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BECAUSE YOU ALWAYS STAND BY ME  作者: 古蔦瑠璃
第二章 日曜日
21/63

20 鞠乃の外泊(1)

 なんだかんだであたし、結局莫さんの家まで来ていた。


 あのあとすぐ司くんは、送れなくてゴメンと言って、バイクで家庭教師のバイトに出かけていった。台風が近づいているとかで、雨が横殴りに降ってたから、レインスーツ着てても大変そうだったな。

 かおりちゃんと裕希くんは、さしあたって一晩限定で莫さんのところに連れて行くことになった。裕希くんを長期的に預かってくれそうなところについては、誰も具体的な人物を思いつけなかったから保留。あとでみんなで知恵を出し合おう、って話になった。

 お京さんは喫茶店に残ってオーナーの襲撃を迎え撃つ役。ただし、逆らったり刺激したりしないこと。裕希くんの行く先は正直に話すこと。お京さん1人では心もとないので、さっきミーティングに来ていた人たちに電話で当たって、戻ってきて客としてその場に居合わせてくれるようにお願いする。要するにサクラよね。クマさん、クマさんのカレシさん、それにあと何人かにOKがもらえた。

 クマさんとクマさんのカレシさんは、喫茶店のすぐ近くにあるお蕎麦屋さんでちょうど晩御飯を食べてたところで、5分もしないうちに駆けつけて合流してくれた。


 みんなが集まったところで、カノンのオーナーに伝える内容についてもう一度おさらいする。


 裕希くんは、本人が帰りたくないって言っていたので、莫さんに預けた。かおりちゃんについては、裕希くんに同行していることは言わなくていい。彼女は帰った。行く先については一切聞いていない。


 カノンのオーナーが現れたら、あるいは連絡してきたら、そういって説明して、それからすぐ莫さんのところに連絡を入れること。お京さんがメインでオーナーの応対をして、客席からクマさんがメールを打ってくれることになった。


 まだ7時前だったし、みんなあちこちに電話を掛けたり打ち合わせしたりで取り込んでたし、あたしは駅まで歩いて電車で帰るって言った。そうしたら、かおりちゃんに、一緒に来て泊まってよって言われた。無理だって、外泊なんて許してもらえるわけないって言ったんだけど、かおりちゃんは、お京さんが一緒じゃないんだったら知らない男の人のところに1人で泊まるのは心細いよ、お願い、あたしが何とかするから、なんて言ってきた。

 かおりちゃんは本当に、ママと兄貴を説得してしまった。かおりちゃんのこと、兄貴だけじゃなくて、ママも覚えてたみたいだった。ああ、あの、メガネを掛けた利発そうな子よね、なんてママは電話口で言ってた。でもママは、あたしが泊まるのは30過ぎのゲイの男の人の家じゃなくて、かおりちゃんちだと信じてたみたいだったけど……。かおりちゃんもあたしも、あえてそれを訂正しなかった。

 かおりちゃんの運転するパジェロミニに乗せてもらってあたし、着替えと学校の制服と鞄とローファーを取りに自宅に戻った。明日は祝日だけど学校開放日だから梓と一緒に登校して、図書室で秋休みの課題に取り組む予定にしているの。

 兄貴が表に出てきて、門の前でちょっとかおりちゃんと世話話みたいなことして、鞠乃と仲よかったなんて知らなかったよ、今度ドライブにでも行こうよ、なんて言ってた。かおりちゃんは笑って、いいわね、伊藤さんや高橋くんとかも誘って行きましょ、なんて軽くかわしてた。


 カーナビに入れてもらった住所を元に、地図を辿って目的の場所に着いた。

 莫さんの家は、駅から徒歩5分ぐらいのところにあるマンションの一角。いわゆる高層マンションじゃなくて、5階建てぐらいで、駐車スペースが建物と同じ敷地内にあるタイプのもの。コの字型を組み合わせたちょっと変わった構造をしている。エントランスホールのエレベーターと中庭とで隔てられ、居住区同士がくっつかないように工夫されている。莫さんの部屋は1階のどうやら南西の一角に位置していて、東側にエレベーターホール。北側に中庭。玄関の手前で柵があって、柵には鍵が掛けられるようになっている。玄関のすぐ脇に潅木の植え込みがあって、マンションじゃなくて普通の家の玄関のような趣。

