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108の神スキルと2つの制約〜煩悩まれみのクズが聖人と呼ばれるまで〜  作者: よちゃ


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天使の揺籠

一太は慈愛に満ちた眼差しで村長夫妻を見つめた。


「夫婦とは、同じ未来を歩む者。」


「ならば、その歩みを支える場所もまた、一つであるべきです。」


静かに両手を胸の前で重ねる。


「失われた安らぎに、再び温もりを。」


「離れた心に、再び寄り添う場所を。」


「──眠りは、明日を生きるための祝福。」


「どうか、この揺り籠が、お二人の未来を優しく包みますように。」


ゆっくりと右手を天へ掲げる。


「顕現せよ――」


「天使の揺籠《てんしのゆりかご》」


ゴゴゴゴゴゴゴ……!!


大地が低く唸り、夜空に純白の光が柱となって立ち昇る。


その光は遥か彼方――


一太が暮らす丸太小屋まで一直線に伸びていく。


次の瞬間。


丸太小屋の寝室に置かれていた愛用のベッドが、眩い光に包まれた。


フワリ、と宙へ浮かび上がる。


窓をすり抜け、森を越え、夜空を流れ星のように飛翔する。


そして――


ドォォォォォォン!!


轟音と共にタカミ村の広場へ降り立った。


白木で作られた、一太愛用のベッド。


月明かりを浴びて神々しく輝いている。


村人たちは思わず息を呑んだ。


「お、おお……。」


「空から……ベッドが……。」


「奇跡だ……!」


その一方で、一太の意識だけは盛大に絶叫していた。


(やっぱりぃぃぃぃぃっ!!)


(俺の家ぇぇぇぇぇっ!!)


(俺のベッドぉぉぉぉぉっ!!)


(冷蔵庫の次はお前かぁぁぁぁぁ!!)


しかし、聖人となった口元は穏やかな微笑みを崩さない。


「どうか、このベッドをお使いください。」


「ですが、忘れないでください。」


「このベッドは、お二人を仲直りさせる魔法の道具ではありません。」


「お二人が互いを思いやり、歩み寄ろうとする意思があってこそ、この揺り籠は真の安らぎをもたらします。」


「夫婦の絆を取り戻すのも。」


「そして、この村に再び穏やかな日々を取り戻すのも。」


一太は優しく微笑む。


「それは、お二人自身の手に委ねられているのです。




広場は静寂に包まれていた。


やがて、一人の村人がぽつりと呟く。


「……すごい。」


その一言をきっかけに、あちこちから感嘆の声が上がり始める。


「まさか空からベッドを呼び寄せるなんて……。」


「これが神の奇跡……。」


「本当に聖人様だ……!」



称賛の声は瞬く間に広場中へ広がっていった。


村長は目頭を押さえながら、一太へ深々と頭を下げる。


「本当に……ありがとうございます。」


その隣で、奥さんも頬を赤らめながら小さく頭を下げた。


「これからは……ちゃんと二人で向き合ってみます。」


その言葉に、村人たちから温かな拍手が湧き起こる。


「よし!」


「運ぼうぜ!」


「男だけじゃ重い!」


「私たちも手伝う!」


いつの間にか男も女も関係なく集まり、皆で力を合わせてベッドを担ぎ始めた。


「そっち持って!」


「ゆっくり、ゆっくり!」


「角をぶつけるなよ!」


先ほどまで対立していた村人たちが、笑い合いながら一つのベッドを運んでいく。


その姿を見て、村長夫妻も思わず顔を見合わせて微笑んだ。


「皆さん……。」


「ありがとうございます。」


一太はその様子を穏やかな笑みで見守る。


(……いや、俺のベッドなんだけどな。)


心の中だけは泣いていた。


◆


やがて、一行は村長宅へ到着する。


「よし、このまま真っ直ぐ!」


「もう少し右!」


「慎重に!」


ベッドは玄関の前まで運ばれた。


そして――


「入れろ!」


「せーの!」


ゴッ。


……動かない。


「ん?」


「もう一回!」


「せーの!」


ゴンッ!


やはり入らない。


玄関よりも、ベッドのほうが大きかったのである。


「…………。」


全員が固まる。


村長が玄関とベッドを見比べる。


奥さんも見比べる。


村人たちも見比べる。


「……入らない。」


誰かが現実を口にした。


「「「あっ……。」」」


その場の全員が同時に気づいた。


「どうするんだ、これ。」


「窓からは?」


「もっと無理だ!」


「屋根を外すか?」


「いや、それじゃ家が壊れる!」


せっかく和やかになった空気が、一瞬で大混乱へと変わる。


そんな中、一太だけは静かに一歩前へ出た。


その表情は変わらず穏やかで、慈愛に満ちている。


「案ずることはありません。」


優しい声が、ざわめく村人たちを静かに包み込んだ。


「人が暮らす家も、人を支える寝床も。」


「互いを思いやる心があれば、必ず寄り添うことができます。」


一太はベッドへ向かって、ゆっくりと右手をかざす。


「ならば――。」


「その隔たりを、今ここで取り払いましょう。」




「ま、まさか……。」


「また奇跡が……。」


聖人は、新たな力を行使しようとしていた。

続きは近日公開予定でございます!

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