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LOVE MAZE〜ラブメイズ〜私の恋愛感情知りませんか?  作者: 水波瀬なぎ


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15/21

【15話目】つきあうって我慢することですか?

翌日、事務所に出勤すると涼が近づいてきて言った。


「昨日どうなった? 仲直りできた?」


「うん、別に大丈夫」


「良かったな。いいヤツじゃん、彼氏」


そうか。一樹のことを、彼氏だと思っているんだった。


「いいヤツだよ。でも、彼氏じゃないし」


「え? じゃあ誰?」


「彼の友達」


「へえ……そうなんだ。でも、それだけでもなさそうだね」


そう思うのが普通かもしれない。


あんな時間に亜梨花の家に来て、涼の言うことを素直に聞いてうなずいたって言っていたし、涼の目に彼氏だと写っていたんだし、ただの友達と言うには無理がありそう。


「わけアリみたいだね」


「うん、なんか、す……好きって、言ってくれてる」


好きって言葉を口にするのは、恥ずかしいものだ。


それがたとえ、自分が言う側の言葉ではなくても、妙に照れ臭くなるのはどうしてだろう。


「ほったらかしの彼氏より、優しい友達のほうにフラっと行きそうだったりして?」


「うん、そうなったりして」


言いながら虚しくなった。


このままだったら、本当に一樹にフラっと行っちゃうかもしれない。


何より、透弥といるより一樹と一緒にいるときのほうが、疲れないのだ。


会話だって気軽に出来るし、気楽なのだ。


だけどそれは、好きだからではなく、意識していないからこそだと思う。


一緒にいて楽しいけど、一緒にいてもドキドキしない。


会話は弾んでも、甘い会話には程遠い。


透弥に会って、「好き」だと思う感情が自分なりに少し理解できた。


透弥に対する気持ちと、一樹に対する気持ちの違いは、歴然としている。


もし、一樹にフラっと行くとしたら、成り行きだろう。


そしてきっと、後悔してしまう気がするのだ。


「流されないようにしろよ。ちゃんと本物の彼氏と話し合わなきゃな」


亜梨花の心中を見透かしたように、涼が言った。


流されやすい亜梨花の性格、悔しいけれど涼には全部知られている。


「昨日の亜梨花ちゃん、俺にもフラっと……だったもんな」


「酔ってたんだもん」


「酔うほど飲むところから、危ないんだって」


「昨日の続きでお説教しないでください」


「あ、急に他人行儀ですか? 高浜さん」


「他人ですから、桜井さん」


「それはそうですが、高は──」


涼が全部言ってしまわないうちに、事務所のドアが開き、主任の中原が入ってきた。


「桜井、今から高浜と一緒に教会行ってくれないか?」


俺も一緒に行くから、と言われて中原は先に事務所を出て行く。


「え、なんで俺?」


「わかんないけど、行こう」


亜梨花は涼をうながし、一緒に中原を追いかけた。


時間を気にしているのか、中原は早歩きになっているから、亜梨花も小走りで着いてゆく。


駐車場へ着くと、中原は車に乗るよう、亜梨花と涼に言った。


「中原主任が教会に送ってくれるんですか?」


中原はほとんど事務所勤務で、現場に出向くことはない。


珍しいこともあるものだと思っていたら。


「新郎役。今日から桜井にやってもらうから」


「ええ? 何で?」


びっくりした声をあげてるのは、涼だ。


「向こうのモデル事務所の方が、先週までって勘違いしてたらしいんだ。手違いってヤツ。いろいろ手配してみたけど、誰も予定が空いてなくて、しょうがなくだよ」


今回のウエディングショーは、亜梨花の会社とモデル事務所の共同でのショーなのだ。


新婦役は亜梨花。新郎役はモデル事務所から来ていた。


ショーは今週いっぱい行われるのに、勘違いで来られないなんて、責任追及はしないんだろうか。


などと考えたが、その辺りのことは主任の中原の仕事だ。だから主任が責任を持って新郎役を手配した。


それがまさか、涼っていうわけで。


「モデルみたいにカッコ良くないし、俺やれないですよー」


涼はどちらかというと、裏方、サポート的な仕事のほうが主なのだ。


「ほかにいないんだ、穴を開けるよりマシだろう。仕事だと思って我慢してくれ」


「…はい、わかりました」


はい、我慢します。ともいえないのだろう、涼はしぶしぶって感じで引き受けていたけど亜梨花の目から見たら、涼だってかっこいいし、モデルと張り合えるんじゃないかなって思える。


