第51話 新たな村の、始動
「こちらは食糧庫モジュールの在庫リストです。保存食は残り約七割と少し。適切に配分すれば、現在の人数でも三か月は保つでしょう」
ヨルが、データをまとめて、俺たちの前に表示してくれる。
「三か月か」
それは、充分過ぎる期間だ。というか、俺たちはこの食糧庫がなくても、あの無人島でちゃんと生活できたわけだし
「リヒトくん。畑や果樹栽培はもちろんだけれど、当面みんなを食べさせていくためには、海の幸――魚介類が必要よね」
「ああ、そうだな。となると、自動釣りマシンをまずは作成して・・・・・・」
「リヒトさん。それより、トリトンの海洋技術を応用して、全自動の漁業無人船も近いうちに作るべきです」
「了解。ヨル、設計図等まとめといてくれ」
「ラジャです」
ヨルとの会話が終わると、雫が今度は口を挟んでくる。
「リヒトくん、食糧庫の備蓄は、保存食としてとっておいた方がいいんじゃないかしら? ほら、いざというときのために・・・・・・」
「そうだな」
天候の異変とかで、急に作物が育たなくなったり、あるいは漁獲量が激減する可能性もある。いや、それよりもだ。ゼウス号の乗員は、まだこの惑星に沢山いる。いつまた、そういう人たちと遭遇するとも限らない。そうなったとき、創星村の人口は一気に増える。そういうときに、食わせていくためにも、食糧庫モジュールは温存しておいた方が良いだろう。
「よし、食糧庫は今日から俺たちの管理下に置こう。名前も新しくするか。食糧庫モジュールじゃ味気ない」
「何がいいかな」
陽奈が、声をかけてくる。
俺は少し考えてから言った。
「創星庫でどうだ。創星村の食糧庫だ。シンプルでわかりやすい」
一同、軽くうなずく。
「それで、リヒトくん。この居住棟だけれどさ・・・・・・」
俺たちは、まだまだ山積みとなっている作業を開始する。昨晩、だいぶ完成したが、今日は水路まで掘りたい。まずは水の確保は何より優先だしな。
♢
夜、俺たちは創星庫もとい食糧庫の前の広場で、ささやかな宴会を開くことにした。エインダたちに支配されていた非戦闘員たちに、全員集まってもらう。
「こんなにたくさんの人が集まるの、初めてだね」
陽奈が広場に並べられたテーブルを見渡す。ゼウス号のコンテナを転用した急造の長テーブルがいくつも置かれ、そこには創星庫から運び出された食品が所狭しと並んでいた。
「レトルトのカレーライス、パスタソース、缶詰のフルーツ・・・・・・こんなものまで残ってたのね」
葉月が珍しそうに缶詰を手に取る。
「みんな、たっぷり味わってくれ。今夜くらい、いいだろう」
俺は広場を見渡した。かつてエインダに怯えていた人々が、恐る恐るながらもテーブルに近づき、食べ物を手に取っている。
「本当に、食べてもいいんですか」
中年の男性が、まだ不安そうに尋ねる。
「いいんだ。好きなだけ食べてくれ」
俺がうなずくと、男性は震える手でカレーのパックを受け取った。
「我々はエインダからこんなに豪華な食事を受け取っていなかったのです・・・・・・支給されるのは、脱出カプセルに備え付けられていた非常食みたいなのばかりで・・・・・・こういう、きちんとしたのは、エインダたちだけが食べていたんです」
男の証言に、やれやれと俺は肩を落とす。
エインダたちは今、アルテミスの見張られる形で、即席の居住区画別棟にいる。あいつらには、しばらく非常食だけを支給しても、バチはあたるまい。
「さー、それじゃみなさん。気分をあげて、いきましょー!」
陽奈が、ジュースが注がれたデカいグラスを掲げる。それは、地球時代によく見ていた、クラスの中心にいつもいる、陽気で彼女の姿だった。
♢
宴が始まると、広場の空気は少しずつ和らいでいった。あちこちで笑い声が聞こえ始め、こどもたちが缶詰のフルーツを取り合っている。陽奈と楓はテーブルを回りながら、料理の説明や食べ方のアドバイスをしていた。
「このカレー、あっためるだけでいいんだよ。お湯はそっちの鍋にあるから」
「パスタはこのソースをかけるんです。粉チーズもありますよ」
美玖とゆかりと萌奈も、緊張しながらも少しずつ笑顔を見せ始めている。
「リヒトさん、すごいです・・・・・・まさか、本当にエインダを倒すなんて・・・・・・」
俺の近くに寄ってきた萌奈が、尊敬のまなざしを向けてくる。
「俺たちだけの力じゃない。アルテミスもタロスも、ヨルも、みんなの力だ。それに萌奈たちが情報をくれたから、準備ができた」
萌奈は少し照れたように笑って、それからぽつりと言った。
「やっと、安心して寝られます」
「ああ、そうだな」
「萌奈、見てみて! あれ、ケーキじゃない?」
「あ、本当だ!」
美玖とゆかりに呼ばれて、萌奈は去って行く。
ケーキ。カレーにパスタ、オムライスにカツ丼、その他諸々の料理たち。この食糧庫から取ってくる形ではなく、すべてゼロから作れるようになりたいな。
♢
宴もほぼ終わり、ほとんどの者が寝床に引き上げたあと、俺たちは、アルテミスと共に静かになった広場の片付けをしていた。
「なんだか、すごい一日だったな」
俺が缶詰の空き缶を集めながら言う。
「本当にね。エインダを捕まえて、数十人もの人たちを迎え入れて。私たちの村、一気に大きくなっちゃった」
葉月が笑う。
「これからやることは山積みだ。居住区の増設、畑の拡大、水の確保、それから医療面も必要だ」
「やることリスト、作ろっか?」
「ああ。お願いできるか?」
「うん、いいってことよ」
葉月は静かに、だが力強く言う。
「リヒトくんは、みんなのリーダーだね」
「リーダー・・・・・・正直、ガラにもないがな。それに、あんまし権力とか持ちすぎると、エインダみたいになるんじゃないかっていう、不安はあるが・・・・・・」
葉月は、俺の背中をポンポンと軽く叩く。
「きっと大丈夫。あなたのそういう気持ち、きっとみんな知ってる」
葉月が優しい目で俺を見た。
夜風が吹き、創星庫の壁に掲げられた新しい看板がかすかに揺れる。そこには「煌星村」という文字が記されている。
創星村、分星村に続く俺たちの第三の拠点。過去最大の人口を抱え、俺たちの道はまだまだ続いていく。




