4-21 新しい丘(sideリュー)
「私とリューならできるでしょ!」
「ルディ、頼もしすぎない?」
リッキーで空を駆けながら、ルディが俺をニヤリと見上げる。
あんな目に合ったのに、ルディは躊躇せず前へ進む。
本当に、いつの間にこんなに強くなったんだろう。
いや、元々素質はあったのかも。
ただ、ルディの何かの覚悟が決まった、そんな風に感じる。
王宮郊外の砂漠の上を猛スピードで駆け抜ける。
灼熱の太陽が真上にあるが、ルディの指輪の魔術式でダメージを受けるほどではない。
ちょっと魔術式を注ぎ込みすぎただろうかと頭を過ぎったが、いやいやと頭を振った。
今日、ルディが王の居住区を出た辺りから、ビシビシと殺気が凄かったではないか。
図書室へ向かった時のことを思い出す。
対立派閥の者達はルディを自分たちの懐に入れるのを諦めたのだろう、役に立たないのなら処分する、そう方針を変えたようだった。
そして俺に向かう殺気……というか刺客も罠も一段と本気度が増した気がする。
自分の護衛も凄まじい勢いで裏で防戦しているが……流石にやり過ぎじゃないだろうかと思うほどだった。
ここは戦場か。
こっそり護衛の防御結界の強度を上げる。
そろそろ解呪済みなのがバレそうだが仕方がない。
ため息をつきつつ、のんびりした足取りで図書室へ向かうルディの後をこっそりついていった。
案の定タナトスが近づいてきてルディと話してる。
対立派はルディを排除しそうな勢いなのに、こいつだけ様子が違うようだ。
パチンとルディの指輪の防御結界が発動したところを見て納得した。
それは下心がある奴が近づいたときに発動するやつだ。
お前本気だったのか。
飛び出していってタナトスを蹴飛ばしたくなったが、ぐっとこらえて様子を伺った。
そこからのルディの論戦は見事だった。
タナトスはずっと悩んできたんだ。
そしてきっと今も。
ルディを自分の方へ引きずり込むのを最後まで諦めなかったタナトスが逆にルディに引きずり込まれていくのが見えて、ルディのその才能に感謝した。
タナトスは馬鹿じゃない。
肩を並べて競い合える友人なんだから。
そうやって感慨に浸っていると、バラバラと影から黒装束の男たちが現れてあっという間に囲まれた。
こいつらは暗部の精鋭だ。
カルタスが手塩にかけて育てた暗部の力は手を抜くと致命傷になる。
黒装束の男たちが刀を抜いたと同時に、ルディの前に呪術師が現れた。
あいつだ。
リアーナ嬢のそばに現れた新しい付き人。
そして芸術工芸祭の日、ルディに呪術をかけようとした、俺の結界捕縛から逃れた奴だ。
タナトスが防御しているが、その魔術は呪術には効かない。
ルディに青黒い靄が迫る。
まずい。
「リューカス様、こちらは私が」
カルタスがそう言いながら3人ほどを斬り伏せた。
「頼んだ」
そう言うと同時に魔術式を何個も同時に発動させる。
タナトスのは自分が呪われたものと似ているが、ルディに迫るのは見たことのない呪いだ。
でも。
理論は一緒だ。
組み上げた魔術式を青黒い呪いの靄に当て、反応を見て更に新たに組み上げて自然の理に戻していく。
「……っな、なんで……!」
「むしろ何で呪術が魔術より上だと思ったんだ?」
そう言いながら全力で解読しあるべき姿に組み直していく。
魔術は負けない。
思い描く自然の法則は、自分が夢中になって学んだ、魔術の法則そのものだ。
「魔術で呪術に対抗できる術は無かったはずだろ!?」
「……だからって、俺が黙ってお前らに呪われたままだと思ってたのか?」
「俺たちの呪術は!自然の理には従わない!!」
「そうだな」
ワナワナと青黒い霧を出し続ける男に、俺は静かに言い放った。
「ならば魔術で自然の理に戻してやるだけだ」
強い呪いの力を放出する水晶のような玉を破壊する。
まさか、その後セフィナロスが出てくるとは思わなかったけど。
あの精霊もあんな顔をするのか。
消えていく破壊されたナテルという女性の命の欠片が、とても美しく見えた。
「……タナトスはやっぱり俺と戦うの?」
その様子にあてられたのだろうか。
普段言わないような戯言をタナトスに言ってしまった。
正直なことを言えば。
やっぱり、こいつとは戦いたくなかった。
「……ただの指令だったから、本気で惚れる気は無かったんだけどなぁ」
ちょっとやっぱり一発殴ろうかなとは思ったが、タナトスはそんな俺とルディをちらっと見て、そのままナイフを暗部の者たちに投げつけた。
「……っ貴様!!」
パンッと強いタナトスの結界が、襲いかかろうとした暗部の男たちを跳ね返した。
久しぶりに見たけど、やっぱりタナトスのナイフと魔術のセンスは最高だ。
素直に感心したのに、その気持ちは一気に地獄の底へと突き落とされた。
「……今日の午後四時、オルネリアの雨ノ森が、サラディーニサリーニャ地域の雨を奪ったとして、サラディーニの過激派環境保護団体により爆破攻撃を受ける」
「えっ!?」
「マッカス卿はその制圧と復興と銘打って雨ノ森にサラディーニ軍を派遣してそのまま雨ノ森を占領、オルネリアとの戦争になだれ込むつもりだ。」
何を……言っている?
