込んじゃってたでしょ。最初司くん、じんましんが出そうなセリフが出て来るんじゃないかってビクビクしてたって言ってたけど、なかったよね。けど、本当に相手の気を引こうと思ったら、自分の気持ちを一方的に言い募るんじゃなくて、相手が興味を示す話題を振ってくると思わない? 平島さんが話しやすいと思ったから、夕べ話し込んでたんでしょ?」
真夜中だったにも関わらず、昨夜の司くんは結構な長電話だったよね?
「平島さんの会社の事業計画の話は正直面白かった。地域ごとの特徴をリサーチしてから展開の仕方を変えていったっていう実例をちょこっと教えてくれたんだけどさ」
あたしが莫さんに駅までの地図を描いてもらってる間に、そんな話をしていたのか。莫さんやっばりこれはあたしには荷が重すぎるんじゃないかなあ。ここはやっぱりお京さんを投入しておくべきじゃなかったの? 弱気な思考が頭をかすめたけど、車はあと少しで中央自動車道に乗ってしまう。
「あの電話のことがあったから、莫さんちょっと危機感を持ったんだと思うよ。司くん、いつのまにか平島さんに乗せられて、きょう宇都宮まで行くことにしちゃったでしょ? 特に司くんが同行する必要ってなかったと思うんだけど……。平島さんがお店でワーワーはやし立ててるだけじゃなくてガチで司くんを落とそうとしてる疑惑があるって莫さん考えたんじゃないかなあ」
「考えすぎじゃね?」
「そうかな。でもあたしもそうなのかなあって思ったんだけど」
「そうなの?」
「うん」
梓だけじゃなくて、裕希くんも黙ってしまってあたしたちの会話を聞いている。話の持っていき方、間違えたかな?
「平島さんってどういった人?」
あっ、裕希くんが食いついてきた。
「オンリー企画っていうイベント会社の社長さん。歳は知らねーけど見た感じ30代半ばぐらい? 多芸多才って感じの人で、なんかインスピレーションで物事を進めていくみたいな感じの人。天才肌っていうの? あと、しゃべりだすと止まらない。言葉をさしはさむタイミングがわからなくなるほどよくしゃべる。言葉がエキセントリックでエセ詩人みたいなところがある。俺が知ってるのはこれぐらいかなあ」
「タオはさっき危険人物じゃないっていってたけど、どうしてそう思ったのか……そういうのってどうやって判断してるのか聞いていい?」
「えーと……」
と、司くんは言い淀んで、
「勘? っていっても確信があるわけじゃなくてさ。俺が見抜けないすげー悪辣な面があるかもしれないし、そこまで手放しで信用してるかっていうと、よくわかんね。でもパワハラをしてくるようなタイプでないことは確かだよ。他人にそこまで依存してないっていうか、だれかがおだて上げたり機嫌を取ったりする必要とかも全然なくて、自分で勝手に自信を持って勝手に行動してるタイプだと思う。あと平島さんも相互扶助基金のメンバーだって聞いた。ただ今回のヒロの基金の利用については平島さんには説明してないけどさ。っていうか利用時に全メンバーへの説明義務はないらしいから。理念的にはむしろプライバシー優先らしいから」
一気に梓が口をさしはさめないような話題に突入したけど、これはもう仕方ない。平島さんがどういう人かっていうのは、裕希くんにとっては死活問題だものね。
「そうなの? けど今回助けてもらうんだったら話しておいた方がいいよね?」
「いや別にすぐ言う必要はなくね?」
「あとから言ったら、信用されてなかったのかって思われないかな?」
「いや最初から信用すること自体が無理だし。そんなの普通はわかるから」
不安そうな裕希くんの言葉を聞いていると、国原さんだったら後で打ち明けられたら怒ってたんだろうな、と思った。理由はどうあれ蚊帳の外にされたってだけで怒る人っているよね?
