第62話 医療拠点、そして
その日のうちに、俺たちは医療モジュールの改修に取りかかる。出来るだけのところは、しておきたい。
まずは電力の復旧だ。大容量ラズルグレナ電池をデミで作成して、モジュールのメイン電源に接続する。そしいて、ヨルがシステムを再起動させる。パネルが次々と点灯し、空調が動き出し、万能医療マシン・パナケイアのコンソールにも青い光が灯った。
「電力、安定しました。ひとまず、これで全設備が稼働可能です」
ヨルの声がモジュール内に響く。
「よし、内部はひとまずこんなところか。次は外壁の補修だ。不時着の衝撃で歪んだ部分を修理しよう」
俺はデミを持ち出し、外壁の傷んだパネルを探り当てて、一枚ずつ剥がし、交換していく。
「薬のたぐいの管理は、私たちに任せといて」
凛たち医療スタッフが薬品庫の在庫を確認し、陽奈と葉月とアルテミス一体が、清掃を担当する。楓と雫が牧場からの物資輸送を考える。草原のそよそよとした風が、モジュールの中をそっと吹き抜けていく。
日が暮れるころまでには、補修はほぼ完了した。傷んでいたパネルは新しいものに交換され、入り口には仮設の階段も取り付けられる。モジュールの前には、いつのまにか野生のウサギっぽい生き物がやってきて、のんびりと草を食んでいた。
「名前、どうする?」
陽奈がペンキの缶を抱えて尋ねる。
「煌星村に合わせるなら、煌星医療棟とかか。もっとシンプルに、医療棟の方がわかりやすいかもな」
「ここは、村というより専門の施設だからね。その名前でいきましょう」
凜が、力強くうなずく。
陽奈は、器用な手つきでモジュールの壁に「医療棟」と書き入れた。
これまでは、大きな怪我も病気もなく来られた。だが、それは単に運が良かっただけだ。
「凛さん、これからもよろしく」
俺が握手を求めると、凛はしっかりと握り返した。
「こちらこそ。ゼウス号が爆散して、惑星コンスタンティアへの移住計画は、大きく狂ったけれど・・・・・・やっと、私たちの出番が来たって感じね」
草原の地平線の果てでは、夕日が沈み、宵闇が空を染めつつあった。そんんな光と闇のコントラストに包まれながら、医療棟の壁が、キラキラとした赤銅色に輝いていた。
♢
医療モジュールの発見から、三日が過ぎた。
俺はここのところ、この大陸の三つの拠点――煌星村と牧場と医療棟を、行ったり来たりしていた。
「はあ・・・・・・さすがに、ちょっと疲れたな」
医療棟の入り口に腰を下ろし、俺は息を吐く。
「リヒトさん、お疲れさまです」
ヨルが労ってくれるが、すぐに次の報告を始める。
「ここ数日の移動距離を集計したところ、一日あたり平均で二十五キロを超えています。道は敷設しましたし、デミの重力操作によって、比較的は楽に移動できていますが・・・・・・」
「デミは一台しかないしな」
「その通りです。いまのところはリヒトさん始め数人だけですが、そのうち他の村人さんたちも、行き来することになります。そのとき、徒歩での移動が前提のままでは、やはり非効率です」
「確かにな。ちょっと考えさせてくれ」
アルテミスたちが整備した路面は固く平らで、歩くのに苦労はない。だが、この大陸の三つの拠点の距離そのものはどうしようもなかった。
そのとき、ふと俺の頭に案が思いつく。あ、そうだ。どうしてこんなことが思いつかなかったのか。デミという、便利な移動手段があって、それに頼り切りだったからかもしれない。
俺は立ち上がり、腰に手を当てて伸びをする。
「乗り物を作ろう。道を走れる車を作成できるか?」
「車両の設計ですね。承知しました。どのような形式がよろしいですか」
「そうだな・・・・・・一度に何人も運べる大きなトラックもいいが、まずは小さいのから始めよう。一人乗りの、ゴーカートみたいなやつだ。それを何台か作れば、各自が自由に動ける」
「いいですね。では、さっそく設計データをまとめます」
ヨルが、作業を開始する。




