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ナマポランドフクシマ  作者: にーとしのしの
13/14

第13話 フクシマ

「マポ! いつまで寝てるの、学校遅刻するわよ!」


 眠い……。あー行きたくない。だるい。

 布団から出る瞬間ほど、全人類共通で憂鬱に感じる瞬間はないと思うね。ぶっちゃけ。


「ママ、おはよぉ」

「おはよう。もうパパはお仕事行ったわよ」


 寝起きの鼻に食卓のいい香りが広がる。


「おばあちゃん、おはよぉ」

「マポちゃん、おはよう。たんとお食べ」

「うん。いただきます。うん」


 美味しいなぁ。うん。

 一口、二口、三口……。箸が止まらない。

 美味しくて、温かくて、懐かしい。

 あれ? ただの朝食がなんで懐かしいんだ。

 ……なんで俺は泣いてるんだ?


 身体が冷たい。

 足元を見ると、落ちた涙が床で川のようになっていた。

 なんだこれ。

 滝のような涙は止まらず、水位がどんどん上がってくる。

 苦しい……息が……!


「ママー! おばあちゃーん!!」





「ずいえきさん大丈夫!?」


 肩に手の感触と誰かの声。

 ……息ができる。

 肩の感触の方を向くと驚いた表情のめめこがいた。


「夢か……」

「気持ちよさそうに寝とったのに、突然叫ぶけんびっくりしたとー」


 視線を感じ前を見ると、団員全員が俺の方をチラチラ見て笑っていた。

 そうだ。

 今はバスの中。

 帰還困難区域へと向かっているところだった。


「悪い夢でも見てたのですか?」

「あ、どうもね。うん」


 後ろの席に座っていた愛子が、心配そうにハンカチを渡してきた。

 子供の頃の夢を見るのは何年ぶりだろう。

 ずっと考えないようにしていたからな。


「まだ〜つかないんですかね〜。充電が切れちゃったんで〜、シャドウバースできなくて暇ですよ〜」

「もうそろそろ到着するみたいですよ」


 豚饅頭とあきのりはソシャゲのカードゲームで対戦して遊んでいたようだ。

 なみは何をしてるのかと、座席の隙間から後ろを覗くと、鼻の穴を大きくさせて爆睡しているのが見えた。

 不細工な寝顔だな。はっきり言って。


「今どの辺なんだろうね。ずいえきさん、福島出身やろ?ここどこかわかる?」


 窓から外を見ていためめこが俺に問いかける。

 めめこ越しに窓から見える景色で俺は確信した。

 ボロボロな廃墟ときれいな新築が混在し、至る所に置かれている木材。

 ここは福島だ。

 それも、俺が子供の頃暮らしていた海沿いの福島だ。


「あと数分で着くね。はっきり言って」

「もしかして……、あれと?」




 俺の見立て通り、団員を乗せたバスは数分で目的地へと到着した。

 そこには俺の故郷の町もある。

 しかし、その場所には懐かしい故郷などと、感慨に浸れる面影など残ってはいなかった。


「何だよこれ、ばじで」


 見渡す限りに広がる壁。

 それは人喰い巨人の進行を妨げるあの壁を連想させる。


「おっきいですね〜」

「進撃の巨人じゃん!w」


 バスから降りてくる団員がそれぞれ驚きの声を上げる。


「んあっ、門から中に入る。準備しろ」


 アンドリウスが大声で指示を出す。

 仁王立ちのまま、団員ではなく壁の方を見つめなんとも偉そうだ。

 むかつくね。はっきり言って。


 椎名は調査に同行していないので今はいない。

 ここでは奴が1番偉いというね。うん。

 不安でしかないよ。ぶっちゃけ。



 団員たちはそれぞれの装備を持ち、門の正面へと移動した。

 壁の近くに来ると、その大きさがよくわかった。

 学校の校舎よりはるかに高い。

 多分30mぐらいはあるね。はっきり言って。


「んあっ、壁にはまだ触れるなよ」


 壁を触ってみようと近づくと、アンドリウスが横目で睨んで横槍を入れてきた。

 まだ触れるなだと?何かトラップでもあるのかね。


 アンドリウスが門の手前の機械にカードをかざした。

 門が重低音を響かせながらゆっくりと上がっていく。


「なんかワクワクしてきたっちゃ!」


 めめこは盛り上がっているが、他は静かに門が開くのを待っている。

 何が見えるのか出てくるのか。

 隙間から動物が飛び出してくるかもしれない。

 戦えるように身構えておこう。

 俺は用心深いからね。うん。


 ん……臭い。

 戦闘態勢をとっていた俺のもとに飛んできたのは、敵ではなく臭いだった。


「なんか臭いっちゃー」

「これは強烈な臭いですわね」


 防ぎ用のない嗅覚への攻撃に団員はおもわず怯む。


 この臭いは嗅いだことがある。うん。

 引きこもりナマポ暮らしの時、何故か部屋に腐った生ゴミのような臭いが充満したことがあった。

 隣のおじいさんが孤独死していたのだ。

 その時と似た臭い。

 たぶん死臭ってやつだ。はっきり言って。


「入るぞ。んあっ」


 アンドリウスはそう言ってドスドスと1人で入っていく。

 ばじでここ入るのかよ。

 鼻がおかしくなっちゃうよ。とほほ……。


 しぶしぶ中に入ると臭いの正体がわかった。

 犬、猫、猿、鳥、白骨化したものから肉が残る新しいもの。

 さまざまな動物の死体が、壁沿いに山のように積まれていた。


 みんな鼻をつまみながら、死体から目を背けたり、恐怖の表情を浮かべている。

 女の中には泣いてる奴もいる。


「団長……、この死骸何なのかね?」

「んあっ、騒ぐな。壁のトラップにかかった馬鹿な害獣どもだ」


 俺が質問すると、アンドリウスはやれやれといった感じで言った。


 壁をよく見ると、外側とは違って壁の内側にはトラップがついていた。

 いかにも触るとビリビリと来そうな金属板。

 壁の上部には機関銃が一定間隔で設置されているのも見える。

 これは恐ろしいねぇ〜w


「んあっ、それじゃ最初の指示を出す」


 まだこの状況を理解できず平静を保てていない団員をよそに、アンドリウスは喋り始めた。


「んあっ、俺は1人で原発を調査してくる。お前らはこの死骸を燃やして片付けておけ。以上だ。んあっんあっ」


 アンドリウスはそう言い残して走り出した。

 おいおい、いきなり団長が単独行動か。こりゃないよ!


「ち、ちょっと待てよい」


 団員の誰かがアンドリウスを呼び止めた。


「あんたがいなくなったら、もしもの時どうすんだ。俺らはまだ敵も見てねぇのに……」

「んあっ、安心しろ。原発から距離がある壁の近くなら敵は少ない、お前らでも余裕で倒せるはずだ。

 ……でもそうだな、これは渡しておく」


 アンドリウスが俺に向かって何かを投げ渡してきた。

 投げて渡すなよ!

 落としたらどうすんだ。まっきし言って。


「な、何ですかいこれ?」

「勝てない敵が現れたら使え。んあっ」


 アンドリウスは背中を見せたままそう言うと、再びドスドスと走り出して行った。


 にしても何だこれ、防犯ブザーみたいな?

 ポケットに入れておこ。うん。


次回、第14話「死骸処理にて」

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― 新着の感想 ―
[良い点] んあっ [気になる点] んあっ [一言] んあっ
2020/07/07 11:15 退会済み
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