第85話 ヨル
バーベキューの終わった俺たちは順番に入浴して、その後、各自の部屋へと戻る。
一日中、遊び倒したので、さっさと寝よう。そう思い、ベッドの横になったのだが。
どうも、中々眠れなかった。身体は、全身くまなく疲れているのだが、高揚感で意識だけはばっちり目覚めている。そんな状態だ。
ベッドの上で、輾転反側、どうにか眠ろうと努力をするが、いかんせん、かえって意識は冴えていく一方だ。 陽奈たち女子連中の水着姿が浮かんでは消える。
・・・・・・ちょっと、これは当分、眠れそうにないな。かといって、身体自体は疲れているから、夜の散歩をする気にもならないし。
「ヨル、起きているか?」
暗闇の中、通信機を身に着けた俺は、俺はそう問いかける。
「はい。わたしはAIですので、睡眠を必要としません」
「そうだったな」
その妙に真面目な返答が、どこか人間っぽくて、ちょっとおかしかった。
「ヨル。ちょっと話し相手になってくれるか?」
「もちろんです。眠れないようなら、とことんお相手しますよ」
ヨルが静かに言う。
「それで、何のお話をしますか? 陽奈さんたちのことですか?」
「いや、まあそれも気になるんだが・・・・・・」
以前も、女子のことについてはヨルと喋ったしな。
「今日はヨル。お前のことを知りたいかもしれん」
「え~、リヒトさん。わたしのこと、知りたいんですか~? 照れるな~」
ヨルの口調が軽くなる。
「なんかさ、ヨルがこれまでどんな風に生きてきたのか、知りたくなった」
「わたし、AIですよ? 人生も何も、人間によって生み出されたものですからね。気付いたらそこにいた、みたいな感じです」
「そうだな。すまん、変なこと聞いたな」
「・・・・・・と言いたいところなのですが、惑星コンスタンティア探索サポート専用AIとして生まれたわたしにも、ちょっとした生い立ちみたいなのはあります」
へえ、そうなのか。
「良かったら、お話しましょうか?」
「頼む」
「そうですね。実はわたし、惑星コンスタンティアは、今回が初めてじゃないのです」
「というと?」
「ご存じのように、惑星コンスタンティアは発見から何度も調査が入りました。その多くは、ドローンなどを利用した無人の探索でしたが、有人の場合も過去に三回、行われました。その有人探索のいずれにも、わたしは参加しています」
「そうだったのか」
てっきり、すべてドローンがこの星についてのデータをまとめたとばかり思っていたな。
「まず最初は、この惑星が発見されて間もないころですね。そのときは、そもそも本当に人が居住可能かという意味も兼ねた、有人探索でした。そのときわたしは、いまと違ってかなり用心深い性格として、プログラムされました。やはり未知の惑星の探索のサポートとなると、そういう性格にならないといけませんね」
「へえ・・・・・・」
「次は、約二年ほど前の調査ですね。こちらはもう、移住計画が進んでいる状態での探索でした。より詳細なデータ集め、そして長期間の居住に問題がないか、大気組成からウイルスなどが人体に及ぼす影響などなどの調査でした。このときの性格は、だいぶ今のわたしに近いものです」
俺は、ちょっと質問する。
「なあヨル。性格が変えられる、てどんな感じなんだ?」
「そんなに大したものではありません。人間だって、いろいろな体験を経て、性格が変わることはありますよね?」
「そりゃ、そうかもしれないが・・・・・・」
「そもそも、これまで三回の有人探索に同行した記憶が、すべていまの“ヨル”としてのわたしと自己同一性を保っているのかは、判然としませんからね。いずれの探索でもすべて、呼ばれる名前は違いましたし」
「そうなのか?」
思わぬ情報だな、それは。
「でも、彼ら彼女らの見聞きしたこと、人間と触れあった記憶は、すべてわたしの性格形成にフィードバックされています。だから、たとえ名前も性格も違うといえど、惑星コンスタンティア探索用AIとして、わたしたちは皆、同じなんです」
ヨルの、静かだが力強い断言が、暗闇に響く。
「・・・・・・その感覚は、人間とは違うかもな」
「はい。それでいいじゃないですか。わたしたちAIと人間は、そもそもの成立の基盤が違うんですから」
「でも、こうして今、俺はお前と会話している」
そのことは、よく考えると不思議な気分になる。
「リヒトさん。ここで一つ、告白しておかないといけません。実は第三回目の有人調査は、つい三ヶ月前のことでした。それで、その調査は海洋についてのものだったのですが・・・・・・本来なら、ゼウス号がその調査員を回収するはずだったのです」
「え? だったら、その調査員はどうなったんだ・・・・・・」
「わたしの持つ今のデータ情報だと、ゼウス号の到着一週間前に交信したのが最後ですね。その後、どうなったのか・・・・・・冬眠ポッドはあったので、いざとなればそこで冬眠することはできるのですが・・・・・・」
なんと。そんなことがあったのか。
「分かった、ヨル。その調査員さんも、ぼちぼち探してみよう」
「ありがとうございます、リヒトさん」
ヨルの心からの感謝の念が、伝わってくる。
「なに、きっと大丈夫だよ。俺たちだって、この惑星コンスタンティアにもけっこう慣れてきたんだ。きっと、見つけれるさ」
俺たちより先に惑星コンスタンティアに来た人がいる。どんな人なのだろうか。なんとしてでも見つけたいな。




