第59話 大草原、到着
道ができるにつれて、周囲の風景が少しずつ変わっていった。深い森が途切れ、川を越え、視界が開けていく。
「見えた! あれ、大草原だよ!」
陽奈が丘の上から指さす。たしかに、目指す場所――大草原が目前にある。豊かな緑の景色が、広がっている。
「この調子だと、明日には着くかな」
「ああ。そしたら、いよいよ牧場の建設だ」
翌日の夕刻、ついに俺たちの作る道は、大草原に到達した。
「アルテミス全機、作業停止。道の建設、完了です」
ヨルの声に、俺たちは顔を見合わせた。
「やった・・・・・・!」
陽奈がガッツポーズをする。
「これで、村から大草原まで一本の道が通ったわけね」
雫が感慨深げに言う。
「でも、まだまだ色々と微調整が必要にはなるでしょう。舗装も基本的なところだけですし、その他諸々の作業が発生します」
「でも、ひとまずは開通したからいいじゃん。・・・・・・道があるって、本当にすごいことなんだね。森をかき分けて川を渡って、何時間もかけて歩かなきゃいけないところを、最短の距離で移動できる。これなら、資材も人もどんどん行き来できるようになる」
楓は、地図を一通り描いたフィールドノートを閉じながら、しみじみと言った。
新しくできた道を少しだけ歩いてみる。真っ直ぐに伸びた路面、両側に積まれた石垣、ところどころに設置された標識。道の脇には、休憩用の簡易ベンチまで設置した。
「これ、立派な街道だよ。私たち、こんなものまで作れるようになったんだね」
「そうだな。すべてのり道はローマに通ずる、じゃないが、俺たちが発展する大きな一歩になれるかもしれん。我ながら、よくここまで来たもんだ」
「でもまだ、やることはこれからが本番だけれどね。忘れてないよね、牧場を作る、ていう計画は」
「もちろんだ」
俺たちは、草原を見渡す。
「まずは柵を作って、小屋を建てて、それから動物たちを迎えに行こう。ロッコウロ、オオツノウシ、ツノマダラジカ、ホシノヒツジグサ・・・・・・みんな、ここで一緒に暮らすんだよね」
「そうだ。明日から、いよいよ牧場の建設を始めよう」
俺の言葉に、陽奈、葉月、楓、雫が力強くうなずいた。
大草原には、心地よい風が吹いている。ロッコウロの群れが遠くで草を食み、オオツノウシの嘶きがかすかに聞こえた。アルテミスたちは静かに整列し、明日の作業に備えて充電モードに入っている。
創星村から始まれ、大陸の拠点、そしてこの草原の牧場。拠点は増え、道が繋がり、世界は確実に広がっていく。この星で生きるということが、これほど充実したものになるなんて、あの遭難の日には想像もしなかった。
草原の夕日が、穂先を金色に染めている。明日は、ここに新しい牧場の最初の杭を打ち込もう。
♢
俺たちはテントを張って、草原にて一夜を明かすことにした。
女子用の巨大テントと、俺一人専用の小さなテントを並んで作る。
それから、みんなで食事を囲む。
「でもさ、牛乳とか飲みたいよね」
葉月がふとそう漏らすと、ヨルがすかさず答える。
「オオツノウシの生乳は、加工しだいで地球の牛乳と極めて近い味わいになるはずです。データが不完全なので、断言は出来ませんが」
「へえ・・・・・・牛乳ができたらさ、色々と飲み物のレパートリーが増えるね! カフェオレとか、バナナミルクとか」
陽奈が期待で身を前に乗り出す。
「陽奈、落ち着いて・・・・・・飲み物だけじゃなくて、食べ物も沢山作れるようになるでしょ。ホワイトソースとか作れるようになるし・・・・・・」
「なんか、バナナ食べたくなっちゃったね・・・・・・リヒトくん、バナナの種ってあったっけ?」
「はい。農業資材モジュールに、在庫があります」
ヨルが俺の代わりに答える。
「気候等の条件を考えれば、栽培は可能ですね。村に帰ったら、早速やってみましょう」
バナナ、か。久しく口にしていないが、話していたら、なんかやたらと食べたくなってきた。
少しずつ、出来ることが増えていく。そうして、俺たちはこの無人惑星で歩みを進めていくのだ。満天の星空を眺めながら、不意に感慨が湧いてきた。もっと、もっと。この惑星を、俺たちにとって住みやすい世界に変えていくんだ。俺は、そう静かに決意する。




