【第17話】めんどうだから透弥と別れちゃえと言われました
一樹はまた亜梨花の家に来ている。
ピンチのときに呼ばれたとあって、一樹はかなり機嫌がいい。
亜梨花は改めてお礼を言った。
「ったくよー。透弥には功至が見張りみたいについてるしな、これを機会にすっぱり諦めるのもいいかと俺は思うわけだ。な? それがいいよ、そうしよう」
「そうだね、そうしようかな」
今回のように、何かあるたびに功至が出てくると思うと、透弥に対して何も言えないし出来ないのは目に見えている。
あんなに乱暴な功至、いつ亜梨花に手をあげてくるかも、わかったものじゃない。
フラれるってことが、プライドの邪魔をするとすれば、亜梨花から先に別れを告げるのもいいかもしれない。
「今から透弥くんと別れるね」
いきなり亜梨花は言って、電話をかけた。
すぐに透弥は出た。
「あのね、わたし、透弥くんと別れるから」
そう告げると、透弥は何か言ってたようだけど、無視してそのまま電話を切った。
そして着信拒否までしてやった。
「終わったー。別れたよ。今からわたしは自由だ」
妙に心がスッキリしていた。
「またまた亜梨花ちゃん、思いつきで行動するから。後悔しても知らねーぞ」
「後悔なんかしないもん」
「そっか? じゃあ、俺と付き合おう」
「それはダメ。まだ付き合わない」
「ええー。何でだよー」
「しばらく自由を満喫するの。それまでいいオトモダチでいようね、一樹くん」
一樹は大袈裟にため息をついた。
一樹とは、こんな風に何でも気軽に言える。
これは恋人同士じゃないから?
この距離感が心地いい。
まだしばらくの間、一樹とはこんな風にしていたいと思った。
ウエディングショーは大成功に終わった。
海斗くんがあまりに素人過ぎたのが逆に良かった。
めちゃくちゃ緊張してたみたいで、誓いのキスのとき、海斗くんがうまくできなかった。
新郎役が亜梨花の頬にキスすることになってるんだけど、できないっていうならしょうがない。
亜梨花のほうから、海斗くんにキスした。
緊張緩むかな?
と思って海斗くんの唇奪ってしまった。
緩むには緩んでくれたみたいだけど、涙腺まで緩んだ?
海斗くんが涙を流した。
そのおかげで、観客までももらい泣きするという、ものすごくリアルな演出。
いや違う、ありのままの結婚式みたいだって、後のアンケートでも好評だったことがわかったのだ。
ショーの打ち上げで、また亜梨花は飲み過ぎていた。
「おい海斗、新婦を送ってけ」
海斗くんはお酒が飲めないと言って、飲んでない。
めちゃくちゃ嫌そうな顔で送ってくれた海斗くんだけど、やっぱり唇奪ったことを怒ってるのかな?
「ごめんね、もしかしてファーストキスだった?」
「いえ、違いますけど」
こっち見てくれないし、あまりしゃべってくれない。
まあ運転中だしね。
アパートに着いたら今日も、一樹が来てた。
「じゃ、またね」
海斗くんを見送ってから、一樹に手をふる。
と、そのとき、後ろから車のライトに照らされた。
「なに?」
「まぶしいじゃんか!」
ふたりで振り返ると、透弥の車。
「ブロックされてたら連絡できねーじゃん亜梨花」
透弥が車からおりてきた。
「亜梨花、一樹が好きになった?」
「透弥くんには関係ないもん」
「ふーん、そうやってふたりでいつも会ってたんだ?」
透弥はさらに続けた。
「俺、まだ別れたつもりないからな」
すると一樹が亜梨花の代わりに答えた。
「透弥、俺が悪いんだ、俺が強引に亜梨花のこと押しまくってた。亜梨花さ優しいんだ、頼まれると嫌って言えねーんだ。お人よしすぎるんだよな」
一樹がすごくいいほうに解釈してくれる。
「そっか、それでよってくる男の頼みを断れなくて、体まで惜しみなく与えてやってたってわけ?」
透弥の目は冷たく亜梨花を突き刺す。
「なんでも受け入れればいいってもんじゃねーだろ! 単に流されやすいだけなんじゃねーの? 自分からスキ作ってるし、そういうのお人よしっていうわけ?」
「ちょ、透弥、言いすぎんなよ。しょうがねーじゃん、亜梨花って人目引くし、男が勝手に寄ってくるんだよ。亜梨花ひとり責めんなよ!」
一樹はかばってくれるのに、透弥はさらに攻撃してきた。
「その気がねーなら断われるだろ! 部屋に男入れねーだろ! 亜梨花さ会社のやつとも浮気してんだろ? しかも2人?」
2人って、誰と誰のこと?
涼と……まさか海斗くん?
いま、見られたってこと?
「それは違――」
「言い訳すんな! ひとりの男じゃ満足しねーんだよ。好きじゃなくても簡単にやれるんだろ!」
透弥はそこでいったん言葉を止めて、息を大きく吐いた。
そしてさらに続ける。
「俺とつきあっていながらさ、俺のこと好きって言いながらさ、普通の女ならそんなことしない。おまえ変なんだよ、おまえの好きはやっぱり本物じゃなかったってことなんだよっ!!」
聞いてるとひどい言葉なんだけど、透弥の言ってることは笑えた。
簡単にやれる?
え、誰とやったって?
わたしが、透弥くん以外の誰とやった?
浮気?
知らないんだけど、記憶にない。
「アハハッ」
「なに笑ってんだ!」
透弥が怒鳴った。
「透弥くんなんか好きじゃない、好きってなに? わかんないよ!」
しばらくお互い、にらみ合ってた。
先に目をそらしたのは、透弥のほうだった。
「わかったよ」
うつむいて表情は良く見えなかった。
「好きでもないやつに、束縛されたくねーよな、いいよ、別れてやるよ。勝手に……好きにすれば、いいじゃんか!」
透弥はそのまま車に乗ると行ってしまった。
最後のほうは声がふるえてて泣いてたみたいだった。
胸の奥が苦しくて痛かった。
「ってか亜梨花、良かったのかよ、あんな別れ方」
一樹がおろおろしてるみたいに見える。
こっちも笑える。
「ねえ一樹くん、わたしって体も惜しみなく与えてたっけ?」
違うよね?
「ああ、かなり透弥の誤解は混ざってた、と思う。少なくとも俺にはなにも……でもどこまでが本当なのかは、亜梨花しかわからないよな?」
一樹までわたしのことを、そんなふうに見てたんだな。
「今日はごめん、帰って」
一樹を部屋に入れることなく、亜梨花はドアを閉めた。




