4-16 対面
初めて対面したリューのお兄さん…レイナルド殿下は、リューより背が高い、スラリとして静かな印象の人だった。
リューと同じストレートの暗赤色の髪はきっちりと整えられ、オリーブ色の正装は黒い縁取りに胸元に金の装飾があり、なんとなく厳かで物々しい……軍服よような雰囲気を纏っていた。
リューよりももっと繊細で涼し気なその顔は、ビックリするほど冷徹で、無表情だった。
「長い間離宮に籠もられていたので心配していましたのよ。お加減が良くなりそうなのであれば、素晴らしいことですわ。」
連れ添うリアーナ様が優しげな雰囲気の声でリューに語りかける。
今だ、今しかない。
掴んでいたリューの腕に、こっそり力を込める。
「……あぁ、恋人のおかげで、やっと元気になれそうで良かったよ。」
「まぁ、それは良かったわ」
リアーナ様がにこりと私に笑いかける。
「どのような治療をなさってるの?」
「えぇ、実は私は薬師の免許を持っていまして。」
私も上品な笑顔で答えた。
「リューカス殿下のお役に立てて嬉しく思います。」
「……素敵なことね。」
そう、いくら呪いが薬で解けないと知っていても、これぐらいしか突っ込むことはできないはずだ。
私は更に笑みを深めた。
「ありがとうございます。あと少しなのです……全力で治療に努めます。」
「そう……早く全快するよう願っておりますわ」
そしてそのままレイナルド殿下と共に展示物の方へ行ってしまった。
レイナルド殿下は一言も口を開かなかった。
「やぁ、びっくりしましたよ。今日は街で軍事パレードと聞いてきたのですが、いらっしゃったのですね…」
「……この時間だと、撤収も完了したんだろう。」
リューがレイナルド殿下の背中をじっと見つめている。
マティアスさんよりずっと距離感がある、同じ血が繋がった兄弟。
王にしたいのはマティアスさんだけど、それでも兄弟で王座を争うというのは、どういう気持ちなんだろう。
「確かに、もう夜が更けて参りましたからな。それにしても……やはりレイナルド殿下は変わられましたなぁ。その、堂々としてらっしゃるというか…威圧感が出たというか。」
「口数が減ったのもあるかもしれませんよねぇ。以前の、一生懸命会話をしてくださるようなレイナルド殿下も良かったのですが。」
「……兄上は、最近はずっとあんな感じなのか?」
「え?えぇ、そうですね…その、ラナリス様が亡くなられてからはずっと、あのように無口になられて。全く喋らない訳ではないですよ?皆レイナルド様もラナリス様を失って、思うところがあるのだろうと見守っております。」
ころっと可愛い感じのメノラス卿が、少し悲しげに教えてくれた。
最初にリューの体調を気遣うようなことを言っていたから警戒していたけど、この人はいい人そうだ。
メノラス卿は気遣うように続けた。
「……リューカス殿下、色々ありますが…私はこの国が好きです。本日、ルディアさんも素敵な提案をいくつもされていたでしょう?この国はまだまだ可能性がある。私も頑張りますから…ぜひ、サラディーニを、宜しくお願い致します。」
「メノラス卿……ありがとう」
微笑むリューはよそ行きの雰囲気だが、それでも嬉しそうだ。
同じ思想で国を強くしようとする同士がいるのは嬉しいよね…
ほんわか温かい気持ちになった時だった。
ジワリと身体の力が引かれるような、そんな気配がした。
リューがさらりと私の背を撫でる。
「………?」
「…………大丈夫だ」
背後を伺うリューはまだ微笑んだままだけど、ピリッとした空気を纏っている。
何だろう、今の。
「……そろそろ戻ろうか」
「おぉ、もうこんな時間ですか。そうですな、お怪我もありますし、まだ体調も万全でないのであれば休んだほうがいいでしょう。お話出来て光栄でした、殿下。ありがとうございました。」
「あぁ、ありがとうメノラス卿。」
そのままメノラス卿に見送られ、会場を出る。
「……リュー?」
「………黙って付いてきて」
会場から庭園に出る。
手入れが行き届いた白い石造りの庭園には所々に篝火が焚かれ、所々にある南国の木々やサボテンの色鮮やかな花が、暗がりの中照らされている。
また、ジワリと身体の中の力が引かれるような感じがした。
と同時に、パンッと遠くでリューが強い結界を張った音がした。
「捕まえた」
「え!?」
ガバリと抱きかかえられたかと思ったら、物凄い風圧と同時に3階位の高さの空中にいた。