 莫さんはあたしたちを家の中に招き入れると、かおりちゃんからパジェロミニのキーを預かって、どこか別の場所に停めにいった。部屋の前の専有駐車場には2台分のスペースがあったけど、オーナーがここを探し当ててきた場合、普段通勤に使ってる車を見られたら、そうでなくともかおりちゃんを疑っているオーナーの猜疑心を裏付けてしまうから。


 しばらくして莫さんは雨に濡れて戻ってきて、駅前の立体駐車場に入れてきたからね、と言いながら、かおりちゃんにキーを返した。外の風、どんどん強くなってきている。バイクで出かけた司くん、大丈夫かなあ。司くんもバイトが終わったらこっちに顔を出すって言ってたけど、8時半は過ぎるって。

 キッチンと一続きになっている、広めのリビング。突然のことだったにもかかわらず、部屋の中はきれいに片付いている。食卓のようなものは置いてなくて、キッチン横のカウンターに椅子が3つばかり並べてある。窓際を陣取っているのは大きめのソファに小さなガラスのテーブル。ちょっと物々しいのは壁際に並んだ何種類ものオーディオ類。オーディオの脇の棚に並べられた大量のCDのジャケットは、ほとんどがあたしの知らない洋楽のようだった。そして、少し大きめのアンプから、聞いたことのない曲が小さく流れてくる。葉加瀬太郎でもない、女子十二楽坊でもない、でもそんな雰囲気の現代音楽。

 裕希くんは、リビングのソファの肘掛にもたれて眠っていた。肩のところまで、薄手の毛布を掛けてもらっている。


「我々もさっき着いたところなんだけどね。貸布団店に寄ってきたから」


 莫さんがかおりちゃんに説明した。


「よっぽど疲れていたんだろう。座ってすぐ眠ってしまったようだね」


 それから莫さんは、あたしたちの荷物を持って、部屋の1つに案内してくれた。見たところ普段は使っていない様子の殺風景な部屋。ホテルの部屋のようにきちんとメイキングされ、カバーを掛けられたベッドも、もうずっと使っていないような感じね。窓のそばには小机。壁際に貸し布団店で借りてきたらしい布団が2セット、四角いカバーにおさまって置かれている。


「畳でなくて悪いんだが、畳の部屋は普段仕事に使っているから散らかっていてね。今、食事を用意するから、落ち着いたら出ておいで」

「ありがとうございます」


 運んでもらった荷物を受け取って、かおりちゃんとあたしは頭を下げた。

 めいめいに荷解きをして、あたしは明日着ていく制服をハンガーに掛け、そのあと2人ですぐにリビングに戻る。キッチンにいる莫さんにかおりちゃん、手伝いましょうか、と声を掛ける。


「いいからそちらに座っておいで」


 莫さんはそう答えて、裕希くんが眠っているソファの向かい側を指差した。


「でも……悪いですから」

「人に手伝われるのが好きじゃないんだ。大丈夫、そんなに手の込んだものはしないから」


 好きじゃないっていわれたら、それでも手伝いますとはさすがに言えない。かおりちゃんとあたしは、莫さんに言われたとおり、ソファに腰を下ろした。

 莫さんはあたしたちにブランデーを1滴垂らした紅茶を持ってきてくれた。


「鞠乃さんには、タオや京平が一日つきあわせてしまったようで、悪かったね」

「いいえ」


 あたし、首を振る。


「そうだったの?」


 莫さんの言葉に、かおりちゃんが顔を上げてあたしを見た。お京さんに誘われて横浜まで行ってきたことを話したら、かおりちゃん、首を傾げて聞いてきた。


「じゃ、鞠乃ちゃん疲れてる? あたしが誘ったのも悪かったかしら?」

「ん、あたし、外泊とかしたことないから、ちょっとワクワクするかな」


 あたしは正直にそう答えた。かおりちゃんのパジェロミニに乗っけてもらって話をしてたときに、ですます調で話しかけられると窮屈だからタメ口でいいよって言われた。だから莫さんの家に着いたときにはもう、友達と話すみたいに気楽に会話するようになっていたの。