「わたしがリードするし、大丈夫だよ、頑張ろう」


涼に言って笑顔を向けたら、少しホッとしたように見えた。




ショーが始まる前、控え室でタキシードに身を包んだ涼は、初めてのことにかなり緊張していたように見えた。


けれど平日だと言うこともあり、ギャラリーは土日より少なめだったせいか、思ったほど涼に緊張も見られず、無事にショーは終わった。


ただひとつ気になることがあるとすれば……。


「高浜さん、お疲れ様。なんとかなったね」


送っていこうか、と涼が言った。


「ありがとう。でも、今日、来てるみたいなんだよね、彼……」


亜梨花はショーの終わりごろ、教会の後ろの席に座っている透弥を見つけたのだ。


じっと睨むみたいにして亜梨花と涼を交互に見ていた。


何で急に来るんだろう、もう終わったはずではなかったのか。


それとも、何か文句でも言いたくて来たんだろうか。


今さら何よ、と思う反面、まだつながっていた透弥との関係に亜梨花は少しだけ心が浮き立つのを感じていた。


「さっき、駐車場で待ってるって連絡があって」


「ああ、本物の彼氏のほう?」


「まあ、そう本物のほう」


「どんなヤツか興味あるな」


一緒に駐車場まで歩いて行きながら、涼にからかわれる。


そして、駐車場が見えるところまで行くと、遠くからでも透弥の姿が確認できた。


「あ、もしかして彼?」


車を背にしてもたれかかるようにして立っている透弥は、少しうつむき加減で、気だるそうにしている。


いい具合に夕日がバックにあって、すごく絵になる姿だった。


「想像以上にカッコイイね」


「はあ、まあ……」


「同じ男として、完敗って感じだな」


「完敗? そんなことないよ」


顔だけを見れば、そうかもしれないけれど、男としてだったら、絶対的に涼のほうが勝ってると思う。


精神的にも人間的にも、涼の方が大人であることは間違いないだろう。


そう思ったとき、透弥がこっちに顔を向けた。


「あ、じゃあ高浜さん。おつかれさま」


涼はハッとしたように言うと、会社の車のほうへ歩いて行った。


「あいつ、ムカつく」


そばに行くとすぐ、透弥はそんな言葉を口にした。


「何よ急に」


「前にモデルやったやつと違うよね」


「うん、ちょっといろいろ手違いで臨時の……」


「別に理由とか、どうでもいい」


じゃあ聞くなよ。


透弥に助手席に乗るように言われ、気まずさを感じつつ車に乗った。


透弥はずっとふて腐れたような表情のままで、家に着くまで無言だった。


話があったんじゃないのか、とか。


何で急に来たのよ、とか。


もう家に着いたけど、下りてもいいのか、とか。


いろいろと聞きたいことはあったものの、気まずい空気の中、言い出せずにじっと座っていた。


「亜梨花」


「な、何?」


急に話しかけられ、ドキンとしてどもってしまった。


「着いたんだけど、下りないの?」


「……おりる」


下りても良かったらしい。


シートベルトを外し、ドアを開ける。


おりてから透弥を振り返ると、


透弥はハンドルを握ったまま、じっとフロントガラスを見つめている。


じゃあねって言って、車のドアを閉めたらそのまま走り去ってしまいそうな雰囲気だ。


けれどそれでは、透弥が会いにきた意味がわからない。


亜梨花は思い切って透弥を誘った。


「透弥くんも、下りない?」


けれど透弥はまっすぐ前を向いたまま、口を尖らせた。


「怒ってるの?」


「勝手に決めつけんなよ」


言い方が怒ってる。怒ってるように見える。


「ごめんなさい」


「だから、怒ってんじゃないのに、謝るなよ」


透弥がこっちを向いた。


明らかに怒ってる顔だ。


「ごめ……」


また謝りそうになったけれど、ぐっと言葉を飲み込む。


「俺に謝ることがあるとすれば、一樹のことだよね」


そうだ、透弥はまだ誤解していたのだ。


怒っているのは今日のことではなく、一樹のことでずっと怒っていたわけだ。


「だから、何度も言ってるように、一樹くんのことは誤解なんだよ。透弥くんが思ってるようなことは何もないし、功至くんが見たのも、たまたま遊びに来てたときのことだし」


「俺が思ってるようなことってどういうこと? 俺がどう思ってたかなんか亜梨花にわかるわけ?」


「それはわかんないけど」


「どう思ってたと思ってたのか、言ってみろよ」


泣きたくなってきた。


「泣いて誤魔化す気?」


何で透弥は、こんなにイジワルなことを言うんだろう。


怒っているから?


一樹と何かあったと思って怒っているということは、何もなかったことが証明されれば許してもらえるんだろうか。


「透弥くんが、何を思っているかわからない。だけど、透弥くんや功至くんが、わたしが二股してるって思ってるのは誤解で、一樹くんとは何もないんだよ。一樹くんにも聞いてみてくれればわかると思う」


「一樹には、聞いたよ。何もないって言ってた」


「じゃあ、誤解は解けたんだよね?」


「……どうかな」


言葉だけでは信じられない?


「どう言えば、信じてくれるの?」


「……まあ、いっか」


透弥は大きなため息とともに言った。


そしてシートベルトを外すと、車からおりて亜梨花のそばに立った。


「何もなかったって証拠もないけど、この際しょうがないよね。信じなきゃ終わりだし、忘れることにする」


「ありがとう」


そう言ったものの、何だかとても腑に落ちない。


信じなきゃ終わりってことは、透弥はこの関係を終わりにしたくないと思っていることがわかる。


だけど、それはしょうがなくなのであり、一樹とのこと信じてくれてないと思える。


「今度やったら、終わりだからな」


「うん、わかった」


しまった。


これでは、一樹とやったって言ってるようなものだ。


わかった、ではなく、もっと違う言葉を探したけれど、そうすれば再び「誤解だってば」というところから繰り返さなければならなくなる。


「今日、泊まってく。いい?」


「うん」


せっかくいい雰囲気に戻ったのだから、亜梨花が我慢すればこの場は丸く収まるのだ。


我慢我慢。


付き合って行きたいのならば、我慢することも必要なのだ。


納得行かないながら、透弥と仲直りする道を選んだ。




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