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4-17 目覚め

本日夜2話目の投稿です。

「ふふ、ごめんってば」


「………」


「カフェオレ入れたげるから」


「……2杯」


「はいはい」


結局何の話も聞けずに朝を迎えてご機嫌斜めの私の前に、コトリとカフェオレが置かれる。

朝ごはんは玉子と照り焼きチキン、ベーコンレタストマトのサンドイッチだ。


「美味しそう〜!」


「カルタスの作った照り焼きは絶品だよ」


「え、カルタスさん?」


カフェバーの店員さんだったり、リューの執事さんみたいだったり、料理人だったり、刺客と戦ってたり。

あの人何者何だろう。


「元々の本業は隠密の護衛なんですよ」


「わぁ!!!」


突然背後にカルタスさんが現れた。


「本当は引退してたんだけど、一ヶ月いない間にだいぶ敵だらけになってたから復帰してもらったんだよ。」


「またお役に立てて光栄でございます」


「……ごめんね、もうちょっとしたら落ち着くと思うから。」


「とんでもございません!」


カルタスさんは嬉しそうにしながらサンドイッチを小皿に取り分けて渡してくれた。


「この新しい時代への移り変わりの瞬間に立ち会えるのであれば、このカルタス願ったり叶ったりです。」


「……ありがとう」


「それにリューカス様のこの変わりようを楽しむのが最高に楽しくて」


「やめて」


リューがやたら渋い顔をしている。

何が変わったんだろうとカルタスさんを見上げたが、先手を打たれた。


「余計な事言ったら永遠に引退させないからね」


「おぉ、こわやこわや」


そして仰々しくお辞儀をすると忽然と消えてしまった。

優しそうなお爺さんの雰囲気なのに得体がしれない。

怖い。


「お年寄りで護衛もしてるのに朝ごはんまで作るとか凄いね」


「朝から護衛と毒味の両方気を使うより作ったほうが楽なんだって」


「毒味!?」


「正直ゲッソリするほど暗殺が止まない」


「えぇ……」


それってもう暗殺の域を超えてるような。


「……リュー、よくそんな平気そうにしてるね」


「これぐらいで死なないから。向こうも半分脅しだろうから本当に殺せるとは思ってないと思う。……あわよくば呪われてる今こそ殺してやろうとは思ってそうだけど。」


「……なんでそこまで…」


「マティの成人まで、本当にあと数えるほどしかないからね。」


「…………」


「……怖い?」


膝に乗せられて、後からギュッとされた。

肩越しに私の顔を覗き込む。


怖がってるのは、リューのほうだ。


「それぐらいでリューのこと見捨てたりしないわ」


「……なんで俺の考えてること分かるの」


「ふふ、あなたとどれぐらい長く付き合ってきたと思ってるのよ」


「一ヶ月ちょっと?」


「短いわね……」


笑ってカフェオレを飲む。

ほんの数日の別行動だったのに、何だか一緒の朝ごはんが久々な気分だ。

何故か膝の上だが。


「……昨日のことだけど。」


リューがポツリと話し始める。

そう。昨日のことだ。

あれは何だったんだろう。


「会場で最後にメノラス卿と話してるあたりで、何か変な感じしたよね?」


「うん、何かゾワッと引かれるような感じがした」


「……あれは、呪術だ」


リューがカラリと青い宝石を机に乗せる。


「あのとき、胸元に入れてたこれが、カラカラと背後へ引き寄せられる感じがしたんだ。それから、ルディが全体的に引っ張られてる感じも。」


「そう!そんな感じだった」


「多分ルディの精霊の血を引き抜こうとしたんだと思う」


「え!?」


びっくりしてリューを振り返る。


「そんなことできるの!?」


「……ごめん、確信はない。レイナルド兄上が呪術を使ったのではないとは思うけど、他の誰なのかは分からないし、呪術もなんとなく本を読んだ情報を知ってるぐらいで推測でしかない。でも、精霊の亡骸の青い宝石を集められるなら……ルディの精霊の血を抜くこともできるんじゃないかって」