「なんかね、うちは兄貴がすっごくうるさいんだ」

「うそー、文月くんが過保護なのお? 意外ー。今度会ったときからかっちゃおうかな」


 そういって、かおりちゃんは笑う。笑うとふっくらした頬にえくぼが浮かぶ。襟元でゆらゆら揺れる明るい巻き髪がよく似合ってる。兄貴と同級生だったってことは、あたしより5つ齢が上なんだけど、そんなこと感じさせないぐらい可愛らしい雰囲気の人。さっき家で話をしていたとき、兄貴、絶対意識してたよね。


「それで、鞠乃ちゃん、さっきのあのタオとかいうバイク小僧と一緒にバイトしてるんじゃないの? じゃなかったら、どうして閉店後のお店にいたの?」


 かおりちゃん、あたしがお店でバイトしていたわけじゃないって知って、あたしがあのお店にいたわけを聞きたがった。


「ひょっとして鞠乃ちゃん、お京さんとお友達? あの人ゲイのくせに女友達いっぱいいるのよ。ていうか、いつだってさりげなく女の味方なのよ。変な人よねー、ゲイのくせに」


 ゲイが女の子の味方なのは、変なことなのかな? かおりちゃんの言葉を聞きながら疑問に思ってたら、彼女、すぐに訂正を入れてきた。


「って、ゲイはこういう人だって決めつけは偏見かもね。でも、やっぱりお京さんみたいな人って、今までほかには会ったことないなあ。カノンって、オーナーのコネクションとかで結構そっち系の人が出入りしてるんだけど、どっちかっていうとみんな女には冷たいよね。そういえばヒロくんだって、最初の頃はてんであたしたちのこと無視だったのよ。全然優しくないし、そっけないし。普通は女のこと全く眼中にないのがゲイだと思うんだけど……それはそれでまあ、気楽でいいやとも思うけど……お京さんは違ってるのよね」


 そこでかおりちゃん、ちょっと言葉を切って、もうとっくにキッチンに戻っている莫さんの方にちらりと目をやると、少し声を小さくして、言い加えた。


「典型的なゲイといえば、あの人もそうよね。小宮山さん。何度かカノンに来てるけど、ヒロくんや他の男の子たちのことはよく覚えてるのに、女性スタッフのことは全然無視よ。あたしの名前だって覚えてなかったみたいだし、ヒロくんはよくてもあたしがここに来るのってほんとは迷惑だって思ってるんじゃないかしら」

「そんなことないよ」


 あたしも小さな声で言い返す。


「莫さんがかおりちゃんに帰ったほうがいいって言ったのは、裕希さんにかかわりがあるって思われたら、そのカノンのオーナーの国原って人がかおりちゃんになにするかわからないから……先のことを考えてのことだよきっと」


 でも、莫さんが女の人にそっけないっていえば、確かにそういう面もあるかもしれない。気配りはしてくれるんだけどね。部屋に案内するとき荷物持ってくれたし、あたしたちの代わりに車を駐車場まで運んでいって雨に濡れて戻ってきたし、こうして紅茶も持ってきてくれるし。

 けど、口数が少なくて、あたしたちの気を引き立ててくれようって気はまるでないのね。女の子って普段男の人からさりげなく気を遣ってもらったり、あれこれ持ち上げてもらって構ってもらってっていうのに慣れてる。ヘテロ・セクシュアルの男の人って意識せずにナチュラルにそういうことしてくれるものね。かおりちゃんが言うのは多分、なーんも意識されてない、石みたいに思われてる状態が落ち着かないっていう意味じゃないかな。迷惑に思われて居心地が悪いとかじゃなくて。

 それはいいんだけど、莫さんが耳がいいことをかおりちゃんは知らないんだよね。小さな声だったけど、BGMはとても静かだったし、声が届かない距離じゃない。あたし、ちょっとハラハラして、ちら、ちらとキッチンに目をやる。

 莫さんがこっちを見た。と思うと、面白そうに口元で小さく笑って頷いてきた。あれはどう見たって、あたしたちの会話が聞こえてるよってサインよね?

