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刺殺体と超能力者と名探偵  作者: 端役 あるく


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1/5

刺殺の夜1


 夜、24時過ぎ。仕事から帰ってきて私は1人、夜の街をスキップする。家のある住宅街の中をただ平凡に通り過ぎていく。そこでふと、感じる。熱と違和感のある光。 


 咄嗟にあたりを見回す。光の出る場所が分かる。彼女の家がある棟の真横のアパートの一室から小さな光と同時に煙が出ている。


 火事を思わせたそれに対して、私は即座に体を動かす。火の立つ部屋へと向かう。



1


 朝日。座り込む女性が2人。1人は優雅に紅茶を嗜み、1人はガーゼで自分の体の火傷を改めて包み込んでいる。


「勇猛果敢だね、カエラ。火に飛び込むなんて」


「そんな風に言わないで下さいよ。まるで火に飛び込む哀れな蛾みたいと言わんばかりに。ただでさえこんな怪我までしたのに、っ!」


 ガーゼを変える時に固着した皮膚が引っ張られ、剥がれる際に痛みが生じる。何度も部屋の中にはカエラの痛みに対する言葉が上がる。


「消防でも呼べば良かっただろう?」


「この埋め立て島にそんな有能な組織がある訳ないでしょう。本島に呼びかけてもイタズラ電話だと思われるのがオチですよ」


「それはそうだね」


 私は目の前に座る女性を見やる。女性は自分よりも20歳近く上の年齢に見える。うっすら皺が見え始めている年相応の大人の女性。10代を謳歌している自分の様な女からすれば彼女の何事にも揺るがなそうな雰囲気に好感を覚える。


「今日はバイトには行かないのかい?」


「ラッキーなことに今日は休みなんですよ」


「ほう、では暇か」


「暇ですね」


「それならば、行こうか」紅茶を置き、ガタリとソファから立ち上がると彼女のスラリとスタイルのいい体が目の前に現れる。


「行きますか」


「あぁ、いつもの様に、我々流の供養というやつだ」私の唯一の隣人、名探偵・東洲斎イエラは言った。


2


 供養と言うとなんだか仕事っぽいけれど、我々がする行動は供養と呼べる様な代物ではない。宗教が間に入ることもなければ、通夜も葬式も行う訳ではないのだ。


 階段を降りる。彼女はアパートの最上階の一室に住んでいる。階に辿り着くたびに見えるエレベーターを何度も見つめるが、そこには利用不可のボロになった張り紙が貼ってある。


「そろそろ直しません?」


「ぬいぐるみとは違うんだ。直さない方が良いと、私は思うね」


 直せないとは言わず、東洲斎は直さないと言う。

「どうしてです?」とカエラは聞き返す。


「事故が起きるから」


「事故ってそんな事、ちゃんと直していれば大丈夫だと思うのですが」


「ぬいぐるみを補修するとすれば、用途は色々にあるだろう、遊ぶとか、一緒に寝る、抱きつく、おままごとに付き合わせるとか。けれどエレベーターといえば動きは3つだけだろう」


「3つ」


「エレベーターの使い方は3つだけ。1つ昇る、2つ降る、そして3つ落ちる」


「落ちる」


「3択のうち、1つが人を殺せるんだ、危険な道具ではないか?」


 カエラ自身はエレベーターが落ちるところなど、映画かドラマの中でしか見たことはないけれど。そもそも、何度の昇降を繰り返して漸く落下に辿り着くまで摩耗するかも想像できない。


「さて、では今回のボヤは何階で起きたのかな?」


「2階です。204号室、階段からすぐの部屋、あぁあれです、あれです」言いながら、カエラはある一室を指差す。その部屋は開けっぱなしで、防犯の一つもない。


 土足のままで2人は上がり込む。中の内装は同じ建物であるはずであるのに最上階にある東洲斎宅とは似ても似つかない。こちらの204号室の方が余程普通のアパートの一室で、東洲斎宅の方が色々な改造が施されていて特殊だ。


 手前にはトイレと風呂場が別々の部屋。奥に一室、カウンターキッチンが備え付けられていて、そこからリビングルームが覗ける。


 部屋はその一角が黒ずんでいて、火がどこまで広がっていたかのおおよそのイメージはつく。昨日の炎のイメージよりも小さく見えるその規模は、炎の恐ろしさを伝える。


「彼が今回の死亡者ですね」カエラは淡々と言う。


 火元のすぐそば、壁にもたれかかる様にして座り込んでいる。塊、焼け焦げの少し見えるそれはぴくりとも動かない。


3


 東洲斎は早速、その状態を観察し始める。


「もちろんだけれど、カエラは何もこの部屋のものを動かしてはいないんだね?」


「はい、動かしてません。ただ消火器がこの部屋には無かったので、外の廊下まで出て水消火器を取り、室内の火に噴射しました」


「すぐに消えたかい?」


「すぐに消えましたよ。火の大きさの割に広がりはこの程度だったので、放射熱でちょっと火傷はしましたが」


「それは不幸中の幸いだったね」


 部屋の中が暗いと思ったので、カエラは壁に近づき、スイッチをカチリと押す。あれ、もう一度押す、押す。


「あぁ、そうかインフラは死んでるんだった」電気も水道も東洲斎宅以外には通っていない。この埋め立て島から出て生活する瞬間があれば、どんな魔境なんだよとツッコミたくもなるが、仕方がないそういう成り立ちの場所なんだ。


 警察もいなければ、消防もいない、医者はいるけれど、闇医者だし、同じ国内なのだから法律はあるけれど、それを守る人はいない。橋で繋がった人外魔境、それくらい言えば、この失敗した都市、シーハイニュータウンの説明にはなるだろうか。


 ではなんで、こんな場所に我々が居を構えているのかと言うのが次の質問だろうか。


「カエラ、今回はどう見える」


 私はその部屋の壁を見つめる。私の目にだけ、そこには堂々と大きな赤い血文字が見える。


「『刺殺』と見えます」


 改めて、なぜ、こんな場所に住んでいるのかという疑問だったけれど。まぁ、そう簡単な話、我々もおよそ普通では無いのである。


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