「もうすぐリューを治療出来そうだって言ったから?」


「そうだと思う。」


『姉ちゃんの血をちょっとぐらい奪えたからって、精霊の民の力は無くならないよ』


ぽんっとラナトが出てきた。

やれやれとした雰囲気で横にある一人がけのソファーに座る。


「そうなの?」


『うん。俺にも姉ちゃんにも、あの青い宝石のような精霊の核はある。姉ちゃんは殆ど人だからめちゃくちゃ小さいけど。それでも、精霊である自分自身みたいなもんだから、死んでもないのにそれだけ抜いたり精霊の力を全部奪ったりとかはそもそも無理なんだ。』


「じゃあなんで血を抜こうとしたんだろう」


『精霊に影響を及ぼせる呪術は使えても、精霊そのもののことは大して知らないんだろ』


ラナトは少し疲れた顔でリューを見た。


『姉ちゃんにも言ったけど……この城、変な感じがするんだ。間違いなく、どこかに精霊の亡骸の青い宝石を集める何かがある。生きてる精霊がそれで傷つくことはないけど、気持ち悪くてしょうがない。でも、探してるのに見つからないんだ。』


「……ラナトたち精霊は、探そうと思えば何でも探せるんじゃないのか?」


『普通はそうだよ。でも、見つからない。多分精霊に何らかの影響がある術とか道具なんだと思う……だからリューカスにさがして欲しいなと思って。』


ラナトはニヤリと笑った。


『余裕だろ?なんたって俺たち精霊の大事な大事な、姉ちゃんの恋人だもんな?』


「えっそれ関係なくない!?」


「……全力で見つけよう」


『そうこなくっちゃ』


ラナトは無邪気に笑うと立ち上がった。


『なぁ、姉ちゃんもう精霊の民なの隠してないんだろ?俺普通に姉ちゃんの周りにいてもいいかな』


「え、いいの?色んな人に見られるけど」


『嫌になったら転移して隠れるから大丈夫。ていうか、必要な時だけだから。ただ、あんまり人目を気にせず出ていきたいなって。心配しなくても、リューカスみたいに常にベッタリ横にくっついてたりしないから。』


「えぇと……そうね……」


リューをちらりと見た。

特に気にする様子はなくて、うーんと考えている。


「……今ルディの力で知られてるのは、リッキーで空飛べるぐらいだよね?」


「そうだね」


「他の精霊術はあまり知られないほうが安全だとは思う。特に人間と一緒の転移と……リュドリスの治療は知られると本気で拐われたり拘束されたり、大勢が押し寄せてきたりしそうだから、それは隠したほうがいいと思う。その上で、ラナトがただ精霊獣として側にいたり少年の姿で一緒にいる分には大きな問題にはならないと思うよ。」


