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第60話 牛乳!


 それから数日、俺たちは大草原に牧場らしきものの建設作業にいそしんだ。煌星村こうせいむらから駆けつけた助っ人十名も加わってくれて、毎日作業が続いた。


 まず、なにより必要なのは囲いだった。草原の一角、川の支流に近いなだらかな丘陵地帯に、頑丈な木柵を何重にも張り巡らせる。伐採した丸太を、地面に深く打ち込み、デミで作った金具で固定していく。外的が侵入できないよう、柵の外側には簡易の堀も掘った。


「これだけ広けりゃ、オオツノウシものびのび歩けるな」


 汗を拭いながら満足げに言う俺。


「放牧地はさらに拡張できるように設計してあります。現在の囲いは約五ヘクタール。将来的には十倍まで広げられます」


 ヨルの言葉に、皆からどよめきが起こった。「十倍……こりゃあ、本格的な牧場になるぞ」


 村人の一人が、感慨深げに言う。


 囲いの完成と同時に、動物たちの受け入れが始まった。最初に迎え入れたのは、ロッコウロの小さな群れだ。六本の脚と背中の硬い甲羅が特徴の彼らは、警戒するどころか自ら近づいてきて、早速柵の中の草を食み始めた。


「かわいい・・・・・・! 甲羅をこっちに向けて、撫でてほしいのかな」


 陽奈ひながロッコウロの背中をそっと撫でる。ロッコウロは気持ちよさそうに目を細め、甲羅をゆっくりと上下させた。


 次に迎え入れたのは、ホシノヒツジグサの群れだ。背中に緑色の苔状の器官を持つ彼らは、水と日光があれば半自給的に生きられる。鳴き声もほとんどなく、おとなしい性格は飼育に最適だった。


「この毛、ほんとに柔らかい。いい糸になるわ・・・・・・どんな衣服が作れるかしら」


 しずくがホシノヒツジグサの抜け毛を手のひらに集めながら目を輝かせる。


 そして、最大の挑戦がオオツノウシだった。前方に湾曲した巨大な角を持つ彼らは、気性が荒く、そのまま飼いならすのは難しいとされる。そこで俺たちは、比較的若い個体で、気性が穏やかなのを選んで保護することにした。アルゴスの探索で見つけた二頭のウシは、人を怖がる様子もなく、条件にぴったりに思われた。


「よしよし、いい子だな」


 俺がそっと近づくと、オオツノウシは大きな瞳でこちらを見つめ、おそるおそる手のひらの匂いをいだ。


「リヒトくん、すごい! 懐いてる!」


 葉月が歓声をあげる。


「十分に飼育可能です。乳も得られそうですし、繁殖も視野に入れて良いでしょう」


 ヨルの解説に、かえでがうなずいた。


「そのためにも、ちゃんと面倒を見ないとね」


 こうして、俺たちの牧場運営が、本格的に始まった。



 牧場が軌道に乗り始めて数日後の早朝。オオツノウシから、ついに最初の牛乳がしぼれた。


しぼりたてだ。温かいぞ」


 俺がバケツに入れた乳を調理場に運ぶと、陽奈ひなが飛びつくように覗き込んだ。


「わあ、すごく濃厚そう! これ、加熱すれば飲めるんだよね?」

「はい。低温殺菌すれば安全です。栄養価は地球の牛乳の約一・三倍。カルシウムとタンパク質が特に豊富です」


 ヨルの分析に、皆の期待が高まる。俺たちは、粛々と生乳を飲めるようにしていく。


 その日の朝食は、いつもよりずっと豪華になった。温めたオオツノウシの乳に、蜂蜜代わりの甘い樹液を加えたホットミルク。それから、乳から分離したクリームを塗った焼きたての平たいパン。余った乳は早速発酵させて、簡単なチーズも仕込んだ。


「牛乳があるだけで、いつもの朝食とは大違いだな」


 俺がホットミルクを一口飲んで言う。


「ほんと・・・・・・牛乳が、こんなに美味しいなんて」

「おまけに、料理の幅もこんなに広がるんだね」


 陽奈と葉月がクリームを塗ったパンを頬張りながら、幸せそうに目を細める。


「ねえねえ、チーズができたら、ピザも作れるかな」

「ピザか。石窯はあるし、小麦を収穫したら、いずれ挑戦しよう」


 かえでがうれしそうにフィールドノートに「初乳、採取成功。味、濃厚。チーズ仕込み中」と、進捗状況を書き込む。


 葉月がホットミルクのおかわりを注ぎながら言う。


「牧場を作って正解だったわね。これでまた一つ、食料が安定して、豊かになった」

「ありがたいことだね。ひとりで生きてた頃は、こんな朝が来るなんて想像もしなかった・・・・・・」


 しずくがしみじみとつぶやき、皆が静かに頷いた。


「そうね。さて、味も品質も問題なさそうだし、村のみんなに牛乳を配ろう」

「うん、そうだね!」

 


「うお・・・・・・美味うめえ・・・・・・!!」

「牛乳、牛乳だぁぁ・・・・・・!!」

「我々が、いかにミルクに飢えていたのか、分かりますね・・・・・・」


 煌星村こうせいむらのあちこちで、喜びの声と、ガツガツと乳製品を食べる音があがる。


 朝、オオツノウシからしぼれた牛乳を、俺たちが村に持っていった結果、この状態だ。


「なんとまあ・・・・・・みんな、すごいわね。目の色が変わっている・・・・・・」


 葉月が、やや引き気味にそうつぶやく。


「いいじゃん、別に。てか、オオツノウシって、すごい量の乳を出すわよね。おかげで、今日の私たちと村人の分は、充分に確保できたわね」

「だけれど、この調子だと、あっという間に枯渇するかも・・・・・・」

「そうですね。あと五頭くらいは、オオツノウシを家畜化できるよう、方法を考えましょう」


 ヨルの言うとおり、近いうちに早速牧場の拡大が必要になりそうだ。


 俺たちの村が、またひとつ、大きくなった。そんなことを、実感させられる光景だった。


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