4-20 決壊
本日朝3話目の投稿です。
スレイド陛下が目覚めてから3日経った。
処方薬との相性もいいのか、体の状態は向上はしないものの悪化もしていない。
私は変わらず雛の間で、処方薬を調合したり、調べ物をしたりして過ごしている。
ベースとなる処方薬は二週間分作った。
私の身に突然なにか起こっても、最低限これだけは残せる。
数日分余るかもしれないと頭を過ぎったが、未来のことなんて精霊だって分からないのだ。
後悔したくないから、私の意思で、全力で。
今まで学んできたことをスレイド陛下への処方薬へ注ぎ込んでいく。
「ルディ、おやつ食べる?」
「食べる!!!」
仕事の合間にちょいちょい雛の間に訪れるリューは、大体何か美味しいものを持ってくる。
私はウキウキと有り難くそれを頂いた。
そして物々交換のように、テーブルの上の紙の束をリューに手渡す。
「そうそう、これ、前まで話してたレポートだよ。大体完成したから見てみて。」
「もしかして、サラディーニの砂漠化の?」
「そう!」
少し前から気になっていたサラディーニの砂漠化。
サラディーニでは砂漠化防止の具体策の研究は盛んに行われているが、なぜこの状態になったのか、長期的な目線での過去の振り返りはあまり行われていなかった。
離宮で精霊の亡骸の青い宝石が発生する条件の『生命力が失われた場所』を探す過程で、この長期的な目線での研究もしたほうが良いだろうと思って調べ始めたのだ。
なぜこうなったのか、何が原因なのかを深堀して探るのは非常に重要だ。
本質を見誤ると間違った対策をしてしまうことがある。
「凄い、普通にこのまま論文化できそうだ。いつの間にこんなの作ってたの」
『姉ちゃん書き始めると止まらないから。リューカスいないときとかずっとガリガリ書いてたよ』
ソファーで暇そうにしているラナトがあくびをしながらリューにチクった。
「……ちゃんと休んでる?」
「それはちゃんと休んでるわよ!!3食と睡眠はちゃんと取るのがルディアちゃんだからね!!あとおやつね!!」
「ルディの食への態度は本当にブレないね……」
リューが呆れたように笑う。
笑うなかれ。食べることは生きること。
美味しく楽しくバランスよくが私のモットーだ。
「あ、でも、図書室には行きたいかも。もうちょっとレポートで補足したいところあって。行けるかな?まだここで待機してたほうがいいのかな?」
「…………」
リューはじっと、私のことを見た。
「……また呪術で襲われるかもしれない。それでも行く?」
「そうね……じゃあ、敢えての囮作戦かな?一石二鳥ってことで。」
「…………」
リューが渋い顔をする。
まぁ、それは嫌かも知れないけど。
「でも、さっさと青い宝石の出どころ潰したいじゃない」
「……もう大体目星はついてるんだけど」
「じゃあ余計対策も取りやすいから良いんじゃない?」
「…………」
渋い顔をするリューに、ラナトがニヤリとして笑った。
『いいじゃん、リューカスの魔術ついた指輪もあるだろ?どうせ何かあったらすぐ姉ちゃんのとこに駆けつける気だろうし。ヒマだし俺も付いてくよ。』
「……絶対指輪外さないでよ」
リューは渋々了解した。
そうしてお昼ごはんを食べてすぐ、アリーニャ様に処方薬を渡しつつ許可をもらって、私はカルタスさんを護衛につけてもらって図書室へ出かけた。
カルタスさんはあくまで影の護衛らしく姿が見えない。
もはや一人で歩いてるのと変わらないけど、カルタスさんはめちゃくちゃ強いらしく物理攻撃はこれで十分だろうとのことだった。
そして指輪。
絶対に絶対に外すなと念押しされ、更に追加の魔術式を入れられた。
何したのか知らないけど、確かにリューが何度も魔術式を入れたこの指輪は、やたらと高い防御力がありそうだし、きっと大丈夫なんだろう。
『ほんとさ、リューカスって過保護だよね』
「うーん、そうなのかな?」
『姉ちゃんが知らないだけ』
のんびりついてくるラナトは、暇そうにふぁーっとあくびをして、ぽんっとキューの姿に戻って私の肩に乗った。
暇だからついていくって言ってたけど、まさか私の肩の上で寝る気だろうか。
