↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
89/113

第89話 試作温泉


 翌朝。朝食時、陽奈たちに温泉視察の結果を話した。案の定というか、陽奈は飛び上がらんばかりに喜び、他の連中も「久しぶりにゆっくり湯に浸かりたいわね」とかしみじみに言うのだった。


「でも、その前に整備が必要だ。今のままじゃ、ただの野天《のてん》の窪地《くぼち》だからな。通っている道もないし、脱衣所もない」


「じゃあ、作るの? 温泉施設を」


「ああ。今日は、そこまですることはないからな。早速やろう。大丈夫だ、俺ひとりで出来るから、みんなは村の業務を頑張ってくれ」


♢


 まずは資材運搬だ。デミの重力制御フィールドを広げ、煌星村《こうせいむら》の格納庫から木材と合金パネル、その他諸々の建築資材を浮かべる。一度にすべては運べないが、何回か往復を繰り返せばいい。午前中だけで、必要な資材の大半を温泉地の斜面に運び終えた。

 

「リヒトさん、男女の湯を分けますよね?」

「ああ。混浴というわけにもいかないしな。男湯と女湯、それぞれに湯船を作ろう。仕切りは木の壁でいいだろう。高さは三メートルくらいかな」

「了解しました。では、設計しましょう」


 ヨルの設計図が、端末に浮かび上がる。男湯と女湯、それぞれに脱衣所、洗い場、そして湯船。湯船は、元の岩のくぼみを活かしつつ、縁を石材で補強する。排水は、自然の勾配を利用して川へ流れるようにする。できるだけ、自然の地形を壊さないようにするのが方針だ。


「いいな。これでいこう」


 昼過ぎまでに、脱衣所の骨格は完成した。午後には湯船の補強、そして休憩所の小屋も建てる。


 そうして夕方、ついに温泉施設が完成した。


「やりました! リヒトさん、さすがです」

「いや、ヨルとデミのおかげだけれどな」


 そう言いつつも、完成した温泉施設を眺めていると、感慨深い気持ちになってくる。休憩所の小屋、最初のときとほとんど変わらない露天風呂もあれば、簡単な屋根と壁で囲った屋内風呂もある。だが、すべて天然温泉だ。 よし、これでひとまずはよかろう。では早速、試験だ。


♢

 

「それじゃあ、まずは試しに入ってみてくれるか? 陽奈、葉月、楓、雫、来てくれ」

「やったー!」

「待ってました」

「温泉・・・・・・」

「ゆっくり浸かりましょう」


 女湯の脱衣所には、木の棚と、デミで作った籠が並んでいる。タオルも用意した。俺は男湯の方に入る。自分で作っておいて何だが、湯船は想像していたよりずっと立派な印象を受けた。


 岩の縁が石で補強され、底には滑り止めの砂利が敷かれている。湯に手を浸すと、温かくて、気持ちがいい。湯加減もばっちりだ。


「じゃあ、浸かるか」


 一人で湯に浸かる俺。隣の女湯との間に張られた壁から、声が聞こえてくる。


「わあ、気持ちいい!」

「ほんとにいい湯ね」

「温度、ちょうどいいです」

「底の砂利が、ちょっと足に当たるけど、それもまたいいわね」


 しばらくして、陽奈の声がした。


「リヒトくーん、聞こえる?」

「ああ、聞こえる」

「こっち、すごくいいよ! でも、ちょっと改善した方がいいところ、いくつかあるかな」


「なんだ? 遠慮無く言ってくれ」


「うん。まず、脱衣所がもう少し広いほうがいい。今のままだと、四人でいっぱいになっちゃう」

「あら、そうだったか。了解、増築する」


「それから、洗い場も欲しいわね。体を洗ってから湯に入りたいもん」

「あ、それは盲点だったな。いかんせん、夜船に浸かることしか考えていなかったから・・・・・・あとで、石の台と、桶を用意しよう」


「湯船がちょっと深いかもね。こどもとかが入ると、ちょっと危ないから、あと十センチくらい浅くして欲しい箇所があるかな」

「わかった。調べて、調節しよう」


「それから、休憩所にもっと椅子が欲しいわね。あと、飲み水も」

「おっけ、そこもやっておくよ」


「私は、脱衣所に鏡が欲しいですね。身支度ができるように」

「了解、鏡は作成できるよな、ヨル」

「はいです。資材モジュールにありましたよ」


「よし、全部、覚えた。明日、すぐに手を入れる」

「ありがとう、リヒトくん!」

「ほんとに働き者ね」


 女湯から、笑い声が聞こえる。俺も、理由もなく笑ってしまった。そして、湯に深く浸かりながら、思う。みんなが気に入ってくれた。それだけで、作った甲斐があった。改善点の指摘も、むしろありがたい。


「なあ、ヨル」

「はい?」

「ここ、本当にいい場所だな」

「ええ。自然の恵みを、そのまま活かした施設になりました。でも、まだまだ改善の余地はあるようですが」

「ああ。少しずつ良くしていこう」

「賛成です」


 山の湯に夕日が差し込んできた。光を受けた湯気が、きらめきながらゆっくりと空へ消えていく。隣の女湯からは、まだ楽しそうな声が続いていた。


 さて、陽奈たち女子連中の指摘した改善点。今夜中には、なんとかできそうだな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。