誕生日前日
夕刻。自分以外の家族と大半の使用人が去った邸宅を、ソフィーは楽しんだ。夜がない世界なので、カーテンさえ開けていれば暗がりを恐れなくても良いのだ。一応は歴史ある伯爵家なので、邸宅内では原因が何にせよ死人が出ているものの、現状、幽霊を見かけたという噂も聞かない。臆病なソフィーでも伸び伸びと振る舞うことができた。
「本当に王都へ行かれるんですね」
ソフィーはこれまで調べた内容をまとめてあるノートから顔を上げた。
「体調次第だけれどね。無茶をするつもりはないもの。それにほら、展覧会にも行きたいし」
イザベラが、どうだかという顔をする。
「王都にある図書館に行きたいとしきりに仰ってたじゃありませんか」
行く気しかないくせに。そんな言外に含まれた意味に気付き、ソフィーは笑った。
「だって救世の使徒に関する資料なんか見つからないんだもの。こっちで虱潰しに新聞記事を読んだって載ってやしないし」
「オルドリッチ図書館にはこの辺りで発行された新聞と、王都の一部の新聞しか保管されていませんから、それは仕方がないことかと」
言われなくともソフィーだって分かっていた。しかし、愚痴を言わずにはいられない。調べたい事項は判然としているのに、手段が遠くに在るとは。
「そこなのよ。流石にウォルポートの地方新聞を取り寄せたら怪しまれるじゃない? かと言って人目を誤魔化すためにあらゆる地域から取り寄せてもお金が勿体ないわ」
イザベラが微かに笑ったが、ソフィーは気にせず続けた。
「でも王都ならあらゆる新聞を保管してると聞くから、比較して読んで勉強しているとでも言い張れると思うのよ」
「記者の名前がすぐ分かるような新聞で、あの団体について書くでしょうか……」
「報復するような団体なの?」
「黒魔術の噂があるんですよ。それに危険を冒して書くには、その、何というか美味しくないのでは」
美味しくない。身も蓋もない言い草にソフィーはにやけた。随分と辛辣だ。
しかし実際、貴族の醜聞や何らかの事件の方がよっぽど読み物としては面白いだろう。まずは売れないことには話にならない。それは分かる。
とはいえ、ソフィーの調査を続けたいという気持ちに変わりはない。純粋に、事件の真相が気になってきている。
「記事が見つけづらくても、やっぱり新聞を調べたいわ。事件そのものについてだって、もっとよく知りたいし」
「悪魔の少年と救世の使徒の関係を見つけるなんて、難しいと思いますけどね……」
イザベラが尚も反論する。しつこいのでソフィーは少し自棄になった。
「じゃあウォルポートに行く他ないのかしら。信者に話を聞けたら早いものね」
「それは駄目です」
イザベラが怖い顔をする。厳しい声音にソフィーは肩をすくめた。




