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BECAUSE YOU ALWAYS STAND BY ME  作者: 古蔦瑠璃
第三章 月曜日
30/63

29 月の出た深夜(2)

 思いがけない司くんの言葉に、あたし、横になったまま固まってしまう。つきあってって言われはしたけど、好きだとは言われてなかったし、別にそういうのでもないだろうとこれまで勝手に思ってたんだもの。


 あたしまだ実は寝ぼけてて、とりとめもない夢を見てる最中?

 好きって普通に好きってことだよね? バナナとかヨーグルトが好きとかの、あれだよね? 猫とか虫とかその辺の雑草とか、海とか山とか春とか夏とかの……。

 一瞬逃避しかけたけど。


「俺、鞠乃ちゃんのこと、すげー好き。なんか会ったばかりで人って人を好きになるんだって、いきなり過ぎて自分でも驚くけど。多分一目惚れではなかったと思うから、三目惚れか四目惚れぐらいな感じ? ていうかきのう話をしてるうちに、鞠乃ちゃんが囚われの姫君みたいに思えてきて、彼女が囚われてる場所からどうあっても連れ出したいって衝動的に思っちまって、自分の気持ちもよくわかんないままにフライング告白って感じ? あっ、よくわかんない話が混ざっててごめん」


 司くんは、それだけ一気にばーっとしゃべると、囚われの姫君? って聞き返した莫さんの言葉を耳で拾って謝った。


「変なたとえだよな。マリオじゃねーんだからさ」


 司くん、あたしのこと美化しすぎだと思う。クッパみたいな魔王がいるわけじゃ別になくて、あたしが囚われてるのは自分自身の中の思い込みとかに過ぎないんだもの。そして、そんなのだれにでも当たり前みたいにあるものだとも思うし。


「それと意味なく焦ったのもある。話の流れ的に、いま言わなきゃ、って突然思いついて。内心アワアワしちゃってさ。あとから自分から改めてそういう話を振るのって難しい気がしたし。俺さ、なんか突然アズちゃんがうらやましいってすげー強く思っちまったの。こんな子と知り合ってずっと一緒にいて、打ち解けていろんな話してさ。あとでよく考えたら友だちになってほしい、って言えばよかったのかもしれないけど。でも俺としてはやっぱ、つきあって、っていうのがそのときの自分の中での正解だったというか」


 莫さんは司くんに、あたしが何に囚われているのかなんてことは聞かないし、司くんは話すつもりもないみたい。

 そういえば昼間司くんが言ってた、誰かの代わりになんて簡単にはなれない、って言葉も莫さんは聞いていて、黙ってたっけ。

 司くんは莫さんに、あたしが梓に告白したことは話してないけど、つなぎ合わせたら、あたしが梓に片思いしてることは、莫さんにはわかってしまったかも。もしわかっちゃったとしても、触れ回ったりしなさそうな人だし、別にいいんだけどね。

 ていうか、あたしのどこにそんな好かれる要素なんてあったんだろうか? あまりにも心当たりがなさ過ぎる。ただ司くんのこと聞いたり、梓のこと話したりしてただけだし。何か楽しいことを言ってウケたっていうわけでもなかったし。


 それはともかく現状あたし、起きるタイミングを逸してしまった感があるなあ。

 いやほんと、どうしよう。目が覚めてるのに起きられないこの状況。

 司くんのこの告白は、ほんとはあたしが聞いてちゃいけないものだもの。あたしに対してはずっと友だちでいいよって言ってくれた司くんの、いわばこれは莫さんとの内緒話なんだもの。だからあたしは聞かなかったことにしなきゃいけないのだと思う。というかむしろ、聞いてたのがもし万一バレたら気まず過ぎるし。

 いっそもう一度寝ちゃう? けど一度起きて歯磨きしたいなあ。食べながら寝ちゃったから、口の中、気持ち悪い。きょうはシャワーも浴びてないし髪も洗ってない。パジャマ持ってきてるけど着替えてもない。


「でも俺は鞠乃ちゃんとはもう友だちでってその場で結論出しちまったし、だからどうこうなる気はもうないから。それと明日はやっぱりヒロのことを優先したいと思ってる。だから俺が送っていくとかはナシで。さっき俺が言ったことを鞠乃ちゃんにリークするなんてのもナシの方向で頼むよ」

「うーん」


 莫さんは考え込むような声になる。


「その結論はやはり早計だと思うんだが。君が切り替えて、だれか別のもっと脈がありそうな相手のところに向かうっていうのならともかく、特にそういう気はないんだろう? だったら保留でいいんじゃないか?」

「鞠乃ちゃん俺が友達で、って言ったとき、露骨にホッとした顔をしたの。なんだろう、吹雪の谷を渡ってきて、春の野原にやっと出たみたいな?」


 司くん、あたしのことすぐ顔にでてわかりやすいって言ってたけど、あのときのあたしってそんなだったっけ? ていうか、吹雪の谷と春の野原って、どういうたとえ?


