2-18 下山
第二章最終話です!
爽やかな朝。
例によって血を大量に使った私は気持ちよく爆睡し、リューのカフェオレをのんで幸せな気持ちに浸っていた。
「あ〜幸せ〜これ毎日飲みたい〜」
「ただ淹れてるだけなんだけど、そんなに美味しい?」
「リューが手間ひまかけて入れてくれてるってのがいいのよ」
「…そう」
最近変なリューがまたこちらをじっと見てくる。
本当に何なんだろう。
「…何か気になることでもある…?」
「………ルディがどういうつもりなのかなと思って」
「どういう??」
話が読めない。
ちらりと部屋の片隅を見ると、キューがやれやれと首を振っている。
人型を取ったせいか、イタチっぽい姿なのに動きが人っぽい。
「…ごめん、気にしないで。まずはこれからどうするか考えよう。」
リューがテーブルにひらりと地図を載せた。
「今ここだよね?」
オルネリア王国の真ん中より南西の方角。
国の中ほどにある深い山のなかの泉がここの場所だ。
南東の端の港町ラミトから真横にオルネリア王国を横切っていて、あと少しで反対側の国境に向かって突っ切るような感じで移動をしてきた。
「サラディーニに入るには、通常なら南西の国境カナラディアの街を経由して入るか、北西の雨ノ森がある辺りの国境タナラの街から入るかの二択だ。
中央の山脈を越える手もあるが、知っての通り険しすぎてその道を通る人は殆どいない。」
「…ということは、敢えての山越え?」
「…いや」
リューがニヤリと笑う。
「カナラディアの街へ行こう。近いし。」
「えっでも明らかに追手が待ち伏せてそうじゃない!?」
山からの国境越えはできなくもないが、超えた場合、両国に越境を知らせる魔道具が発動して警報が出るはずだ。
恐らく敢えて山越えルートには多くの追手は置かずに、2つの街に重点的に追手を配置するはず。
だからきっと山越えして猛ダッシュでサラディーニ内の安全なところに逃げるんじゃないかと思ってたんだけど。
「うん。多分サラディーニの王都に近いのもカナラディアの街だから、ランディルはこの辺りに居るだろうね。だから見つからないようにするなら山だろうね。」
でも、山越えを選ばなかったということは。
「……むしろ嵌めるつもりね」
「さすがルディ、その通り。」
私はうぅんと目を瞑りながら頭の中で状況を組み立てた。
「リューの元々の目的は…弟が成人するまでとにかく時間を稼ぐこと。なぜなら、王位継承できるのが兄だけになり、王位を継がれるのを防ぎたいから。理由はわからないけど、サラディーニではリューが生きていることだけは分かってる。だからとにかくリューはできる限り生きて時間を稼ぎたい。そして今までできるだけ見つからないように過ごしていた。国に戻る必要もあるけど、それでもできる限り見つからないで生きて帰りたいと思っていた。」
リューの胸元を見る。
服の下で見えないけど、妖しい模様はなくなってるはずだ。
「ただ、解呪ができた今、前提条件が変わったから…もし今リューが殺される可能性が低くなったとするなら、弟の王位継承のために、もっと攻め手をうってもいい、ということよね。」
リューが満足そうに頷く。
「ご名答。もうみすみす殺されたりしない。」
「なるほど。」
私は深く頷いて、リューに問いかけた。
「あのランディルとかいうやつは、あなたの呪いが解けてると思ってるかしら?」
「…精霊の民が付いてるから、もしかしたら予想している可能性もあるけど…精霊の民に関する情報はそんなに多くないからね。ルディが演技派だったら、解呪出来てるとは思わないんじゃない?」
「…それはそれは…」
私もニヤリと笑った。
「腕が鳴りますわね」
「ルディ、すっごい悪い顔してるよ」
「ふふ、目にもの見せてやりますわ」
私とリューに刃を向けた事を後悔させてやるわ!!
と、どんな風に悲劇のヒロインを演じようかと考えていると、リューがこっちを覗いてきた。
「…そんな悪い顔してる?」
「いや…怖くないのかなと思って。」
「??リューがいれば大丈夫なんでしょ?」
「…まぁ…そうなんだけどさ…勝手な希望だけど、微妙に怖がってくれたほうが、ルディを守る俺の格好もついたというか。」
「??リューは格好いいよ?」
「…っ」
おや。珍しい物を見た気がする。
これは、照れているな?
ニヤニヤしながらリューの顔を覗き込む。
「リューくん?」
「なに?」
「照れた?」
「………」
ジト目で見られてニヤッとする。
「うふふふふ…」
「ルディ…」
油断したのが悪かった。
がばっと頭を抱き寄せられて、そのままカプッと口を食べられた。
ペロッと自分の口を舐めるリューの色気がやばい。
「…ルディもかわいいよ」
撃沈したのは言うまでもない。
リューを舐めてかかるのは…やめたほうがいいね…
そうして呆然と過ごしているうちに、いつの間にか下山の準備が完了していた。
「またあの山道かー」
ここから先が長い。
そして前回明け方前に出発したのに今日はもう朝と言えど日が高い。
「あぁ、それなんだけど、別の道で行こうと思って。」
「別の道?」
そんな所あっただろうか。
あの道以外は切り立った崖とか、岩だらけとか、歩ける道じゃ無かったような気がするけど。
「このままカナラディアまで一直線で行った方が早いでしょ?」
「一直線!?」
そんなばかな。
一直線だとすると、高低差が大変なことになってるはずだ。
リューが気にせずスタスタ崖の方に歩いていく。
「リ、リューさん、こっちは無理じゃないかなー」
「ルディは俺に捕まってたら大丈夫だよ。」
「いやいやいや…捕まるとかいうレベルじゃ…」
崖が見えてくる。
神々が住んでそうな絶景の切り立った崖が広がる。
「ほら!無理!降りられないって!!!」
「はいはい。おいでルディ。」
ふわりと横抱きにされる。
本来なら心ときめく抱き方だと思う。
でも私の心拍数は別の意味で跳ね上がっている。
「うそでしょ?」
「ほんと」
信じられない気持ちでリューの顔を見ると、妙に優しい顔をしていた。
逆に怖い。
「じゃあ、暴れないでちゃんと捕まっててね。」
頭にチュッとされる。
甘い。甘いけど。
「…待って…」
「ふふ、待たない」
トンッとリューの足が崖の上の地面から離れた。
ふわっと宙を飛んだのは一瞬。
そのまま奈落の底へ落ちるような落下の感覚が足元から一気に襲ってきた。
「いやぁーーー!!!!!」
後で説明してもらったけど。
風の魔術と防御結界をなんたらかんたらして、ジャンプしたりいい感じに落っこちたりして山から降りたらしいのですが。
目を瞑ってリューにしがみついていたので何もわかりません。
解呪して魔術が戻ってきたのが嬉しかったのか、さすがリュー!!みたいなのを期待したらしいのですが。
平地に着いて立ち上がることもできず抱きかかえられたまま、涙目で文句を言う私もそれはそれで良かったかも…という謎な感想を述べるリューを見て…
安易に解呪したらいけなかったのかもしれないと、私は深く後悔したのでした。
ただ、のびのびと気持ちよさそうにしているリューを見て。
未来が開けたリューに、これから沢山いいことがあるように。
まだ脳裏に浮かぶ、夜の光る碧ノ泉に、私はこっそり、祈りを捧げた。
読んで頂いてありがとうございます。
なんとかここまで来れました…!
ここまでお読み頂いた方、本当にありがとうございます!!
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「第三章も楽しみ!」「頑張ったじゃん!」と思ってくれた方、
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