 少し考えてあたし、自分の両方の耳を手のひらで塞いで見せる。聞かないでいてよっていうサイン。莫さんは一瞬戸惑ったような顔であたしを見返したけど、目で頷くと、リモコンを手にしてBGMを換えた。

 不意に始まったのがあんまりフツーの邦楽だったので、かえってあたし、驚いた。スピッツの『三日月ロック』だよ、これ。さっきよりは音は少し大きめだけど、それでもそんなにはうるさくしていない。だってすぐ横で裕希くんが眠ってるんだもんね。


「あっ、あたし、このアルバムの中の『遥か』って曲が好きなの」


 流れ始めた最初の曲を聴いたかおりちゃんがそう言った。

 そこからあたしたちの話題は、好きなアーティストの話になった。浜崎あゆみもいいけど宇多田ヒカルの曲はもっと特別いいなと思っていたり、本格的なHIP HOPは聞かないけどORANGE RANGEとかケツメイシとかのちょっとHIP HOPっぽい匂いが好きだったり、かおりちゃんとあたし、意外と好みがかぶってる。梓は邦楽をあまり聴かないから、こういう話が普通にできるって楽しいな。

 でも、忘れた頃にやっぱりかおりちゃん、話を蒸し返してくる。


「さっきの話だけど鞠乃ちゃん、どうしてあのお店にいたの? 文月くんは知らないんでしょ? 文月くん、以前、ゲイは気持ち悪いとかなんとか言ってたから」

「うえ、兄貴、そんなこと言ってたの?」

「うん。何かの話でだったかな。確か、同じクラスの○○と××がアヤシイとかなんとか、そういう話題になったときだったと思うけど、文月くんがいうにはね、理性ではそういったいろいろな種類のやつと共存していかなきゃっていうのはわかるけど、もう感覚的にダメなんだって。きれいごと言っても受けつけないものは受けつけないし、それは仕方のない部分だって。タレントとか見てても、こいつホモかもしれないって話聞くと、冗談じゃねーやキショク悪いって、どうも顔見てるだけでダメって気分になってきてしまうんだって」


 ブランデー入りの紅茶を一口飲んで、かおりちゃん、話を続ける。


「でも、ある意味それはしょうがないのかな、なんて思ったりもするわ。あたしたち女にとってゲイって他人事だからそんなに実感ないし、ゲイの人が目の前にいても別に気にならないけど、逆にレズのひとがすぐそばにいたりしたら、やっぱりあたしだって気持ち悪いって思うかもしれないもの。それとおんなじかなって。そういう抵抗感って理屈じゃないわけでしょ。ほんとはレズの人っておんなじレズの人しか相手にしないのかもしれないけど、そうじゃないかもしれない、自分がそういう相手として見られてるかもしれないってところで、相手を信用しきれないって感じるわけよね。それが抵抗感だとか、生理的嫌悪感だとかになるんだと思うわ。鞠乃ちゃんはそう思わない?」


 レズに抵抗感があるでしょって、かおりちゃん、それをあたしに聞かないでほしい。自分はひょっとしてレズビアンなのかしらと悩んでる身としては、とっても複雑。それでもって、生理的嫌悪感なんて言葉使われると、結構グサグサくるよ。キツい言葉だなあって。


「あっ、ごめんね、また話がズレちゃった」


 そういって、かおりちゃんはもう一度聞いてくる。


「お京さんが言ってたんだけど、小宮山さんのお店って、普段、通りに看板出してないんでしょ? クチコミじゃないと見つからない場所だって聞いたから、どうやって知ったのかなって思って」

「司くんの……司くんっていうのはあのタオって呼ばれてる子の本名なんだけど、彼のお姉さんが、あたしのクラスメートなの」


 あたし、簡潔にそう答えた。そうしたら、やっぱりかおりちゃん、疑問に思ったみたい。


「あの子、鞠乃ちゃんより年下?」


 あたし、プルプルと首を振って、司くんと梓が双子でしかも梓が2年留年しているから、あたしと同級生なんだけどほんとは2人とも19歳なんだっていう、ちょっと込み入った事情を説明する。かおりちゃんは司くんにも面識なかったみたいだから、司くんのことも簡単に説明する。H大の学生で、莫さんやお京さんのお友達だってことだけね。


