クリスマス二年目
一日遅れですが、クリスマス小話です。
時系列は前話のバレンタインより前ということで……
「やってきました。シングルだらけのジングルベル。第二回ボッチ限定クリスマスパーティにようこそ!」
「しゃれになんねーから、やめろ、馬鹿!」
高らかに宣言した、開会の挨拶に、今年も四ツ谷がけちをつける。
時は12月25日。場所は去年と同じく、父と母がらぶらぶ旅行に出かけ、修也が新しい彼女(中学生にして二人目の彼女ってどういうこと! ねえ、どういうこと!)とらぶらぶデートに出かけ、家人が出払ってしまった我が家。
今年も参加者は去年と同じ、佐藤さんに、リカさん、伊達に、カイに、私。
何を隠そうこのメンバー、揃いもそろって人付き合いが上手くない。
斉藤の死から立ち直れず、会社をブッチしてしまったせいで同僚との間に溝のある佐藤さん。
その特殊な事情のせいで、ホスト仲間から浮いているリカさん。
高校デビューを果たしたものの、長年ボッチだったブランクが今一つ抜けない伊達。
高性能すぎる頭脳のせいで周囲と話の合わないカイ。
そして高校入学を機にボッチになった私。
伊達が「しゃれになんねー」と言った気持ちは分かる。
だが、現実から目をそらして何になる!
自分のコミュ力の無さを直視し、そして仲間同士、同病相憐れみ、傷をなめ合うのも時には必要なのだ。なぜなら、あれ? ボッチなのって自分だけじゃないじゃん! と思う事こそ真の癒し。
それはやがてボッチでも別にいいんじゃない? という開き直り的な自信につながり、ボッチも捨てたもんじゃない。むしろボッチ万歳。ボッチが世界を救うのだ! と昇華するに違いない。
ショートケーキの苺にフォークを刺しながら、そう、切々と訴えると、頭にげんこつが落ちてきた。
「そんな訳のわからん昇華してたまるかっ!」
うん、ちょっと言い過ぎたかもしんない。
「そもそもお前、ボッチ卒業の為にがんばってる最中だろうがよ」
「まあ、そうなんだけどね。なんつーか、停滞期? 順調だと思ってたら急に躓く時期あるじゃん。ほら、ダイエットとかにもつきものでしょ」
伊達を介して出来た新しい友人達。その友人達にクリスマスを前に次々に彼氏が出来てしまったのだ。おかげで会話は恋の話一色。やれ彼と喧嘩したとか、どこそこへデートに行ったとか、ラインの返事が遅いとか……
そんな未知の領域の会話についていけず、憂鬱な日々が続いていた。
だって、どれひとつとってみても、結局ノロケにしか聞こえないからね! お休みメッセージの返事が翌朝だったからって、知るかってんだ、コンチクショー!
「……まー、そういう時期もあるかもな」
己も思い当たる節があったのか、大人しく引き下がる伊達。
大きな掌がぽんと頭にのせられる。
「ま、いっか。停滞期があるなら、進捗期もあんだろ。お前のペースでやってけばいいんじゃね。それまで元ボッチ同士つるんでよーぜ」
伊達、馬鹿だけどやっぱ良い奴!
思わず感動していると、ぱしんと音がして頭が軽くなる。
カイが伊達の手を払ったのだ。
「いてっ」
眉を寄せてカイを見る伊達。カイはいつもと変わらぬ素っ気ない口調で告げる。
「蚊がいた」
えっ!? 12月なのに?
驚いていると、伊達は何故か気まずげな表情になって明後日の方向に視線を彷徨わせた。
「最近の蚊ってすごいね。温暖化で進化してそう」
どうりで虫除けスプレーも効かないはずだ。夏場の蚊のしつこさに悩まされた記憶を振り返り、関心していると、リカさんが呆れた様子で言った。
「お前、それ、計算なのか? 天然なのか?……いや、いい愚問だった」
問い掛けておきながら、一人で結論を出して納得するリカさん。
「ははは、若いっていいなあ。ところで、そろそろプレゼント交換といこうか。あまり遅くなると義姉さんが心配するしね」
クリスマス会は佐藤さんの仕事の都合で夕方から行われている。
伊達は通り道だからと、いつものおせっかい心をだして、カイの家に寄って一緒にきたらしいのだが……
それが返ってカイのお母さんの不安をあおってしまったらしい。
門限厳守と釘を刺されているのだとか。
制服じゃない伊達は、どうみてもちんぴらだもんな。
黄昏る伊達の肩を叩いて慰めると、私は用意していたプレゼントを取り出した。
去年はすっかり失念していたクリスマスの目玉行事。プレゼント交換!
この日の為に厳選した自信の品だ。
「じゃあ、まず私から。はい、どうぞ!」
サンタクロース柄の包装紙に包まれた包みを渡す。
「開けていいか?」
「どうぞどうぞ」
包みを手にした伊達に私は笑顔で頷いた。
皆から何を貰えるか以上に、自分が選んだプレゼントがどう評価されるか、ドキドキする。
四人が包装紙を捲り終えたのを見てから、私は口を開いた。
「靴下とハンカチのセットです。あ、三人は色違いだよ」
そう告げた瞬間、伊達は頬をひくりとひきつらせた。
「どういうチョイスだよ。お前は、オカンか!」
失礼な。真のオカンチョイスならそこにパンツが加わるはず。
カイは伊達の包みと見比べて、ため息を零す。
「……色違いは勘弁して」
大柄な伊達と小柄なカイ、それぞれのサイズの靴下で色違いを探すのは大変だったのに……
リカさんはがくりと肩を落とした。
「おい、杏。なんだこのフリフリレースは。こういう気遣いは、いらねーんだよ」
え? そうなの?
佐藤さんは皆を「まあまあ」となだめた。
「いい色だね。ありがとう。嬉しいよ、杏ちゃん」
やっぱり佐藤さんは優しい。
芳しくなかった評価に私が寂しさを覚えている間に、プレゼント交換は進んだ。
佐藤さんからは手袋とマフラー、伊達からはクッキー、リカさんからはリップ、カイからはネックレスをもらう。年下のカイからのプレゼントが、私があげたものより明らかに高価であることに、さらに落ち込んだ……
そしてそして、なんと! 今年は佐藤さんがタスクさんからのプレゼントを預かってきているという。
考えてみれば、リクドーオンラインに閉じ込められた六人の中で唯一リア充だったタスクさん。
実は一度会う機会があったのだが、予想とたがわず、落ち着いた、自信にあふれた大人の男の人だった。佐藤さんが憧れるのも分かる。
そんなタスクさんからのプレゼント。一体何が? とわくわくして包みを開けると、出てきたのは近頃巷でよく見るパッケージにつつまれたゲームソフト。
『新作なんだ。良かったら感想を聞かせてくれないか』
そう、メッセージが添えられていたが、一晩経った今もそれはパッケージに納まったままだ。
いや、もう大丈夫だと思うんだけど、やっぱりちょっと抵抗があるわけで……
どうしよう、これ……