第6話 新たな残骸、発見
浜辺に置いてあった俺の冬眠ポッドの下部に、潜水スーツは収納されていた。
「リヒトさん。酸素は十二分しか、もちませんからね。そこのところ、よく気をつけてくださいよ」
「もちろんだ。肝に銘じておくよ」
俺は潜水スーツを身につける。それから、浅瀬の先に沈むゼウス号の残骸を見る。太陽が照っていて、視界は極めて良好だ。これなら、大丈夫だろう。
「んじゃ、行くぞ」
俺はそう言い、一歩を踏み出す。
残骸の上部まで泳いだところで、俺は海に潜る。
一応、地球では潜水の訓練も受けていたので、難なくこなせる。
ゼウス号の残骸が、海中の岩肌に突き刺さるような形で、銀色に鈍く輝いている。残骸は、浜辺に墜落していた工作用モジュールより、ずっと大きかった。側面は大きく裂けていて、周囲にはコンテナが散らばっている。
俺は、その裂け目から慎重に中に入る。そして、金属の壁に記された一際大きな文字に、目がいく。
「AGR-07 農業資材モジュール」
「ヨル、これは・・・・・・」
「やりましたよ、リヒトさん。これまた大当たりです! これは、農業用に種子と耕作用具を保管していたモジュールです!」
ヨルが、興奮を隠しきれない様子で言う。
「ということは、この周囲に散らばっているコンテナは・・・・・・」
「はい! 全部、種が入っていますよ! 一部は損傷しているかもですが」
「そうか・・・・・・これ、引き上げないといけないな」
「デミちゃんの重力操作があれば、楽々ですよ!」
そのとき、ピー、という甲高い音が俺の耳元で鳴る。
「あ、いけませんリヒトさん。酸素が残り二分です。至急、浮上してください!」
俺は、言われた通りに浮上する。さて、まだまだすることは多そうだな。
♢
拠点に戻ると、陽奈が住居の前の平らな石に腰掛けていた。髪はまだ少し湿っていて、俺が作った簡素な布の白い衣服を着ている。サイズはちょっと大きかったみたいだが、袖をまくって、器用に着こなしていた。
「あ、おかえり!」
俺に気付いた陽奈は立ち上がり、ぱたぱたと駆け寄ってくる。その顔を見ると、肌にほんのりと血色が戻っているのが分かった。そして表情も、より柔らかくなっていた。
「シャワー、最高だったよ! 水はちょっと冷たかったけど、もうずっと体を洗えてなかったから、本当に気持ちよかった!」
「そうか、なら良かった」
「うん! リヒトくん、本当にありがとう。私、リヒトくんに足を向けて寝られないよ!」
「・・・・・・別に、大したことはしてない」
俺は陽奈のまっすぐな感謝の言葉に、どう返していいかわからず、視線を逸らし、話題を変える。
「そういえばさ、陽奈。ちょっと見せたいものがあるんだけれど・・・・・・」
「ん? なに?」
「ちょっと来てくれ」
俺は、陽奈を浜辺へと連れていく。
「あれ? リヒトくん、これは・・・・・・? 昨日、こんなのあったっけ?」
浜辺に出現したゼウス号の巨大な残骸を見て、首をかしげる陽奈。
「すぐ近くの海底で見つけたんだ。それで、デミの重力操作で引き上げた」
「これ、なんの残骸なの?」
「農業のためのモジュールみたいだ」
陽奈は、興味深げに中を覗く。墜落の衝撃にも耐えたコンテナたちが並んでいる。
「すごいわね。トマトにジャガイモ・・・・・・沢山の種が入っているわけね。でもこれ、大丈夫なの? 海の中にあったってことは、全部ダメになっているんじゃ・・・・・・」
「ご心配には及びません。種子類の保管は、移住における最重要事項でした。種子保管用のこれらのコンテナは、核爆発にでも耐えられるように設計されています」
なんと・・・・・・それなら、心配には及ばなさそうだな。
ヨルの言葉を聞いて、陽奈が目を輝かせる。「ねえリヒトくん。それなら、わたしたちでこの種、育てない? あの拠点、土地もあったし・・・・・・」
「でも、そう簡単にいくものか?」
農業の知識なんて、皆無だし。そう言おうとしたとき、ヨルが声をかけてくる。
「リヒトさん、陽奈さん。その近くに、他のより一回り大きな、緑色のコンテナはありませんか?」
ちょっと探してみる俺たち。
「あ、もしかしてこれかなヨルちゃん?」
残骸の奥を指さす陽奈。馬一頭が入れるくらいの大きなコンテナが、そこにあった。
「そこに、何か書かれていませんか?」
「えーと・・・・・・万能耕作機械・ケレス-A3」
「素晴らしいですわね。それは、農作業に関するあらゆる作業を補助あるいは代行してくれる、スーパーマシンですよ。陽奈さん、おめでとうございます。ご希望通りになりそうですね」
「そ、そうなんだ・・・・・・」
「んじゃ、とりあえずこの種子のコンテナを拠点に運ぶか」
俺はデミを動かしながら、コンテナに記された種子の名前を確認する。トマト、ジャガイモ、小麦、大豆、トウモロコシ、ニンジンにほうれん草、ハーブ類・・・・・・合計で五十種類くらいはあるだろうか。
「まずはこのコンテナを置いておく倉庫が必要ね」
「だな。運んだら、残骸を解体して早速デミに作ってもらおう」
その日のうちに、倉庫は完成して、種子をたっぷり詰め込んだコンテナたちは綺麗に収納された。さすがは恐るべき万能工作機械デミである。
「リヒトさん。調査の結果、この拠点の土壌は、地球の作物が育つのに極めて適しているみたいです。ミネラル分も豊富で・・・・・・」
陽奈にスキャナーで土壌を調査してもらい、その結果を報告するヨル。
「なら、なんも問題なさそうだな。どこに種をまく?」
「リヒトくん、まずはあそこがいいんじゃないかな・・・・・・南向きの、あそこ。水はけもいいみたいだし」
ヨルと調査した陽奈が、拠点の一角を指さす。
「最初は何を植える?」
「まずは、ジャガイモとかがいいんじゃないかな」
「サツマイモとかどうですか?」
「あと、大豆も栄養価が高かったよね、確か」
俺たちは、あれこれと会話を交わしながら、農業を開始する。




