第83話 午後の時間
太陽が真上に昇る頃、遊び尽くした俺たちは、砂浜に大の字になっていた。
「お腹すいたあ・・・・・・」
萌奈が、波打ち際に寝転んだまま言う。
「ほんと。朝ごはん、あんなに食べたのに」
ゆかりも、それに続く。
「泳いだ後に海を見ながら食べるごはんって、なんであんなに美味しいんだろうね」
陽奈が、両手を空に向けて伸びをしながら言った。
「それは、体が正直に欲してるからでしょ。塩分と、糖分と、あと達成感を」
葉月が笑い、調理場へ向かう準備を始める。
「私、お昼を作るね。リヒトくん、火を熾すの手伝ってくれる?」
「ああ。魚の充分用意してある。あれを焼こう」
今朝、自動釣りマシンに魚を獲らせておいたのだ。海水浴のあとに食べるなら、やっぱり浜で焼き魚だ。
「私、調理場から鉄板と網を持ってくるね」
美玖が走り出す。
「あたし、パンと果実、取ってくる!」
萌奈も続いて立ち上がった。
俺は浜の一角に石を組んで、焚き火台を作る。デミで精製した炭を入れ、火種を落とす。かすかな煙が立ちのぼり、海風に乗って流れていく。網をかけ、下処理を済ませた魚を並べた。白身がじわりと熱で色づいていく。
「いい匂いがしてきたわね・・・・・・!」
雫が、両手を胸の前で組んで、じっと網を見つめている。
魚の皮がこんがりと焼け、脂がしたたり落ちて、炭の上で小さく白い煙を上げる。横では、楓がいつの間にか切ってくれた島野菜と果実が、大きな木の皿に盛り付けられていた。
「あっ、そろそろひっくり返さないと」
雫が身を乗り出して、網の上の魚を手早く返す。焼き色は申し分ない。
「雫さん、うまいな」
「これでも、アウトドア派なのよ」
「へえ・・・・・・」
「ま、私の昔の話は、そのうちにね・・・・・・」
そうして無事に魚が焼き上がり、全員が砂浜に座り、思い思いの形で食事を始めた。白身魚の切り身を皿に取り、蒸かした芋と、酸味のある果実を添える。飲み物は、冷たい水で割った果実水だ。
「いただきます」
食事前のあいさつの声がそろう。波音が、それに重なる。
「何これ、めっちゃ美味しい!」
美玖が、目をまん丸にして叫ぶ。
「ほんとだ。身がふわふわで、皮はぱりぱり」
「塩加減も、ちょうどいい。リヒトくん、大した腕だね」
陽奈が、焼き魚をほおばりながら笑う。
「塩は、このあいだ陽奈が作ってくれたやつだ。粒子が細かくて、魚に合う」
「そうだったんだ。なんか嬉しい」
葉月が、果実をかじりながら言った。
「焚き火で焼いただけなのに、こんなに美味しいって、すごいことよね」
「体が求めてるんだよ。海で遊んだ後の塩気と、炭火の香ばしさ」
「それに、みんなで食べてるから、余計に美味しいんだと思うよ」
楓が、小さくほほえむ。
「私、この星に来てから、一番幸せな昼ごはんかも」
萌奈が、口のまわりをいっぱいにして、その言葉通り、本当に幸せそうに言った。
「もう、萌奈ったら・・・・・・お行儀よく食べなさいよ」
美玖が、雫が萌奈の口元を拭いてやる。
穏やかな昼食の時間が、流れていく。
♢
昼食のあと、デミで簡単な日よけを作り、浜辺でしばらく昼寝をした。と言っても、本当に眠ってしまったのは萌奈と陽奈で、他の面々は浜辺に寝そべって、ゆっくりと時間を過ごしていた。
「ねえ、リヒトくん」
うとうとしかけた俺の横で、葉月がぽつりと言った。
「なんだ?」
「また、こんな日を作ろうね。ずっと働きっぱなしじゃ、町にとっても良くないからね。こうやって、ちゃんと休んで、笑う時間も必要だって、改めて分からされたよ」
「そうだな。俺も、久しぶりに、何も考える必要のない一日だった」
「リヒトくんが何も考えないなんて、めずらしい」
楓がくすっと笑う。
「ほんとよ。いつも、あれ作る、これ作る、どうやって運ぶ、で頭がいっぱいでしょ」
雫も笑う。
「でも、それでいいのよ。そうやって進めてきたから、今がある。休むのも、進むためよ」
「うん。明日から、また頑張れるね」
すぐに爆睡していた陽奈に、葉月がふと目を落とす。
「おやすみ、陽奈」
そうささやくと葉月は、そっと陽奈の頭の下に、たたんだ布を入れる。
「おやすみなさい」
楓も、小さく言った。
海風が、火の消えた焚き火の灰を、ゆっくりと撫でていく。空は高く、波は穏やかで、時間だけが静かに流れていく。そんな午後だった。




