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刺殺体と超能力者と名探偵  作者: 端役 あるく


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刺殺の夜2

4

 秋足カエラ、数年前。


 飲み会の二次会帰り、終電を諦めたサラリーウーマンは狙い目。この世に悩みがない人間なんていないけれど、悩みを打ち明けられない環境にいて、且つ悩みを打ち明けたいという層がそこには多いのである。


「はい、いらっしゃいませ」そうやって女子が好きな香を焚いた空間に招き入れる。意識は揺らいできて、そのフードの奥に覗く私の顔が女性であると知って警戒心は揺らぐ。


 私は占い師をやっていた。生まれ育ちの関係で私は占い師をやっている。占いの素養なんて、マジックとか読心術の類の延長線上のものがほとんどだ。私の知り合いの占い師たちはみんなそうだったからそうなのだろう。


 誰もが、誰しもが本当のところ、占いの結果が何か見えない力に引き寄せられた素晴らしいものなどとは結論づけている奴なんていない。私たち、占い師にとって大事なのは顧客が喜ぶ答えを出せるかどうか。


 占いの結果が、目の前にある悩みの答えがその2択が当たるかどうかだけなんだ。


「ここ、友達に聞いてきたんですけど。よく当たるんですよね?」


 1人の客が何人もの新規を連れてくる事、分けても減らない幸せに関しては、人は分けたいと思う様なので、私としてありがたい。こういう紐づいた客は皆が占いのブームである限り、全員がここへ通うことが多い。


「私、占ってほしくて……」


「はい、何についてでしょう」やらなくてもいいが、机の上にある水晶に手をかざしてみる。フリマサイトで500円で買った。


「その……今、任されている仕事があるんですけど、それが上手くいくかが知りたくて」


 ありがちな悩みだ、そう思いながら私は水晶の中を覗き込む。もちろん、そこに映し出されるのは雑貨屋で買ったそれっぽい編み込みがされた赤い厚手のテーブルクロスなのだけれど。


 客の女性の顔を見る。前髪は隙間が空いていて、服装は喪服にすら見える真っ黒いスーツ。髪は一つ後ろに括られている。


 顔を改めてじっと見る。


「大丈夫です、きっと上手くいくと出ています」


「えぇ、ほんとですか〜!」


 女性は手を顔の前で合わせて、至極嬉しそうな表情を作る。私はそれをみて、笑顔になりつつ、彼女の近くに浮いて見える言葉が『成功しない』となっているのを改めて確認する。


「もしよければ、タロットカードでも見てみましょうか。そちらの方が更に確かな答えを出せると思いますが」


 私の目には、色々なものが見える。けれど、なんでも見えるわけでは無い、際限はあるし再現性がある訳でもない。この時にはその情報が見えるという事もあれば、その時には見えないという事もある。基本情報くらいは確認出来るけれど、まぁ別にこれと言って、それだけで世界征服が出来るほどでもない。顧客になりそうな人を見分けたり出来れば良いのだけれど、自分に都合の良いことほどあまり見えたりはしない。


 彼女は仕事を失敗するだろう。内容も何も聞いていないけれど、この手の占いで私は外した事がない。占いの素養というより、これは超能力に近い。


 絶対に外れているなんてことは無い。つまり、この客は間違いを教えられたことになる。だから、常連にはならない。友人とやらにもこの失敗が知れ渡ると私の店には友人もまた来なくなるだろう、しかしながら、失敗を伝えるのも良いことはあまり無い。


 人が悩みの時に聞きたいのは、自分が欲しい答えだけなのだから。


「えと、料金ですが、水晶が2000円とタロットが3000円の計5000円となります」


「は〜い」


 彼女は自分のバッグを弄る素振りを見せて、その中からすらっと拳銃を取り出した。


「えっ?」


 銃口は自然とこちらに向いていて、私の体はしっかりと強張る。


「占い結果、ありがとうございます。私の仕事は失敗しないみたいで良かったです」その顔が笑顔で歪む。綺麗な顔が影に落ちて、何も見えない。


「占い師さん、ちょっと来てもらって良いですか。私たちのボスがあなたの力っていうのに興味を持ってるみたいで」


「力って、占いの才能の事ですか?」


「大丈夫、しらばっくれなくても分かっているから、あなたの出生も全部。分かったら、手を上げて、ゆっくりとこちら側に来てくれる?」


 実に使い込まれた銃を持つ形は美しく隙がない。どうしようもない、拳銃で撃たれるのは嫌だし、抵抗せずに手を挙げる。全く、こんな事になるのだったら最初っからこんな能力要らないというのに。


 パサっと、布が動く。占いの布小屋の入り口から月の光がやけに強く差し込む。


「失礼、やってるかな?」


 新たな来訪者に対して、拳銃の持つ手が2つに増えた。当たり前の様に女性は2丁の拳銃を2人の人間に向ける。後ろに目でもついている様に、きっちりと銃口は来訪者に向いている。


 チッチッチッチッ、来訪者は時計を持っているらしく、その秒針の音が響く。


「今、私が先客なの。分かったらここから出ていって欲しいのだけれど。出来れば、今ここであったことは忘れてほしいのだけれど」


「そうだったのか。けれど、もうすぐ24時を迎える。いつも、彼女の営業は日を跨ぐとぼちぼち終わるんだ。出来ればはやく済ませて欲しいのだけれど」


「それは気の毒ね。残念ながら、今日はもう閉店らしいわよ。それともう2度と開く事もない」


 チッチッチッチッチッチッ、秒針は音を鳴らす。来訪者は引く気配すらない。ずっとその手の中にある懐中時計を見つめて、立ち尽くしている。


 ビビビッ、ビビビッ、ビビビッ、その時、私の時計がなった。24時の閉店の合図が小屋の中に鳴り響く。


「さっ、行くわよ。あなたもさようなら」ナチュラルに流れる様に、彼女は引き金を引く。見逃すみたい言葉をかけたのに、彼女はどうやら、人を殺すことに全くの躊躇がなくて、これが殺し屋なんだなと思った。


 破裂音がして、弾丸が飛ぶ。火花が散らばる。金属は肉を穿ち、血飛沫が舞う。花の様に螺旋の血が女の頸動脈から噴き出ていた、女の、殺し屋の女の。


「なん……で……」そんな最後の言葉をおいて、殺し屋の女は地面に伏す。暴発した拳銃が地面に転がる。


 平然と来訪者は月光に立っている。それから初めて、入り口の布が下ろされて、外光が無くなり彼女の表情が見えた。


「私も見てもらいたいんだけれど、良いかな?」


 今の状況が受け止め切れない私はぼんやりとその言葉に頷く。


「あまり占いには深くないのだけれど、誕生日か、名前でも言うべきなのかな」一呼吸をおいて、言葉を一度切ってから「私の名前は東洲斎イエラ」と彼女はそう言った。

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