【16話目】ヤケクソハイテンションでいたら涼くんが殴られました…
透弥と仲直りできたと思った夜、一樹からのLINE。
当然、横に寝ていた透弥も気づいた。
『昨日はごめん、二日酔いになってないか?』
一樹のLINEは透弥に見られてしまい、昨日のことを追及された。
「昨日も一樹と会ってたって、どうして俺に言わなかったんだ」
やましいことがあるからだよね、と責められた。
特に内緒にしたかったわけではない。
言えるような雰囲気でもなかったし、言う機会を逃していたというのが一番近い理由であると思う。
結局、涼と飲みに行ったところから、全部詳細にしゃべる羽目になってしまった。
「誤解って亜梨花は言ったけど、一樹の気持ちは誤解だけでもなさそうだね」
夜中の3時頃まで、透弥に責められた。
「一樹も、俺と功至に何でもない、誤解だって言ってたけど、あれも全部嘘だったわけだよね。口先だけで俺たちを誤魔化そうとして、ひどいと思わない?」
亜梨花は答えなかった。答えたくなかった。
もともと、透弥が自分から動かずに亜梨花のことをほったらかしたのがいけないんじゃないか。
一樹はちゃんと、亜梨花と透弥を応援してくれてた。
だけど、透弥がはっきりしなかったから、一樹は諦めたくなくなっただけで、誤解を解こうとしたときは、素直にそうしたいと一生懸命だったはずだ。
こんな気持ちになってまで、透弥と続ける意味があるのか、疑問で頭がいっぱいになる。
「会社のヤツと飲みに行くのも、俺のこと軽く見てるとしか思えないんだけど」
「もう嫌だ……」
「え?」
「もうやめる!」
亜梨花は立ち上がって、座ったまま亜梨花を見上げている透弥に言い放った。
「うるさいのよ、もう。干渉しすぎなのよ。何でもないって言ってるのに、信じないでどんどん責めてきて。いい加減にしてよ。あんただって、わたしのことほったらかしてたじゃない?」
「……ほったらかしは、お互いさまだったと思うけどね」
透弥は亜梨花から目をそらすと、テーブルの上に置いていた車の鍵とスマホを手に取った。
「なんか面倒になってきた」
立ち上がり、ため息をついた透弥は、そのまま玄関へと歩いて行く。
「何よ。面倒だから逃げるの?」
その背中に亜梨花は叫んだ。
「亜梨花が冷静じゃないから、話にならない」
「そうさせてるのは、誰よ!」
「俺のせいにばっか、しないで」
振り向かないまま透弥は言って、ドアを開けて行ってしまった。
追いかける?
嫌だ。
追いかけない、私は悪くない。
亜梨花は閉じた玄関のドアをじっと見つめたまま、その場に座りこんでしまった。
「面倒って言わないでよ。面倒なのは、こっちのほうだよ」
追いかけられたら逃げたくなることもある。
それは今までも経験してきたことだから、良くわかっていた気持ちだ。
でも、逃げられたら追いかけたくなる。
そんな気持ちになったのは、初めてだった。
これはどういう心理だろう。
さっき透弥に問い詰められて、責められ続けていた間、ずっと疑問に思ってたのではないか。
付き合っていく意味とか、干渉しすぎだとか、信じてくれないだとか、うるさいって思っていたはずだ。
だから、いなくなってホッとしたっていいはずなのに、後悔しているのは、いったい何なのか。
「プライド……だよ、きっと」
フラれた経験がない亜梨花は、初めてフラれたことにプライドが傷ついているだけだと思った。
それだけのはずだった。
翌日のウエディングショーは、ハイテンションでやれた。
何もかもを振り切るかのように、ヤケクソでやったようなものだ。
だから、ショーが終わったあとは、一気に脱力してしまい、ぐったりしてしまった。
「大丈夫か? 昨日、遅くまで起きてたんじゃないか?」
昨日、透弥と一緒に帰ったところを涼に見られている。
きっと、遅くまでエッチしてたとか思われているんだろうけれど、そんな理由ではない。
「今日は早く寝たほうがいいよ」
一緒に駐車場まで歩いた。
昨日のことがあるから、今日も透弥が来ていると思われてたようだけど、いるわけがない。
だから今日は、涼に送ってもらおうと思っていたが。
「あ……」
功至がいた。
きっと、昨日のことを透弥が功至に言いつけたんだ。
功至は、亜梨花に気づくと怒ったような顔をして近づいてきた。
「おまえ、透弥に何した?」
何って、透弥から全部聞いたんじゃないの?