『やったぜ!』


「……でもあんまり邪魔しないで」


『は?今までどれだけ協力してやったと思ってんだよ。姉ちゃん連れて転移して逃げるよ』


「……好きにしていい」


『分かればいいんだ分かれば』


ラナトは尊大な態度で足を組んで頬杖をついた。

生意気な感じがちょっとかわいい。


「そういえば、もう結構長く人の姿になれるの?」


『ふっふっふ、だいぶ練習したからな。もう半日は余裕だぜ!』


「そうかぁ」


『え、嫌なの姉ちゃん』


「キューの耳だけ生えたラナトも可愛かったなぁって」


『あぁ』


するとぽんっと耳が生えた。


『ヒトってこういうの好きだよな。尻尾とか手もいけるよ。』


ポンポンっと白い尻尾と肉球付のふわふわの手まで出てきた。


「かっっ可愛い!!」


『……なんかヤダ』


すぐに戻ってしまった。

可愛いは男の子には禁句だっただろうか。

残念だ。


『大体キューの姿が本物だからさ。この姿は何ていうか、イメージみたいなもんだから。』


「そうなんだ」


『普通に姉ちゃんと同い年みたいにもなれるし、もっと大人みたいにもなれるよ』


そう言ってちょっと考え込んだような素振りをしたと思ったら、ぽんっと姿が変わった。

そこには真っ白で神々しい感じの美青年がいた。

長めの白髪から覗く黒曜石のような丸い瞳がきらりとして美しい。


『どうよ、リューカスよりずっと大人でかっこいいだろ』


「え、ええと」


答えに迷っていたらリューに目を塞がれた。


「ラナト、いつもの姿に戻れ」


『なんでだよ』


「……弟が姉より大人っぽくてどうする」


『確かに』


指の隙間から覗いていたが、ぽんっとまた元のラナト……より気持ち成長したラナトになったのが見えた。


『こんぐらいならいいかな?』


「あぁ、弟っぽいし、カッコいいし、いいと思う」


『ふふ、そうだろうそうだろう』


なんだかラナトがリューにいいように言いくるめられてる感じがするけど……可愛い弟に戻ってくれたしまぁいいか。

さっきの姿だと確かに弟ではないし近寄りがたい。


「さてと……」


リューが私を膝からソファーに下ろして立ち上がる。


「どこか行くの?」


「さっさとラナトが言う青い宝石を集める何かを探しに行こうかと思って。」


『おぉ!ドンドンいこう!』


ラナトも立ちあがったその時だった。

トントン、と部屋がノックされる。

暗殺者か!?とビクッとしたら、リューに苦笑いされた。

そしてまた急に現れたカルタスさんが、ドア越しに応対する。


ガチャリと扉が開いた。


やって来たのは、少し緊張した面持ちのマティアスさんだった。

私の顔を見てニヤリとする。


「やっぱりここにいた。」


「えぇと、お邪魔してます……」


マティアスさんは笑いながらおはようと声をかけてくれた。

でも、なんとなくその表情は硬い。


「……どうした?」


「ルディアに、父さんの治療を試してもらおうと思って。」


「早くないか?」


「………いや」


マティアスさんはちらりとリューを見たあと、視線を外して呟いた。


「むしろ……今しかないかもしれない。」


リューがはっと息を呑む。

それって、つまり。


「……状態が悪いんですか?」


「………昨夜専属医が殺された。腹部に致命傷だ。」


「なっ」


リューがマティアスさんに詰め寄る。


「ホックス医師にも俺の結界術を付与したドッグタグのネックレスを渡してただろ?」


「……理由は分からないが、身につけてなかった。ドッグタグはホックス医師の自宅の部屋にあったよ。」


「なんで……」


「……どちらにしろ、これまで通りの治療は出来ない。魔力反発疾患に詳しい医師自体少ない上に、信頼できる医師となると……かなり難しい。専属医になれば命も狙われるし、脅されるだろうしな。今専属医になりたがる奴も少ないだろう。」


「………」


重苦しい空気が流れる。

なんとなく、今まで酷い事態には出会わなかったからのほほんとしていたけど、そんな平和な状況では無かったのだ。

ただ、自分の身に危険が迫っていなかっただけだ。


「……やりましょう、治療」


私は重い空気を押しのけるように進み出た。


「何もできずにいるよりは、私の精霊術と……頼りないですが、薬師としての治療を行ったほうがリスクが少ないように思います。私を信頼していただいて、やらせて頂けるのであれば、ですが。」


