3-1 国境の街
これより第三章です!
ざわざわと色んな音が交じる雑踏。
所狭しと並ぶ露店。
沢山の人種が行き交い、店の軒先には異国の旗や見慣れない文字が踊る。
嗅ぎ慣れないスパイスの香りが漂う。
「……あれ、美味しいのかしら」
「…ルディは食に貪欲だね…」
カナラディアの街にやってきた。
異国情緒溢れるこの国境沿いの街は、サラディーニと南国アルテミスとの三国の国境沿いにあり、想像以上の活気だった。
そしてあれもこれも美味しそう。
「とにかく。作戦覚えてる?」
「もちろん!バッチリよ。」
隠れたふりして目立つ大作戦。
ランディルは私が薬師なのは絶対覚えてるはずだから、わざとコソコソとどこかの商人に薬草を売りに行く予定だ。
ふふふ、演技の腕がなる。
「…あとさ。」
「うん?」
なんだかちょっとリューが言いづらそうな雰囲気を醸し出している。
なんだろう。
「…もし、ルディの親しい人が、何か良くないことをルディにしそうだなと思ったら…間に入って止めてもいい?」
「??うん?」
何の話だ?
どうしたんだろう。
そして親しい人って誰だ。
「…やっぱり、ルディの自由を奪うことになっちゃうかな…」
「え???」
自由を奪うってなんだ?
さっぱり話が読めない。
読めないけど。
「うん。まぁ、普通に止めてよ。リューより親しい人とかいないし。」
「……っ…そう」
???全く意味がわからない。
リューが照れている。
照れる要素あっただろうか。
首を傾げてリューを見たら…
見えてしまった。
すっごく美味しそうな焼鳥!!!
あの見たことのないスパイスは何!?
食べたいー!!!
そして。
…案の定、リューとはぐれてしまった。
だって…串に刺さった焼鳥…最高に美味しそうだったんだもの。
困ったなーと焼鳥をもぐもぐする。
リューならあっという間に私を捕獲しそうなのに、残念ながら姿は見えない。
一応宿は取ってるから最悪夜には落ち合えるはずだけど。
確か遭難したら動かず待て、だった気がするし、ここで待ってよう。
私の立ち止まりそうなところ、多分リューなら予想つくと思うんだよね。
…うん。このスパイスはなかなかいい。
もう一本食べたい。
「やぁお嬢さん、焼鳥美味しい?」
吊り目のひょろっとしたオルネリア人のお兄さんが近寄ってきた。
……怪しい。
「何か御用ですか?」
「あぁ、実は友達に頼まれて知り合いを探してて。君に似てる子なんだ。君、お薬作れる子だったりしない?」
「お薬…???」
怪しすぎる。
予想だが。
多分あのランディルとかいうやつは、栗毛の若い女の薬師を探せとか言ってるはず。
つまり、この男は私の見た目だけで何かを判断して声をかけて来たということだ。
もちろんただ焼鳥を食べる女に妙な魅力を感じる変な志向の人という可能性もあるが。
『お薬作れる子』なんてワードは簡単には出てくるはずがない。
いきなりのヒットだろうか。
とりあえず様子を見る。
「そうそう。ロディーって奴なんだけどさ。その子のことすごい心配してるんだ。」
「ロディーさん!?」
思っても見なかった名前が出てきて思わず反応してしまう。
「えっ、まじか。まさかの大当たりか…」
ランディルじゃない。まさかのロディーさん。
よく考えてみたら、あんな走り書き一つで出てきたから心配させて当たり前か。
まさか探してくれてるとは。
その男は満面の笑みで手招きした。
「あっちにいるからさ。ちょっと来てくれない??ロディーさん君のこと凄く心配してたよ。どこに行っちゃったんだろうって。」
「この街にいるんですか?」
「何でも恋人とサラディーニに行っちゃうんじゃないかって、わざわざこの国境まで来たらしいよ?」
「えーー!!」
なぜそこまで…と思ったところで思い出した。
ールディア、ロディーさんに口説かれてんじゃないの?
「ねぇ、こっち。着いてきてよ。」
「あっ…はい。」
まさか…そういうこと?
紅茶とクッキーを思い出して、なんだか申し訳ない気持ちになる。
そういえばあの高い紅茶、飲みきらずに置いてきてしまった。
まだあれをもらってから一ヶ月も経ってないから飲めるだろうけど、
家に帰るかどうかもわからないしな…
歩きながら考えていると、ふわっと胸に違和感がよぎる。
……一ヶ月も経ってない…?
