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刺殺体と超能力者と名探偵  作者: 端役 あるく


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3/5

刺殺の夜3


5 

 刺殺、半身焼けた体の腹部に一つの深い刺し傷がある。凶器は傷口の大きさからイメージするのは携帯用のナイフ、現場にそれらしきものは残されていないから犯人が持ち去った後なのだろう。


 その他に特徴的なものを挙げるとするならば、床に落ちている結束バンドが2本、それと彼の口に挟まっている布切れだろうか。布は口にがっちりと挟まっていて取れる様子はない。


「この口に付けられた布切れは猿轡の様な言葉を押さえつけるものではないでしょうか。それにあの結束バンド。ここから推測するに、流れとしては、犯人に被害者は監禁をされていた。その後、この部屋に運び込まれてから、腹部を刺されて殺害され、後に火を付けて証拠を遺体ごと消そうとしていたところを私が見つけて、火は消し止められて場所が残った。というところでしょうか」


 私は燃えて黒ずんでいるあたりの床をよく確認し直す。そこには小さな細く黒い木片がいくつか落ちている。


「イエラさん、これマッチの焼け残りではないでしょうか。犯人はこのマッチで部屋の中を燃やそうとした!」


「何本か落ちている様だが、どう説明する?」


「この部屋の匂い、そして炎の進みの悪さからして、油に引火させたりという事が無かった。マッチの小さな火から部屋に炎を移すにはかなりの失敗があったのではないでしょうか。別にここらの地域は警察など居ないですし、急いで死体を処理する必要も無いですから、ゆっくりと火を準備したのでは無いですかね」


「ふむ、なるほど」東洲斎イエラはそういうと、更に部屋の中を巡る。部屋の中に残されていたのは、犯人のものと思しき少しのアイテム達である。


 マッチ、結束バンド、蝋燭、使いかけの蝋燭が立っているスタンド、1日分ほどの食糧、ペットボトルの水が3本うち1本は飲みかけ。


 使いかけの蝋燭は新品のものと比べて随分と使った後みたいに見える。今ある蝋燭と新品のものは10cm以上は差があるのが分かる。蝋燭についていた火を消したのはカエラ自身だ。


 蝋燭の減り方から、犯人はこの部屋をねぐらにしていて、ここ数日間はこの部屋で過ごしていたということになるだろうか。


「カエラ、この落ちている結束バンド切断されているが」


 東洲斎イエラの声に私は引き寄せられて、壁際の燃えた刺殺体の横な落ちていた結束バンドを確認する。


「確かに使用済みのバンドですね。切られている様に見えます」


 それならば、おかしい。犯人は捕獲していたはずのこの被害者を一度解き放ってから、自由にした上で彼は腹部を刺したのだろうか。何故そんなことをしなければいけなかったのか。


 ヒントになりそうなところと言えば、この位だろうか、不自然なところはない。何故、2階に運んだのかは目につきにくいから、実際私も火が付かなければ気が付かなかった。高い方が見つかる危険性がないと仮定しても、エレベーターは壊れているから2階以上に行く事は体力的に難しいだろう。怪我をしている相棒に肩を貸して歩いているのではない。


 およそ、手足に結束バンドをつけられて体重が完全に預けられたこの人を運ぶのだ。階段からすぐのこの2階の部屋は現実的だ。


「刺殺、まだ何かあるでしょうか?」私は東洲斎イエラに言葉をかける。彼女は部屋の中を眺めて、少し微笑む。


「彼の体は実に綺麗だな。まるで暴行などされていない様に見える」


 言われてみれば、確かに彼の体は火傷と刺殺痕以外に目立った痕跡はどこにも見当たらない。大人を誘拐という暴力的な印象をそれからは感じる事がない。


「薬か何かで眠らせてから連れてきたという事ですかね。であれば、元々からあった怨恨とかの可能性が高いのでしょうか。まぁ、動機は私たちには関係がないですが」


 彼女のスラっとした後ろ姿は全くもって、私の失言に動揺したりはしない。怨恨だの横恋慕だの、利害だの、そういうものは口にしないのがルール。頭の中に東洲斎イエラの声で響く。


「であればルートはそうですね、犯人はどこかの飲食店で彼に睡眠薬をもった、そしてその彼を運んできてから、このねぐらにしていた部屋に運び込み、彼を起こしてから、何かを聞き出してから腹部を刺して殺した。その後、部屋にマッチで火をつけて証拠を隠滅しようとした。と、こんなところでしょうか」


「ふむ」東洲斎イエラは考える様な素振りをする。表情はいつもの通り、焦燥の影もさえ見えない。


「いい、推理だけれど矛盾点が多いな、カエラ」


「矛盾点ですか?」


「矛盾点、うん。犯人は彼の運び込みは歩きで行ったのかい?」


「いえ、それは無いでしょう。車か何かで、この埋め立て島に入る橋を渡るのもかなりの時間がかかりますし、車で来ないとダメでしょうね」


「では犯人は車もこのあたりに数日間置いていたのかい?」


 そうだ、2階が物陰だから犯人の姿が見えないというのはあり得るけれど、その車が数日間もあれば話は別だ。ここをねぐらにしていたなら私たちにはその存在が分かっただろう。


「ねぐらにしていた訳では無かった。という事はここを偶然に見つけて、たまたま入ったということになるでしょうか」


「うん、そうなるかな。では、その蝋燭の減りはどう説明する」


 この道具のセットに使い古された感じは見受けられない。この為にホームセンターで買った様なセットである。蝋燭も一本は減っているが本数自体が減っている感じはない。スタンドも綺麗だ。


「長時間、蝋燭がここまで減る時間の間、彼は口を割らなかったということでは無いでしょうか」


「何もその間、犯人はしなかったのか。綺麗な体だと言った。では、暴力などには頼らず、言葉だけで被害者を脅したのか、何時間もの間」


 現実的では無い。10cmもの蝋燭が減る時間、手も何も出さずにいるなんてあるはずが無い。


 では何をしていた。この場所で犯人とこの被害者はどういう関係にあって、今この様な現場を作り上げたというのだろう。


 カエラは東洲斎イエラの顔を見る。その顔には現実か、超能力か、『解決』の文字が浮かんでいる様に見えた。

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