「功至くんって透弥くんの保護者? 何で何かあるたびにいちいち出てくるのよ」
いつもならひるむところだけれど、今日の亜梨花は不機嫌だ。
しかも最悪に不機嫌だ。売られたケンカを買ってやってもいい気分だ。
「おいおい、こんなところでケンカするなよ」
涼が功至と亜梨花の間に入った。
「なんだおまえ」
功至は怪訝そうに涼を睨んでいる。
「功至くんに関係ないでしょ!」
亜梨花は涼の腕をつかんだ。
「行こ、早く」
「ふざけんなよ。おまえ、こいつとも浮気してるのか?」
「は?」
涼が驚いてる。
「そうよ。悪い?」
涼まで巻き添えにしてしまったことを、この後すぐに後悔することになる。
あっと思う間もなく、功至が涼を殴りつけたのだ。
「嫌! やめてよ」
倒れた涼は、功至の下敷き。
馬乗りになられて、もう一回殴られてしまった。
「違うの、功至くん。やめて、殴らないで!」
いきなり殴られて、不意を突かれた涼は、抵抗する余裕もなく殴られている。
止めに入っても、功至は聞く耳持たないって感じだ。
亜梨花はスマホを取り出し、電話をかけた。
「もしもしっ! 一樹くん、助けて!」
後になって思ったが、どうして一樹に助けを求めたのか。
けれど実際、一樹がすぐに駆けつけてくれて、その場はおさまったのだ。
ただ、涼は無事ではいられなかった。
「全治、3ヶ月だった」
病院で治療を受けたあと、涼は不機嫌そうに言った。
殴られて顔は腫れ上がっている。
肩から腕骨にかけて、骨にヒビが入っていたそうだ。
しかも、腕は骨折していた。
「ごめん」
亜梨花は頭を下げて謝った。
謝って許してもらえるかどうか、わからないけれどひたすら謝った。
病院まで着いてきた功至も謝っていたが、一樹に引っ張って連れて帰られていた。
「高浜っおまえ桜井になにした!?」
「す、すみません、わたしの知り合いが…殴りました!」
翌日、事務所内が大騒ぎになっている。
「おい、青樹、新郎代役を頼む!」
「ごめん海斗くん、わたしのせいで」
入社一年目の青樹海斗くん。
この後、とうとう彼にまで、迷惑をかけることになる。
「え…えええ!」
「誰でもいいんだ、明日は最終日だから絶対外せない」
「お願い、あとでおごるから、ね」
目の前で両手を合わせて、上目遣いでお願いしてみる。
「わたしがリードするし、海斗くんは一緒に歩いて立っててくれるだけでいいんだよ?」
できるよね? と念を押すというかある意味、断れない「圧」をかけてみた。
「は、はい、やります」
引き受けてくれた。
「指輪サイズ、これでいいかな」
いくつかの指輪の中から、海斗くんの左手の薬指に合うのを探す。
「頼むよ青樹、頑張って」
涼も言ってくれる。
肩から三角帯っていう包帯の? それで腕を吊ってる痛々しい姿。
「さ、頑張って行こう海斗くん」
まだ式場じゃないけど、亜梨花は海斗と腕を組んでみた。