不満に思いながらも図書室について本棚を見たら夢中になってしまった。
嬉々として本棚から何冊か本を抜き取って、読書用の机の上に並べる。
「久しぶり」
「!?」
ばっと声の方を振り返ると、タナトスさんが本棚に寄りかかってこちらを見ていた。
「全然姿見かけないから、ついにリューカス様の結界の中に閉じ込められたのかと思ったよ」
「怖いこと言わないでください!!」
「あの人の様子見てたら、やりかねないなと思ってさ……というか、既に似たようなものな気がするけど。その指輪の魔術式やりすぎじゃない?俺もう近寄れないよ。」
「そ、そうですか……?」
「ほら」
タナトスさんが私に近寄って手を伸ばすと、何か静電気みたいなのがパチっとその手に走った。
「…………」
「ね?俺限定なのかもしれないけど、酷くない?」
一体どんな魔術式が入ってるのか。
やはり後で聞いておかないとやばそうだ。
首を傾げて指輪を見ていたら、タナトスさんがやれやれという感じで笑った。
「やっぱりその指輪外して、僕のところに逃げておいでよ。」
「嫌です!」
「そう、残念」
そう言うとタナトスさんはのんびりした様子で私のレポートの表紙を眺めて、ピタッと動きを止めた。
「サラディーニの砂漠化の原因ね…」
「……大事なことでしょう?」
「そうだね」
タナトスさんは私が机に積み上げていた一冊の本を手に取った。
パラパラと本をめくる。
「……ルディアは、後どれぐらいでサラディーニの砂漠化が止められると思う?」
「……既にこの国の取り組みで成果は出始めているでしょう?」
「そうかな。確かに一部地域では改善が見られたけど。」
そして、パラリと地図のあるページで本を広げ、一つの場所を指で示した。
「……もうこの地域は全て砂漠に飲みこまれる」
エルナカス山脈に近い地域。
雨ノ森がある山脈の向こう側にあるこの地域は、近年特に砂漠化が進んでいる地域だ。
「こうしてここでのんびり本を読んでいる間にも、何人もの民が飢えと乾きで死んでしまったり、仕事を失って故郷を追われたりしているんだよ」
「……それをなんとかしたくて調べてるんじゃないですか」
「そんなんじゃ間に合わないよ」
タナトスさんは顔を上げた。
悲しみと悔しさが滲んだ顔で、私を諦めたように見つめる。
「……僕の故郷はもうこの砂漠の中だ」
はっとした。
数年前、砂漠に飲み込まれた地域がある。
サリーニャ地域。
その昔、大きなオアシスを中心に栄えた街があった地域だ。
森が消え、雨が止み、オアシスが枯れ、そして人が住めなくなったその土地は荒れ果て砂漠となった。
国によって住民は保護され、王都近くの仮設の街が提供されたらしいけど。
慣れ親しんだ街から離れ、そこで新しく生計を立てる苦労は想像に難くない。
「……産業が発展しても、その土地に人が住めなくなれば、終わりなんだよ」
タナトスさんが本をパタンと閉じて、何だか妙に悲しそうな顔で私をじっと見た。
「……君が僕のほうについてくれていたら、少し違った結果になったかもしれないのに。」
何の話をしているんだろう。
分からないけど、でも。
私の結論は一つだ。
「私は戦争には加担しません」
人気の無い図書室が、しん、とした空気になった。
「確かに産業が発展しても、その土地に人が住めなくなればその街は消えます」
生命力が失われた場所を調査する中で、ほかにも幾つもの消えた街を見てきた。
「でも、戦争は街も、人の命も奪います。そして、恨みは連鎖して…また新しい戦争を生みます」
「……避難してきた故郷の友人や家族に言われたんだ」
タナトスさんは何故かいつもより追い詰められた顔をして視線を落とした。
「街が砂漠に飲み込まれる間、お前はただ王都の学園で机に向かっていただけだったのかって。もっと何かできたんじゃないかって。オルネリアの水を呼ぶ木の一本でも折ってきたら良かったんじゃないかって。」
私のレポートの表紙を見つめるその様子は、何だかとても悲しそうだ。
「オルネリアの森には雨を呼ぶ魔力を帯びた植物が多い。オルネリアで殺人をしたいわけじゃない。幾つか森を消すだけだ」
「何故それでサラディーニの砂漠化が止められると思うんです?」
