3-8 離宮
「眩しい……」
夜明けとともに太陽に起こされた。
さすが太陽の国。
「ふふ、なんて顔してるの」
「えっ」
リューが真横で私の顔を覗き込んで笑っている。
「みっ……見てたの」
「うん、ずっと見てた」
「やめてー!!」
自分で腕枕をお願いしといてなんだが、恥ずかしすぎる。
白目剥いて寝てたりしなかっただろうか。
リューは朝から爽やかだ。
砂漠の朝は色々眩しい。
今日は離宮に着く日。
ついに、王にしたい男、リューの弟と対面だ。
「リューの弟って、どんな感じ?」
「そうだなぁ……」
うーんとリューが頭を悩ませる。
「華やかで優しくて器用で、なんだかんだ頭が良くて、自信と大局観と風格がある感じ?」
「なにその何でも持ってる感じ……」
冗談かと思ったが、本当だった。
「兄さん!やっと帰ってきた!」
「ただいま、マティ」
大きなオアシスのほとりに立つ美しい離宮。
白い生地に白い豪華な刺繍が施された、長く美しい服に身を包んだマティアス殿下は、
リューと同じ赤暗色の少しウェーブした髪に、リューより少し明るい、青い瞳の美青年だった。
華やかな雰囲気で、さらに周りに綺麗な女の人が3人ぐらいついてる。
ほんとにいるんだこんな人……
「カルタスに聞いたけど……本当に無事で良かった。」
リューにギュッと抱きつく姿が美しい。
待って、新しい扉が開きかけた。
確かにこれは王となるものなのかもしれない。
「それで、兄さん。紹介してよ。」
こちらを見て笑う顔まで華やかだ。
顔から光が出てるんじゃないだろうか。
圧倒される。
癒やしが欲しくてリューを見たら、なんだかちょっともやっとした顔をしていた。
「………俺の命の恩人のルディアだ。」
「…………ふうん?」
リューはなぜだか少し、不満そうだ。
「はじめまして、ルディア。僕は弟のマティアス。あんまり堅苦しいの好きじゃないから、気楽な感じでよろしくね。」
「よ、よろしくお願いします」
「硬いなぁ〜。呼び方もマティアスでいいから。楽にね!」
いいのだろうか。
空気が読めずリューに助けを求める。
「ルディ、ここではそれで大丈夫。言うとおり気軽な感じにしてあげて。」
「じゃあ……よろしくマティアスさん。」
「うん、よろしくねルディア。」
人懐っこい感じで握手をしてくれるマティアスさんは、同い年ぐらいだろうか。
だんだん見慣れてきた。リューにかなり似てる。ただ、雰囲気が真逆だ。リューは落ち着いた雰囲気だけど、マティアスさんはかなり華やかだ。
「ルディア、砂漠の夜はどうだった?兄さんちゃんと星見れるようにセッティングしてくれた?」
「バッチリ敷物布いてくれて、寝そべって見れました。砂漠の星ってすごいですね。」
「でしょ?兄さん特に砂漠キャンプ好きだから。素敵な夜を過ごせたみたいで良かった。」
ふふふと笑うマティアスさんはなんだかとっても嬉しそうだ。
リューのこと、すごい好きなんだろうな。
とりあえず旅装解きなよ、と促されるまま、離宮に入る。
陽の光が柔らかな離宮は少しひんやりとして白い壁が美しく、繊細な格子や彫刻により、荘厳な雰囲気を醸し出している。
ほとんど白い建物だからか、色鮮やかな布地や調度品が映えて美しい。
そんな中通された部屋は……私の雨ノ森の家が丸ごと入るのではというぐらい、広くて豪華な部屋だった。
「……あの……ここは……?」
「ルディアの部屋ね。兄さんの部屋の隣にしといたから。じゃあミリィ、ラム、ファナ、この後頼んでいい?」
「待ってました!じゃあマティ、また後でね!」
「ええと……?」
にこにこしている美女3人と数人の使用人と思われる女性たちという、謎の集団と共に豪華な部屋に閉じ込められた。
「ふふふ、リューカスがせっかく連れてきた女の子だもん、これは腕がなるわよね」
「たくさんお話聞かせてくださいね」
「……二人とも、ルディアが怯えてる気がするよ……」
華やかな美女、清廉な美女、スッとした感じのスマートな美女。
この豪華な組み合わせは何。
スマートな美女がいったん他の美女二人の圧を遮ってくれた。
