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4-18 同じ運命(sideリュー)

ルディを雛の間に残して父上の寝室に戻ると、少し顔に血の気が戻ってきた父上がこちらを見てニヤリとしてきた。

こんなに心配させておいて。

相変わらずの姿に腹が立つ。

なんだか時々目頭が熱くなるのも全部この親がこんな態度だからだと自分自身に言い聞かせて枕元の近くに寄った。


「お前死にかけてあの子に助けてもらったんだって?」


「あぁ、聞いたの。そうだよ。」


「血が減ってフラフラになる精霊術で呪いも解いてくれたのか。」


「うん」


「しかも危険を顧みずこんなとこまで一緒に来てくれて、薬師で、頭も良くて、難しい話もできちゃう、茶色いふわっとした子か。」


「……そうだね」


「なんか、子供の頃お前が好きだった茶色のふわふわの毛布に似てるよな、あの子」


「…………」


「そりゃいくら洒落た話が苦手で冷めてるスタイル貫くお前でも好きになるよな」


「……黙れクソ親父」


「っはっはっは照れるなよバカ息子」


やつれた顔をくしゃっとさせて嬉しそうに笑う父親を見て、なんだか昔に戻ったような気持ちになる。

あと2週間もしないうちに話せなくなるという事実を忘れてしまいそうだった。


「ふふ、悪い悪い。嬉しかったんだよ。お前のそんな姿を見れるとはな。目覚めさせてもらえて本当に良かった。」


ひとしきり笑ったあと、はぁと息を整えた父上は、やっぱり痩せて弱々しい姿だ。

こちらに向ける優しい顔が、余計死期を匂わせる。


「……生きて帰ってきてくれて良かった。苦労をかけたな。」


「………そんな簡単に死なないから」


「何度も死にかけたのに?」


「…………今生きてる」


「ふふ、そうかそうか」


マティとアリーニャ様から大体の話は聞いたんだろう、俺の口からなぜ死にかけたのかまでは聞く気はないようだった。

こういうところで余計な気遣いをするのが父上だ。

いつまで子供だと思ってるんだろう。


調子が狂ってこっそりため息を吐き、心を落ち着かせる。


どうしても、この話は必要だ。

マティとアリーニャ様を見る。

二人は頷いて、部屋を出ていった。

パタンと扉が閉まったのを確認して、胸元から青い宝石が入った小瓶を取り出す。


やせ細った父親の手に、それを握らせた。


「これは?」


「………母上だよ」


「ラナリス…?」


首を傾げる父上の手の中で、母の生命力が宿る青い石が、いつもより少し、輝いたような気がした。



*****


「話せた?」


寝室を出ると、マティが待っていた。


「うん、ありがとう。アリーニャ様は?」


「父上に飲ませたいって、オレンジジュース絞りに行った」


「ほんと子供みたいなの好きだよね、父上」


「母上も、なんだかんだ父上に甘いからねぇ」


ククッと笑うマティは何だか嬉しそうだ。


「父上の事だから大丈夫だと思うけど、アリーニャ様が戻るまで、ちょっと様子見といてあげて。一応…一人にはしないほうがいいと思う。」


「……分かった。先に政務戻るの?」


「あぁ。ちょっと、気晴らしに仕事してくる」


「……ほどほどにね」


「はいはい」


そのままマティに父上を託して、部屋を出る。

雛の間を含む最もプライベートなこの場所は、俺やマティであっても、父王と正妃アリーニャの許可なく入ることができない区域だ。

兄レイナルドであっても同じこと。

自分は暫く許可を得たが、兄上やその周りの者たちは入れないはずだ。

ここであればルディも安全だと、安心して区域の境目となる強力な結界が施された扉をくぐり抜け、自分の仕事部屋へ向かう。


俺の話を淡々と、王の顔で最後まで聞いた父上は、そうか、と一言呟いて、暫く青い宝石を見つめていた。

ただ、暫くして「お前の身体はもう大丈夫なのか?」と聞いた時の表情は、父親の顔だった。

なんとも言えない寂しげな表情に何と言ったらいいか分からず、ただ大丈夫、とだけ返事をした。


自分たち家族を振り回した青い宝石。

必ず出どころを潰し、精霊のもとへ返す。

再び胸にしまった母の命が宿る青い宝石に、服の上から手を添える。


「あら、胸のお加減が悪いのですか?」


