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108の神スキルと2つの制約〜煩悩まれみのクズが聖人と呼ばれるまで〜  作者: よちゃ


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8/9

本当の気持ち

村長宅を後にした水谷一太は、重いため息を吐きながら夜道を歩いていた。


「……成果ゼロ。」


夫婦喧嘩の原因は結局わからず、話もほとんど聞けないまま追い返された。


空を見上げると、すでに日は沈み、村は夜の帳に包まれていた。


「さすがに今から帰るのは無理か。」


「今日はこの村で泊まろう。」


そう決めて、一太は酒場へ戻ることにした。


◆


「泊まりたい?」


酒場の店主は、一太の顔を見るなり眉をひそめた。


「ええ。一泊お願いできますか?」


「まあ、二階が宿になってるから部屋は空いてるが……。」


店主は腕を組み、一太をじっと見つめる。


「その前に言うことがあるよな?」


「……?」


「お前だ。」


店主の額に青筋が浮かぶ。


「うちのドアぁぁぁぁぁっ!!」


「すみませんでしたぁぁぁ!!」


酒場中に一太の土下座が響き渡った。


「あれ新品だったんだぞ!」


「いや、俺も止めようとしたんですよ! でも体が勝手に!」


「意味がわからん!」


「俺もわかりません!」


結局、事情を説明しても誰一人理解してくれず、一太は延々と説教を受けることになった。


「まったく……。」


店主は深いため息を吐く。


「宿代は銀貨一枚。それとドア代は出世払いでいい。」


「出世する予定ないんですが。」


「じゃあ一生借金だな。」


「そんなぁ……。」


肩を落としながら、一太は二階の一室へ案内された。


◆


「はぁ……。」


質素な部屋だった。


木製のベッドと机、小さな窓が一つ。


だが今の一太には十分だった。


「今日は疲れた……。」


ベッドへ倒れ込む。


柔らかい。


「最高だ……。」


そのまま眠りへ落ちようとした――


コンコン。


扉が叩かれた。


「はい?」


こんな時間に誰だ。


一太は首をかしげながら扉を開ける。


そこには、小柄な少女が立っていた。


「師匠!」


「ピュティ!?」


満面の笑みを浮かべたピュティだった。


「どうしてここに?」


「追いかけてきました!」


「いや、どうやって?」


ピュティは胸を張る。


「師匠の通った道を、そのまま真っ直ぐ進んできました!」


「……。」


「途中で木が何本も折れていましたし、お店の壁には人型の跡もありました!」


「やめろぉぉぉ!!」


一太は頭を抱えた。


「俺の黒歴史を追跡するな!」


「あんな一直線の道、迷うほうが難しかったです!」


「そりゃそうだろうな!」


超高速で吹き飛ばされた結果、街道には無数の被害が残っていたらしい。


「でも遅かったな。」


「はい。」


ピュティは真面目な顔になる。


「途中で村の人たちに聞き込みをしていました。」


「聞き込み?」


「村長さん夫婦のことです。」


一太も姿勢を正す。


「何かわかったのか?」


ピュティは頷いた。


「原因が――」


その瞬間だった。


「うるせぇ!」


「女どもは黙ってろ!」


「何ですって!?」


「男のくせに!」


外から怒鳴り声が響いた。


「なんだ?」


窓の外を見ると、村の広場に大勢の村人が集まっている。


「騒ぎになってます!」


ピュティが窓へ駆け寄る。


男たちと女たちが向かい合い、今にも殴り合いになりそうな空気だった。


そして、その中心には――


「村長!」


「奥さんまで……!」


二人は互いを睨みつけ、あと一歩で掴みかかりそうになっている。


「まずい!」


ピュティは部屋を飛び出した。


「ちょ、おい!」


一太も慌てて後を追う。


◆


広場は騒然としていた。


「村長を支持するぞ!」


「奥さんが正しい!」


「男の味方だ!」


「女の味方よ!」


完全に男対女の対立へ発展している。


「もうやめてください!!」


ピュティの澄んだ声が夜空へ響いた。


その声に、村人たちの視線が一斉に集まる。


「お願いです!」


彼女は両手を広げ、村長夫妻の間へ立った。


「もう争わないでください!」


一方、一太はその後ろで頭をかきながらぼやく。


「……めんどくせぇ。」


誰にも聞こえないよう、小さく呟く。


(俺、もう帰りたい……。)


しかし、超高速移動を思い出して口を閉じた。


(いや、帰れねぇんだった……。)


ピュティは顔を真っ赤にしながら、意を決したように口を開く。


「あ、あの……!」


村中が静まり返る。



ピュティは耳まで真っ赤にしながらも、意を決したように口を開いた。


「も、もしかして……夫婦喧嘩の本当の原因って……夜の夫婦生活……ですよね!」


広場が、水を打ったように静まり返る。


村長夫妻は目を見開き、村人たちも言葉を失った。


一太だけが頭を抱える。


「おいおい……真正面から行ったな……。」


しかしピュティは、逃げることなく続けた。


「だ、だって村の皆さんから聞きました!」


「結婚した頃のお二人は、とても仲が良くて……お二人とも今の半分くらいの体型だったそうです!」


「なっ……!」


「それが年月を重ねるうちに、お二人とも少しずつ、少しずつ大きくなられて……。」


「少しずつじゃないだろ……。」


一太が思わず小声でツッコむ。


ピュティは咳払いを一つすると、さらに続けた。


「そして、ある日……。」


「二人で寝ていたベッドが、壊れてしまったそうです。」


ざわっ、と村人たちがどよめく。


「今のお二人の体重に耐えられるベッドが、この村にはなくて……。」


「それ以来、お二人は別々に眠るようになった。」


「夜にゆっくり話す時間もなくなって……。」


「気持ちを伝え合う機会も減って……。」


「それが少しずつ積み重なって、今のような関係になってしまった……。」


村長と奥さんは、何も言い返せなかった。


図星だったからだ。


村人たちはざわめいていた。


「そうだったのか……。」


「だから最近は別々に寝ていたのか。」


「なるほど、それで夫婦仲まで……。」


誰もがピュティの話に聞き入る中、一人だけ顔色を変えている男がいた。


一太である。


「……いや。」


額を一筋の汗が伝う。


「待て。」


嫌な予感がした。


ものすごく、嫌な予感がした。


(この流れ……。)


《救済対象の深層問題を確認しました。》


《救済方法を確定しました。》


「来たぁぁぁぁっ!!」


一太が絶叫した瞬間、冷たい機械音声が脳内へ響き渡る。


《【偽善】発動。》


《【偽善】・強制聖人モードを起動します。》



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