「……ルディ、昨日俺の治療してくれたけど、血の力は大丈夫?」


「あれぐらいなら一晩で全快したから大丈夫」


ニコッとガッツポーズでアピールする。

リューは困ったように笑った。


「……ラナト、確かリュドリスは1、2週間は意識が戻るはずと言ってたよな?」


『うん、それぐらいだってリュドリスが言ってる。ばあちゃんにしたみたいに姉ちゃんの薬も合わせれば、一週間以上はもつんじゃないかな。』


「……上出来だ。ありがとう」


リューはラナトに礼を言うと、マティアスさんを見て頷いた。

マティアスさんは少し考えたあと、口を開いた。


「……お願いするよ。母上も、ルディアに頼みたいと言っていた。」


マティアスさんはそう言ってニコッと笑ってくれたけど、いつもの元気は無かった。



準備ができ次第リューと向かうことになり、持ってきた薬師の出張お仕事セットの準備をする。

慣れ親しんだ道具ばかりなのに、緊張して少し手が震える。

リューとマティアスさんのお父さんであり……更にこの国の現王だ。

普通こんな街の若い薬師が治療にあたることなどない。

殆どが精霊術での治療だとしても、気持ちはあまり変わらなかった。


「ルディ」


「……っごめん、なんかドキドキしちゃって」


「そんな気に病まなくても大丈夫だよ」


準備の手を止められて、そのまま後からぎゅっと抱きしめられた。

リューのあったかさに、少しホッとする。


「俺もマティも、アリーニャ様も……父上が亡くなる覚悟はできてるから。」


「……でも」


スレイド王が亡くなったら、よりリューが攻撃されてしまうのでは、と心配になる。

リューはそれも見透かしたように私の目を見て言った。


「俺は国中が総攻撃して来ても死んだりしない」


それは流石に言い過ぎなのではと思っていたら、笑われた。


「今疑ったでしょ」


「ごめん、それはさすがに強すぎではと思って」


「だからルディは俺のこと舐め過ぎだってば」


「え、本気?」


「ルディと一緒に地の果てまで本気で逃げるよ」


「そういうこと!?」


ククッと笑うリューを小突く。

本当に。

リューは私の機嫌を取るのが上手だ。

何だかバカらしくなって、少し緊張が和らいだ。


「じゃあ、行こうか。」


そうしてリューに連れられて訪れた王宮の最奥の部屋。


リューとマティアスさんにそっくりな顔の、暗赤色のウェーブした髪を持つその人は、柔らかな日差しの入る落ち着いた寝室の中で静かに横たわっていた。


「……あなたがルディアさん?」


「っはい、宜しくお願いします」


波打つ黒髪に青い目のとても美しい人が、王が眠るベッドの横で立ちあがった。

アリーニャ様だ。

青い目が、マティアスさんにそっくりだ。

そして拝みたくなるぐらい華やかで光が出てそうな感じだ。

私はドキドキしながら礼をとった。


「ありがとう、楽にしてちょうだい。……こんな状況で引き受けてくれてありがとう。どんな結果になったとしても、あなたの身の安全は保証するから、安心してね。」


優しい声にほっとする。

マティアスさんのお母さんなんだなぁと、なんとなく納得して、頷いた。


「ありがとうございます。全力で頑張ります。」


「ふふ、頼もしいわ」


アリーニャ様はスレイド王の髪の毛をひと撫でして、私に場所を譲るように側から少し離れた。

その様子から、アリーニャ様の心境が見えるようだった。

後ろに控えていたマティアスさんが、アリーニャ様を心配そうな様子で誘導して、椅子に座らせる。

リューをちらりと見上げると、にこりと笑って背中をぽんぽんと押してくれた。

大丈夫だよ、という声が聞こえる気がする。


私はスレイド王の枕元へ寄り、丹念に状態を見た。

その目はしっかりと閉じられ、大分顔色が悪い。

亡くなる前のおばあちゃんの顔色が頭を過ぎった。


「……全身に魔力反発のダメージの蓄積が見られます。魔力を放出しやすい手足の先にもダメージがあるので、恐らく内部はもっとダメージが強いです。でも、寝たきりにしては非常に状態がいいです。……ホックス医師の治療は、素晴らしいです。」


