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『魔法は、拾うところから。』 ―廃材回収人は失われた魔法開発を再発見する―  作者: asnt2026


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第27話 また会った天才

レオル・クローディアがドルグラードへ着いたのは、その翌日だった。


しかも一人ではなかった。


鉱山管理局の前に止まった馬車から、白い研究上衣の人間が六人降りる。


測定術具。


大型の箱。


巻かれた図面。


どれも王立魔術院の印がついている。


最後にレオルが降りてきた。


一歩。


地面へ靴を置く。


泥を踏む。


顔が一瞬だけ止まる。


ユリウスは見た。


「今、嫌そうな顔しました?」


「してない」


「しましたよね」


「してない」


足元を見ると、左右で靴が違った。


片方は黒。


片方は濃茶。


ユリウスが見る。


レオルも気づく。


「そこも見ないで」


「急いでたんですか」


「研究者にはそういう日もある」


「毎日ですか?」


リシェルが横で咳払いする。


「レオル主任」


「久しぶり、リシェル」


それからユリウス。


「生きてたね」


「何です、その確認」


「報告書の内容が毎回危ない」


「リシェルが大げさに書くんです」


「事実しか書いていません」


「『術者自身が最初の被害者』まで送ったんですか」


レオルが笑う。


「読んだ」


忘れてほしかった。


          ◇


管理局の会議室。


窓を開けても暑い。


机の上へ坑道図、瞬断記録、ユリウスたちの《材歴》記録が並べられた。


レオルは一枚ずつ読む。


速い。


なのに飛ばしていない。


「《材歴》」


口にする。


「名前をつけたんだ」


「仮称です」


リシェルが答える。


「いいと思う」


ユリウスは少し意外だった。


「もっと堅い名前つけるかと」


「僕を何だと思ってる?」


「定式開発局」


「人間だよ」


セラが壁際で小さく笑った。


レオルは《反復》《方向》《保持》《厚み》へ目を通す。


《重層材》。


《受衝》。


《熱脈》。


《圧抜》。


しばらく何も言わない。


「かなり進んだね」


ユリウスの背中が少し伸びる。


褒められた。


たったそれだけなのに、思っていたより嬉しい。


「ただ」


続いた。


やっぱり来た。


「再現性はまだ低い」


「分かってます」


「素材個体差が大きすぎる」


「それも」


「測定法がない」


「今探してます」


「使用限界も不明」


「それも」


「安全規格も」


「分かってます!」


声が少し大きくなった。


レオルが一度瞬く。


セラが口元を隠す。


ユリウスは息を吐いた。


「すみません」


「いや」


レオルは少し笑った。


「進歩してるよ。前は問題点を言われると全部初耳だった」


褒められているのか分からない。


リシェルが別の紙を出す。


「瞬断との関係は」


そこで空気が変わった。


レオルの顔から笑みが消える。


「まだ証明できない」


王都。


交易都市。


穀倉地帯。


ドルグラード。


異なる術式。


異なる設備。


共通するのは、定式魔法がほんの短時間だけ止まること。


「魔力供給網は正常」


レオルが言う。


「術式も正常。術者がいる場合も、いない自動設備でも起きている」


「じゃあ何が共通してる」


セラが聞く。


レオルは答えない。


代わりにユリウスを見る。


「君の魔法は、材料が減る」


「はい」


「定式魔法は減らない」


「見える場所では」


言葉が出た。


レオルの目が細くなる。


「どういう意味?」


ユリウスは少し迷う。


確証はない。


第2話の事故跡。


白い粉がなかった。


でも。


「俺たち、ずっと『何も使ってない』と思ってますよね」


「定式魔法は魔力を消費する」


リシェルが言う。


「魔力以外です」


部屋が静かになる。


「もし」


ユリウスは言葉を選ぶ。


「見えないところで何か使ってたら?」


レオルはすぐ否定しなかった。


それが少し怖い。


「証拠は?」


「ないです」


「なら仮説だ」


「はい」


「でも」


レオルは机の記録を見る。


「捨てるほど悪い仮説でもない」


リシェルが彼を見る。


以前なら、自分が言う側だったかもしれない。


今はレオルが先に受け止めている。


          ◇


午後。


レオルは《熱渡し》を見せてほしいと言った。


鉱山の研究室。


二つの金属槽。


片方は熱湯。


片方は冷水。


以前、王都でも似た実験をした。


今度は違う。


ユリウスが古材を並べる。


窯石。


井戸鎖。


冷蔵倉庫金具。


レオルが横で見る。


「順番は固定?」


「役割で変わると思います」


「方向は」


「重要です」


「材料量」


「厚みによります」


「厚みは測れる?」


「今のところ感覚で」


レオルが額を押さえる。


「社会で使いにくい」


「またそれ言います?」


「だって本当だから」


ユリウスは魔力を通す。


熱が移る。


熱湯側。


少し下がる。


冷水側。


上がる。


レオルは測定値を追う。


「魔力消費は少ない」


「材料を使うので」


「そこなんだよ」


机を指で叩く。


「これを定式化するなら、材料履歴の代わりを術式側で再現しなきゃならない」


「できるんですか」


「分からない」


レオルがあっさり言った。


ユリウスは少し驚く。


「言うんですね」


「何を」


「分からないって」


「僕だって言うよ」


リシェルが少しだけ笑った。


「以前より増えました」


「君の報告書のせいだ」


レオルは術式紙を取り出す。


「やってみよう」


「今から?」


「今だから」


目が変わっていた。


研究者の顔。


ユリウスにも分かる。


止めてもやる顔だ。


セラがため息をつく。


「似てるぞ、お前ら」


「どこが」


二人の声が重なった。


ガロが離れたところで言う。


「そこ」


誰も反論できなかった。



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