ロディーさんは月に一度ぐらいのペースでやってくる。
前回納品したものを本部に持ち帰り集計、次回は本部から出された私への発注リストを持ってくるはずだ。
だから、ペースが大きく崩れることは基本ないはず。
つまり、今回は何かいつもと違うことがあるということだ。
もう一度、日付をよく考えてみる。
私が雨ノ森を飛び出したのは約一週間前。
雨ノ森のあの家からここの街までは、普通の旅程で言えば4、5日かかるだろう。
だから、ロディーさんが私の置き手紙を発見したのは、私があの家を出たすぐ後だ。
それは、ロディーさんが前回私の家を訪れてから…多分二週間ぐらいしか経ってない。
そして。
どうして雨ノ森近くの国境の街ではなくて、わざわざこの街へ直行したのだろうか。
リューの目的地がサラディーニの王都であること、私が精霊獣に乗り、凄いスピードで飛んでいったこと。
それを知っていないと…もしくはそれを知っている人と共にいないと、この場所へ来る可能性は、低いのではないか。
男は街の外へ続く道を歩いていく。
恐らくこの方向に、人気は無い。
私は努めて何も知らないピュアな感じを装って男に話しかけた。
「ロディーさん、またロバ連れてきてます?こんな街の郊外にいるなんて、やっぱりこんな栄えた街の中にはロバや馬は預けられないのかしら。」
「ロバ?いたかなぁ…でもそうなのかもね?」
話をしっかり合わせて来なかったところを見ると、この人は謝礼目当てかほんとにただの友人か、軽い感じなんだろう。
特にピリピリした雰囲気もなく、のんびり歩いている。
周囲を見渡す。
当然ながら、リューは見当たらない。
でも、なんとなくだけど。
リューのことだから、その辺に隠れてるような気がする。
私は腹をくくった。
罠な感じ満載だけど、ここはこのまま罠にかかろう。
最悪私に何か害がでたら魔術付与をした髪紐からリューへ知らせが行くはず。
だから、私が今やるべきことは、呪いにかかったままのリューについてきた、『リューがいないと生きていけないのっっ』ってピーピー泣きそうな女になることだ。
街の郊外の林を抜け、開けた場所に出た。
古びた小屋の前で、一人の男が移動用のシンプルな折りたたみ椅子に座ってのんびりコーヒーを飲んでいる。
間違いない、ロディーさんだ。
こちらを見て、はっと立ち上がる。
「ルディア!!お前、どこ行ってたんだ!心配したんだぞ!」
「ロディーさん…」
ガシッと両肩を掴まれる。
「帰ろう…みんな心配してる。あの一緒にいた異国人に連れてこられたんだろう?説得が必要なら、俺も一緒にするから。」
「……私がリューに勝手についてきたのよ。」
ロディーさんはやれやれと困った顔をした。
「…一時の気の迷いはある。ルディアもまだ若いしな。でもよく考えろ。俺と共に来て、この慣れ親しんだ国で、安定した薬師の仕事を続けたほうが幸せだと思わないか?」
「思わないけど…」
演技でもなんでもない。
普通に思わないのだけど…ロディーさんは、どうしてそれが私の幸せだと思ったんだろう。
「ルディア…君みたいな優しい女の子が、この世界で守られずに生きていくことなんてできないだろう?俺が守ってやるから。」
「…? 女の人でもみんな強く生きてるわ?」
何か価値観がずれている気がする。
ロディーさんは私のことどんな人だと思ってるんだろうか。
「あの異国人に何を吹き込まれたのか知らないが…あまり世の中を舐めないほうがいい。君のような女の子は騙されて終わりだ。あの異国人はどこだ?説教してやる。」
「…? なんで女の子が騙されるの?」
大体人なんて十人十色だ。
男女関係なく騙される人は騙されるし、騙されない人もいる。
女の子を一括にして語る意味がわからない。
「…とにかく。君は俺の街に来るんだ。みんなが君の薬や化粧品を待ってる」
「ごめんなさい。私はロディーさんの街には行くつもりないの。発注書も新規のものは頂いて無いし、未納品分もないはずよ。だから、待ってる人はいないし。」
「……それじゃ困るんだよ。既に君の処方薬や軟膏は注文が入っている。」
「…え?」
既に注文とはどう言うことだろう。
「すみません、受けた記憶がないので…ロディーさん独自のだったら、他の薬師の方にお願いして?」
「…軟膏は君のでなければならない。」
「軟膏?あの手荒れ用の?」
「あぁ、それもあるといいが…もう一つのほうだ。」
「ロディーさんのお母さんの湿疹用に処方しているやつのこと?あれは売り物ではないわ。」
「…いや、あれは売れる。次回発注分も既に前金で売上分をもらってるんだ。」
「…え?」
耳を疑った。
売れる…?