この状態の人を治療できるほどの能力があった人物。できるなら、会ってみたかった。


「私にはここまでできませんが、陛下の目が覚めれば投薬もできますし、少しはお役に立てると思います。……早速、精霊術を始めてしまっていいですか?」


「えぇ……お願いします」


アリーニャ様のふるえる声が背後から聞こえた。

愛する人が目覚めない…それはどんな気持ちなんだろう。

もう一度、その声を聞けたら。

そう思ってるのかな。


王位継承もあるけれど。

アリーニャ様の願いを叶えてあげたい。


『リュドリス』


『………あぁ、やってみようか』


「え!?」


振り返ると、くすんだ緑の苔のような髪色の、ダンディな感じの老人がいた。

老人は私の顔を見るとふっと笑った。


『いつもの我の分身では心許なかろう』


「リ、リュドリスの本体?」


『そんなところだ』


リュドリスはスレイド王の枕元に立つ。


『我はヒトの医学薬学より生まれし精霊、リュドリス。毒草は薬になり、刃物は命を救う。この場に漂う、命を賭して治療を行った医者ホックスの心残り、しかと受け取った。お前たちの王が目覚め、精霊の亡骸を救い、無闇な殺生を止められるのであれば……我の力を貸そう』


そして枯れ枝のような手をスレイド王へ向けた。

緑のどろりとした、細かい光の粒子が無数に混じった粘液がスレイド王の全身を覆う。


『ルディア、お前の鞄の中のカントンの実、サンザル草、鬼火花の種を渡せ』


「……っはい!」


どれも魔力反発疾患の強い治療薬となる素材だ。特に鬼火花の種は魔力を吸う劇薬になる。リュドリスの空いている手に、慎重に手渡す。


『……いい保存状態だ』


リュドリスがそう呟くと、手にした素材は粉々に砕け散った。

そしてそのまま、反対の手から溢れ出す緑の粘液の中につっこんだ。

ぶわっと粘液全体が発光する。

光が収まり目を開いたら、緑の粘液は無くなっていた。


『可能な処置は全て施した。だが、意識を保てる時間は長くはない。持って10日前後……普通にしていたら一週間ほどだ。そもそも体力も削がれ命も危うい状態だ。だが、少しはなんとかなるだろう。ルディア、後はお前の投薬でなんとかしろ。辛さを緩和するための投薬が殆どだろうが、心身の体力の温存には役立つはずだ。数日の延命や意識の保持ならできるはずだ。……お前の想い人の家族のため、できる事はした。ではな。』