「!??!?」
タンッタンッっと壁と屋根を蹴りながら、5階建ての建物の屋根に上る。
向かい側は会場となったホールがある大きな祭事用の建物で、ホールの上は3階分の部屋があるようだ。
暗がりに綺麗なテラスが並んでいる。
「……兄上」
暗がりのテラスには、一人レイナルド殿下が佇み、読めない顔でこちらを見ていた。
暫くリューと見つめ合った後、レイナルド殿下は、開け放たれたテラスの窓から、暗い部屋の中へと入っていった。
砂漠の夜の冷たい風が屋根の上を通り抜けバサバサと服を揺らし体温を奪う。
ぶるりと体が震えた。
「ごめん、寒いよね。戻ろう」
そのままリューはふわっと5階建ての屋根から飛び降りた。
ヤバいと思ったのに、トントンと近くのテラスや壁を伝って、優しい感じで降りていく。
「と、飛び降りないの?」
「ギャーって叫ばれたら困るから」
「……ご配慮感謝します」
クスクス笑うリューが地面に降り立ち、そっと私を立たせた。
「嘘。こんな日までルディに意地悪しないよ。」
「……今まで意地悪してたのね。」
「………墓穴掘ったな」
しまったなぁとわざとらしい顔をするリューは…多分、あまり元気がない。
そんなのお見通しだ。
ギュッとリューの手を握る。
「ちゃんと教えて」
「……俺の部屋でね」
「え」
「あの部屋に帰すわけないでしょ」
「え、でも」
「うるさい」
そのままガブリと食べられた。
んー!と抗議の声を上げるが、もちろん聞かない。
そのままフニャフニャにされて、ぼんやりしてる間に連行された。
本当にズルいと思う。
どこをどう通ったか覚えてないけど、王宮の少し奥まったところにリューの部屋はあった。
とにかく本と書類だらけの部屋と、寛いだ感じの部屋、それから落ち着いた雰囲気の寝室だ。
黒とか焦げ茶とかグレーが好きなんだな、と思った。
「……なんか落ち着く。」
「そう?」
「もっとゴージャスでギラギラで豪華な部屋なんじゃないかと思ったのに。」
「偏見すごいね」
可笑しそうに笑うリューは、私を捕まえてドサリとグレーのソファーに座る。
うん、やっぱり座り心地は一級品だ。
そうやってお部屋観察をしていたら、ぐっと抱き寄せられた。
「はぁ……やっと、安心した」
「……心配してたの?」
「………めちゃくちゃ心配した」
私の肩口に顔を埋めるリューが可愛い。
ふふふと頭を撫でる。
「そういえば、リューに出会ってから、こんなに別行動ってしたことあんまり無かったよね。」
「……そうだね。」
顔を上げたリューは、私の頬を撫でた。
「ふふ、リューって、私のほっぺた好き?」
「……うん」
「モチモチでしょう〜!」
「………ほっぺだけじゃなくて、全部好きだよ」
「っえぁ?」
随分と怪しげな発言が飛び出したのが聞こえて慌ててリューの顔を見ると、どろりとした熱を宿した目がもう直ぐそこだった。
「……っ待って!ちょっと待って!」
「待たない」
「さっきの話!まだ聞いてない!」
「後で」
「ほら!ええと!お風呂!お風呂入ってない!」
「……じゃあ一緒に入ろう。」
「は!?!?」
ガバっと持ち上げられスタスタと寝室の奥へ向かう。
「待って!待って待って!」
「嫌だ」
バンッとお風呂のドアが開く。
バスタブにはお湯がなかったのに、リューがなにかフッと手を振ったら、ほかほかのお湯が満杯になった。
「リ、リューさんっ!」
「うるさい」
本気ですかとリューを見上げたら、やっぱりどろりとした目をしていた。
「他のやつに触られたところ、全部洗うから」
「は!?」
何言ってるのか。
「待って!その、触られたとか……ええと、手だけだよ!?たぶん!!」
「ほんとに?」
「え……た、多分……?」
「……全部洗う」
「ひゃー!!!」
無情にもひとりでにお風呂のドアがバタンと閉まった。
風の魔術だろうか。
なんという無駄遣い。
結局私は、朝まで聞きたい話を聞くことはできなかった。
読んで頂いてありがとうございます。
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リューさんはルディと離れ離れになった衝撃で暴走気味なご様子……
「面白い!」「レイナルド兄上どうなってんの?」と思ってくれた方、
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