第76話 運送
朝食が終わり、皆がそれぞれの仕事に散っていった。
「リヒトさん、今の食糧備蓄では、この人数だとあと四日足らずで限界になります」
ヨルの声が、静かに耳に届く。
「四日足らずか」
「はい。元々、備蓄食糧は二週間分を常備していましたが、急激な人数の増加により、余裕がありません」
「わかった。とりあえず、分星村に多少は備蓄があったから、それも持ってこよう」
俺は立ち上がり、デミを手にして分星村へと向かう。
「することは山積みだな。明日は、自動漁業マシンを増産して、漁獲量を一気に上げよう」
♢
デミの重力操作を利用して、俺は分星村へと空を駆ける。青白い光に包まれ、草原と森が眼下を流れていく。分星村までは、飛べば五分とかからない。
分星村には、これまでの蓄えがほとんど手をつけないまま、たっぷりと残っていた。保存してあった燻製、干し魚、ドライフルーツ、乾燥野菜、ラズルグレナの携行食。俺たちが寝泊まりするくらいの場所しかないため、色々な物の保管場所になっていたが、いよいよ役にたつときがきたようだ。
「全部、一度に運ぶぞ」
デミの重力制御フィールドを広げ、食料の箱を何段にも積み上げる。浮かび上がった荷物は、まるで空飛ぶコンテナのようだった。
「リヒトさん、バランスを確認しました。このままゆっくり浮上してください」
「了解」
慎重に高度を上げ、煌星村への帰路につく。荷物を落とさないよう、デミの出力を細かく調整しながらの飛行だ。
煌星村の調理場の前に着地すると、陽奈や美玖たちが待っていた。
「わあ、すごい量!」
萌奈が目を輝かせる。
「これで一週間は大丈夫だろう。みんな、仕分けを手伝ってくれるか?」
「任せて!」
三人娘が元気よく動き出す。
その後ろ姿を見送りながら、俺は一息つく。ひとまず、一週間の猶予は出来た。だが、うかうかしてられない。食糧すぐに底をつく。
「ねえ、リヒトくん。ちょっといいかな」
顔をあげると、陽奈と雫が並んで立っていた。
「どうした?」
「私、ちょっと思ったんだけれど・・・・・・デミの重力制御はすごく便利よね。それは分かるんだけれど、これだけでずっとやっていくのは、現実的かしら?」
雫の言葉に、陽奈が続ける。
「リヒトくん。とりあえず、これからお魚いっぱい獲れるようにするでしょ? でも、獲れたのをいちいちデミの重力制御で運搬していたら、リヒト君も大変じゃないの?」
「そうだな。ちょっと非効率的かもしれない」
なにしろ、デミはエネルギーをかなり消費するからな。便利さの裏の代償だ。
「ねえ、ヨルちゃん。トラックとか作れないの? それで、一日一回、海岸からこの煌星村、そして医療モジュール、て必要な物資を届けるの」
「ちょっと待ってください・・・・・・はい、いけそうですね」
陽奈と雫の顔が、喜びに輝く。
「やった!・・・・・・それじゃ、リヒトくん、早速つくろうよ」
「えー・・・・・・了解。ちょっと休んでから、やるよ」
まだまだすることは多そうだ。
♢
万能工作機械デミを手に、俺は格納庫の前に立つ。ヨルが、これから開発するトラックについてレクチャーを始める
「基本的構造はウィンドリーフとほぼ同じです。ただし、サイズは大きく、後部に大型の荷台を備えています。電力はラズルグレナ電池四基を並列接続します。自動操縦で、アルゴスとトリトンで実績のある制御系を流用します」
「つまり、ヨル。お前が勝手に走らせられるのか」
「はい。といっても、ある程度は輸送プログラムを作成して、そちらに任せます。確実に、定時に、必要な物資を運べるようにしますよ」
「心強いな。さっそく作るぞ」
デミにより、車体フレームが削り出されていく。骨格が組み上がり、車輪が四つ。ウィンドリーフのと違い、大きく丈夫なタイヤだ。全長は三・五メートル、荷台は平らで、荷物が落ちないよう側壁が付いている。
「自動操縦ですが、人も運べるように運転席を二席つけておきます。簡素ですが、雨よけのキャノピーは付けておきましょう。長時間の移動でも疲れないように、なるべく良いシートにしたいですね」
「ありがたい。俺だけじゃなく、村の誰もが乗るかもしれないからな」
車体が組み上がるのを待つ間、俺は照明と方向指示のための小さなランプを取り付けた。太陽光パネルも屋根に載せて、走りながら充電できるようにしておく。
夕方、ようやくトラックが完成した。真白い車体に、青いラインが爽やかに走る、六輪の大型運搬車。名を「アルテミス・キャリア」とつけた。
「なんか、トラックにまで女神の名前が増えてきたな」
「アルテミスは狩猟と野性の女神であり、同時に輸送と警護の守り手です。運搬用としては、むしろぴったりですよ」
ちょうど陽奈がやってきて、トラックの荷台をぽんぽんと叩きながら、感心したように言う。
「すごい! 完成したんだね。これ、自動で走るの?」
「ああ。だから明日から、村と分星村と牧場のあいだで、定期便を走らせる。食料だけじゃなく、水タンクや建材も運べる。人が移動するときに同乗してもいい」
「これで本当に、拠点同士がつながるんだね」
「そうだ。何もかも、俺一人で運ぶ必要はない。運ぶべきものは、運ぶための機械に任せる。それが、百四十人の町のやり方だ」
「町、かあ」
陽奈が顔を綻ばせる。
「うん、そうだ。俺たちの町は、これからもっともっと大きくなる。だから、今のうちに、ちゃんと仕組みを作っておくんだ」
「なんか、リヒトくん、こういうの楽しくなってきたでしょ」
「・・・・・・まあな」
陽奈が、くすっと笑った。
その夜、俺たちは早速、トラックの自動走行テストを始めた。格納庫の前をゆっくりと進み、あらかじめ入力されたルートに従って、調理場の前まで荷物を運ぶ。無人で動く荷台の姿を、村人たちは物珍しそうに見つめている。
「これ、物を運べるのか」
小松さんが、ほう、とため息をついた。
「そうです。だから、どんどん使ってやってください。この町の、新しい足です」
草原の夜風を受けて、アルテミス・キャリアが静かに走り去っていく。その青いラインが、月光を反射して、静かに輝いていた。
この町に、また一つ、心強い動脈が通った。明日から、アルテミスは走り、分星村や牧場、医療棟と物資を運ぶ。やるべきことは、まだまだ尽きない。それでも、俺の心は静かに熱くなっいた。