「あの子もゲイなの?」


 かおりちゃんの質問に、もう一度首を振る。


「ん、違うと思う」

「ゲイじゃないのにお店に出入りしてんの?」

「うん。だから莫さんと友達だから」


 マスターと友達だっていうことが理由の1つで、あとは司くんがある意味神経太いせいだとも思うんだけど。お店にやってくる他の人たちに、いわゆる恋愛対象として見られるかもしれないことについて、あんまり考えてないのか、考えても気にしてないかのどっちかよね。

 ぼんやり考えてたらかおりちゃん、こんなことを言った。


「あの子、ちょっと人目をひくようなキレイな子だよね? 特に目元がくっきりして印象的で。ゲイじゃなくって得したって感じ」

「得……?」


 きょとんと見返すあたしに、かおりちゃん、笑って言った。


「だって世の中の美形やハンサムが、みーんな男同士でつるんでたら、あたしたちの当たりが悪くなるでしょ? ヒロくんだって、ゲイじゃなかったらわりと好みなんだけどな。せっかくイケメンなのに、もったいなーいって感じ」


 えーと、それは確かに確率で言えばそうなのかもしれないけど……でも、ゲイなのはもとからゲイなんだから、美形はみんなストレートになれっていうのも無茶な話で……っていうか、そもそも好きになるのに顔から入るのかって問題が……。ええと、かおりちゃんって、いわゆる『面食い』っていう人種なのかな。


「司くんみたいなのって、かおりちゃんの好み?」


 そう聞いたらかおりちゃん、大きく頷いた。


「いいわね、あの子。こう、どこか陰があってミステリアスな感じで。欲を言えば、背はもう少し高いほうがいいけど。でもそれは妥協点だわ。あたしより高ければ一応OKってとこ」

「司くんって、見た目と中身がなんか違うよ」

「そうなの?」

「うん。全然ミステリアスじゃないよ」


 何でもあけすけにガンガン話しちゃうし、ざっくばらんだし、こだわりがなくて、率直で、せっかちで……おまけにあたしにつき合ってくれなんて、そそっかしいことこの上ない。……あれ? 知り合って実質2日めなのにあたし、何でこんなに司くんのことが見えてるんだろうね。


「そういえばさ」


 と、かおりちゃん。


「文月くんも、久しぶりに会ったらバージョンアップしたよね。コーコーのときは、見るからにコドモコドモしてて、坊やって感じだったのに、背も伸びたし、垢抜けたし」

「ええーっ そうかなあ?」


 あたし、思い切り首を捻る。


「でも兄貴パーだよ。中身ないもの」


 あたしの言葉に、かおりちゃんはくすりと笑う。


「ひどい言われ様ね。実の妹に。文月くんもかわいそうに」

「だって兄貴と話したって、ぜーんぜんなんっにも面白くないもんっ! 共通の話題なんてなーんにもないし、おまけに兄貴、勝手だし、干渉してくるし、束縛してくるし、強引だし、人の都合聞かないし」

「妹だから、遠慮がないんでしょ」

「少しは遠慮してほしい。あたしにはあたしの世界があるんだから」

「司くんとは……えっと、あたしも司くんって呼ばせてもらっていいかしら? 司くんとは話が合うの?」

「んー、そうかもしれない」


 そうね。話のテンポは合うような気がする。


「タオってどういう意味? どうしてタオなんて呼ばれてるの?」

「知らない」


 かおりちゃんの質問に、あたしは首を振った。

 あたしもね、ずっと気になってて、でも、聞くタイミングを逸してたの。聞くほどのもんじゃないかなってのもあったけど。ニックネームの由来なんて、大抵たあいもないもんよ。


「気になるんだったら莫さんに聞いてみたらどうかな。知ってるかも」


 あたしに言われてかおりちゃん、ソファから立ち上がる。物怖じしない様子でキッチンに入っていき、莫さんと何か言葉を交わしている。と思ったら、どうやらかおりちゃん、そのままキッチンで莫さんの作業を手伝い始めてしまったみたい。手伝われるのが好きじゃないって言われたのに、すごいな、どうやって手を出したのかな、なんて、あたし、紅茶を飲みながら、カウンター越しにちらちらとのぞくかおりちゃんの立ち姿を、感心して眺めてた。

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