「だからそのまま安心しててほしいしとにかく安全だと思われたい」

「警戒されたくない?」

「ああ、警戒されたくない」

「弱気だね」

「まあね。ただ、それだけじゃなくてさ」


 と、一旦司くん言葉を切った。考えをまとめてから、もう一度口を開く。


「あのさ、俺、鞠乃ちゃんに断られるときに言われた言葉で、思い出したことがあるの。高校のときに告られてすげーいやな気分になったことがあったなー、っていう記憶なんだけど。よく知りもしない他のクラスの女子から告られて、断った後もすんげー追いかけまわされてさ。そのときに俺がモヤモヤしてわだかまってた気持ちを、なんか鞠乃ちゃんがバッサリ言ってくれた感じ?」

「そういうところ、京平じゃないが、君も結構気難しいよね。女の子の方から告白してきたんだったら、そこはとりあえずつきあってみてもよかったんじゃないかと思うんだが。ほかに好きな人がいたとかでなければだがね」

「そういう考え方もあるのは知ってる。その子もつきあってみたら、案外いい子だったのかもしれない」

「いい子に思えなかったわけかい? 何かがセンサーに引っかかったとか」

「そうだったのかも。何か警戒心が働いちまったんだよな」

「まあ、君の場合、お父さんが開業医だから、警戒心が働くのはある意味当然かもしれないね。高校生だったとはいえ、打算で近づいてくる人間が全くいないとは言い切れないだろうから」

「打算とか、そういうの考えてたわけでも別になくてさ。ただ、単純に距離詰めてこようとする勢いにびびっちまってたのかなあ。そのときのこと思い出したら、いい加減俺もダブスタなんだけどさ。とにかくなんかいい印象持てなかったんだ。ちょっと上から考えを押しつけてこられるみたいなとこが」

「可愛い子だったのかい?」

「どうだろう。そうだったのかな? いわゆる女子力高いみたいなタイプの子? ものおじしなくて、華やかな感じの? 多分俺、面食いとかじゃないんだよ。見た目が可愛い子に特に気持ちが動かないっていうのかな? あっ、鞠乃ちゃんが可愛くないっていってるわけじゃなくて、鞠乃ちゃん可愛いけど、可愛いからいいなって思ったわけじゃないってことで……」

「いや、それはわかるから。ちょっと落ち着けよ、タオ」

「落ち着きたい、落ち着こう、ああ、落ち着かねえ」


 慌てて言い訳を始めた司くんを、莫さんが遮った。そうしたら司くん、独り言みたいにぶつぶつつぶやいた。

 莫さんはそれにはちょっと笑ったけど、考え込むみたいな声でゆっくりと言葉をつなぐ。


「鞠乃さんは……見かけのわりに、案外はっきりものをいうっていうか、考えたことを端的に口に出すタイプだね。きょうの守くんとのやり取りを聞いていて思ったよ」

「そうそう。それで、俺なんかはよく考えずに何でも言っちまうんだけど、鞠乃ちゃんの場合はこれ言ったらどうなるんだろうとか実は考えてて、ときにはそれで黙ってて、ときにはそれでもあえて口に出す、って感じ?」


 ああ、司くん、あたしのこと結構よく見てるかもしれない。あたし、人の言うことや考えてることにわりと内心ツッコミ入れてて、おかしな点や矛盾点とかを口に出して指摘しようかかどうしようか、言うならどこまで言ってもいいんだろうかと、いつも迷ってる。

 ときとしてシニカルなことをいう梓が、関心のない相手のことは実はあんまり見てないし気にしてないのと対照的に、あたしはいろんな人のことがどうしても気になっちゃう性質なの。まあ、梓の場合は気にしてないっていうより、無理だと思う相手のことは意識からまるごとバッサリ締め出しちゃうんだけどね。なんていうか極端なとこがあるんだよね。

 けど、さっきからのこのムズムズする感じ、いたたまれないんだけど。あたし、傍にいて、さっきから目を覚ましてて、莫さんと司くんの会話聞いてるんだよ?


