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第7話 建て増し

 翌日。


 万能耕作機械・ケレスの活躍ぶりには、目を見張るものがあった。


 土をたがやして、種まきまであっという間にこなしてしまう。ヨルに寄れば、日々の水まきなどの世話もこれから全部こなしてくれるという。


「とはいえ、雨風をしのいだりするために簡易な屋根を作ったり、というのはケレスちゃんだけじゃ出来ませんけれどね」


 そこは、俺がデミに頼まないといけないらしい。 


「農業なんて、そう一朝一夕いっちょういっせきにできるものでもないしね。気長にやっていこうよ、リヒトくん」

「だな」


 農業についての知識は、俺も陽奈も皆無に等しい。だが、この万能耕作機械ケレスがいれば、きっとなんとかなるだろう。そういう力強さを感じさせた。


「惑星コンスタンティアの気候・土壌など、環境は農業がしやすいものですからね。きっと上手くいきますよ」


 ヨルが、励ましてくれる。


「リヒトくん。私、また果物とか採集してくるね。それからついでに、昼食用の魚も、釣りマシンから回収もしてこようか?」

「いいのか?」

「うん。それくらいしか、役に立てないし」

「“それくらい”じゃなくて、大いに役に立っているんだけれどな・・・・・・おっけー。俺はちょっとこの拠点で作業があるから、よろしく」

「はいはーい」

「何かあったら、通信機で連絡してくれ。すぐに駆けつけるから」

「りょーかい」


 陽奈は、大きめのかごを背負って、森の中へと消えていく。それを見届けた俺は、万能工作機械・デミを手に持ち、住居に向き合う。


「さて、もう一仕事だ」

 


 腹が鳴って、そろそろお昼頃だな、というときに、背中のかごに果物を沢山詰め込んだ陽奈が拠点に戻ってきた。


「ただいま~、リヒトくん。て、えええっ!?」


 陽奈が、驚きでのけぞる。その弾みで赤い果実が数個、かごから転がり落ちる。


「リヒトくん、これ、もしかして・・・・・・」

「ああ、そうだ。陽奈の個室だよ」


 俺は、新しく増築した陽奈専用の部屋を見ながら、答える。


 さすがに、同じベッドで眠るのもそろそろ限界だと感じたので、元々あった住居に個室をひとつ建て増しする形で、作成したのだ。


「中、見ていい?」

「もちろんだ」


 かごを地面に置いて、陽奈は新築の自分の部屋へと入る。俺もそのあとに続く。

 

 元の住居に一回り大きな個室がくっつけたもの。壁は同じ軽量合金パネルだが、陽奈の部屋には見晴らしのいい窓をつけておいた。お昼の陽光が差し込んで、床に明るい四角形を描いている。その床には乾燥させた草を敷き詰めている。そして、部屋の隅には布をかけた簡易ベッドがひとつ、ひっそりとたたずんでいる。


 陽奈は部屋の中をぐるりと見回し、それから窓から顔を出して外を眺め、ベッドに座ってみて、また立ち上がった。


「リヒトくん。この部屋、リヒトくんのより広くない?」


 確かに、そうだつた。元の住居の居住スペースは六平方メートルほど。対して陽奈の部屋は八平方メートルはある。窓もある。床も新しい。


 俺は壁にもたれかかりながら、そっけなく答える。


「いいだろ、別に」


 陽奈が、俺の顔をじっと見つめてくる。その目が、みるみるうちにうるんでいく。


「え、ちょっと待て、なんで泣く」

「泣いてないし」


 陽奈は手の甲で目をこすりながら、でも確かに笑っていた。涙を浮かべたまま、満面の笑顔で。


「リヒトくんって、本当にばか。なんでそんな、自分より私の部屋を広くするかなあ」

「設計の都合で、たまたまそうなっただけだ」

「嘘だ。絶対、わざとだ」


 陽奈は俺の目の前まで歩いてきて、涙でにじんだ頬を緩ませる。


「ありがとう、リヒトくん」


 まっすぐな声だった。それは、地球の教室で、誰かに「ありがとう」と伝える時の温かい声と少しも変わらなかった。俺は気恥ずかしくなって視線をそらす。


「別に、大したことじゃない」

「大したことだよ。私、今日からこの部屋で暮らす。大事に使うね」


 陽奈は、もう一度部屋の中を見渡しそれから、天井に設置した窓を見る。


「星が見える窓までついてるんだね」

「たまたまだ。部材ぶざいに最初から空いてた穴を利用しただけだ」

「ふふ、たまたまばっかりだね、リヒトくんは」


 陽奈はくすくす笑いながら、ベッドに腰掛けた。そして、両手を後ろについて、足をぶらぶらさせながら、天井を見上げる。


「自分の部屋って、なんか落ち着くね。ポッドの中とは全然違う」

「そうか」

「うん。ポッドは、いつ壊れるかわからない仮の場所って感じだったけど、ここはちゃんと私の部屋だもん」

「ああ」

「今日からここで寝るね。ありがとう、リヒトくん。あ、でもたまにはリヒトくんのところに遊びに行ってもいい?」

「・・・・・・好きにしろ」


 陽奈は満足げに頷き、ベッドの上にごろりと横になった。


「気持ちいい。草の匂いがする」


 俺はそれ以上何も言わず、そっと部屋を出る。外の空気を吸いながら、周囲を見回す。昼前の陽射しが、拠点を明るく照らしていた。そして、陽奈が採取してきた果物をめいっぱいに詰め込んだかごが目にとまる。さて、昼食の準備をしないとな。



 焚き火の前で、俺と陽奈は昼ご飯をとる。魚を焼いたものと、果実。


 拠点の南側では、万能耕作機械・ケレスがせっせと種まきにいそしんでいる。


「ねえ、リヒトくん」


 もしゃもしゃと魚にかぶりつきながら、陽奈が問いかけてくる。


「なんだ?」

「わたしたちのこの拠点に、名前つけない?」

「いいかもな。なんか、名前があった方が、えるな。陽奈、何かいい案あるか?」

「え? うーん、そうだなあ・・・・・・」


 数分ほど考えたのち、陽奈は小さく呟く。


創星村そうせいむらとか、どう? ダサいかな」


 陽奈は、木の枝で地面の上に漢字を書く。


「ほら、わたしたちって、もともとはこの惑星コンスタンティアに移住して、発展させる目的で、やってきたでしょ? だから、ほしつくる、て書いて創星村そうせいむら

「いいんじゃねーの、それで」

「え? いいと思うの?」

「特に、他のアイデアもないしな。ま、村っていっても住民二人だけだけれど」

「えー、私もいれて下さいよー、リヒトさん陽奈さん」


 ヨルが、おどけた口調で突っ込んでくる。


「そうだね。たった三人だけれど、いいじゃん。創星村そうせいむらのはじまりはじまり~」

「それじゃ、村長はどうするんだ?」

「リヒトくんでいいんじゃないの?」

「でも、陽奈の方がしっかりしてるだろう」


 クラスの中心にいる系女子だしな、陽奈は。「でも、わたしよりリヒトくんの方が頼りになるでしょ」 


「んなことないって」

「それじゃ、ここは私がひとつ・・・・・・」

「ヨルちゃんが一番頼りにはなるけれどね・・・・・・」


 穏やかな陽光が照らしている村の情景を見ながら、俺たちはそんな会話をなごやかに交わしていく。


 ちなみに、なんだかんだ村長は俺に決まった。まあ、本当に村と呼べるほど住民が増えるかは分からないけれど、頑張っていこう。


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