「何故って!サラディーニは年々雨量が減ってるんだ。雨を取り戻そうと思うのが普通だろう」
「本当に、雨はオルネリアに奪われたのですか?オルネリアの森を消せばサラディーニの砂漠化は止まりますか?」
「……君が読んだこの本にも、そう書いてあるだろう?サラディーニで雨を落とさなかった雨雲は、そのまま流れてオルネリアの森で雨を降らせる。オルネリアの森の雨量も増えたというデータがあるだろう。」
「……そうですね。そのデータは確かにあります。でも、それはただ、『サラディーニの雨雲がオルネリアへ流れて雨を降らせた』というだけの事実です。」
私は自分のレポートを差し出した。
同じデータが引用されている。
「……何が言いたい」
「大事なのは相関関係ではありません。因果関係なんです。」
そしてもう1ページを捲った。
「オルネリアがサラディーニの雨雲を引き寄せたからサラディーニの雨が減ったんじゃない。サラディーニが雨を降らせられなくなったから、オルネリアに雨雲が流れたんです。原因はオルネリアの森ではなく、サラディーニ国内にあります。」
ページには見慣れたミズノコダケのスケッチが書かれている。
「……サリーニャのオアシスのほとりには、かつて森林がありました。そこには小さいけれど川があり、川辺にはミズノコダケや雨ノ森にもある木々……魔力で水分を引き寄せる植物が生えていました。」
「干ばつになり、オアシスが干上がって消えてしまっただろ。どの植物も育つのにはある程度の水が必要なものが多いから、枯れてしまった。」
「……いいえ、違います。オアシス周辺の開発によりミズノコダケや木々の数が減り、水分を…雨雲を引き寄せる力が弱くなって雨が減ったんです。干ばつで植物が減ったんじゃない。植物が減り、土地が痩せ、干ばつが起こったんです。」
「植物が減ってから……干ばつに……?」
私は頷いて、かつてサラディーニにあった森の植物の構成が書かれたページを開いた。
「一つ一つの力は本当に微弱ですし、例え森になったとしてもそこまで大きな力はありません。でも、その土地の魔力流や気候に合わせて、絶妙なバランスでサラディーニの森も雨を呼び込んできたんです。……それが開発により植物が減って、雨が徐々に減り、飢えや貧困が進んで更に森林が使われ、更に雨が減って地下水位が下がり、オアシスが枯れたんです。」
次のページにはそれを指し示すデータが幾つも並んでいる。
私はそれをタナトスさんに差し出した。
「地下水源の利用も時には砂漠化の原因となった可能性があります。オアシスは地下水源と繋がっていることがほとんどです。緑化の為に組み上げた水が……知らぬ間に砂漠化を進めてしまったことを示唆するデータもあります。私達は何故それが起こったのかを、もっと知らねばなりません。………ご意見ご質問あれば是非お願いします。」
「…………」
タナトスさんは一瞬躊躇したようすだったが、そのまま静かにレポート受け取ると紙面に目を落とした。
パラリ、パラリと紙の捲れる音が図書室に響く。
そして街と森の変遷と雨量データのページで手が止まった。
「……ここは、僕の幼稚舎があった場所だ。」
指さしたところは、かつて森林があった場所だった。
「新しい建物で……すごく、嬉しかったんだけどな。」
「…………」
パタンとレポートの束を閉じたタナトスさんは、なんとも言えない表情で、私を見た。
「じゃあルディアは、どうしたらいいと思う?どうしたらサラディーニを救える?」
「……森を育てるには、長い年月がかかります。元通りには戻せないかもしれません。でも……」
私は積み上げた本の中から地図を取り出して広げた。
大きなサラディーニの砂漠の向こう側には、高い山脈と、オルネリアの豊かな森が広がっている。
「こんなに近くにたくさん資源があるんです。そして沢山の人と、知恵がある。オルネリアや、東の国と協力したっていいんです。砂漠化はサラディーニだけの問題ではないですよね?周辺諸国の天候や環境……それに安全保障上も重要な話です。サラディーニは産業も、軍事力にも優れた国です。周辺諸国は戦争を好みません。今のサラディーニなら、協力体制を築けるんじゃないですか?この国の中だけで考えるより、ずっといい解決策がでますよ。」
