↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
81/113

第81話 海の休日


 朝日が差し込む前に、目が覚めた。波の音が、部屋の中まで静かに響いている。どうやら、今日はよく晴れているようだ。窓の外の空は、まだ薄い青だった。


「リヒトくん、おはようー。朝ごはんできてるよー」


 部屋を出ると、陽奈が調理場から顔を出して手を振った。今朝は、女子たちが交代で朝食を用意してくれた。調理場から、パンの焼ける匂いと、甘い果実の香りが漂ってくる。


「おはよう。今日は一段と賑やかだな」

「だって、海の日だもん。みんな気合入ってるよ」


 テーブルには、焼きたてのパン、オオツノウシのミルク、ラズルグレナを固めたもののスクランブルエッグ風、魚介のスープ、それから今朝採れたばかりの果実がずらりと並んでいた。


「すごいな。これ、朝から全部お前たちが?」

「そうよ。美玖《みく》ちゃんと萌奈《もな》ちゃんが果実を集めてくれて、ゆかりちゃんがパンを焼いて、私と楓《かえで》ちゃんでオムレツ作って。はづと雫さんはスープ係」


 葉月がハーブティーの入ったカップを置きながら言った。


「悪いな。何か、全部させてしまって」

「いいのよ、これくらい。リヒトくん、最近ずっと働き詰めだったでしょ」

「それはまあ、そうだけれど」


 全員が席につき、にぎやかな朝食が始まった。話題の中心は、今日の海のことばかりだ。どれだけ泳ぐか、どこまでいけそうか、砂で何を作るか。まるで、こどもの遠足みたいな盛り上がりだな。それは、すごく居心地の良いものだ。

 

 朝食を片付けて、いよいよ海へと向かう。どこまでも続く青い空、キラキラと輝く白い砂浜、透き通るような海。絵に描いたような、絶好の海水浴日和だった。


「それじゃ、わたしたち着替えてくるね」


 陽奈たちはアクアベースへと消え、俺は浜辺で待つことになった。俺の水着はというと、すでに部屋で着ていて、脱げばすぐに泳げる状態だ。波打ち際に立ち、穏やかな海を眺めながら、女子連中を待つ。


「リヒトさーん!」


 美玖の快活な声がする。


 振り向くと、まず目に飛び込んできたのは、陽奈の姿だった。淡いエメラルドグリーン色の水着が、彼女の明るい笑顔と驚くほどよく似合っている。


 陽奈がこちらに手を振り、走り出す。続いて、白い水着に身を包んだ葉月が、長い黒髪をかき上げながら歩いてくる。楓は、落ち着いた花模様のワンピース型の水着で、手には麦わら帽子。雫は、深い藍色の大人びたデザインで、腰のパレオがゆっくりと風に揺れていた。


 美玖は真っ赤な水着、ゆかりは淡い桃色、萌奈はひまわり色で、ぴょんぴょん跳ねながら駆けてくる。


「似合う? リヒトくん」


 陽奈が、くるりと回ってみる。


「・・・・・・おう」


 それしか言えなかった。エメラルドグリーンの水着の背中が、陽光を受けて輝いている。手足も肩も、この星に来た頃よりずっと健康的に焼けていて、やわらかそうな曲線が眩しい。


「おう、だけ?」


 陽奈がくすくす笑う。まるで、からかうように。


「リヒトくん、耳まで赤いわよ」


 葉月が追い打ちをかけてくる。


「ち、違う。ただの日差しの加減で、そう見えるだけだ」

「そうかなー?」


 雫が、ゆっくりと笑う。


「まあ、無理もないわね。可愛い子が揃いすぎて、クラクラしちゃったんでしょ」

「ちが・・・・・・う」

「リヒトさんの否定、随分と弱い口調ですね」


 ヨルまでが、楽しそうに横から口を挟む。


「リヒトさんの心拍数が上がってるようですから、みなさん、無理はさせないようにしてくださいね」


「お前まで、何を言ってるんだ!」


 砂浜に、女子たちの笑い声が響き渡る。もう何も言い返せない俺は、頬をかきながら、海へと歩き出した。


「ほら、泳ぐぞ。せっかくの休日なんだからな」

「逃げた! リヒトくんが逃げた!」


 萌奈が、けらけらと笑いながら追いかけてくる。


 さあ、海遊びの開始だ。


♢


 海は、思っていたよりずっと温かかった。とはいえ、やはり少しはひんやりしていて、足を踏み入れると、ぞくりと気持ちが引き締まる。


「冷たっ・・・・・・!」


「ほら、ゆかりも萌奈もおいで!」


 いち早く海に入った美玖が、水をかけて、ゆかりと萌奈がきゃっと叫ぶ。


 波打ち際では、陽奈と葉月が競うように泳ぎ出していた。陽奈の力強いクロールに、葉月が静かに横から追いつく。水しぶきが飛び散った。


「はづ、速すぎ!」

「運動神経だけはね」

「ずるい!」


 一方、楓は、浅い場所でぷかぷかと浮かびながら、空を見上げていた。


「海から見る空って、なんでこんなにきれいなんだろうね」

「わかるわ。波に揺られてると、この星の全部と一体化した気がする」


 雫も、その隣で同じように浮かびながら、楓との会話を楽しんでいる。


「おい、お前たち、あんまり遠くに行くなよー」

「はーい!」


 萌奈が、浮き輪がわりにした空気袋にしがみついて、ばしゃばしゃと水を蹴った。


 俺はしばらく、その光景を眺めていた。青い海、白い波、笑い声。こんな日が来るなんて、夢のようだな。


「リヒトくん!」


 陽奈の声がした。


「何ぼーっとしてるの? 一緒に泳ごうよ!」

「ああ、今行く」


 俺は、陽奈の方へと走った。砂は熱く、水は冷たくて、空はどこまでも青い。今ここにいることが、信じられないくらい、楽しかった。


「ねえ、あとで砂のお城、作らない?」

「いいね、負けないわよ」

「よし、じゃあチーム対抗な。負けた方が、今夜の片付け」

「受けて立つわ」

「あ、待って私、砂遊び苦手・・・・・・!」

「楓ちゃん、頑張れー!」


 俺たちの声が、どこまでも広がる海へと、溶けていく。


 波が、さらさらと砂を洗う。潮の匂いが、空いっぱいに満ちていた。


 この星で生きている。その実感が、今日は一段と強く、俺の心を満たした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。