【第20話】シャワー終わるまで待っていたわたしのその後
「なんだ、まだいたのか」
シャワーを終えた透弥が言った。
髪がまだ濡れてて、しかも上半身裸っ
「用があるなら、言って」
「えと、わたし…」
「抱かれに来た?」
透弥にからかわれてるって、わかってる。
いちいち反応しないようにしなくちゃ。
「来いよ」
冗談言わないでよって、笑って拒まなくちゃって思うのに、透弥に腕を引っ張られて部屋のなかに。
そしてベッドに押し倒された。
「ほんと、亜梨花って簡単」
透弥に上から見下ろされている。
うっすら笑みさえ浮かんでて、これって冗談、だよね?
「あれ、抵抗しないの? ほんとに抱かれに来たってわけ?」
亜梨花は透弥の視線を避けて顔をそむけた。
胸がどきどきする。
目から、涙がすーって流れた。
「は? 泣く?」
「わ、わたしまだ…あの」
「なんだよ、はっきり言えよ」
「ごめん、わたし…」
帰る、と言って起き上がろうとしたんだけど
「いやだ」
透弥に止められる。
「え」
「帰すの、嫌かも」
「透弥くん、なに言って…」
あ、油断した。
キス、されてる。
こういうところ、ダメじゃんってさんざん透弥に言われてきたのに。
簡単に体許してんじゃねーって、言われるのに。
逃げなきゃって、抵抗しなきゃって思うのに、力が抜けてく。
唇が離されたとき
「ごめん、無理やりした」
「あ、うん、わたし、ほんとスキだらけ」
透弥になにか言われる前に、自分から言った。
「いや、今のは俺が悪いから」
「そうなの?」
「ん……」
さっきまでと透弥の態度も表情も違って、好きだったときの透弥だ。
でも、もしかすると、
『本気にすんなバッカじゃね?』
とか
『そういうとこがスキありすぎ、甘いんだよ』
とか言われそうで怖かった。
「透弥くんのほうこそ、流されてるじゃん!」
「そ、そうかもしんねーけど、ほんとの気持ちってとっさに出るだろ」
「エッチしたいってこと?」
「は? そんな不純な気持ちじゃねーよ」
「だって、別れてるのに、キスしてさ、その先だってやろうと思えばやれるって思ったくせに」
「悪かった…って言ってるだろ」
「わたし帰る」
なぜかわからないけど、この場から立ち去りたい。
透弥のことを、思い切り振り払って、亜梨花はベッドから降りた。
「え、なに? 亜梨花なんなわけ? マジで何しに来た?」
「…好き」
「え?」
「え? あ、私なんか言った?」
「好きって」
ベッドに座ってる透弥を、そのそばで立って見下ろしてる恰好なんだけど、そう言ったきり、お互いフリーズ。
「えっと、言葉と態度が合ってなくね?」
透弥が口を開く。
「ん、じゃあ帰る」
くるりと透弥に背を向けたら
「いや、そこは言葉と合わせろよ」
腕をつかまれる。
「合わせろって、命令しないで!」
亜梨花はつかまれた手を振り払って、思い切り透弥を突き飛ばしてしまった。
「…んだよ、それが本当の気持ちかよ!」
透弥が亜梨花をにらんでる。
「とっさのとき、亜梨花は俺から逃げたいって思ったわけだ?」
「そ、そういうつもりじゃ…」
「じゃあどういうつもりだよ、言えよ!」
透弥が好きなのに、どうしてなのか亜梨花にもわからなかった。
「いいよもう、行けよ、帰れ! もう戻ってくんな!」
透弥は言うと亜梨花に背を向け、部屋を出て行ってしまった。
ケンカしにきたつもりじゃなかったのに、なんでいつもこうなるの?
良く眠れないまま朝を迎えてしまった。
一樹からLINEが届いてたけど、無視してしまった。
いろいろ面倒で、逃げてしまいたい気分。
事務所に出勤すると、中原に呼ばれる。
「来月から雑誌のアンケート調査があるんだが、そのアンケート内容を考えてくれないか?」
涼と海斗と亜梨花の3人で企画考えてくれって言われた。
涼のケガは少し良くなってきたらしい、もう三角の包帯は取れている。
全治3ヶ月と言ってたから、あれから日数たってるんだなぁと亜梨花は思った。
そんなに時間がたっているのに、わたしは何も進んでいない。
透弥との関係だって、くっついたり離れたりを繰り返して、むしろ後退してるではないか。
いや、もう終わってるんじゃないかなって思っている。
「恋愛って難しいしめんどくさいな、男の気持ちって全然わかんない」
「恋愛?」
涼が顔を上げる。
「男の気持ちか…」
海斗も、うなずきながらそうつぶやいた。
女の子向けのアンケートのつもりでいたようだが、男の子にも聞ける内容にするのも、面白いかもってことで、中原に伝えると
「いいな採用」
亜梨花の悩みが採用されてしまった。
仕事終わり、涼が声をかけてきた。
「いまから海斗と飲み行くけど、亜梨花も来ないか?」
お酒は好きだ。
でも、いま飲んだらまた絶対飲み過ぎる。
「やけ酒になっちゃうよ……」
「ああ、いつものことじゃん」
涼が笑って、いいから行くぞと引っ張って連れていかれた。
そして予想通り、酔っぱらって愚痴三昧。
「どうせ私なんてダメな女なの、隙だらけでだらしないの、中身もないの」
悲しくても涙がでない。
「それ、男がダメなんじゃないですかね?」
海斗が言うと涼までもが
「そうだな、亜梨花を本気にさせるほどの男じゃないってことだろ」
と、亜梨花をかばうようなことを言ってくれる。
「自分の包容力のなさを棚上げしてますよね」
そういう海斗くんのほうが、確かに透弥よりも包容力ありそう。
「聞いてると、彼氏さん責めすぎ」
「うん、態度も悪いしな」
そういわれるとそんな気がしてくる。
いつも怒られるから、責められるから、私が悪いのかと思ってた。
「だいたい、性格とか癖って簡単に変わるわけないんだし、きっと亜梨花に合う男がいると思うし、別にすぐ決めなくてもいいんじゃね?」
涼は、俺もいろんな女にふられてきたけど、と言って
「本気なら、そいつのために努力もするし覚悟もできる。それがつらいっていうなら、それは気の迷いだし本物じゃないよ」
経験者の話だから、説得力があるなって思って亜梨花は黙って聞いた。




