第79話 エネルギーモジュールの引き上げ
「そろそろ、湖のエネルギーモジュールを引き上げたいんだが、みんなはどう思う?」
朝食時、俺はそう切り出す。
「今はラズルグレナ電池で、エネルギーは充分に足りてる。だが、この前みたいにいつ、村人の数が増えるとは限らないからな。もうちょっと、エネルギーには余裕が欲しいんだ。それ以前に、エネルギーモジュールの中身も確認しておきたい、てのもあるがな」
「同感だね。誰かが『あれがあれば』と思うときには、たいてい手遅れになったりするし」
葉月がうなずき、それに同調する。
「それでは早速、引き上げ作業の準備を進めましょう」
俺たちの会話を聞いていたヨルが、言う。
「場所はあの湖ですね。デミの重力制御とタロスの力を使えば、陸上まで運べます。人員は、リヒトさん、私、それにアルテミス一機で十分でしょう」
「わかった。今日中にやるぞ。人手が足りそうなら、みんなにも声をかける」
「リヒトくん、気をつけてね」
「もちろんだ。それじゃ、行ってくるよ」
俺は、朝食を食べ終わると、支度を始める。
♢
まだ朝のうちに、俺は湖に到着する。穏やかな水面に、銀色のモジュールが相変わらず半身を沈めている。
「モジュールの大きさを再確認します。全長二十八メートル、幅七メートル、重量は・・・・・・」
ヨルが数値を読み上げる。
「デミの重力制御だけで最初から最後まで浮かすのは、ちょっと効率が悪いかな」
「はい。ですから、浮上にはタロスを併用します」
「よし。じゃあ、始めるぞ」
俺はデミを起動し、青白い重力光をモジュール全体へと広げた。ヨルが操縦するタロスが水中に入り、所定の位置につく。タロスはモジュールの底部に両腕を差し込む。
「浮上、開始します」
水が泡立ち、湖面が大きく揺れた。モジュールが、ゆっくりと水中から姿を現す。水を滴らせながら、二十八メートルの巨体が持ち上がっていく。銀色の船体が朝日に輝く。
「そのまま、あの砂浜の上へ」
俺は慎重に重力制御を調整しながら、モジュールを湖岸の開けた場所へと移動させた。
着地の瞬間、ドシン、と大地が鈍く震えた。
「エネルギーモジュールの引き上げ、完了です」
ヨルの声に、ほっと息を吐く。
♢
モジュールは、湖岸の岩場を背にして鎮座している。表面は滑らかで、多少の傷はあるものの、全体的には極めて損傷は軽微だ。
だが、中が思わぬ被害を受けているとも限らない。たがら、まずは確認だ
「中を見てみよう」
俺がハッチをこじ開けると、ひんやりとした空気が外へと流れ出た。内部は、思ったよりも整然としていた。大きなコンテナがいくつも並び、壁面には細い配管とケーブルが走っている。
「これが、発電装置・・・・・・」
俺は、立ち並ぶ巨大コンテナを、ひとつひとつ確認していく。核融合、ソーラー
地熱、潮流、バイオ・・・・・・色々な種類の発電装置がある。
「リヒトさん、どうしますか?」
「まず、ソーラー発電を試してみよう」
「了解です。そちらのコンテナに、折りたたみ式のソーラーパネルが格納されているようです」
コンテナの一つを開くと、銀色に光る薄いパネルが何枚も重なっていた。広げると、一枚が畳二枚分ほどの大きさになる。これを外に並べ、配線をつなげるだけで、発電が始まる仕組みらしい。
「思ったよりずっと簡単だな」
「ええ。あらゆる局面での設営を想定して、誰でも扱えるように設計されているんです」
パネルを六枚、湖岸に並べる。ケーブルをつなぎ、接続を確認していく。
「準備、できたぞ」
「じゃあ、いきますよ。・・・・・・通電」
ヨルの言葉とともに、モジュール内のコンソールに次々とランプが灯った。
「おお、ちゃんと発電できるんだな。ラズルグレナ電池とは、また違う力強さがある」
俺はコンソールに表示される数値を見つめながら、感想を口にする。まだ昼前の日光だというのに、六枚のパネルはそれなりの電力を生み出している。
「曇りの日でも、多少は発電できます。ただし、やはり日が沈むと発電は止まりますから、実用化するにしても、夜間はラズルグレナ電池との併用がベストでしょう」
「そうだな」
「モジュール内には、大型の蓄電装置もあります。運用を始めれば、この村全体の電力需要を安定して支えられます」
そうだな。きちんと、ここで作ったエネルギーが村の生活に反映されるよう。まだまだすることは覆い。しかし、これでしばらくはエネルギー供給の心配はなさそうだ。