そんな裕希くんに、司くんは重ねて言った。
「もしも後でそんなことで怒るような人だってわかったら、むしろ打ち明ける必要なくね? あとでヒロが平島さんのことを信用できるって思ったときに言えばいいだけのことでさ」
「そんなのいつでもずっとあとからでも俺は自信ないよ。信じていいかどうかなんて、俺、人を見る目がないから」
「そんなの俺にもねーから。あのさ、ザツな言い方するけどさ、100人いたら97~8人ぐらいはほどよく信じていい相手だと思うよ? そこまであくどいわけじゃないって意味でさ。まあ勝手な思惑や勘違いで動くやつは多いから、そういう意味でも信用できるやつっていうのは逆にすげー少ないけどさ。ていうか、そっちの意味だといまいち信用できないかもよ、平島さん。人の話を全然聞かないって、莫さんもお京さんも言ってたから」
「けどそういうところ、お京さんにもあるよね。話し出したら止まらなくなって、人の話を全く聞かなくなるところ。でもお京さんは悪い人じゃないし、むしろすごい善意の人だと思う」
「いやいや、そのお京さんから話を聞かないって言われるって相当じゃん」
「確かに。ヤバい人かも」
「まあちょっと、そっちで落ち着くかどうかはあとでゆっくり決めたらいーよ。宇都宮はとりあえずの避難先ってことでさ」
少し会話が途切れた。と思ったら、司くん、言い加えた。
「それとさ、なんか平島さん軽い人みたいだから、そっち方向では気をつけて」
「ええ? その人タオのことが好きだっていう話じゃないの?」
「莫さんやお京さんにからはそう聞いてる。なんかおとといぐらいに莫さんの店に来てそんなこと言ってたらしい。ただ俺の印象だと若けりゃだれでもいいって感じの人」
「マジかよ」
「平島さんがもしヒロになんか言ってきたらさ、真剣な本気のおつきあいしかしません、とかいって断るしかないんじゃね?」
「真剣なおつきあいも真剣じゃないおつきあいも、どっちも俺はもういいや。俺はただ安らかにのんびり過ごしたい。猫でも飼ってさ」
「猫いーじゃん。どんなのが好きなの?」
「定番だけどアメショとかいいなあ。でも飼うなら普通に雑種でいい。保護猫とかでいいんだ。キジトラとかかわいいよね」
「いいね。落ち着いたら仕事も探してペット可の物件探してさ──ああ、平島さんは仕事あっせんする気満々みたいだったけど、別に断っちまっていーからな。ヒロ美容師がやりたいんだろうし」
「それも今はよくわからないんだ。なんか勤労意欲が激しく低下してて……やっぱ国原さんが言ってることが正しくて、俺はどうにもならない怠けもののクズ野郎なんじゃないかって考えちゃうよ」
「単にそれ、休息が必要だってだけの話だろ。お京さんなんてパートナーを亡くしたあと、半年近く目的もなくよその国をほっつき歩いてきたんだぜ」
普通にしゃべっているのを聞いてると裕希くん、かなりおっとりな印象だ。対して司くんはあくまでも現実的だ。
ただお京さんの休息の仕方って、改めて聞いてもやっぱりのんびりとは対極にあるなあ。旅の途中で命が危ない状況にもなりかかったって、普通に言ってたよね?
それにしても、梓はやっぱり置物のまま。でももう窓の外は見てなくて、窓枠に肘をついて2人の会話を黙って聞いている。
「そういえば気になってたんだけど、ヒロは今年の4月入社だろ? お京さん、4月から仕事辞めてインドに行っちまってたのに、一緒に働いてた期間、かぶってたの?」
「俺、ガッコー行ってた頃からバイトで雇ってもらってたから。見習いとして」
「カノンはどうやって知ったの?」
「人づて? 美容学校に行ってたときに、俺がゲイだってなんとなく半分ぐらいバレちゃっててさ。はっきり名指しされてどうのっていうのはなかったんだけど、同期の子の一人が、ゲイの人がたくさん出入りしてる美容室あるって聞いたよ、ってそれとなく教えてくれて。調べたらバイトの求人出してたから応募して」
裕希くん、そこで一度言葉を切って、
「福島と違ってこっちはみんなユルいっていうか、ゲイだってわかってもそんなあからさまな好奇心にさらされたりもなくてみんな適当にスルーしてくれて、専門時代はすごい過ごしやすかった。避けられたりもなくて、ゴハンとかにも普通に誘われたしさ。あっ、一部の女子がつきあってくれってめちゃめちゃ食い下がってきて、こっちは興味ないって言ってるのに全然聞く耳持たずですごい対応に困ったことはあったけど。あと、出会いがなさすぎてカレシとかはできなかったけど。そのころは国原さんも他の人とつきあってたし」
これまでで一番楽しかったかも。なんて裕希くん、ぼそぼそと言い加える。中学や高校のときは大変だったってことかな?