「私はラミュナ。それから、この派手なのがミリアーナで、こっちの優しそうなのがファリアナ。3人とも、マティが王になったら、後宮に入る予定の妃候補だ。よろしく、ルディア。」
「よ、よろしくおねがいします……」
さすが、王様になる予定の人は違う。
既に美女を3人も侍らせているとは…
「ということで、とりあえず晩餐までに着替えてほしい。申し訳ないが……リューカスが珍しく女性を連れてきたもんだから、ミリィとファナが落ち着かなくて。困ったら助けるから、遠慮なく教えて。」
ラミュナさんは、一見冷たい雰囲気の顔を柔らかく微笑ませた。
素敵すぎる。
また危ない扉が開きかけた。
美女でイケメンというのは、本当に存在するらしい。
「ふふ、では早速……」
気づいたらミリアーナさんが迫ってきていた。
「さぁさぁ、砂だらけの服は脱いで。」
ファリアナさんはいつの間にか背後にいた。
なんとなく、雨ノ森の厄介な……狼魔獣の群れを思い出した。
そして引っ剥がされて、あっという間に上質な感じの柔らかな白いワンピースを着せられた。
髪の毛も少し編み込まれてハーフアップにまとめてくれた。
……かわいい。こういうのちょっと着てみたかった。
このまま教会に行けるかも……とミリアーナさんが呟いている。
食事の前に何か祈りを捧げる習慣でもあるんだろうか。
「うん、ルディアは全体的に淡い色だから、こういうの感じが似合うわね。」
「ルディア可愛い!」
3人とも満足そうにしてくれている。
「……結構しっかりした感じの晩餐にご招待頂ける……ということですか?」
勢いに負けてなされるがままになってしまったけど、いまいち状況が掴みきれない。
慣れない人達に囲まれて、少し不安になる。
「大丈夫よ、私達とあの兄弟だけで楽しくご飯食べるだけだから。気楽にしていいわ。リューカスが消えてしまって、マティも私達も本当に心配してたんだもの。お祝いぐらいしたっていいでしょう?」
「そうよ!宴会よ!!盛り上がらないと!!」
「そ、そうですか……」
王族二人に妃候補三人と、気楽な宴会…?
やっぱりおかしい気がする。
「……あの……私なんの身分もないのですが、本当に同席して大丈夫ですか?」
すると、三人はきょとんとした顔をした。
何か間違っていただろうか。
「ルディアはリューカスの命の恩人で、東の国の国境の守り人カルバディス卿の支援がある人でしょう?間違いなく客人扱いよ。適当な扱いしたらあの爺さ……カルバディス卿に殺されるわ。」
「な、なるほど……?」
すっかりおじいちゃんのこと忘れてた。
遠い昔のことに感じる。
「ほら、色々話したいだろうけど、リューカスとマティ抜きだと話すすまないだろ?待たせてるだろうから行こう。」
促されて部屋から出る。
晩餐の部屋に向かう離宮の廊下。
ふわふわの絨毯。
なんだかわからない、高そうな絵。
雨ノ森から、本当に随分遠いところまで来た。
調度品の鏡に映る自分は、今、使い古した雨ガッパではなくて、異国の上品な洋服を着ている。
2つのエメラルドを思い出す。
おばあちゃんの言葉が頭に浮かぶ。
―――色々な未来を選ぶには、力が必要だ。あたしが与えられるものは与えてきたつもりだよ。
リューに付いていくと決めたのは、自分だ。
リューの手を取ってここまで来たのも自分だ。
リューが何者なのかも知った上で、ここまで来たんだ。
この先どうなるか分からないけど。
後悔しない未来を掴むために、リューの未来が明るくなるために、私にできることは何?
私は背筋を伸ばした。
私は、東の国の賢女アデルと、国境の守り人カルバディス卿の娘で、精霊の民の生き残り。
リューの目的は、マティアスさんを王にすること。
なら私は、私の持つこの力を、どう使う?
二人の王族が待つ晩餐室の扉が開く。
マティアスさんと一緒に佇んでいたリューは、マティアスさんと似た白い上等な服を着ていた。
もう、雨ノ森で出会った、砂漠で寝転がっていた、ただのリューではない。
この人は、この国の第二王子リューカスだ。
「……似合うじゃん」
ちょっとからかうように笑うリューに、私はにっこりと、綺麗な笑顔を向けた。
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