第58話 大草原への道
さて、大草原を牧場にすることは決まった。だが、実際に動き出すとなると、やるべきことは山積みだった。
まずは、人手の問題だ。煌星村の住民はいるが、彼らはすでに畑の開墾や居住区の拡張、水路の整備などで手一杯だ。牧場の建設に人を割く余裕は、正直なところほとんどなかった。
「アルテミスを増産するしかありませんね」
「だな。ヨル、いけるか」
「材料はまだまだ余裕です」
無人島の格納庫で、俺はデミの操作パネルを開きながら、ヨルと話し合う俺。
「牧場の建設と管理を任せるなら、最低でもも五機は必要ですね」
「わかった。すぐに取りかかろう」
デミが低く唸りをあげ、格納庫にアルテミスの新しい機体が次々と組み上げられていく。八号機、九号機、十号機──骨組みが立ち、装甲が取り付けられ、光学センサーが赤く点灯する。
そうして、完成してずらりと並んだ五機のアルテミスを見て、陽奈が感嘆の声をあげる。
「なんだか、ちょっとした軍隊みたいだね」
「軍隊じゃなくて、開拓者たちだ。戦うためじゃなく、村を発展させるための存在だ」
俺はそう言って、新たに完成したアルテミスたちに最初の命令を下した。
「お前たちの仕事は、牧場の建設と管理だ。まずは、ここから海を渡った先の大陸に行ってもらう。そして、煌星村から大草原までの道を作る。その後、大牧場の建設を開始する」
♢
「煌星村から大草原までは、直線距離で約十キロ弱ですね。ただし、森を抜けて川を渡り、丘陵地帯を越える必要があります。ルートは、アルゴスの地形データをもとに私が最適化しました」
ヨルの声とともに、端末に大陸の地図が表示される。緑色の線が村から北西へと伸び、大草原の手前で川を渡り、なだらかな丘陵を越えて目的地に達している。
「まずは道の基礎を作ろう。デミで伐採と整地をある程度行う。伐採した樹木、道路の細かい調整はアルテミスにしてもらう」
そうして、作業が始まった。
まずは俺が森に分け入り、デミでルート上の木を伐採する。伐り倒された木は枝を払われ、幹は建材として再利用するために脇に積み上げられた。続いて、両腕に地面を掘削するためのアタッチメントを取り付けたアルテミスが、次々と地面を掘削して、切り株や岩を取り除いていく。ショベルカーのように動くその姿は、なかなか頼もしい。
「ヨル、そっちの大岩も頼む」
「了解しました」
更に助っ人として投入したタロスも、ヨルの操作で低く唸り、両腕で抱えた岩を軽々と運んでいく。その背中を見ながら、楓がつぶやいた。
「タロスって、戦うだけじゃなくて、こんなに力仕事が得意だったんだね」
「というか、もともとは重作業用のパワードスーツだからな。むしろ、こっちが本業だ」
俺たちの作業は、順調に進んでいく。
川を渡る橋は、軽量合金の梁を何本も渡して作る。頑丈で、しかも軽い。タロスが梁を一本ずつ慎重に設置し、アルテミスたちがそれを固定していく。橋げたは川の両岸に深く打ち込まれ、増水にも耐えられる設計だ。
「これで、陸路でも行き来できるようになるわね」
雫が完成したばかりの橋の欄干を叩きながら言う。見た目は無骨だが安全性は折り紙つきだ。
「牧場で採れたものは、この道を通って運ぶこともできる」
「あれ? でも、この橋かけちゃったら、船は通れるの」
「ご心配に及びません。オデュッセイア号が通れるように、橋の高さはきちんと計算しています」
いまやすっりか大型船と呼んで差し支えないオデュッセイア号が大丈夫なら、大抵の船も通れるだろう。
橋の先の道も、どんどん伸びていく。
森を抜け、川を渡り、丘陵地帯に差しかかる。起伏のある地形は、デミで土を削って平らにし、斜面には石垣を組んで補強する。タロスと重力制御が交互に作業して、効率よく重い石は排除できる。その石材も、一部は道の両側に積み上げて側溝とし、雨が降っても水が溜まらないような構造にする。道の表面は、デミの焼き固め機能で均一に固められ、雨でもぬかるまない堅い路面に仕上がっていく。
「道って、こんなに早く作れるものなんだね」
陽奈が出来上がった路面をぴょんぴょんと跳ねながら、確認する。
「それもこれも、デミのおかげだよ。これがなかったら、何か月も・・・・・・ひょっとしたら、何年もかかってた」
「でも、それだけじゃないよ。リヒトくんの設計や使用法がいいからだよ」
陽奈の言葉に、俺は少し照れくさくなって、話題を変える。
「ヨル、進捗は?」
「現在、全行程の約七割が完了。このペースなら、今日中には大草原に到達します。アルテミス、およびタロスの駆動系にも問題はありません」
三十分おきに休憩を挟みながら、俺たちは作業を続ける。道は着実に、大草原へと近づいている。