ゲイであることを自分から公表することをカミングアウト、もしくはカムアウトするっていう。でもそんな風に自分から決意して公表したわけでもないのにバレてしまうことだってある。例えばだけど告った相手が周囲に言いふらしちゃうとかね。特に悪意からとかでなくても口が軽い人っていうのもいるわけで。裕希くんは何かの理由でバレてしまって嫌な思いをしたことがあるのかもしれない。お京さんも、ゲイって結構肩身の狭い思いをしているって言ってたし。かおりちゃんは、ウチの兄貴がゲイを気持ち悪がってるって話をしてたし。
お京さんや莫さんは、どういった高校時代を過ごしたのかなあ。あの2人、高校の同窓生だって聞いた。莫さんもお京さんも今はゲイだってことを全然隠してないけど、学生時代はどうだったんだろう。お京さんと莫さんって、どうやって仲良くなったんだろう。
「ねえ、そういえばだけど司くん、きょう病院では診断書は書いてもらえたの?」
あたし、さっきから気になっていたことを確認する。
「ああ、用意しておくから明日以降取りに来てって言われた。きょうは医者に怒られちまったよ。どうしてきのうのうちにほかの傷も見せなかったんだって。明日、大学の昼休みにいくか、お京さんあたりに頼むかするよ。多分俺が取りに行くかな。バイクだとすぐだし。被害届も管轄の警察署に出した方がいいみたいだから、平島さんとこもきょうは顔合わせだけで一旦ヒロも連れて帰るかも。今後のことを弁護士さんにも相談しなきゃだし」
「けど俺、きょう東京に戻っても泊まるとこがないよ」
「うち来ればいいじゃん。莫さんとこほど快適じゃないけどさ。布団ないけどワンゲル部の先輩から寝袋借りて来るから」
「司くん、怪我人に寝袋はないと思う」
思わずあたし、ツッコミ入れてしまう。ワンゲル部の先輩の寝袋って聞いたとき、衛生的にものすごく不安な気がしたんだもの。ワンゲル部って、あれだよね。何日もかけて山を縦走して、その間お風呂にも入らなくて着替えもなくて先史時代みたいな時間を過ごすってやつ。そんな感じで使う寝具を怪我人が使っては駄目な気がする。ばい菌が入ったら大変だ。
どうでもいいけどワンゲル部ってその先輩だけにかかる形容詞なんだろうか。それとも司くんがワンゲル部って意味なんだろうか?
「ああ、そっか。じゃ、俺が寝袋使うってことで」
「司くんのアパート、シャワーついてるの? 銭湯も怪我人駄目だよ? 衛生的にも問題ありだし、それ以前に多分入れてもらえないよ?」
「一応あるよ、ユニットバスですげー狭いけど。ていうかなんで風呂なしのとこだと思ったの?」
「だって司くん、大学国立だしアパートもすごいボロっていってたから、極力お家からお金出してもらいたくなくて極貧生活してるのかと……」
「いや、金はフツーに出してもらってるよ。学費とかも。けど東京って風呂なし物件結構あるよね? 銭湯生活おもしろそうだったからちょっと考えてたけど親父に猛反対された。東京治安が悪いから心配だって。女子かっつーの。まあ区内でなくて都下だし実際はのどかなもんだよね。住宅街多いし」
司くんの口からお父さんの話題が出たから、あたしこっそり梓の様子を伺う。あっ、目が合った。こっそりは無理だった。ああ、お家のことをうっかり話題にしてしまったのはあたしだ。けどこれまでも司くんの口からお父さんの話題はそこそこ出てきてるような気がするから、聞き流す方が精神衛生上よいよね? よいんだけど、梓はどう思ってるんだろう。
「タオは出身どこなの?」
「俺? 実家は茨城」
「福島から近い?」
「そうでもない。茨城の真ん中らへん」
「お父さん何してる人?」
「医者」
「お医者さん? お父さん頭いいんだ。タオはお医者さんにならなくてよかったの?」
「モメたけど、俺が我を通した」
「いいな。お父さん、理解あるんだね」
裕希くんの何気ない言葉を聞きながらあたし、ちらりと隣の様子を伺った。後部座席でうっすら微笑んでる梓が怖いよ。
「けどお姉さんはどうして東京の学校に通ってるの? 病気で2年遅れたっていうのはタオから聞いたけど──」
「ああ、アズちゃんと俺は苗字が違うんだ。双子だけど、いまは別の家庭」
「そうなの?」
「うちのオヤ離婚してて、アズちゃんは母親に、俺は親父に引き取られたの」
思わずこちらを振り返った裕希くんに、梓は微笑んだ。
「自己紹介遅くなりましたけど、私、森園梓といいます」
「えっ? あっ、どうも。俺、春日裕希といいます」
いや梓、今更だけどタメ口使おうよ?
司くんが微妙な空気に気づいて、間に割って入る。
「アズちゃん社交辞令に過剰反応しないで。ヒロは俺の親だから誉めただけだから。他意はないよ」
「そんなのわかってる」
そう答えた梓の声はとがっている。それから梓はもたれていたシートから身体を起こし、その場の空気が凍るようなことを言い放った。
「裕希さん、司の額に大きな傷跡あるでしょう。それつけたの司の父親なの。その人、司とその母親をサンドバック代わりにしてた人だから」
「えっ?」
裕希くん、運転している司くんを驚いた顔で覗き込む。
「あっ、ほんとだ。うっすらだけど。タオのお父さんって暴力的な人?」
「……最近はそうでもない」
どう答えようかを迷ったのか、司くんの返事はちょっと間隔があいた。
ああ、やっぱり空気が凍ってる。梓が置物状態のままだったのと、どっちがマシだったのかがよくわからない。
そのまましばらく司くんは無言でハンドルを握っていた。梓もそれっきりまた黙り込んでしまう。
いいお天気だなーってあたし、窓の外を見て、逃避気味にぼんやり考えた。




