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第5話 清潔も大事


「リヒトさん、いよいよ作るんですね」

「ああ。といっても、大半はデミがしてくれるけれどな。陽奈の方はどうだ?」

「いま、必死にリリーベリーの実を採取中です」

「おっけー」


 俺はデミを使い、作業を始める。


 いま作ろうとしているのは、シャワールームだ。


 正直、俺一人なら岩壁の湧き水で適当に体を洗っておけばいいやとくらいしか思っていなかったのだが、陽奈という新たなメンバーが加わった。それも女子だ。シャワーくらい、浴びせてやりたい。


 湧き水から少し離れた場所に、まずは面積は1メートル四方、高さ2メートル半ほどの部屋を建てる。細かい穴を開けた金属パネルを囲み、外からはシルエットしか見えないようにする。そして、屋根の上にはタンクを設置。湧き水から手動ポンプでタンクに水をくみ上げられるようにする。十回ほどポンプを押せば、タンクは満タンになる。あとはタンク下の板を外せば、重力に従って、シャワーヘッドから適度な勢いで水が自動で流れてくる仕組みだ。


 さすがに、今ある材料で水を温める機能は作れなかった。でも、この惑星の昼間の気温は二十五度を超える。湧き水は冷たいが、タンクにためて日向ひなたに置いておけば、いくらかは水温が上がるはずだ。


 そんなこんなで、作業開始から三時間ほどが経過した。俺は最後の配管を接続し、試しにポンプを十回押した。ゴボゴボという音とともに、タンクに水が流れ込む。そして、シャワーヘッドから勢いよく水が噴き出した。


「よし」


 俺は水を止め、シャワー室の周りに水はけ用の溝を掘る。ついでに、近くの低木から大きな葉を数枚取ってきて、簡易的な目隠しにする。完璧とは言えないが、ないよりはずっといいだろう。


 ひとまず、これで完成だ。ほっと肩をなで下ろしたとき、背後で物音がした。


「・・・・・・リヒトくん?」


 振り返ると、陽奈が立っていた。手にしたカゴ――万能工作機械で、即席で低木から作ったものだ――には色とりどりの果実がいっぱいに詰まっている。


 彼女はしばらくきょとんと周囲を見回し、それから、さきほどまで無かったはずの新しい建物に目を止めた。


「え、何これ?」

「シャワー室だ」

「シャワー?」


 陽奈は目をこすりながら、シャワー室に近づく。中を覗き込み、上を見上げ、配管をたどり、そして俺の顔を見てくる。


「これ、いま作ったの? 一人で?」

「ヨルと、それから工作機械と一緒に、かな」


 陽奈はしばらく無言でシャワー室を見つめていた。それから、ゆっくりと俺に向き直った。彼女の瞳には、何か言いたげな、でも言葉にならないような感情が揺れていた。


「リヒトくん、あの・・・・・・これ、私のために作ったの?」


 しばし考えた後、俺は答える。


「ああ。俺だけなら、湧き水で適当に体を洗って済ませればいいけれどな。でも、お前は違うだろ」


 陽奈はしばし、その小さな下唇をかみしめた。そして、小さく「ばか」と呟いた。


「え」

「ばかだよ、リヒトくんは。なんでそんな・・・・・・それじゃ、自分のこと、後回しにしてばっかりじゃん」


 声が震えている。でもそれは、悲しみや怒りではなく、もっと別の、温かい震え方だった。


「私、リヒトくんにお世話になってばかりじゃん・・・・・・」

「いや、そんなことはないだろう。ほら、実際、いまだって俺が活動している間に、それだけ果物とか集めてきたくれただろう」

 

 陽奈の抱えるバスケットを指さす俺。「う・・・・・・」と陽奈は少し顔を赤くする。


 立ち上がり、シャワー室のポンプを指さす。


「これ、十回押すとタンクに水がたまる。ちなみに、今は満タンにしている。水温はあまり期待しないでくれ。日光で暖めるだけだから・・・・・・今日の天気だと、多分大丈夫なはず。ま、そのうち、きちんと暖かいのが出るように改良するから。タオル代わりの布、そして着替えの服も一応作成して、中に干している。まあ、男の俺が作ったから、色々と不満があるかもしれないが。そういうときは、デミに頼んで改めて作ってもらってくれ」


 陽奈はうつむいたまま、こくんと頷いた。そして、顔を上げた時には、まだ完全ではないけれど、地球で同じクラスだったときによく見ていた、彼女らしい笑顔が戻っていた。


「ありがとう、リヒトくん。後で、絶対に使わせてもらうね」

「今使えばいいだろ」

「え、でも」

「俺は浜辺のほうに行ってる。自動釣り機の様子も見たいしな。昼飯の焼き魚は用意しといた」


 俺はそう言って、さっさとその場を後にする。後ろから陽奈の声が追いかけてくる。


「リヒトくん、本当にありがとう!」


 振り返らずに、片手を上げて応える。


「リヒトさん、ちょっとかっこつけすぎじゃないですか?」


 ヨルの、冷やかすような声。


「別にいいだろう。男子たるもの、女子の前でかっこつけたいものなんだよ」

「そうですか~。ま、別にいいですけれど」


 まったく・・・・・・こいつは本当に人間みたいだな。


 それはさておいてだ。午後もまだ作業がある。


「そういえば、ヨル。ポッドの中に、潜水スーツがある、て言っていたよな」

「はいです。でも、あくまでも短時間の潜水のみを想定したもので、長時間は不可能ですよ」

「それで大丈夫だ」


 明け方、魚と濾過水ろかすいを取りに行った際、ふと浅瀬の先に見えたものが、俺の脳裏に浮かぶ。


 あれは恐らく、海に沈んだゼウス号の新たな残骸だ。今日か明日のうちに、探索してみよう。


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