「あれは、それぞれの人の症状に合わせて処方を変更する必要がある効き目の強い塗り薬よ。不用意にただの肌荒れに使用すると、身体の他の部分への副作用があるものだから…」
まさか。
「……処方薬を転売しているの…?」
「しっかりした効き目があるんだ。問題ないだろう?」
「何を言ってるの!それは違法行為よ!」
処方薬の免許も無い上に、免許があったとしても転売行為そのものが違法行為だ。
オルネリアは薬草の一大産地で、薬師も多く、薬の法整備もかなりしっかりしている。
サラディーニや東の国へ輸出しているぐらいなのだから、品質も確かなものだ。
だからこそ、しっかりしたルールで品質と安全を保ち、信頼を維持しているのだ。
ロディーさんの行為は、信頼も裏切り、安全を脅かすやってはならないことなのだ。
「…お母様の薬はどうしてるの?」
「…適当な軟膏を渡してる。」
「なっっそれじゃ良くならないわ!!」
「だったら!!」
ガシッと腕を強く掴まれる。
「君が俺の街に来て、軟膏を沢山作ってくれたらいいじゃないか!」
「なにを…言っているの…?」
「ルディア、どうして分かってくれないんだ…」
ロディーさんの手が、私の腰に回る。
「気づいてくれよ、俺は…君を愛してる」
「………は?」
いつかリューが言ってくれないかな、と思ったことがある。
立場のあるリューがそれを口に出すことはないだろうと思って、最初から蓋をしていた好意を告げる言葉。
それが、違う人の口から告げられる。
押し付けのその言葉は、違和感と一緒に心を冷やす。
恋は落ちるもの、愛は育てるもの。
あの日、本屋で教えてもらった言葉が頭をよぎる。
私はこの人と恋に落ちた記憶もなければ、愛を育てたこともない。
ロディーさんの手を外そうとしたが、ぐっと掴まれた。力が強い。
ぐっと押し戻すのに、諦めない。
「俺からの贈り物も沢山貰ったろう?あんなに貢がれておいて冷たいじゃないか。」
「…っ離して」
「素直になれよ」
信じられない言葉が聞こえる。
顔に息がかかる。
頬に手が乗せられる。
嫌だ、触れられたくない。
ぞわりと、嫌なものが心の底から湧き上がる。
ーリューに触られるのと全然違う。
ドンッと思いっきり突き放した。
ロディーさんが不満そうにこちらを睨む。
「愛してるって言っただろう?」
「私はロディーさんと愛を育てた記憶は無いわ!?」
またぐっと腕をつかまれる。
「…っっ」
「……あの異国人とは育てたと言うのか。」
リューと?
これまでのことを振り返る。
恋には落っことされたと思う。
じゃあ、愛は育てた?
「…そうね。」
リューと過ごした日々のことを思い出す。
本屋で聞いた言葉が、しっくり来た気がした。
こういう事だったのかもしれない。
「リューとなら、愛を語れると思うわ。」
「………ふざけるな」
ギリッと掴む腕に力が入る。
ロディーさんが見たことのないような、怖い顔になった。
間近で力の強い大きな男に責められ、恐怖を感じる。
「あれだけ良くしてやったのに、裏切るのか?」
「私とロディーさんは元々そういう関係じゃないでしょう!」
「俺の街へ来て軟膏を作れ」
「嫌だってば!!それは違法なの!!」
グーッと押し返すと、ぱっと手が離れた。
やった!と思ったら。
ロディーさんの手が、大きく振り上げられてるのが見えた。
信じられない思いでそれを見上げる。
殴られる…!?
パシッと、その手をリューが掴んだ。
「なっ…お前どこから」
「今の会話、全て録音させてもらいました。国の警備隊に渡せばこの国の処方薬販売違反に加えて、女性への乱暴も問われるかもしれませんね。」
「は!?」
手を振りほどいたロディーさんが距離を取る。
「…まさか」
「ルディが説明したでしょう。」
心臓がバクバクしている。
まさか、ロディーさんに、手をあげられるなんて。
自分より力が強い男の人に、初めて恐怖を感じた。
リューの背中にホッとする。
やっぱり、隠れて着いてきてくれてたんだ。
「…ルディア、俺のこと、訴えるのか?」
「……もう二度としないと誓うなら、そこまではしません」
「ルディア!!」
「でも、もう二度と私に会いに来ないで下さい。」
喜ぶロディーさんを、冷たく切り捨てる。
きっちり薬草の売買はできていたのに、あれは本部との契約のおかげだったんだろう。
お土産を持ってきてくれたロディーさんを思い出す。
顔なじみの親戚のお兄さんのように思っていた。
もうそんな風には思えないだろう。
「ルディア、もう一回考え直しー」
ロディーさんが諦めずに食い下がってきた時だった。
私達の頭の上に、無数の氷の矢が降ってきた。
読んで頂いてありがとうございます。
いいねいつもありがとうございます!!
とても嬉しいです!
ブックマーク、評価して下さった方、ありがとうございます!!
3章もがんばります!
「面白い!」「続きが読みたい!」と思ってくれた方、
ぜひブックマーク、☆下の5つ星☆から☆いくつでもいいので応援よろしくお願いします☆彡