リュドリスは話を終えると、ふっと消えた。

全身からガクッと力が抜ける。


「ルディ!」


「だ、大丈夫……」


例によって素晴らしいタイミングで私を受け止めたリューが、近くの椅子に私を座らせる。


「とりあえず、これ」


口の中にポイッと何か放り込まれた。

チョコだ。こんな時に申し訳ないが、めちゃくちゃ美味しい。

多分高級なやつだ。


少しフラフラしていた頭がはっきりしてきて、気を取り直してスレイド王の様子を伺う。

眉がピクリと動き、そしてゆっくりと目が開いた。

リューにそっくりな、藍色の目だった。


「スレイド!!」


「……?」


アリーニャ様がスレイド王の枕元に駆け寄る。

マティアスさんも続いて、緊張の面持ちでスレイド王の顔を覗き込んだ。


「……なんだ、みんな揃って…?」


スレイド王が不思議そうに見回す。

声は酷く掠れているのに、寝ぼけた感じがなんだか可愛らしかった。


「スレイド……あなたね……一年以上意識が無かったのよ」


「………え?」


アリーニャ様はポロポロ涙をこぼしながら、呆れたように笑った。


「アリーニャ……?なんだ、なんでそんな泣いてる……」


スレイド王は何かしようとして顔を歪めた。


「……身体が……動かない」


「そりゃそうだよ父上。一年寝たきりなんだから。」


ほんのり涙を浮かべたマティアスさんが笑う。

リューも泣いてたりしてと思って顔を見ようとしたけど、真後ろにいて見えない。

かわりに何故か頭を撫でられた。


「ルディ、父上の体って起こして大丈夫かな」


「うん、でも、ゆっくりでお願い。できれば、クッションを背もたれにして、ゆったりと半分寝たような感じで。」


「わかった」


マティアスさんがスレイド王を起こして、リューがクッションを背に入れる。

顔を上げたスレイド王が私を見つめて不思議そうにした。


「君は……?精霊の、民?」


「えぇと、そうです。精霊の民で薬師のルディアです。僭越ながら治療をさせてもらいました。」


意識がだんだんはっきりしてきたのか、目に強さが戻ってきた。

口調にも力が戻ってきている。


「……そうか、苦労をかけた。ありがとう。精霊術か……かなり体力を使うだろう、大丈夫か?」


「はい、大丈夫です。さっき、リューにもチョコレート貰いましたし……。」


「………リュー?」


しまった、ここはリューカス様って言うとこだったかも。

慌てていたら、リューが私の肩に手を置いた。


「うん、俺の恋人」


「……は?リューの?」


「そう。」


「え、お前が?」


「そうだけど」


「嘘だろ」


「……驚きすぎじゃない父上」


仲の良さそうなやり取りがなんだか面白い。

あまり、長い時間は一緒に過ごせないかもしれないけど。

良かったな、そう思った。


「じゃあ、私は一回席外しますね。」


「え、なんで」


「いや、だって、家族で積もる話もあるでしょ」


「………」


微妙に不満そうなリューを見て、スレイド王が吹き出した。


「リュー、お前なぁ」


「なに」


「あんまりベッタリしてると嫌われるぞ」


「それ貴方が言うのね」


「……子供達の前でやめてくれないか」


スレイド王にツッコミを入れたアリーニャ様がクスクス笑う。


「ルディアさん、ありがとう。出来ればこちらで準備した部屋で待っていてくれる?何か体調に変化があったら力になって欲しいし……落ち着いたら、もう少しゆっくりお話させて欲しいの。」


そうして私とリューで自由に使ってと案内されたのは、なんとマティアスさんが赤ちゃんの頃使っていたという雛の間だった。


「こ、こんな思い出の部屋使っていいのかな」


「まぁ……アリーニャ様がいいって言うなら、いいんじゃない?」


「えぇ……」


リューが雛の間を見渡しながら、私の荷物を置く。


「……暫くここで寝泊まりしてって言われそうだね。」


「うーん、確かに。申し訳ないけど、何か体調に変化があるかもしれないから、私が近くにいたほうが安心だよね。ホックス医師のような治療ができる訳じゃないけど。」


「…………」


妙にリューが不満そうな顔をしている。


「リュー?どうしたの?」


『姉ちゃんのこと自分の部屋に閉じ込めたかったんじゃないの?』


「……その言い方やめろラナト」


『うぇ、図星かよ』


ポンと出てきたラナトが渋い顔をしている。

リューの部屋は確かに居心地良かったけど…それは仕方ない。

ラナトがドサリと可愛らしいクリーム色のソファーに腰を下ろした。


『でも、俺ここ好きだぞ。なんか、あの呪術とやらの気持ち悪い感じがしない。』


「ここは父上の強力な術式で結界が張ってあるからな。……父上が呪い避けまでしてたのは驚きだよ。」


「呪い避け?」


「うん。一応あるんだ。俺も最近使えるようになったばっかりだけど。……ちょっと、父上と話してくる。カルタスいる?」


「はいはい、何でございましょう。」


また突然カルタスさんが現れた。この人ほんとどこにいるんだろう。


「父上のところに行ってくる。ルディに何か食べさせてあげて。」


「かしこまりました。カルタス特製のチキンのクリームグラタンパイをお持ちしますね。」


「グラタンパイ!!!」


思わず食いついた私の頭を面白そうにポンポンして、リューはまた部屋を出ていった。

ゆっくりお父さんと話せますように。

なんとも言えない雰囲気のリューの背中に、そっと願いをかけた。


読んで頂いてありがとうございます。


いいねいつもありがとうございます!!

とても嬉しいです!


リュドリスはまさかのイケオジでした!?

「面白い!」「続きが読みたい!」と思ってくれた方、

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