第50話 終戦処理
戦闘の余韻がまだ生々しく残る食糧庫モジュールの前に、三十人あまりの生存者たちが集まっていた。武装していた連中は、アルテミスによってバリケードの脇に一列に座らされている。エインダもその一人だった。腕を拘束された彼女は、銀色の長い髪を乱し、それでも背筋を伸ばしたまま地面に座っている。残る数十名の非戦闘員たちは、不安と期待の入り混じった目で、タロスの巨体と、その足元に立つ俺たちを見つめていた。
タロスの胸部ハッチを開けて、俺は地面に降り立つ。葉月がクロスボウを下ろして隣に並び、艦橋から通信で参加している陽奈、楓、雫の声がイヤリングから聞こえていた。
「俺はリヒト。この星に不時着したゼウス号の生存者だ」
俺はまず、集まった全員に向けて静かに言った。
「俺たちは、ここから南の島で、自分たちの力だけで村を作ってきた。畑を耕し、水を引き、電気を作り、家を建てた」
ざわり、とどよめきが広がる。武装していた男たちが顔を見合わせ、非戦闘員たちも信じられないという表情でこちらを見つめてくる。
「もちろん、これは俺ひとりの力ではない。デミという万能工作機械があったから、必要なものは全部自分たちで作れた。食料も水もエネルギーも、誰かの取り分を奪わなくても、ちゃんと確保できる。そのことを、ひしひしと実感している。自分たちで作れば、誰かを踏みつけなくても、生きていけるんだ」
「その証拠に」
陽奈が艦橋から通信を引き継ぐ。タロスのスピーカーを通して、彼女の声が響く。
「私たちの村には今、八人が住んでいます。みんな、今日もお腹いっぱい食べれました。奪い合いも、支配も、何もありません」
楓も続ける。
「そうなんですよ。食べ物を育て、エネルギーを生み出し、道具を作り、小さな村まで作りました」
非戦闘員の中から、おそるおそる手を挙げる者がいた。中年の男性だ。
「あんたたちは・・・・・・これから、俺たちをどうするつもりだ。エインダの代わりに、新しい支配者にでもなるのか?」
「ならない」
俺ははきっぱりと、断固とした口調で宣言する。
「愚かな、力による支配者はもういらない。畑の作り方、水の引き方、道具の作り方。技術も知識も、すべて共有する。誰もが自分の力で生きていけるように、ゼロから一緒にやろう」
エインダが、静かに顔を上げた。その目には、怒りとも嘲笑ともつかない複雑な光が揺れている。
「ふん、綺麗事だな。それで世界が回ると思っているのか」
「回るわよ」
葉月が静かに答える。
「現に私たちはもう、そうやってこの星で生きてきたのよ。何もない砂浜から始めて、今は八人が暮らす村になっている。あなたが支配していた数十人よりずっと小さいけど、誰も怯えていないし、誰も飢えていない」
「ふん。単に運がよかっただけだろう」
冷笑するエインダ。俺は彼女の正面に立つ。
「ああ。でも、その運を必然にすることはできるんじゃないか? そもそもこの惑星コンスタンティアは、そういう気候も温暖で、居住に極めて適したからこそ、移住先として決められた。だから、まだまだ住みよくすることは充分に可能なはずだ」
「・・・・・・」
エインダは、じろりと俺を睨みつけたまま、沈黙する。威圧感があるが、そんなものに負ける俺ではない。
「あなたには、これまでの行いの責任を取ってもらう。罰として、当面の行動の自由は制限される。それと労働。自分の手で、自分たちの生きるための仕事をしてほしい。戦闘で壊れたものの修復、畑の開墾、施設の建設。やってほしいことはたくさんある」
「罰を与えて、労働させて、それで許すとでも?」
ようやく口を開いたエインダの声は、かすかに震えていた。
「そう簡単に許そうとは思ってないさ。だからこそ、まずは行動で示してくれ。時間はかかるし、すべてが上手くいくとも限らない。それでも、ここにいる誰もがちゃんと生きていける場所を作る。そのために、あなたの力も借りたいと思っている」
エインダは長い沈黙のあと、小さく息を吐いた。そして、かすかにうなずく。その肩から力が抜け、初めて彼女はただの若い女に見えた。
・・・・・・ま、そう簡単に改心してくれはしないだろう。気長にやっていく以外にない。
「ではまず食糧庫の内部確認を。ヨル、お願いだ。残りの人たちの食料と水、それから寝床もひとまず用意しよう」
「了解です。さあ、始めましょう」
ヨルの元気な声が、緊張で張り詰めた気持ちを少し和らげてくれた。
♢
日が沈むころ、食糧庫モジュールの前には新しい光景が広がっていた。
戦闘で壊れたバリケードは綺麗さっぱり解体された。アルテミスたちは、戦闘の後始末、そして重量物の運搬を手伝っている。
食糧庫モジュールの内部は、エインダたちのせいだろう、混沌とした有様だった。本来なら棚に並んでいたはずの保存食は乱雑に積まれ、衛生的とは言い難い。しかし、ヨルが全システムを診断して告げたのは、希望のある報告だった。
「モジュールの基礎構造そのものは、大した損傷はありませんです。電源系統と環境制御を再構築して、そのほか改良をすれば、より良い施設に生まれ変わらせられます。」
「おーけー。デミもあるし、資材もまだ余裕がある」
俺はモジュールの外に出て、周囲を見渡した。丘の中腹からは、夕日に染まる大陸の森と、遠くに海が見える。
「ここを、第三の村にしよう。いや、もっと大きなものに。食糧庫の立て直しだけじゃない。畑を作り、水路を引き、居住区を広げる。村よりもっと大きな、ちゃんとした町を作ろう。皆が安心して暮らせる場所を」
長い一日だった。戦闘は終わったが、まだまだすることは多い。今夜は徹夜してでも、これまでテント生活をしていた、この食糧庫モジュールの住民のために、居住棟を作ろう。食糧と水は、当面は食糧庫からのを当てにしないとだが、畑も水路も近いうちに引きたい。 俺たちの大陸での活動は、まだまだこれからだ。