「……リューカスがいない間、マッカス卿も動きやすかったんだよ。今から間に合うか分からない。でも、お前ならなんとかできるんじゃないの?」
信じられない思いで聞いた言葉を反芻し、必死で状況を整理する。
雨ノ森を爆破、進軍、そして開戦。
開始は午後四時。今から三時間後。
「リューカス、戦争を止めるのがお前の仕事だ。行け。」
友人の砕けた言葉遣いに、ばっと気持ちが切り替わった。
「……っカルタス、マティアスに伝令!ルディとオルネリアへむかう。タナトス……あとは頼む!」
そう言って3人で図書室を飛び出した。
ラナトの転移とルディのリッキー召喚。
後は俺がどうやって雨ノ森の爆破を防ぐかだ。
オルネリアとの交渉はマティがなんとかするはずだ。
暗部の始末とあの呪術師はタナトスとカルタスに任せれば間違いない。
もう呪術は使えないだろうし……なんたってタナトスはカルタスが認めた弟子だから。
はぁとため息を吐く。
移動時間がもどかしい。
ルディと過ごした雨ノ森。
爆破だと?
許すわけがない。
父上が築き上げてきた和平と交渉を軸にした新しいサラディーニ。
絶対に、開戦などさせない。
「リュー!エルナカス山脈が見えた!」
「……あの二番目と三番目に高い山頂をつなぐ尾根の真ん中あたりに向かって飛んで。その先が雨ノ森だ。」
懐中時計を見る。
3時50分…ギリギリだ。
「尾根を越えたら速度を落として低空飛行で」
「了解!」
リッキーが山を乗り越え、グンと速度を落として低空飛行する。
こちらにはやはり雨雲があった。
雲を抜けると本降りの雨だ。
リッキーが雨を弾いてくれているのか、体は濡れない。
そろそろだ。
分析系の魔術はあまり得意じゃないが、やるしかない。
雨ノ森一帯の様子を探る。
恐らく爆破は微弱な魔力の着火で大規模な爆発を起こせる魔道具だ。
魔道具か、導線で繋がった魔力をもつ人を制圧すれば爆発は起こらない。
「……っ多い!ルディ、3時の方向!」
「はい!」
10以上の大型の爆破を起こす魔道具が感知できてぞっとする。
地形まで変える気か。
ルディは器用に目安の対象物を見つけて指さし、リッキーを正確な方向へ操作する。
よし、これなら10以上あっても……
「リュー、あれ!?」
「爆破魔道具だ!このままの進路で低空飛行!」
大型の魔道具と、近くに導線で繋がった術者が感知できた。
そのまま空中から強力な結界術を放ち、制圧する。
王都にいる精鋭の魔術師でなければ解除はできないはずだ。
「次、2時の方向!」
パンッと遠距離から結界で制圧を続ける。
「この場所……どれも周りより小高い崖のようになっている地形を選んでる」
ルディが雨ノ森を歩いた経験と合わせて爆破魔道具設置の傾向を割り出した。
「俺の魔術で探してるけど、気になる場所あったら教えて」
「わかった!」
一通り雨ノ森を横断して12の爆破魔道具と周囲の人間を制圧した。
再度雨ノ森の魔道具を分析する。
「……これで、全部…?」
3時58分。
ギリギリだ。
雨ノ森の分析には他に何もかからない。
間に合っただろうか…?