「…………」
タナトスさんは無言でレポートを見つめた。
もしかして。
レイナルド派から戻ってきてくれるだろうか。
「あれぇタナトスさん、まさか今更気持ちが揺らいできちゃったんですか?」
本棚の影から小柄な男が現れた。
グレーのフードを深く被ったその顔はよく見えないが、ギラリとした目が覗いている。
「お前は……リアーナ嬢の新しい付き人?」
「えぇ、そうです。ご認識頂いていたようで嬉しいですね。」
何だろう、嫌な感じがする……と思った瞬間、キューの姿のラナトが肩から滑り落ち、人型になってドサッと膝をついた。
『……っ姉ちゃん、やばい、こいつ』
「ラナト!?」
『ぐ、ぅ……き、もちわりぃ……』
頭を抑えうずくまったラナトは、絞り出すように言った。
『……ごめ……ひっぱられて、転移、できない……』
まさか。
私は男を見る。
「へぇ……これの近くにくるとこんな高位精霊でもキツイんだ」
胸元に透明な水晶のような首飾りを下げている。
一見ただの水晶かガラス玉のようだが。
自分の身体の中の血が、ぐっとその玉に引っ張られるような感覚がして、身体がうまく動かなくなっていく。
「貴方ね……精霊の亡骸を集めて使っているのは」
「うへぇ、もうそこまでバレてるの?流石精霊の民だな。そうだよ、これであの青い宝石……精霊の死骸を集めてるんだ。そこの精霊様に教えてもらったのか?」
男の首飾りのガラス玉から、怪しい青黒いもやが立ち上る。
嫌な予感しかしない。
あれはきっと呪術か何かだ。
ぞわりと身体の芯が引き寄せられ、吐き気がして私も膝をつく。
「……お前、何者だ。」
敵だらけで詰んだと思ったのに、まさかのタナトスさんが私の前に出た。
まさか、レイナルド派と青い宝石は、繋がってない……?
「ひひ、タナトスさん、自分の魔術が俺の呪術に通じなくてびっくりしました?大した結界術のようですが……俺たち民族の呪術には関係ないですから。高貴な方々の魔術は自然の理の法則に従う。俺たちの呪術は自然の理を曲げる。住む世界が違うんですよ。……そんなことより邪魔しないでくれます?レイナルド王子派はもう、この精霊の民は排除することにしたでしょう?」
「………っ!?」
男の袖元から黒い靄が出てタナトスさんを包み込む。
「タナトスさんも呪術で新しい心を手に入れてみます?」
「………っあなた、まさかまた、青い宝石を……」
男を睨みつけるとギラリとした目で睨み返された。
「精霊が俺たちを助けてくれないから、俺たちが精霊を利用してやってるのさ」
ゆらりと青黒い靄が私の方へ真っ直ぐ向かってくる。
男はギラリと憎悪の瞳で私を見た。
「……精霊の民は大人しく山に籠もってたらよかったんだ。安易に出てくるから死に絶えるんだ。安心しろ。お前の体の中の青い石は俺たち民族の復興のためにきちんと使ってやるからな。」
青黒い靄が一気に濃くなり、ぶわりと目の前に広がった。
「……っ…………??」
やばい、と思ったのに、何も起こらなかった。
むしろ身体が軽くなる。
恐る恐る目を開けると、見慣れた背中が目の前にあった。
「………っな、なんで……!」
「むしろ何で呪術が魔術より上だと思ったんだ?」
リューの手から何個もの魔術式が浮かび上がって、どんどん青黒い霧を消していく。
「魔術で呪術に対抗できる術は無かったはずだろ!?」
「……だからって、俺が黙ってお前らに呪われたままだと思ってたのか?」
「俺たちの呪術は!自然の理には従わない!!」
「そうだな」
ワナワナと青黒い霧を出し続ける男に、リューは静かに言い放った。
「ならば魔術で自然の理に戻してやるだけだ」
少し他のものとは違った形の魔術式が浮かび上がって、水晶のような玉をグニャリと歪めた。
2つに別れたそれは首飾りからこぼれ落ちて、そしてまた引き合うように転がりぶつかる。
更に魔術式がそれに重なって、白い光る霧のようなものがふわっと浮かび上がって消えた。
『まさか私がこの世に落とした涙とナテルの命の欠片を使うとはな』
「セフィナロス!?」