背後からカツンと踵がなる音がした。


「……リアーナ嬢」


「ごきげんよう、リューカス殿下」


柔らかい微笑みをたたえたリアーナは、わざとなのか東の国のような挨拶をしてゆっくりと近寄ってきた。


「先日の様子を見て心配していたんですよ。ルディアさんに治療頂いているようですが、どうですか?」


「……あぁ、順調だよ。」


「そうですか……」


微笑んだ顔にある水色の目が、氷のように冷ややかだ。

リアーナは首を傾げた。


「……でも、もし魔術が使えなくなったり、魔力が少なくなるような具合の悪さでしたら……治らないほうがいいのではないですか?」


「………」


「生前のラナリス様も心配してらっしゃいましたよ。」


「……父上ほどではないから大丈夫だと話していたんだけどな。母上は心配症だ。」


核心に迫るような会話に、何かリアーナがボロを出すのではないかと様子を伺う。

そんな俺の様子を嘲笑うかのように、リアーナはにこりと笑った。


「それは、本当ですか?」


「……何がだ」


「リューカス殿下の魔力は、本当に陛下より少ないのですか?」


リアーナは人気の無い廊下にカツンと音を響かせ、もう一歩俺に近寄った。


「魔力量は大抵が成人前に増加が止まります。身長と同じように、大人になってからわざわざ自分の魔力量を測定する人はあまり多くないですよね。でも、時々、成人後にも魔力量が増える方はいますわ。……リューカス殿下は、最後に測定したのはいつですか?」


「……なぜ、俺にそんな事を言う」


「ラナリス様が心配していた、と言ったでしょう?」


リアーナは美しい笑顔で笑った。


「陛下を測定するふりをして、リューカス殿下の魔力も測定した事があったそうですよ」


そのままカツカツと横を通り過ぎていく。


「……一度お調べになってみるといいですわ」


リアーナが去った後の廊下は、酷くガランとして冷たいように感じた。




自分の執務室に戻って暫く経った頃。

マティが部屋にやってきた。


「兄さん、この至急の嘆願書だけど……」


「あぁ、それね……」


「………どうしたの。酷い顔してるよ」


「……………」


そんなに酷い顔だろうか。

マティの顔を伺うと、マティも酷く困惑したような、心配そうな顔をしていた。


「……お前さ、確か魔力量測れたよね」


「測れるけど……なんで?」


「自分で自分のこと測れないだろ」


「そうじゃなくて……」


胸にしまった青い宝石の小瓶に触れる。

もし。

もし本当に母上が自分の魔力量を測っていたら。

もし、それが、良くない結果だったら。


母上が、なぜ自分を呪ったのか。


「……頼む」


「……………」


やや納得感の無い不安げな様子のまま、マティが魔術式を発動させた。


暫くして、マティがはっと、目を丸くしたのがみえた。


そうか。

やっぱり。

そうなんだな。


「……俺の魔力は、父上よりどれぐらい多い?」


「…………1.2倍ぐらい……あるかな」


魔術式を消したマティがなんとも言えない顔で俺を見ている。


「……いつから?知ってたの?」


「………さっき、リアーナが、調べろと。」


「……………」


暫く、沈黙が部屋を支配する。


「……一回、ちゃんとルディアに診てもらいなよ」


「…………」


「兄さん」


「……分かってる」


自分が椅子から立ちあがったカタリという音が、妙に響いて聞こえた。

テラスに出る大きな窓を開けたら、昼前のやたら明るい日差しと、熱を持った風が吹き込んできた。


「……散歩してくる」


「兄さん!」


引き止めるようなマティを無視してそのままテラスから風の魔術で外に出る。


王宮に、離宮の時計塔みたいなところってあったっけ。

無駄に大きい王宮が、酷く滑稽に思えた。


読んで頂いてありがとうございます。


いいねブックマークありがとうございます!!

とても嬉しいです!


ここに来てまさかの……ルディはどうするのでしょうか。

「面白い!」「リュー負けるなー!」と思ってくれた方、

ぜひブックマーク、☆下の5つ星☆から☆いくつでもいいので応援よろしくお願いします☆彡

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