「しかし告られたのは高校のときのその一回きりかい? 意外と少ないね」


 莫さんはそんな風に話を蒸し返した。

 告られたのが一回って、少ないのかな? あたしは中学高校と一貫の女子高だから、学校の中でそんなにみんなしょっちゅう告ったり告られたりするのかどうかっていうのが、よくわからない。恋バナはよく聞くけど。

 莫さんは高校時代、共学だったのかな。そういえば兄貴は共学だったな。

 うん。兄貴の高校時代のこと思い出したら、確かにすごい青春謳歌してたよ。ほとんど勉強そっちのけだったけどね。あれだけ遊んどいて、兄貴よく大学進学できたもんだと思うよ。兄貴が通ってるのは首都圏の有名私立。めちゃくちゃ難関ってわけじゃないけど名前書けば入れるってほど簡単でもない、一応倍率が5倍ぐらいあるとこ。


「中学んときは俺、ちびっ子だったから。同級生に下級生扱いされるレベルのさ。だから女子にとって全然そういう対象じゃなかったっていうか。そんで高校は進学校へ行ったから周りの空気も受験一色で、そこまで恋愛体質のやつ、少なかったと思う。俺の周りにいた女子も、どっちかっていうと男子に対抗心燃やしてるタイプで、受験に関してもそうだけど、球技大会や学祭なんかのイベントも応援に回るんじゃなくて、スタメン出場したり自分が企画したりのガチ勢ばっかでさ。あーと……思い出した。そういえば、親父が医者だっていうのでわかりやすくちやほやしてきたようなのもいたはいた。でも、そういうの気持ちわりぃし、勉強の邪魔になるからって言い訳して全部シャットアウトしてた。関係ねーやって。記憶の彼方に押しやってて完全に忘れ去ってたわ」


 それから司くん、言い加える。


「うち、傍で思われてるほど別に裕福じゃないんだけどな。親父はまだ開業時の借金返してるし、奨学金の支払いだって割と最近完済したって聞いてるし」

「まあ奨学金については、特に利子が高いものでなければゆっくり返していけばよいものだからね。しかし菅生さんは奨学生だったんだね。結構苦労されてるのかもしれないね」

「昔のことは親父は話さないからよく知らない。ただ、引っ越して個人で開業したときは、意外に借金膨れ上がっちまって大変だったって聞いてる。まあでも、親父に医者は天職だと思うよ。町の人たちからすげー人徳者みたいに扱われて慕われてさ、すげー張り切って仕事してるよ。実際は人格に難ありだと思うのに、傍からはそう見えないのが不思議だよな」

「医者の仕事というのは実際に人助けだから、徳を積んでいるともいえるけどね」

「それで思い出したけど、ちょっと話変えていい? きょうの昼間の星野さんの弟の守さんが謝りたいって言ってきたときのさ、鞠乃ちゃんが指摘した、本人が謝らなきゃ意味ないだろうっていうの、ほんとその通りだとは思うんだけどさ。身内のやらかしを謝りたくなるっていう守さんの気持ちも俺、ちょっとわかるんだ。いや、代わりに謝ったってしょうがないんだけどさ。親父がほんとごめん、って言いたくなる」

「なんの話だい?」

「きょうかーちゃんに聞いたの。俺が中坊のころ、押しかけてきてあんたにすげー暴言吐いてたって」

「ああ、君が中学生ぐらいの頃の話か。いや、暴言というほどのこともなかったよ。こちらも言いたいことを言わせてもらったしね」


 莫さんの口調は、なんだそんなことか、とでも言いたげだ。


「なんか莫さんのこと訴えるって息巻いてたって聞いたんだけど」

「まあそんなことも言っていたが、おそらく本気ではなかったと思うよ。わざわざ君のいないときにやってきてあれこれ文句を言ってたってことは、君に知られたくなかったんだろうから」

「ええ? そうなの?」

「僕はそう思ったが。まあかなり頭に血が上ってたみたいだったし、万一のことを考えて立ち向かう準備だけはしていたけどね。結局何もなかったってことは、推して知るべしってことだろう」


 そのやりとりを聞いていて、莫さんって大人だなあって、あたし思った。いや、実際大人なんだけど。あたしたちは相手が言った言葉をうのみにしちゃいがちなんだけど、相手がどう行動するかでその本気度がわかることは、忘れがちだもの。

 司くん、莫さんに軽くいなされて気が削がれたみたいな感じで、なるほどなあ、なんてつぶやいた。

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