突然現れたセフィナロスに驚く。
私は呼んでいないはず。
『安心しろラテルの子よ。今はお前の血の力は使っていない。お前の想い人が開放したナテルの命の欠片の力で私はお前たちの前にいる。』
そして呆然とする男の前に転がった2つの欠片を手に取った。
『ナテル……』
思ったより優しげな声が聞こえる。
『………そうだな、私も共にありたかった。だから、昇華して、また私のところに帰ってこい』
欠片を見つめるセフィナロスは、普段の美しすぎる冷たさのある表情からは想像がつかないような、あたたかく柔らかい表情をしていた。
欠片はセフィナロスの手のひらの上で白く輝いてとろけ、霧のように消えていった。
セフィナロスがゆらりとフードの男に顔を向ける。
『さて、お前が集めた仲間の亡骸、全て返してもらおうか』
そう言ってセフィナロスが男に右手を向けると、胸元や袖口から十数個の青い宝石がこぼれ落ちた。
「……っ待て!それは、俺が長い時をかけて集めた……!」
『お前のものだと言うとか?驕るな小僧』
今度は左手を水晶のような玉を失った首飾りへ向ける。
首飾りの色とりどりの石は、あるものは消え、あるものは炭のように色を変えた。
『お前の一族は二度と我ら精霊の恵みを受け取れないと思え』
冷たい顔で言い放つセフィナロスは、両手を青い宝石へ向けた。
全ての宝石がふわりと宙に浮く。
『……リューカスといったか。我が同胞の亡骸にかけられたこの世にしばりつける呪い、お前の手で自然の理に返せるか』
「……我が国の汚れを晴らす機会を与えてくれた事、感謝する」
そうして、リューは一つ一つの青い宝石に、魔術式を呼び出していった。
最後の一つの宝石の下に魔術式が呼び出されると、一斉にそれが光り輝く。
最後に青い宝石は金の細かい粒子となり、空気の中に溶けていった。
『リューカス、我こそ礼を言う。同胞の亡骸と我が愛しのナテルの命の欠片……共に開放したこの恩、いつかお前に返そう』
そして仄かに笑って溶けるように消えて行った。
「……っクソッ!お前!あれは我が一族に伝わる秘術の宝玉!何故……何故精霊などへ返した!」
「あれは人が持っていて良いものじゃない」
男は炭と化した首飾りをリューに投げつけた。
首飾りはリューに届く前に、透明な壁に当たってぽとりと床に落ちた。
「クソッ……リアーナ様に……何と言えば……」
「お前、それ以上口を開くな」
カンッと金属音がして何かが床に落ちた。
「……っ毒矢?」
「余計な事を言うと、口封じに殺されるぞ」
ザリ……と音がして、矢が放たれた方向から黒装束の男が出てきた。
それどころか、気づかないうちに十人以上の黒装束の集団に囲まれている。
「暗部も随分スレイド陛下のところから寝返ったものがいるようで残念です」
カルタスさんがいつの間にか私の背後にいた。
何故か血だらけの鉤爪を持っている。
「何故だ!リアーナ様は一緒に俺たち民族を再興しようと言ってくれたじゃないか!悲劇の民族がこのまま虐げられたままではいけないと……!」
「他者を虐げて民族を再興しようとしたのなら、失敗したお前を虐げて自分を守ろうとするのは自然な流れだろ?」
「………っ」
男はうずくまり拳を叩きつけた。
リューはふぅとため息をついて、ちらりとタナトスさんを見た。
「……タナトスはやっぱり俺と戦うの?」
「………」
タナトスさんは無言で上着の中から短剣を三本取り出した。
「……ただの指令だったから、本気で惚れる気は無かったんだけどなぁ」
「…………」
じゃり、と黒装束の男たちが近づいた。
タナトスさんは暫く短剣を見つめて、私とリューをちらりと見たあと、それを黒装束の男たちに投げつけた。
「……っ貴様!!」
パンッと強い結界が、襲いかかろうとした黒装束の男たちを跳ね返す。
「……今日の午後四時、オルネリアの雨ノ森が、サラディーニサリーニャ地域の雨を奪ったとして、サラディーニの過激派環境保護団体により爆破攻撃を受ける」
「えっ!?」
「マッカス卿はその制圧と復興と銘打って雨ノ森にサラディーニ軍を派遣してそのまま雨ノ森を占領、オルネリアとの戦争になだれ込むつもりだ。」
雨ノ森を……?
