第77話 まだまだ道半ば
次の日。無人の自動操縦トラック・テラが一台、草原の道を通り、煌星村と分星村、牧場、医療棟を滞りなく結んでくれた。
「中々のものですね」
小松さんが、収穫した魚類を荷台いっぱいに積んで、医療用モジュールへと向かうキャリアを見送りながら言う。
「ええ。でも、もうちょっと道を整備して、揺れをさらに押さえようと考えています」
「ありがとうございます、リヒト村長。なんというか、ようやく文明らしくなった気がしますね。今までだと、欲しいものは村長のデミの重力制御か、あるいは徒歩で何人かで運んでたのが、嘘みたいです」
「ですね。おかげで、その分の人手を他の仕事に回せます」
「物資の輸送こそが、文明の発展の要ですからね」
ヨルが、静かに、だがどこか誇らしげにそう言う。
「ヨル。お前は本当によくやってくれるよ」
「ありがとうございます。でも、それが仕事ですからね」
テラ・キャリアは村を出て、草原へと消えていく。安定した走りを見送り、俺は格納庫へと向かう。
今日の一番の仕事は、漁獲量を上げるための自動漁獲マシンの増産だ。
これまでも漁獲マシンは、自動釣りマシンを搭載した小型ボートなどを作ってきたが、もっと本格的な漁船が必要だろう。
「リヒトさん。こちらの自動漁船の名前は、何にしましょう」
「そうだな・・・・・・ポセイドン、でどうだ?」
「いいですね。海を統べる神の名前」
格納庫の中では、すでにデミが温まっていて、準備万端な状態だった。作業台の上に、ポセイドンの設計図がホログラムで展開されている。
「船体はアルミ合金の軽量フレーム、魚群探知ソナーはネプチューンの予備パーツを流用します」
「電力とか大丈夫なのか?」
「ラズルグレナ電池は十分にあります。むしろ問題は、漁場の管理ですね。調子にのっての乱獲などを控えないと、あっという間にお魚さんたちはいなくなります」
「なるほど。じゃあ、その辺も反映させてくれ」
デミが唸りをあげ、船体パーツが次々に形をなしていく。小型の推進機、魚群探知ソナー、自動釣り機構、太陽光パネル。一つひとつの部品が組み上がり、ポセイドンが形になっていく。
「リヒトさん、船体が完成しました。船尾の釣り装置は、これまでのボートに搭載していたものを改良して、糸の本数を増やしてあります」
次に加えるのは、魚をとるための網だ。これも自動で展開するようにして・・・・・・。
作業に集中していると、格納庫の入り口から陽奈が顔を出した。
「リヒトくん、ちょっといい? 村の人たちから意見が出てるんだけど」
「なんだ?」
「あのトラック、もっと人も乗れるようにしてほしいんだって」
「人も? 二人用の座席は設置していただろう」
「うん。でも、もっと沢山の人を運べるようになれば、便利だって。ウィンドリーフは一人乗りだし、大人しか乗れないじゃん。子供やお年寄りとか、あるいは家族連れとかみんなで乗れるようになれないかな、て。一日目にして、こんな意見を言うのも、ひどく申し訳ないけれど、て」
だが、たしかに村人たちの意見も一理ある。 テラ・キャリアの荷台は広い。人が座るスペースとしても使えるだろう。
「わかった。あとで改造しよう。荷台に折りたたみ式の座席を付けて、荷物を運ぶときは収納できるようにすれば、いいんじゃないかな」
「ありがとう、リヒトくん! いずれ、もっと大きなバスみたいなのが必要になるかもね」
「かもな。もっと人口が増えたら、一度に十人以上運べる乗り物もいいだろう。通勤とか、買い物とかに必要な」
「買い物!・・・・・・この星で?」
陽奈がけらけら笑う。
「ああ。そのうちもっともっと大きくなれば、通貨も必要になるかもしれないしな」
「リヒトくんったら・・・・・・随分、話が大きくなってきたね」
「ああ。だけれど、きっといつか、そんな日が来るさ」
頭の中で、バスの大まかな形が、思い浮かぶ。幌付きの大型キャリア、座席を並べた車内、定期的に村々を回る循環便。百四十人をとうに超えた大規模な人口。その町に、公共交通が生まれる。
夕方までに、ポセイドンが完成した。白い船体に、漁業用のマシンが載っている。
「進水準備、完了です。あとは海へ出せば、すぐにでも漁を始められます」
「よし。じゃあ、明日の朝イチで進水させよう。それから、トラックの改造だな」
「わかりました。では、私の方でテラ・キャリアの座席追加設計をまとめておきます」
そのとき、村の入り口のほうから、テラのモーター音が聞こえてきた。分星村へ物資を運んだ帰りの便が、ちょうど戻ってきたのだ。
「早いな」
「道が整備されて、車も安定してるからですね。一日に三往復はいけそうです」
近くの村人が言う。
「それだけあれば、かなりの物資が運べるな。人が乗る余裕も出てきそうだな。いずれはバスも作ってもいいかもな」
俺は、先ほど想像したバスの車体を思い浮かべながら、返す。
「ふふ、リヒトくんて、乗り物のことになると急に少年みたいになるね」
いつの間にか隣にいた陽奈に、また笑われてしまった。
「お前だって、ウィンドリーフのとき、はしゃいでたろ」
「あれは・・・・・・だって、楽しいんだもん。それにさ、リヒトくんと一緒に、こうやってどんどん新しいものを作ってると、この星のどこにでも行ける気がしてくるよね」
その言葉に、俺も素直にうなずいた。
「ああ。まだ見ぬ場所が、まだまだある。それを目指すための足を、これからも作っていこうな」
夕陽が村をオレンジ色に染めている。明日の海では、新しく誕生したポセイドンが白い航跡を描くだろう。トラックは村々を巡り、近いうちに人が乗れるようになる。
そして、いつかバスが走るだろう。バスが、タクシーが、個人の自動車が、この星の地平線の果て、ずっと遠くまで駆け巡る。
その日を思い描きながら、俺はデミのスイッチを静かに切った。




