招待状の選別
ダーレントン伯爵による晩餐会を皮切りに、ソフィーはいくつかの家で催される茶会や晩餐会に参加していく予定が立った。翌日の朝食には間に合わなかったものの、それでも午前のうちに何通かの招待状がソフィー宛に届いたためである。会場にいなかった筈の貴族からも届いている辺り、既にソフィーの動向がある程度知られていると思われた。
「皮肉ねえ。貴族の方々が魔法医療を使える身体で、科学系の医者に縁がないからこそ、却って私の社交セーブに理解があるなんて……まあ無知を晒したくないだけでしょうけれど」
「その皮肉、あまり外で披露しては敵を作るわよ」
無理はなさらぬよう、と書かれた何通目かの招待状に目を通しながら、ローズが忠告した。経験があるのかと聞きたくなったが自重する。好奇心は猫をも殺す。ほぼ二生目のソフィーだってまだ人間枠の筈だし、できれば長生きしたい。
そういえば、とローズが口を開いた。
「貴女の図書館通いも、病に関して自分で調べてるんじゃないかって噂になってるのよ。知っていて?」
「初耳だわ。聞かれたら返答に困るわね」
「ただ読書を楽しんでると言えば良いわ。あまり外に出られないので文章で楽しもうかと、とでも言えば良いのよ。喜んで同情してくださるから」
ソフィーが開封していった招待状を選り分けていきながら、ローズが返す。それから思い出し笑いした。
「私も笑いそうになったんだけれど、貴女は深窓の令嬢らしいわよ」
「クリスから聞いたわ。私と会ったこともない人が私をそう理解してるなんておかしな話」
「理解ではないわ。夢よ。見せてあげるも壊すも貴女次第だわ」
ローズのお眼鏡に適った招待状に、ソフィーも目を通した。お茶会や立食形式の晩餐会が主である。舞踏会の招待状はかなり吟味したらしくニ通だった。王家からの招待状をソフィーは手に取った。
「あら、お城で?」
「ええ。来月の武術大会を受けてのものね。成績優秀者を讃えがてら、見合いに勤しみなさいというところかしら」
「両陛下にご挨拶できるわね……緊張するわ」
「それよりも迫っているものがあるみたいよ」
ちょっと気に食わなさそうな顔で、ローズが一通の手紙を侍女から受け取った。例に漏れず今しがた到着したばかりの速達であることが、押された印で分かる。受け取ったソフィーは、ペーパーナイフを片手に艶やかな黒い封蝋を見つめた。オブライエン侯爵家を象徴する剣がデザインされている。
「未開封に見えるけれどお母様もう読んだの?」
「まさか。今到着したのに?」
ローズが呆れたように言った。
「何だか内容が分かっているかのような口ぶりだったんだもの」
ソフィーは手紙を広げた。細いが整った字が並んでいる。
「お誘いの手紙以外あり得ないわよ。人数の規模こそ控えめだったけれど、あの晩餐会でソフィーったら暴れてくれたもの」
「心外だわ、お母様。私としては失敗はなかったつもりよ」
「それはそうね。でも宰相相手に引かない貴女をどう判断するべきか、皆様迷っておいでみたいよ」
「浮世離れした小娘で通すわ……お母様って慧眼ね」
溜め息を漏らし、ソフィーは手紙を畳んだ。母親に見せるのは、どういうわけか躊躇われた。
「私とお兄様の都合に合わせてくださるらしいわ」
ローズはクスクスと笑い、
「ありがたいことね」
と言った。ソフィーの好きにして良いらしい。ヒューバートは嫌な顔をしそうだ、と思ってから、嫌な方なら良かったと評していたのを思い出した。渋々という顔をしながらも同席するのは間違いない。
「私としては、もう少し早く来るんじゃないかしらと思っていたけれど」
ローズはそう言ってオブライエン公爵が遅筆だと責めたが、ソフィーはそうは思わなかった。公爵は真面目な人物だ。ソフィーの健康を気遣うあまり二の足を踏んでいるのが想像できて、唇が綻んだ。