まさか、王の交代を待たずしてそんな動きを……
呆然としつつもリューを見ると、リューも驚愕の表情でタナトスさんを見ている。
タナトスさんはまた両手に何本も短剣を取り出した。
「……リューカスがいない間、マッカス卿も動きやすかったんだよ。今から間に合うか分からない。でも、お前ならなんとかできるんじゃないの?」
黒装束の男たちが飛びかかってきて、タナトスさんがまたナイフを飛ばし、今度は相手の剣を奪って蹴飛ばした。
「助太刀します」
「ありがとう」
カルタスさんが反対側の男たちをなぎ倒していく。
「リューカス、戦争を止めるのがお前の仕事だ。行け。」
キィンと背後でまた黒装束の男が飛んだ。
『姉ちゃん早く!俺たちも行こう!!』
ラナトが手だけ獣化して長い爪で防戦していた。
「……っカルタス、マティアスに伝令!ルディとオルネリアへむかう。タナトス……あとは頼む!」
『リューカス、手をかせ!』
ラナトが私とリューの手を掴んだ瞬間、ぱっと外に出た。
見上げると窓から本棚が見え、微かにキィンと金属音がする。
図書室の外の庭園だろうか。
とにかく、ここなら。
『リッキー!』
ヒィンと羽の生えた白馬が現れた。
リッキーはすぐに私とリューを乗せて空へ飛び上がる。
ラナトはキューの姿で、パッと私のお腹の前に転移して座った。
「雨ノ森へ全速力!リュー、それで大丈夫?」
「うん、全速力で。身体は大丈夫?」
「この間の治療は半分ぐらいしか使わなかったから、殆ど全快だよ!」
リッキーが猛スピードで空を駆ける。
時刻は午後1時を少し回った頃だ。
あと約3時間で、雨ノ森が爆破攻撃を受ける時間になる。
「……このスピードなら、四時少し前に雨ノ森に着く。」
「えっ計算したの!?」
「さっき通過した街の劇場と王宮の距離と、リッキーがそこまでかかった時間から計算した」
「リューって暗算得意なのね……」
「……ルディ」
リューの声が硬い。
私を支える手に、ぐっと力が籠もる。
「……雨ノ森を危険に晒してごめん」
「リューのせいじゃないじゃない!」
「我が国の失態は俺とマティと……父上の責任だ。」
びゅうと砂丘の上を飛び越える。
振り返って仰ぎ見たリューは、確かに大きな責任を負う、第二王子の顔をしていた。
「雨ノ森の破壊も戦争も、必ず止める。」
「……うん、そうだね。」
私はニヤリと笑ってみせた。
「私とリューならできるでしょ!」
「ルディ、頼もしすぎない?」
リューは何だか困ったような嬉しそうな複雑な顔で笑っていた。
でもきっとなんとかなる気がする。
また大きな砂丘の上を通過する。
爆破まで3時間。
私は全速力でリッキーを走らせた。
読んで頂いてありがとうございます。
いいね、本当にいつもありがとうございます!!
見て下さってすごく嬉しいです!
物語はいよいよクライマックスです!!
「面白い!」「リュー、ルディ頑張れ!!」と思ってくれた方、
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