↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
90/112

第90話 発見


 その夜のうちに、俺は温泉施設の改善を終えた。万能工作機械デミの力たるや、改めてすごいものだと感じる。


 翌朝、俺は早速、温泉までの道路建設に取りかかる。川沿いのルートはすでに選定済みで、デミで地面を削り、石を敷き詰めていく。アルテミスにも協力してもらい、岩を取り除き、側溝を掘ってもらう。この道が通れば、煌星村《こうせいむら》からテラ・キャリアで三十分ばかりで着くようになるはずだ。


「リヒトさん、もう少し道幅を広げましょう」


 手伝いに加勢してくれている小松さんが、そう提案する。


「そうだな。あと一メートル広げるか」

「助かります。ウィンドリーフでも行くことを考えると、細いのは危ないんで」


 俺がデミの出力を調整していると、ヨルの声が、いつもと違う緊張を帯びて、耳に届いた。


「リヒトさん、緊急報告です」

「なんだ?」

「アルゴスが、北東の海岸線で、潜水艦を発見しました」


 俺は、手を止めた。


「それは本当か?」

「はい。北東の入り江に打ち上げられるようにして停泊しています。船体は損傷が少ないです。船体に刻まれた識別番号から、ゼウス号に先行して派遣されていた海洋調査艦『アビス』であることは間違いありません」


 アビス。話に聞いていた潜水艦は、そんな名前だったのか。


「全長約六十メートル。乗員は約四十名。本来ならゼウス号到着後に回収される予定でした」

「乗員は・・・・・・冬眠ポッドに入っているのか」


「はい。アルゴスのスキャンによると、低温状態で横たわった人影が多数確認され、船内のポッドで眠っている可能性が高いです。ただし、正確な確認はできていません」

「よし、行くぞ」


 俺は、立ち上がる。


「温泉道の建設は、いったん中断だ。小松さん、力仕事のできる人を何人か集めてくれ。ヘルメスで行きましょう」

「了解です、リヒトさん」


♢


 ヘルメスを背負い、格納庫の前に集まったのは、俺を含めて八人。皆、慣れた手つきでハーネスを締め、ダクテッドファンを起動させる。


「行き先は北東の入り江。距離は約四十キロ。約三十分ほどで到達します」

「了解です」

「ついてきてください。無理はしないで、高度は百五十メートルで揃えます」


 俺は先頭に立ち、空へと舞い上がった。後ろから、七つのヘルメスが続く。風が強く、海が近い。草原を抜け、森を越え、海岸線に出る。波が、白く砕けている。


「あれだ」


 ヨルの示す先、入り江の奥に、それは横たわっていた。


 銀灰色の船体。流線形の船首。船尾には、かすかに識別番号が刻まれている。打ち上げられた浜辺には、ところどころに海藻が打ち寄せられ、船体の表面には、うっすらと塩の結晶が浮いていた。損傷は、ほとんど見えない。船体は無傷に近いようだ。


「これが・・・・・・アビス号」


 小松さんが、息を呑む。


 着地すると、俺たちは船体に近づいた。全長六十メートルは、思っていたよりずっと大きかった。表面の合金は、ゼウス号と同じ規格のようだ。ところどころに海洋調査用の装備があり、側面には小さな観測窓と、大型のサンプル採取装置の格納口があった。


「ハッチはどこだ?」

「船体の後部、上部デッキにメインハッチがあります。非常用の手動開放ハンドルも確認できます」

「よし、行くぞ」


 俺たちは、船体に沿って歩き、後部のデッキに回り込んだ。ハッチは、思ったよりしっかりと閉まっているが、錆びなどはない。手動ハンドルを回すと、かすかな抵抗のあと、空気の漏れる音がして、ハッチがゆっくりと開いた。


 アビス号の中は、薄暗く、ひんやりとしていた。非常灯が静かに灯っている。空気は、乾いていて、少しほこりの匂いがした。


「電気は、まだ生きてるのか」

「はい。補助電源は無事のようです。空調も最低限、動いています」


 俺たちは、慎重に中へと足を踏み入れた。通路は狭く、しかし整然としている。壁には、船内の見取り図が貼られていた。機関室、観測室、居住区、医療室、そして、格納庫。


「まず、一番近くの格納庫を見てみよう」


 通路を進み、隔壁を二つ抜けると、広い空間に出た。天井が高く、四方の壁には工具と予備パーツが並んでいる。そして、その中央に、全長二メートルほどの、人型の影が静かに立っていた。


「これは、タロスか?」

「いえ。似ていますが、別の機種です。ゼウス号のタロスより、一回り小型で、より海中の作業用に特化したものです。船外活動用の大型人型マニピュレーター『ポセイドン・アーム』でしょう」


 ヨルが、淡々と解説する。


「腕部はより繊細で、海中でのサンプル採取や観測機器の設置に適しています。ですが、駆動系の基本設計はタロスと同じです。解析すれば、我々のタロスと互換性のあるパーツも作れるでしょう」

「これは、収穫だな」

「はい。ですが、それよりも」


 ヨルの声が、淡々と続ける。


「そこから奥の部屋に入れます。おそらく、冬眠ポッドが並んでいます」



 俺たちは、足早に通路を進み、奥の隔壁を開ける。そこは、大きな部屋だった。壁に沿って、円筒形のポッドが、二列に並んでいる。数はそれぞれの列で二十ほどか。


「これが、冬眠ポッドか」

「はい。全部で三十九基ですね。三十九基すべてに生命反応があります」

「生きてるのか」

「はい。全員、冬眠状態ですが、生命維持装置は正常に機能しています。今すぐにでも、目覚めさせることができます」


 俺は、静かにポッドに近づいた。透明な蓋の内側に、人の姿が見える。若い男、年配の女性、制服を着た乗員。皆、静かに眠っている。その顔は、穏やかだ。この星の海を調べるために来て、ゼウス号を待って、そのまま、眠りについたのだ。


 どうするべきだろうか。いま、この人数を村に受け入れられるだろうか。食糧、居住施設、その他諸々のキャパシティは充分だろうか。 


「ヨル。この人たちを起こして、村は大丈夫か」

「・・・・・・はい。食糧については、備蓄食糧も利用すれば、約四十人増えても、二ヶ月は保《も》つ計算です。居住施設については、空きスペースの利用と、デミによる高速建設を駆使すれば、なんてことはありません」

「リヒトさん、これ見てください!」


 部屋の奥を調べていた、小松さんが声をあげる。


「どうしましたか?」

「こっちの部屋、携帯食糧庫です。すごいな・・・・・・これは、四十人分でも三ヶ月はあるんじゃないかな・・・・・・」


 どうやら、この人たちを目覚めさせることに、問題はなさそうだな。


「起こそう」


 俺は、静かにそう言う。俺たちより前にこの惑星コンスタンティアに来た人たち。ちょっと、話を聞いてみたかった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。