「……リュー、ほんの少し範囲広げられる?」
「分かった、どの辺?」
「雨ノ森を出た辺りも小高い丘や崖が多いから一応……」
雨ノ森を囲むようにぐるっと分析する。
「……っあった!街の方向!!全速力で!」
「まさか麓の街の上!?どうして!!あそこは岩だらけで雨を呼び寄せる植物はほとんど生えてないわ!」
「……開戦理由にする気だ。街を過激派環境団体に破壊されたオルネリアは、救助名目で来たサラディーニの軍が街を占拠するのを許せない。事実上対立が起こり、そこでオルネリアがサラディーニ軍に手を出したとして、開戦に流れ込むつもりだ」
リッキーを走らせる。
間に合うか。
「見えた!あれ!!」
大型の爆破魔導具が街を見下ろす崖の上に設置されている。
それと同時に、離れた場所にいる数名の男が、導線に点火するのが見えた。
「……っルディ高度上げて!!」
リッキーが上向いた瞬間、ガアァァン!と劈くような音と衝撃波が来て、黒煙に包まれる。
辛うじて男たちを結界に閉じ込めたが一瞬遅かった。
「このまま崖下の方へ高度落として!全速力!」
「……っはい!」
崩れ落ちる崖が街に迫る。
猛スピードでそれを追い越したリッキーの背から飛び降り、街と迫る土砂の間に飛び込んだ。
化け物魔術師と言われた父上より多い魔力。
今役立てなくてどうする。
ありったけの防御結界を迫りくる大量の土砂と街の間に展開した。
ギリギリだった。
すぐに大きな岩が混じった土砂が結界にぶち当たり、もうもうと土煙を上げる。
結界にミシミシとヒビが入る。
更に重ねて強度の強い結界を貼る。
随分効果的な爆破対象を選んでくれたようだ。
小さな街など簡単に飲み込める量の土砂が押し寄せる。
最初に張った結界が砕け散った。
追加で二重で大きく高く強い防御結界を張る。
ガンガンと到底動かせないような大きな岩が結界に猛烈な勢いで当たる。
雨で土砂の重さが増していく。
濡れた前髪から落ちる雨水が顔を濡らす。
暫くして地鳴りが止み、土煙が雨に流され静かになった。
結界のミシリという音が嫌に響く。
とにかく止められた。
後は、これをどうやって維持するかー
『フィーリー!』
空からルディの精霊術の声が響いた。
見あげると、緑の髪が輝く人型の高位精霊が白馬のリッキーの近くに現れ、嬉しそうに微笑んでいる。
そして緑の精霊は土砂に向かって手を広げた。
一斉に木々や草が芽吹いた。
木が根を張り、草が土砂の表面を覆い、雨水を吸う。
緑の小高い丘になった土砂の上に、黄色や赤や白の野花が咲く。
ミシリという結界にひびが入る音は聞こえなくなった。
ふわりとリッキーが近くに降り立つ。
ぐらりとルディが傾いたのが見えた。
「ルディ!」
駆け寄って受け止めて、そのまま一緒に崩れ落ちた。
手が痺れている。
流石に魔力を使い過ぎた。
息が乱れる。
「……リュー、大丈夫…?」
「いやそれこっちのセリフだから。顔真っ青だよルディ」
お互い酷い顔を見合わせる。
「……なんとか、なった……?」
「多分……」
爆破は起こってしまった。
でも、ここまでしたら、進軍する理由には出来ないはずだ。
「やっぱり……ルディア?」
はっと振り返ると、街の人々が集まっていた。
懐かしいミッチェルさんが、こちらを見て目を丸くしている。
「あ!ニイチャンもいる!!」
「あそびにきたのー!?」
カッパを着たミッチェルさんの子どもたちが嬉しそうに駆け寄ってきた。
「あれ、ルディアお目々がキラキラだよ」
「さっきの羽がはえたお馬さんどこ行ったの!?」
「……っええと……」
「ニイチャンなんか今日カッコよくない?」
「おうじしゃまみたい!」
「さっきの、ばーん!どかーんっていうの、ルディアとニイチャンが止めてこの綺麗なお山にしてくれたの?」
背後には雨に濡れる瑞々しい新しい丘ができていた。
「……そうだね。」
「お城からたすけにきてくれたの?」
「うん、サラディーニのお城から、ルディの空飛ぶ馬に乗って助けに来たんだ」
「すごい!ヒーローみたい!!」
「ほんもののおうじしゃまだ!」
ミッチェルさんがはっと両手で口を覆う。
近くで聞いていたルディアの顔見知りの街の人達も、驚いたり呆然と新しくできた丘と俺たちを交互に見たりしている。
そう、もう少しで、この人たちの命はなかった。
街の人が無事で良かった。
急に実感が湧いてきて、ほっとして思わず笑みが溢れる。
「……ミッチェルさん、あの、私……」
金の混じる目をじっと見つめられたルディアは、恐る恐る口を開いた。
ミッチェルさんはまたハッとしてから、ふうとため息を吐いて、今度は涙を浮かべて笑った。
「ルディア、いいんだよ、あんたが何者だって。」
そして俺たち二人をまとめて抱きしめると、涙声で言った。
「この街を……あたし達を守ってくれて、ありがとう」
雨に濡れる街に、街の人の歓声が響き渡った。
読んで頂いてありがとうございます。
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なんとか雨ノ森と街を守り抜いたリューとルディは、
この後無事にマティアスを王にできるのか…!?
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「面白い!」「リューもルディもカッコイイ!」と思ってくれた方、
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